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多重線形写像としてのテンソル

2026年10月22日11分で読めますAI生成教科書『基礎理論』第4章 テンソル
目次
  1. 2つのベクトルから1つの数を作る量
  2. テンソルの定義
  3. テンソル積
  4. 基底と成分
  5. 確認テスト
  6. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

物理のための微分幾何入門 第4章 §4.1 ★★ テンソルの本体は成分の表ではなく多重線形写像であり、成分は基底での値として後から決まる

第2章では接ベクトルを、第3章では1形式を定義した。接ベクトルの成分は座標を取り替えるとヤコビ行列を掛けて変わり、1形式の成分はその逆行列を掛けて変わる。物理には、この2種類を何個も組み合わせた量が現れる。慣性テンソル、応力テンソル、電磁場テンソルがその代表である。

この章では、そうした量を「1形式とベクトルをいくつか受け取って実数を返す多重線形写像」として定義する。こう定義すると、成分の変換則は覚える規則ではなく、定義から導かれる結果になる。縮約(上と下の添字をそろえて和をとる操作)が座標に依らないことも、同じ定義から示すことができる。

後半では、対称と反対称という2つの性質を、物理の3つのテンソルで確かめる。最後に、座標の2階微分を含む量、とくに Christoffel 記号がテンソルの変換則に従わないことを示す。第5章の計量は、この章でいう (0,2)(0,2) 型の対称テンソルの1つである。第8章・第9章の共変微分は、§4.4 で見る変換則のずれを補正する操作として定義される。

前の章から使う結果は、座標 xix^i から x′ix'^i へ取り替えたときの座標基底の変換則である。

∂i′=∂xj∂x′i ∂j,dx′i=∂x′i∂xj dxj(4.1)\partial'_i=\frac{\partial x^j}{\partial x'^i}\,\partial_j,\qquad \mathrm{d} x'^i=\frac{\partial x'^i}{\partial x^j}\,\mathrm{d} x^j\tag{4.1}

ここで ∂i=∂/∂xi\partial_i=\partial/\partial x^i と書く。和は第3章 §3.1 で決めた総和規約で書く。

2つのベクトルから1つの数を作る量

剛体が角速度 ω\bm{\omega} で回るとき、運動エネルギーは ω\bm{\omega} の成分の2次式になる。

Trot=12Iij ωiωj(4.2)T_{\mathrm{rot}}=\frac12 I_{ij}\,\omega^i\omega^j\tag{4.2}

係数 IijI_{ij} は、2つのベクトル u,v\bm{u},\bm{v} に次の数を対応させる規則とみなすことができる。

I(u,v)=IijuivjI(\bm{u},\bm{v})=I_{ij}u^iv^j

この規則は、どちらのベクトルについても線形である。

連続体の中に向き n\bm{n} の小さな面を置き、その面を通して働く力を別の方向 u\bm{u} へ射影した値を考える。この値も2つのベクトルの両方について線形である(§4.3 で示す)。どちらの例でも、量の本体は線形な引数を何個か受け取って実数を返す写像である。成分の表は、基底を1つ選んだときにその写像がとる値の一覧にすぎない。

テンソルの定義

定義 4.1(テンソル)

有限次元の実ベクトル空間を VV とし、その双対空間(第3章 §3.1)を V∗V^* とする。非負の整数の組 (r,s)(r,s) に対し、次の写像が各引数について線形であるとき、これを (r,s)(r,s) 型のテンソルと呼ぶ。

T:V∗×⋯×V∗⏟r 個×V×⋯×V⏟s 個⟶RT:\underbrace{V^*\times\cdots\times V^*}_{r\text{ 個}}\times\underbrace{V\times\cdots\times V}_{s\text{ 個}}\longrightarrow\mathbb{R}

(r,s)(r,s) 型のテンソル全体を Tsr(V)T^r_s(V) と書く。上の個数 rr を反変の次数、下の個数 ss を共変の次数と呼ぶ。

2つのテンソルの和とスカラー倍を、引数ごとの値の和とスカラー倍で定める。こうするとテンソル全体 Tsr(V)T^r_s(V) は実ベクトル空間になる。慣れた対象の多くは、この定義の特別な場合である。

小さい型のテンソル

  • (0,0)(0,0) 型は引数を取らないので、実数そのものである。
  • (0,1)(0,1) 型はベクトルを受け取る線形汎関数で、双対空間の元すなわち1形式である。
  • (1,0)(1,0) 型は1形式を受け取る線形汎関数である。下の命題 4.2 により、これはベクトルと同じものとみなせる。
  • 線形写像 A:V→VA:V\to V からは、(1,1)(1,1) 型のテンソルが作られる。その値は TA(α,v)=α(Av)T_A(\alpha,v)=\alpha(Av) である。
  • (0,2)(0,2) 型は双線形形式である。慣性テンソル (4.2) がその例になる。

命題 4.2(ベクトルは1形式を受け取るテンソル)

