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出てくるもの(3):蛍光の超解像

2026年10月15日10分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第8章 回折限界の先へ
目次
  1. 構造化照明:線形のままの2倍
  2. STED:2準位の飽和で上限を外す
  3. 1分子の位置決め:事前の情報を使う
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

光学と量子エレクトロニクス 第8章 §8.4 ★★★ 線形のままなら照明の工夫で2倍まで(構造化照明)。2準位の蛍光分子を誘導放出で飽和させると応答が非線形になって上限が消え(STED)、1度に1分子だけ光らせれば位置は光子数の平方根で細かく決まる(位置決め)

蛍光の顕微鏡では、物体は蛍光分子の数の密度 c(x)c(\bm{x}) で、分子は照明の光を吸って励起状態に上がり、少し長い波長の光を出して下りる。分子どうしは互いに無関係に光るので、像はインコヒーレントな像(式 (8.4))である。この節では、分子を基底状態 ∣g⟩| g \rangle と励起状態 ∣e⟩| e \rangle の2準位系として扱う(実際の分子では振動の準位が細かく付いているが、それは吸収と放出の波長をずらす役だけを持つとみなす)。

構造化照明:線形のままの2倍

照明を一様にせず、波数 Kill\bm{K}_{\mathrm{ill}} の縞 1+cos⁡(Kill⋅x)1+\cos(\bm{K}_{\mathrm{ill}}\cdot\bm{x}) にする。分子が出す光の強さは、弱い照明では照明の強度に比例するので、蛍光の分布は c(x)(1+cos⁡(Kill⋅x))c(\bm{x})\bigl(1+\cos(\bm{K}_{\mathrm{ill}}\cdot\bm{x})\bigr) で、そのスペクトルは c~(q)\tilde c(\bm{q}) に 12c~(q∓Kill)\frac12\tilde c(\bm{q}\mp\bm{K}_{\mathrm{ill}}) を足したものになる。像では ∣q∣≤2k0NA\lvert \bm{q}\rvert \le2k_0\mathrm{NA} しか見えないが、ずらされた項のおかげで、物体のスペクトルの∣q∓Kill∣≤2k0NA\lvert \bm{q}\mp\bm{K}_{\mathrm{ill}}\rvert \le2k_0\mathrm{NA} の部分も像に入る。縞の向きと位相を変えて何枚か撮り、ずらされた項を分けてもとの位置へ戻すと、物体のスペクトルが ∣q∣≤2k0NA+∣Kill∣\lvert \bm{q}\rvert \le2k_0\mathrm{NA}+\lvert \bm{K}_{\mathrm{ill}}\rvert までわかる。照明の縞も同じレンズで作るので ∣Kill∣≤2k0NA\lvert \bm{K}_{\mathrm{ill}}\rvert \le2k_0\mathrm{NA} で、見える範囲は最大で 4k0NA4k_0\mathrm{NA}、限界の2倍になる(M. G. L. Gustafsson (2000), J. Microsc. 198, 82)。2倍で止まるのは、蛍光の分布が照明について線形で、照明そのものが定理の円板の中にあるからである。

STED:2準位の飽和で上限を外す

励起した分子が光を出す前に、蛍光より長い波長の強い光(STED 光)を当てると、分子は誘導放出で基底状態へ戻り、蛍光の波長の光を出さない。STED 光の強度が 00 になる点を中心に置いたドーナツ形の分布にすれば、中心のごく近くの分子だけが蛍光を出す。この方法は Hell と Wichmann が提案した(S. W. Hell and J. Wichmann (1994), Opt. Lett. 19, 780)。

蛍光の寿命 τfl\tau_{\mathrm{fl}} より十分短い STED 光のパルスを当てる場合を考える。誘導放出の断面積を σ\sigma、光子の流れの密度を I(t)/(ℏω)I(t)/(\hbar\omega) とすると、パルスの間の励起状態の占有確率 PeP_e は

dPedt=−σI(t)ℏωPe⟹η=Pe(後)Pe(前)=exp⁡(−FFs),F=∫I dt,Fs=ℏωσ(8.9)\frac{\mathrm{d} P_e}{\mathrm{d} t}=-\frac{\sigma I(t)}{\hbar\omega}P_e \quad\Longrightarrow\quad \eta=\frac{P_e(\text{後})}{P_e(\text{前})}=\exp\Bigl(-\frac{F}{F_{\mathrm s}}\Bigr),\qquad F=\int I\,\mathrm{d} t,\quad F_{\mathrm s}=\frac{\hbar\omega}{\sigma}\tag{8.9}

