光学と量子エレクトロニクス 第9章 §9.3 ★★★ Michelson 干渉計の縞の可視度は光の1次の相関関数 g(1)(τ) の大きさで、g(1)(τ) の Fourier 変換がスペクトルである
揺らぐ場と1次の相関関数
ここまでの式は単色の光、つまり振幅が一定の E0e−iωt を仮定していた。実際の光源の光は、原子が別々の時刻にばらばらの位相で光を出すので、振幅も位相も時間とともにでたらめに揺らぐ。そこで電場を複素数の値をとる確率過程 E(t)(正の周波数の部分だけを残した解析信号)とみなし、統計的に定常(平均が時刻の原点によらない)だとする。観測にかかる量は時間平均(または集団平均。両者が等しいとする)の ⟨⋯⟩ で書く。1次の相関関数とその規格化を
G(1)(τ)=⟨E∗(t)E(t+τ)⟩,g(1)(τ)=G(1)(0)G(1)(τ)(9.11)
と定義する。添字 (1) は、場を1回ずつ掛けた相関であることを表す(強度の相関 g(2) は第32章(第32章)で扱う)。定義から g(1)(0)=1, g(1)(−τ)=g(1)(τ)∗, ∣g(1)(τ)∣≤1(Cauchy–Schwarz の不等式)である。単色の光では g(1)(τ)=e−iωτ で、大きさがいつも 1 になる。
50:50 の Michelson 干渉計で2本の腕の往復の時間差を τ=2(d1−d2)/c とすると、出口の場は E(t) と E(t+τ) の和に比例し(共通の因子は省く)、強度の平均は
⟨Iout⟩=2I0(1+Reg(1)(τ))(9.12)
となる。g(1)(τ)=∣g(1)(τ)∣e−iωˉτ+iα(τ) と、中心の角周波数 ωˉ で速く回る部分とゆっくり変わる大きさと位相に分けると、τ を光の周期の程度だけ変えたときの縞の可視度は V=∣g(1)(τ)∣ である。腕の差を広げると縞が薄くなるのは、光の相関が時間とともに失われるためである。∣g(1)∣ が1から十分小さくなるまでの時間の目安をコヒーレンス時間と呼び、この章では
τc=∫−∞∞∣g(1)(τ)∣2dτ(9.13)
で定義する(Mandel と Wolf の定義)。光がその間に進む距離 lc=cτc をコヒーレンス長と呼ぶ。
Wiener–Khinchin の定理
定理 9.2(Wiener–Khinchin の定理)
定常な場 E(t) を長さ tf の区間で切り出した Etf(t) の Fourier 変換を E~tf(ω)=∫−tf/2tf/2E(t)eiωtdt とし、パワースペクトルを S(ω)=limtf→∞⟨∣E~tf(ω)∣2⟩/tf で定義する。∫∣G(1)(τ)∣dτ<∞ なら
S(ω)=∫−∞∞G(1)(τ)eiωτdτ,G(1)(τ)=∫−∞∞2πdωS(ω)e−iωτ(9.14)
が成り立つ。S(ω)≥0 である。
証明
⟨∣E~tf(ω)∣2⟩=∫∫−tf/2tf/2⟨E∗(t)E(t′)⟩eiω(t′−t)dtdt′ で、定常性から被積分関数は τ=t′−t だけの関数 G(1)(τ)eiωτ である。正方形の中で t′−t=τ となる線分の長さは tf−∣τ∣ なので
tf1⟨∣E~tf(ω)∣2⟩=∫−tftf(1−tf∣τ∣)G(1)(τ)eiωτdτ.
