光学と量子エレクトロニクス 第22章 §22.5 ★★★ モードへの自然放出は場に乱れた位相の寄与を足し、位相は拡散係数 KN2/(2nph) で拡散する。線幅は共振器の幅の nsp/(2nph) 倍、Δν=πhνnspΔνc2/Pout
レート方程式では線幅が出ない
22.2節のレート方程式は光子の数だけを追い、場の位相を追わない。場を古典的な複素振幅 α(t)(∣α∣2=nph。モードの場は Re[αe−iωt] に比例する)で書くと、誘導放出と損失は
dtdα=21(KN−τc1)α
という式になり、∣α∣2 についての式がレート方程式の1本目(+1 を除いた形)に戻る。この式は位相を変えないので、しきい値より上の定常解は1つの決まった周波数で振動する完全な正弦波で、線幅は 0 である。線幅を出すには、レート方程式の +1、すなわちモードへの自然放出を、場の振幅の言葉で書く必要がある。自然放出の光は誘導放出の光と位相がそろっていないので、場に乱れた位相の寄与を足す。
振幅の Langevin 方程式
自然放出の寄与を、白色の複素数の雑音 F(t) として振幅の式に足す。
dtdα=21(KN−τc1)α+F(t),⟨F(t)F∗(t′)⟩=2Dδ(t−t′),⟨F(t)F(t′)⟩=0.(22.20)
雑音の強さ D は、光子数の式から決まる。式 (22.20) から ∣α∣2 の平均の変化を計算すると(時間の刻み dt の間の雑音の寄与 ∫Fdt は大きさが dt の桁なので、その2乗が dt の1次に残る)
dtd⟨∣α∣2⟩=(KN−τc1)⟨∣α∣2⟩+2D
で、これがレート方程式 dnph/dt=KN(nph+1)−nph/τc に一致するには 2D=KN でなければならない。下の準位の原子が残る媒質では、誘導放出と吸収の差が KN(N=N2−N1 は反転分布)、モードへの自然放出は上の準位の原子だけからの KN2 なので、一般には
2D=KN2=nspKN,nsp=N2−N1N2≥1(22.21)
である(4準位の媒質では N1=0 で nsp=1)。nsp を自然放出の因子と呼ぶ。
位相の拡散と線幅
しきい値より上で α=npheiϕ と書く。振幅 nph のずれは、利得の飽和が働いて緩和振動の速さで定常の値へ戻される。位相 ϕ には戻す力が無い。式 (22.20) の位相の部分は dϕ/dt=Im[Fe−iϕ]/nph で、F の位相の向きの成分 Im[Fe−iϕ] は強さ D の実の白色雑音(⟨Im[⋅]Im[⋅]⟩=Dδ(t−t′))なので、位相は酔歩をして、
⟨[ϕ(t)−ϕ(0)]2⟩=nphDt(22.22)
で広がる。位相が Gauss 分布で広がるとき、場の自己相関は ⟨α∗(0)α(t)⟩=nphe−iωte−⟨Δϕ2⟩/2=nphe−iωte−Dt/(2nph) で、Wiener–Khinchin の定理(第9章(第9章))からスペクトルはその Fourier 変換、すなわち角周波数の全幅 D/nph の Lorentz 形になる。式 (22.21) としきい値の上の KN=1/τc を入れると、振動数の全幅は
ΔνST=2π1nphD=4πτcnphnsp=2nphnspΔνc(22.23)
となる(Δνc=1/(2πτc) は共振器の共鳴の全幅)。レーザーの線は、利得の無い共振器の共鳴より 2nph/nsp 倍細い。共振器の損失がすべて出力鏡の透過だとすると、出力は Pout=ℏωnph/τc なので、nph を消して
ΔνST=PoutπhνnspΔνc2(22.24)
を得る。これが Schawlow と Townes がレーザーの実現の前に見積もった線幅の式(A. L. Schawlow and C. H. Townes (1958), Phys. Rev. 112, 1940)の、しきい値より上での形である。線幅は出力に反比例し、共振器の幅の2乗に比例する。
しきい値より下では、場は線形の式 (22.20)(KN<1/τc)に従う雑音で、振幅も位相も揺らぐ。このときスペクトルは全幅 1/τc−KN の Lorentz 形で、光子数の平均は nph=2D/(1/τc−KN) なので、角周波数の全幅は 2D/nph と書ける。同じ光子数で比べると、しきい値の下の線幅は上の2倍になる。しきい値の上では振幅の揺らぎが利得の飽和で抑えられ、雑音の半分(振幅の向きの成分)が線幅に寄与しなくなるからである。
例題 22.7 He–Ne レーザーの Schawlow–Townes の線幅 ★★★
オリジナル長さ L=0.30m の He–Ne レーザー(λ=632.8nm)で、出力鏡の強度の反射率が 0.99、もう一方の鏡は完全な反射、ほかの損失は無いとする。出力は Pout=1.0mW、nsp=1 とする。
- (1) τc、Δνc、共振器の中の光子数、Schawlow–Townes の線幅を求めよ。
- (2) 鏡の間隔が 1nm 変わると、発振の周波数はどれだけ変わるか。周波数のずれを (1) の線幅より小さくするには、間隔をどの精度で保たなければならないか。
解答
(1) τc=2L/(c[−ln0.99])=0.60/(3.00×108×0.01005)=199ns、Δνc=1/(2πτc)=0.80MHz。光子1個のエネルギーは hν=hc/λ=3.14×10−19J で、nph=Poutτc/(hν)=6.3×108 個。式 (22.23) から ΔνST=0.80MHz/(2×6.3×108)=6.3×10−4Hz で、式 (22.24) の π×3.14×10−19×(7.99×105)2/10−3=6.3×10−4Hz と一致する。4.7×1014Hz の光に対して1ミリヘルツを切る幅で、比にすると 10−18 の桁である。
(2) 発振の周波数は縦モードの周波数 ν=ℓc/(2L) に従うので(周波数の引き込みは無視する)、δν/ν=−δL/L。δL=1nm で ∣δν∣=4.74×1014×10−9/0.30=1.6MHz で、共振器の幅 0.8MHz より大きい。ずれを 6.3×10−4Hz より小さくするには δL<LΔνST/ν=4×10−19m が要る。原子核の大きさの1万分の1で、普通の装置の振動や温度の変化では保てない。実際の He–Ne レーザーの線幅は、Schawlow–Townes の限界でなく鏡の間隔の揺らぎで決まる。この限界に近づけるには、共振器の長さを別の安定な基準に合わせ込む(周波数の安定化)必要がある。
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