光学と量子エレクトロニクス 第16章 §16.2 ★★★ 外場による変化を Δ(εr−1)ij=∑krijkE0k+∑klsijklE0kE0l と書く。空間反転は反転対称な物質で r を消し、時間反転(Onsager の関係)は磁場の項を反対称に限る
屈折率楕円体
損失の無い異方性の媒質では、比誘電率テンソル εr は実対称で、その逆行列 η=εr−1 を使って
ij∑ηijxixj=1(16.8)
と書いた楕円体を屈折率楕円体と呼ぶ(第15章 第15章)。η の主軸の向きに偏った光の屈折率は、その主軸の方向の半径 1/η主 に等しい。εr でなく逆行列 η を使うのは、D を与えて E を出す向き(E=ηD/ε0)が横波の条件 k⋅D=0 と相性がよく、進む向きに垂直な断面の楕円の軸の向きと長さが、そのまま2つの固有偏光と屈折率になるからである。
外場による変化は、この η の変化で書くのが慣例である:
Δηij=k∑rijkE0k+kl∑sijklE0kE0l.(16.9)
rijk を Pockels 係数(1次の電気光学係数)、sijkl を2次の電気光学係数(Kerr 係数)と呼ぶ。η が対称なので rijk=rjik で、対称な対 (ij) をxx→1, yy→2, zz→3, yz→4, zx→5, xy→6 の1つの添字にまとめ(Voigt の記法)、rxyz を r63 のように書く。1つの主軸の屈折率 n で書けば η=1/n2 なので、Δη が小さいとき屈折率の変化は
Δn=−2n3Δη(16.10)
である。例題 16.1 の (3) の r はこの定義に合わせたものである。
空間反転:反転対称な物質に Pockels 効果は無い
空間反転 x→−x で、電場 E0 は向きが反転する(極性ベクトル)。光の偏光の楕円体 ηij は2つの添字を持つテンソルで、反転では符号を変えない。物質の結晶構造が反転対称であれば、反転した物質は元の物質と同じなので、Δη(E0)=Δη(−E0) でなければならない。式 (16.9) の1次の項は E0 の符号で反転するので、反転対称な物質では rijk=0 である。2次の項 sijklE0kE0l はこの制約を受けない。
16.1節の非調和な振動子の a(ポテンシャルの x3 の項)は、この対称性を破る項そのものだった。Pockels 効果を示すのは反転対称の無い結晶(水晶・リン酸二水素カリウム KDP・ニオブ酸リチウムなど)に限られ、気体・液体・ガラスのような等方的な媒質と、反転対称な結晶では、電場の効果は Kerr 効果から始まる。同じ対称性の議論は第17章の χ(2)(第二高調波)にもそのまま当てはまり、Pockels 効果は「光の周波数 ω と静的な場(周波数 0)の2つを入れて周波数 ω の分極を出す χ(2)」とみなすことができる。
時間反転:磁場の項は反対称になる(Onsager の関係)
時間反転では、電場 E0 は変わらず、磁場 B0 は向きが反転する(磁場を作る電流の向きが逆になる)。微視的な運動方程式が時間反転について対称であることから、線形応答の係数は Onsager の相反関係
εij(ω;B0)=εji(ω;−B0)(16.11)
を満たす。式 (16.7) は確かにこれを満たす(χxy(B0) は B0 の奇関数で χyx=−χxy なので、χxy(B0)=−χxy(−B0)=χyx(−B0))。式 (16.11) を εij の対称な部分と反対称な部分に分けると、対称な部分は B0 の偶関数、反対称な部分は奇関数である。したがって B0 の1次の効果は反対称な成分にしか入らない。損失が無ければ εij はエルミート行列なので(第10章 第10章 の受動性で Imχ=0 の場合)、反対称な部分は純虚数になり、
εr=ε1−ig0igε1000ε3,g は B0 の奇関数で実数(16.12)
の形になる(B0∥ez)。g をジャイレーションと呼ぶ。この行列の xy ブロックの固有ベクトルは円偏光 e± で、εre±=(ε1∓g)e± だからn±2=ε1∓g である。式 (16.7) の γ=0 の場合、g=ωp2ωωc/(D2−ω2ωc2) で、ε1∓g=1+χ± は式 (16.6) に一致する。
電場の効果と磁場の効果の違いは、第15章の Poincaré 球の上で見ると分かりやすい。対称なテンソルの変化は2つの直線偏光(または楕円偏光)の間の屈折率の差で、偏光の状態を赤道面の中の軸のまわりに回す。反対称な純虚数の変化は2つの円偏光の間の屈折率の差で、偏光の状態を北極と南極を結ぶ軸(S3 の軸)のまわりに回す。S3 の軸のまわりの回転は、直線偏光を直線偏光のまま、その向きだけを回す。
例題 16.2 KDP 型の結晶に光軸方向の電場を掛ける ★★★
オリジナル光軸を z に持つ一軸性の結晶(常光線の屈折率 no、異常光線の屈折率 ne)で、Pockels 係数のうち r63(=rxyz)だけが 0 でないとする。z 方向に電場 E0z を掛け、光を z 方向に通す。
- (1) 屈折率楕円体の z=0 の断面の式を書き、主軸が x, y 軸から 45∘ 回った向きになることと、主軸の屈折率 nx′, ny′ を r63E0z の1次で求めよ。
- (2) 結晶の厚さを L、電極の間の電圧を V(E0z=V/L)とする。2つの主軸の間の位相差 Γ が厚さ L によらないことを示し、Γ=π になる電圧(半波長電圧)Vπ を求めよ。
- (3) no=1.51, r63=10pmV−1, 波長 633nm の仮の結晶で Vπ を求めよ。
解答
(1) 電場が無いとき η=diag(1/no2,1/no2,1/ne2) で、式 (16.9) から Δηxy=Δηyx=r63E0z が加わる。z=0 の断面は
no2x2+y2+2r63E0zxy=1
である。2×2 の行列 (1/no2r63E0zr63E0z1/no2) の固有ベクトルは (1,±1)/2(45∘ 回った x′, y′ 軸)で、固有値は 1/no2±r63E0z。式 (16.10) から nx′=no−21no3r63E0z、ny′=no+21no3r63E0z である。電場は等方的だった断面を、45∘ の向きの楕円に変形する。
(2) Γ=λ2π(ny′−nx′)L=λ2πno3r63E0zL=λ2πno3r63V。電場は V/L で厚さに反比例し、位相差は厚さに比例するので、積は電圧だけで決まる。Γ=π から Vπ=λ/(2no3r63)。
(3) Vπ=633×10−9/(2×1.513×10×10−12)=9.2×103V。光と電場が同じ向きの配置(縦型)では厚さを変えても Vπ が下がらず、数 kV の電圧が要る。これを下げるのが、電場を光と垂直に掛ける横型の配置である(16.3節)。
ほかの巻では
- 解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第9章:εij(B)=εji(−B) の元になる Onsager の相反定理を、磁場の向きも含めて導く
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com