G(1) が絶対可積分なので、優収束定理により tf→∞ で右辺は ∫G(1)eiωτdτ に収束する。左辺は負にならないので S(ω)≥0。第2式はこの本の流儀の時間の Fourier 変換の逆変換である。
定理 9.2 の第2式で τ=0 とおくと、G(1)(0)=⟨∣E∣2⟩=∫S(ω)dω/(2π) で、S(ω)dω/(2π) が角周波数 ω のまわりの幅 dω に入るパワーである。したがって、Michelson 干渉計で腕の差 τ を変えながら縞を記録し、その Reg(1)(τ) を Fourier 変換すればスペクトルが出る。これが Fourier 変換分光で、分解能は腕の差の最大値 τmax の逆数 δν≈1/τmax で決まる。
スペクトルの形ごとに g(1) を並べておく。原子の自然放出のように振幅が e−Γt/2 で減衰しながら出る光の重ね合わせは Lorentz 形のスペクトルを持ち、気体の原子の熱運動による Doppler 広がりは Gauss 形になる(第24章)。中心の角周波数を ω0 として
Lorentz 形:Gauss 形:S(ω)∝(ω−ω0)2+Γ2/4Γ,S(ω)∝e−(ω−ω0)2/(2σω2),g(1)(τ)g(1)(τ)=e−iω0τ−Γ∣τ∣/2,=e−iω0τ−σω2τ2/2,τcτc=Γ2=πΔν1,=σωπ=π2ln2Δν1(9.15)
である。Δν は周波数で測ったスペクトルの半値全幅(Lorentz 形で Γ/2π、Gauss 形で 22ln2σω/2π)である。どちらの形でも τcΔν は 1 の程度の数(0.318 と 0.664)で、スペクトルが狭いほど光は長く相関を保つ。数の違いは形の違いを反映していて、スペクトルの裾の重い Lorentz 形のほうが同じ半値幅で相関を早く失う。
例題 9.5 2本の線の光で縞が消えては戻る ★★★
オリジナル等しい強度の2本のスペクトル線(波長 589.0nm と 589.6nm。ナトリウムの D 線を丸めた値)だけを含む光を 50:50 の Michelson 干渉計に入れる。各線の幅は無視する。
- (1) g(1)(τ) を求め、縞の可視度が ∣cos(πΔντ)∣ になることを示せ(Δν は2本の線の周波数の差)。
- (2) 鏡1を動かしていくと可視度は周期的に 0 になる。可視度の周期を鏡の変位で求めよ。
解答
(1) スペクトルは2本のデルタ関数 S(ω)∝δ(ω−ω1)+δ(ω−ω2) で、式 (9.14) から
g(1)(τ)=21(e−iω1τ+e−iω2τ)=e−iωˉτcos(2ω1−ω2τ),ωˉ=2ω1+ω2.
cos の部分は ωˉ に比べてゆっくり変わるので、可視度は ∣cos((ω1−ω2)τ/2)∣=∣cos(πΔντ)∣ である。2本の線の作る縞が、ずれて重なったり揃ったりする。
(2) 可視度は τ について周期 1/Δν を持つ。Δν=c(1/λ1−1/λ2)=5.18×1011Hz で、τ=2d1/c なので鏡の変位の周期はc/(2Δν)≈λˉ2/(2Δλ)=0.289mm である。この周期を測ると、2本の線の間隔 Δλ が分光器なしで分かる。
例題 9.6 発光ダイオードとレーザーのコヒーレンス長 ★★
オリジナル
- (1) 中心波長 850nm・波長の半値全幅 30nm の Gauss 形のスペクトルを持つ発光ダイオードのコヒーレンス長を求めよ。
- (2) 線幅(半値全幅)1kHz の Lorentz 形のスペクトルを持つレーザーのコヒーレンス長を求めよ。
解答
(1) Δν=cΔλ/λ2=1.24×1013Hz で、式 (9.15) から τc=0.664/Δν=5.34×10−14s、lc=cτc=16.0μm である。干渉計の2本の腕の長さを 10μm の程度でそろえないと縞が出ない。逆に言えば、縞が出る腕の長さの位置から、反射面の位置を 10μm の分解能で決められる(光干渉断層計の原理)。
(2) τc=1/(πΔν)=3.18×10−4s、lc=95.4km である。線幅がおよそ10桁狭いので、コヒーレンス長もおよそ10桁長い(係数 0.318 と 0.664 はスペクトルの形で違う)。
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