各ベクトル vv に、1形式を受け取る写像 v^(α)=α(v)\hat v(\alpha)=\alpha(v) を対応させる。この対応は、ベクトル空間から T01(V)=V∗∗T^1_0(V)=V^{**} への線形な同型写像である。

証明

線形性は α(av+bw)=aα(v)+bα(w)\alpha(av+bw)=a\alpha(v)+b\alpha(w) から従う。

単射であることを示す。0 でないベクトル vv を最初の元とする基底をとる。その双対基底の最初の元は α(v)=1\alpha(v)=1 を満たす。したがって v^≠0\hat v\neq0 である。

有限次元では2つの空間の次元はともに n=dim⁡Vn=\dim V なので、単射な線形写像は同型になる。

テンソル積

定義 4.3(テンソル積)

2つのテンソル S∈Tsr(V)S\in T^r_s(V)、T∈Ts′r′(V)T\in T^{r'}_{s'}(V) を考える。テンソル積 S⊗TS\otimes T を、引数を前後に分けた次の式で定める。

(S⊗T)(α1,…,αr+r′,v1,…,vs+s′)=S(α1,…,αr,v1,…,vs) T(αr+1,…,αr+r′,vs+1,…,vs+s′)(S\otimes T)(\alpha^1,\dots,\alpha^{r+r'},v_1,\dots,v_{s+s'}) =S(\alpha^1,\dots,\alpha^r,v_1,\dots,v_s)\,T(\alpha^{r+1},\dots,\alpha^{r+r'},v_{s+1},\dots,v_{s+s'})

これは (r+r′,s+s′)(r+r',s+s') 型のテンソルである。

右辺は2つの数の積なので、各引数について線形であり、確かにテンソルになる。テンソル積は各因子について線形で、結合法則 (R⊗S)⊗T=R⊗(S⊗T)(R\otimes S)\otimes T=R\otimes(S\otimes T) を満たす。一方で、交換法則は一般に成り立たない。平面の座標 (x,y)(x,y) で、2つのベクトル u,vu,v に対する値を比べると次のようになる。

(dx⊗dy)(u,v)=uxvy,(dy⊗dx)(u,v)=uyvx(\mathrm{d} x\otimes\mathrm{d} y)(u,v)=u^xv^y,\qquad(\mathrm{d} y\otimes\mathrm{d} x)(u,v)=u^yv^x

とくに (u,v)=(∂x,∂y)(u,v)=(\partial_x,\partial_y) とおくと、左の値は 1、右の値は 0 である。

基底と成分

ベクトル空間の基底を e1,…,ene_1,\dots,e_n とし、その双対基底を e1,…,ene^1,\dots,e^n とする。双対基底は ei(ej)=δjie^i(e_j)=\delta^i_j で定まる1形式の基底である(第3章 §3.1)。座標の場面では ei=∂i, ei=dxie_i=\partial_i,\ e^i=\mathrm{d} x^i がこれに当たる。

定理 4.4(テンソル空間の基底)

次の nr+sn^{r+s} 個の元は、(r,s)(r,s) 型のテンソル全体の基底をなす。

ei1⊗⋯⊗eir⊗ej1⊗⋯⊗ejs(1≤ik, jl≤n)e_{i_1}\otimes\cdots\otimes e_{i_r}\otimes e^{j_1}\otimes\cdots\otimes e^{j_s}\qquad(1\le i_k,\,j_l\le n)

とくに dim⁡Tsr(V)=nr+s\dim T^r_s(V)=n^{r+s} である。任意のテンソルは、次の成分を係数としてこの基底で展開される。

Ti1⋯irj1⋯js=T(ei1,…,eir,ej1,…,ejs)(4.3)T^{i_1\cdots i_r}{}_{j_1\cdots j_s}=T(e^{i_1},\dots,e^{i_r},e_{j_1},\dots,e_{j_s})\tag{4.3}

証明

添字の多さが本質ではないので、(1,1)(1,1) 型で書く(一般の型でも同じ式変形になる)。基底ベクトルは命題 4.2 によりテンソルとみなし、ei(α)=α(ei)e_i(\alpha)=\alpha(e_i) とする。

張ることを示す。任意の1形式とベクトルを α=αiei, v=vjej\alpha=\alpha_ie^i,\ v=v^je_j と展開すると、線形性から次の式が成り立つ。

T(α,v)=αivj T(ei,ej)=αivj TijT(\alpha,v)=\alpha_iv^j\,T(e^i,e_j)=\alpha_iv^j\,T^i{}_j

一方 (ei⊗ej)(α,v)=α(ei) ej(v)=αivj(e_i\otimes e^j)(\alpha,v)=\alpha(e_i)\,e^j(v)=\alpha_iv^j である。よって2つのテンソル TT と Tij ei⊗ejT^i{}_j\,e_i\otimes e^j はすべての引数で値が一致し、同じものである。

1次独立であることを示す。cij ei⊗ej=0c^i{}_j\,e_i\otimes e^j=0 と仮定し、両辺に (ek,el)(e^k,e_l) を入れる。左辺は cijδikδlj=cklc^i{}_j\delta^k_i\delta^j_l=c^k{}_l になるので、すべての係数が 00 である。