で減る(パルスの間の自然放出と、誘導放出で基底状態に戻った分子が STED 光で再び励起されることは無視した)。FF はパルスのエネルギーの面密度(フルエンス)で、FsF_{\mathrm s} を飽和フルエンスと呼ぶ。ドーナツの中心の近くで F(x)=Fmax⁡sin⁡2(πNA ∣x∣/λ0)F(\bm{x})=F_{\max}\sin^2(\pi\mathrm{NA}\,\lvert \bm{x}\rvert /\lambda_0) とし(中心で 00、半径 λ0/(2NA)\lambda_0/(2\mathrm{NA}) で最大。1次元の模型)、ζ=Fmax⁡/Fs\zeta=F_{\max}/F_{\mathrm s} と置く。励起の点の像を半値全幅 d0=λ0/(2NA)d_0=\lambda_0/(2\mathrm{NA}) の Gauss 関数 exp⁡(−4ln⁡2 x2/d02)\exp(-4\ln2\,x^2/d_0^2) で近似すると、蛍光を出す分子の分布(実効の点の像)は

heff(x)=exp⁡(−4ln⁡2 x2d02)exp⁡(−ζsin⁡2πNA xλ0)≈exp⁡(−4ln⁡2 x2d2),d=λ02NA1+ξ ζ,ξ=π216ln⁡2=0.890(8.10)\begin{gathered} h_{\mathrm{eff}}(x)=\exp\Bigl(-\frac{4\ln2\,x^2}{d_0^2}\Bigr)\exp\Bigl(-\zeta\sin^2\frac{\pi\mathrm{NA}\,x}{\lambda_0}\Bigr) \approx\exp\Bigl(-\frac{4\ln2\,x^2}{d^2}\Bigr),\\ d=\frac{\lambda_0}{2\mathrm{NA}\sqrt{1+\xi\,\zeta}},\qquad \xi=\frac{\pi^2}{16\ln2}=0.890 \end{gathered}\tag{8.10}

である。近似は sin⁡2u≈u2\sin^2u\approx u^2 で、2つの Gauss 関数の積の幅を足し合わせた(1/d2=1/d02+ζπ2NA2/(4ln⁡2 λ02)1/d^2=1/d_0^2+\zeta\pi^2\mathrm{NA}^2/(4\ln2\,\lambda_0^2))。ζ\zeta を上げれば幅は 1/ζ1/\sqrt\zeta で際限なく細くなる(図 8.3)。係数 ξ\xi は励起と STED の光の分布の形で変わり、定数を FsF_{\mathrm s} の定義に含めたd≈λ0/(2NA1+Fmax⁡/Fs)d\approx\lambda_0/(2\mathrm{NA}\sqrt{1+F_{\max}/F_{\mathrm s}}) の形で書かれることが多い(V. Westphal and S. W. Hell (2005), Phys. Rev. Lett. 94, 143903)。

STED では第二の前提が破れているので、定理 8.1 とは矛盾しない。STED 光の分布 F(x)F(\bm{x}) そのものは定理の円板の中の波数しか持たないが、η=e−ζsin⁡2(⋅)\eta=\mathrm{e}^{-\zeta\sin^2(\cdot)} は FF の非線形の関数で、e−ζsin⁡2u\mathrm{e}^{-\zeta\sin^2u} を Fourier 級数に展開すると cos⁡2mu\cos2mu の項がすべての mm について現れ、ζ\zeta が大きいほど高い mm の係数が大きくなる。実効の点の像は円板の外の波数を持ち、その大きさは2準位系の飽和の深さ ζ\zeta で決まる。多重露光のしきい値(8.2節)と同じく、応答が非線形なので円板の外の波数が現れる。

図

図 8.3 STED の実効の点の像(1次元の模型)。点線は式 (8.10) の左辺(sin⁡2\sin^2 を残した厳密な積)、細い実線は右辺の Gauss 関数の近似である。λ0=600 nm\lambda_0=600\,\mathrm{nm}, NA=1.4\mathrm{NA}=1.4 で、半値全幅は ζ=0\zeta=0 で 214 nm214\,\mathrm{nm}、ζ=10\zeta=10 で 68.8 nm68.8\,\mathrm{nm}(近似 68.168.1)、ζ=100\zeta=100 で 22.6 nm22.6\,\mathrm{nm}(近似 22.622.6)。

1分子の位置決め:事前の情報を使う

第三の前提は「物体について何も知らない」ことだった。視野の中で光っている分子が1つだけだと知っていれば、像の明るさの分布は点の像 ∣h∣2\lvert h\rvert ^2 をその分子の位置 x0x_0 だけずらしたもので、見るべきものはスペクトルでなく、1つの数 x0x_0 である。x0x_0 は点の像の幅よりはるかに細かく決めることができる。点の像を標準偏差 ss の Gauss 関数で近似する。Airy の点の像の半値全幅は 0.514λ0/NA0.514\lambda_0/\mathrm{NA}(第6章の Airy の半値の点 k0NA r=1.616k_0\mathrm{NA}\,r=1.616 から)で、同じ半値全幅の Gauss 関数はs=0.514λ0/(2.355 NA)=0.218λ0/NAs=0.514\lambda_0/(2.355\,\mathrm{NA})=0.218\lambda_0/\mathrm{NA} である。検出した NphN_{\mathrm{ph}} 個の光子の位置は、それぞれ独立にこの分布に従う。1個の光子の位置の分布 p(x;x0)∝exp⁡(−(x−x0)2/(2s2))p(x;x_0)\propto\exp(-(x-x_0)^2/(2s^2)) の Fisher 情報は J(x0)=1/s2J(x_0)=1/s^2 で、NphN_{\mathrm{ph}} 個では Nph/s2N_{\mathrm{ph}}/s^2 になるので、Cramér–Rao の不等式(相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第1部第7章)から

Var(x^0)≥s2Nph,Var(x^0)≥sNph(8.11)\mathrm{Var}(\hat x_0)\ge\frac{s^2}{N_{\mathrm{ph}}},\qquad \sqrt{\mathrm{Var}(\hat x_0)}\ge\frac{s}{\sqrt{N_{\mathrm{ph}}}}\tag{8.11}

で、光子の位置の平均を推定量にとると等号になる。背景の光や画素の大きさがあれば精度はこれより下がる。

近くにある多数の分子を分けるには、光で状態を切り替えられる蛍光分子を使い、1度に視野の中のまばらな一部だけを光らせて位置を決め、消してから別の一部を光らせることを繰り返す。集めた位置を1枚の図に描けば、分子の間隔が ss より小さくても分子の並びを描くことができる。この方法は 2006 年に別々のグループから報告された(E. Betzig et al. (2006), Science 313, 1642;M. J. Rust, M. Bates and X. Zhuang (2006), Nat. Methods 3, 793)。STED と位置決めの開発に対して、2014 年の Nobel 化学賞が Betzig・Hell・Moerner に贈られた。

例題 8.5 STED の飽和の深さと位置決めの光子数 ★★

オリジナルλ0=600 nm\lambda_0=600\,\mathrm{nm}, NA=1.4\mathrm{NA}=1.4 とする。

  1. (1) 励起の点の像の半値全幅 d0d_0 を求め、ζ=100\zeta=100 の STED の実効の幅を式 (8.10) で求めよ。
  2. (2) 同じ NA\mathrm{NA} の構造化照明で見える最小の周期を求め、(1) と比べよ。
  3. (3) 1分子の位置決めで、Nph=1000N_{\mathrm{ph}}=1000 個の光子を集めたときの位置の精度の下限を式 (8.11) で求めよ。
解答

(1) d0=λ0/(2NA)=214 nmd_0=\lambda_0/(2\mathrm{NA})=214\,\mathrm{nm}。ζ=100\zeta=100 では 1+0.890×100=9.49\sqrt{1+0.890\times100}=9.49 で d=22.6 nmd=22.6\,\mathrm{nm}、励起だけの像の約 9.59.5 分の 11 になる。sin⁡2\sin^2 を残した積の半値全幅を数値で求めても 22.6 nm22.6\,\mathrm{nm} で、近似の誤差は図 8.3 で見えないほど小さい。

(2) 見える波数の上限は 4k0NA4k_0\mathrm{NA} なので、最小の周期は λ0/(4NA)=107 nm\lambda_0/(4\mathrm{NA})=107\,\mathrm{nm}。STED の 22.6 nm22.6\,\mathrm{nm} よりはるかに粗い。構造化照明は線形のまま2倍にとどまり、STED は非線形の深さ ζ\zeta で幅が決まる。

(3) s=0.218×600/1.4=93.6 nms=0.218\times600/1.4=93.6\,\mathrm{nm} で、s/1000=2.96 nms/\sqrt{1000}=2.96\,\mathrm{nm}。点の像の幅の 3030 分の 11 程度の精度で位置が決まる。光子の数を 44 倍にしても精度は2倍にしかならない。

木下の勉強ステータス

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