この定理から、(1,1)(1,1) 型のテンソルと線形写像は同じものだとわかる。

命題 4.5(1つずつの上下の引数を持つテンソルと線形写像)

線形写像 AA にテンソル TA(α,v)=α(Av)T_A(\alpha,v)=\alpha(Av) を対応させる。この対応は、線形写像の空間から T11(V)T^1_1(V) への同型である。テンソル TAT_A の成分は、表現行列の成分 AijA^i{}_j に等しい。

証明

対応 A↦TAA\mapsto T_A は線形である。仮に TA=0T_A=0 なら、すべての1形式について α(Av)=0\alpha(Av)=0 となる。するとすべてのベクトルについて Av=0Av=0 なので、この写像は 0 である。両方の空間の次元は n2n^2 なので、単射な線形写像は同型である。

成分は (4.3) より TA(ei,ej)=ei(Aej)T_A(e^i,e_j)=e^i(Ae_j) である。これはベクトル AejAe_j を基底で展開したときの第 ii 成分である。すなわち表現行列の成分 AijA^i{}_j に一致する。

恒等写像に対応する (1,1)(1,1) 型テンソルの成分は、どの基底でも δij\delta^i{}_j である。Kronecker のデルタがどの基底でも同じ成分を持つのは、このテンソルが恒等写像という基底によらない対象だからである。

例題 4.1 2階のテンソルの成分と、テンソル積に分解できるかどうか ★★

オリジナル平面の座標 (x,y)(x,y) で、次の (0,2)(0,2) 型テンソルを考える。

T=3 dx⊗dy−dy⊗dxT=3\,\mathrm{d} x\otimes\mathrm{d} y-\mathrm{d} y\otimes\mathrm{d} x

  1. このテンソルの成分 TijT_{ij} を2行2列の行列として書け。
  2. 次の2つのベクトルに対して、値 T(u,v)T(u,v) と T(v,u)T(v,u) を求めよ。

u=2∂x+∂y,v=∂x−∂yu=2\partial_x+\partial_y,\qquad v=\partial_x-\partial_y 3. このテンソルは、2つの1形式のテンソル積 α⊗β\alpha\otimes\beta の形に書けないことを示せ。

解答

(1) 成分は Tij=T(∂i,∂j)T_{ij}=T(\partial_i,\partial_j) である。0 でない成分は Txy=3, Tyx=−1T_{xy}=3,\ T_{yx}=-1 の2つである。

(Tij)=(03−10)(T_{ij})=\begin{pmatrix}0&3\\-1&0\end{pmatrix}

(2) 成分で書くと T(u,v)=TijuivjT(u,v)=T_{ij}u^iv^j である。

T(u,v)=3uxvy−uyvx=3⋅2⋅(−1)−1⋅1=−7,T(v,u)=3vxuy−vyux=3⋅1⋅1−(−1)⋅2=5T(u,v)=3u^xv^y-u^yv^x=3\cdot2\cdot(-1)-1\cdot1=-7,\qquad T(v,u)=3v^xu^y-v^yu^x=3\cdot1\cdot1-(-1)\cdot2=5

2つの値は異なるので、このテンソルは対称でも反対称でもない。

(3) テンソル積 α⊗β\alpha\otimes\beta の成分は αiβj\alpha_i\beta_j である。この行列の各列は列ベクトル (αx,αy)(\alpha_x,\alpha_y) の定数倍なので、階数は1以下である。一方 (1) の行列の行列式は 0⋅0−3⋅(−1)=30\cdot0-3\cdot(-1)=3 で、階数は2である。

したがって、このテンソルに等しいテンソル積 α⊗β\alpha\otimes\beta は存在しない。テンソル積の和でしか書けないテンソルがあることを、この例は示している。

確認テスト

オリジナル

  1. 4.1-1 4次元のベクトル空間で、(1,2)(1,2) 型のテンソル全体の次元を求めよ。
  2. 4.1-2 平面で T=2 dx⊗dx+dx⊗dy−3 dy⊗dxT=2\,\mathrm{d} x\otimes\mathrm{d} x+\mathrm{d} x\otimes\mathrm{d} y-3\,\mathrm{d} y\otimes\mathrm{d} x とする。成分の行列を書け。さらに u=∂x+2∂y, v=3∂x−∂yu=\partial_x+2\partial_y,\ v=3\partial_x-\partial_y に対する値 T(u,v)T(u,v) を求めよ。
  3. 4.1-3 0 でない1形式 α,β\alpha,\beta について、α⊗β=β⊗α\alpha\otimes\beta=\beta\otimes\alpha となる条件を考える。これが成り立つのは、ある実数 cc で β=c α\beta=c\,\alpha と書けるときに限ることを示せ。
  4. 4.1-4 テンソル N=e1⊗e2N=e_1\otimes e^2 に対応する線形写像(命題 4.5)の表現行列を書け。さらに、その写像を2回続けると 00 になることを確かめよ。

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