光学と量子エレクトロニクス 第22章 §22.4 ★★★ 一様に広がった利得を共有するモードの間では、Kjτcj の最も大きいモードだけが残る。定在波の節の原子(空間的ホールバーニング)と不均一な広がりがこれを崩す。発振の周波数は共振器の共鳴から線の中心へ引き寄せられる
一様な広がりでは1つのモードだけが残る
共振器の縦モードは νFSR=c/(2nL) おきに並び(第5章)、利得の線の幅 Δνg の中に多数入る。モードを j=1,2,… で番号づけ、それぞれの光子数を nj と書く。どの原子も同じ線の形 S(ω) を持つ(一様な広がり)とし、モードの場が体積 V の中で一様だとすると、すべてのモードは同じ原子の集まり N と結合し、自然放出を落としたレート方程式は
dtdnj=(KjN−τcj1)nj,dtdN=Rp−τN−Nj∑Kjnj(22.16)
となる。Kj=K(ωj) は式 (22.4) で、線の中心に近いモードほど大きい。
定理 22.3(一様な広がりでの単一モード発振 ★★★)
式 (22.16) で、モード 1 の K1τc1 がほかのどのモードの Kjτcj より大きく、n1(0)>0 とする。このとき j=1 のすべてのモードで nj(t)→0(t→∞)となる。
証明
nj>0 なら dlnnj/dt=KjN−1/τcj である。N(t) の形によらずに N を消すため、lnnj−(Kj/K1)lnn1 の時間変化をとると
dtd[lnnj−K1Kjlnn1]=−τcj1+K1Kjτc11=−τcj1(1−K1τc1Kjτcj)≡−κj<0
となり、nj(t)=Cjn1(t)Kj/K1e−κjt(Cj は初期値で決まる定数)である。一方、E=N+∑jnj は dE/dt=Rp−N/τ−∑jnj/τcj≤Rp−E/τmax(τmax は τ と τcj の最大)を満たすので、E は有界で、n1 も有界である。したがって nj≤Cj(supn1)Kj/K1e−κjt→0。
証明が N(t) の形を使っていないことに注意する。モードたちは同じ反転分布 N から利得を受け取るので、N がどう動いても、利得と損失の比 Kjτcj の大きいモードが小さいモードに対して指数関数的に増える。十分に時間が経つと N はモード 1 のしきい値 1/(K1τc1) に固定され、ほかのモードはその N で利得が損失に届かず、減り続ける。これが一様に広がった利得の媒質の縦モードの競合である。
空間的ホールバーニング
定理 22.3 は、すべてのモードが同じ原子と同じ強さで結合するという仮定に立っている。実際の2枚の鏡の共振器の縦モードは定在波 sin2(kjz) の強度の分布を持ち、モード 1 の節にいる原子はモード 1 の誘導放出に使われないまま、反転分布を保つ。隣のモードの腹はモード 1 の節とずれているので、この残った反転分布から利得を受け取ることができる。これを空間的ホールバーニングと呼ぶ。
モード 1 が腹で強度 sIsat を持つとすると、位置 z の反転分布は N(z)∝1/[1+ssin2(k1z)] で、モード j が受け取る利得は N(z) を自分の強度の分布 2sin2(kjz) で平均したものに比例する。媒質が共振器を満たしていれば、隣り合うモードの間で kjz−k1z が媒質の中で一様に 0 から π まで動くので、sin2(kjz) は N(z) と相関しない平均 21 で置き換えてよい。このとき、モード 1 自身とモード j の利得の比は
g1gj=⟨2Nsin2(k1z)⟩⟨N⟩=(2/s)[1−(1+s)−1/2](1+s)−1/2=2(1+s−1)s(22.17)
となる(平均は θ=k1z についてとり、⟨1/(1+ssin2θ)⟩=1/1+s を使った)。s→0 で比は 1 に戻り、s が大きくなると 1 より大きくなる。モード 1 の利得は損失に固定されているので、比が 1 を超えたモードは、線の中心から少し外れて Kj が小さくても発振を始めることができる。
空間的ホールバーニングをなくすには、定在波を作らない共振器を使えばよい。光が一方向にだけ回るリング共振器(光アイソレータで逆向きを止める)では強度の分布が一様になり、一様に広がった媒質は定理 22.3 どおり単一モードで発振する。
不均一な広がり
気体のレーザーでは、原子が光軸方向の速度 v を持ち、Doppler 効果で原子ごとに共鳴の周波数が ν0(1+v/c) にずれる。原子の集まりの線の形は、個々の原子の幅(一様な幅)より広い Gauss 形になり、その全幅は
ΔνD=cν0M8kBTln2(22.18)
である(M は原子の質量。Maxwell の速度分布の光軸方向の成分の幅を周波数に直した。分光の線幅としては第24章(第24章)で扱う)。このように原子ごとに共鳴の周波数が違う広がりを不均一な広がりと呼ぶ。周波数 νj のモードは、その周波数に共鳴する速度の原子(一様な幅の範囲の原子)とだけ強く結合するので、モードどうしが別々の原子の集まりから利得を受け取り、定理 22.3 の「共有する N」の仮定が成り立たない。各モードは利得の曲線の自分の周波数の所にだけ穴を開けて飽和させ(スペクトルのホールバーニング)、小信号の利得 g0(νj) がしきい値 gth を超えるモードはすべて発振する。Gauss 形の利得 g0(ν)=g0(ν0)exp[−4ln2(ν−ν0)2/ΔνD2] がしきい値を超える周波数の幅はΔνDln[g0(ν0)/gth]/ln2 で、これを νFSR で割ったものが、発振するモードの数の目安になる(図 22.3)。

図 22.3 Doppler で広がった Ne の 632.8 nm の利得(T=400K、全幅 1.52GHz、中心で g0=2gth)と、長さ 30cm の共振器の縦モード(500MHz おき)。点線のしきい値を超える赤の3本が発振し、灰色のモードは発振しない。不均一な広がりでは各モードが別々の原子から利得を受け取るので、3本が同時に発振できる
周波数の引き込み
発振の周波数は、1周の位相の条件で決まる。利得の媒質の感受率を χ=χ′+iχ′′ とすると、媒質の中の波数は k=(ω/c)n2+χ≈(ω/c)[n+χ/(2n)] で、強度の利得の係数は g=−2Imk=−(ω/nc)χ′′、位相の条件は 2LRek=2πℓ である。χ が無いときの共鳴の角周波数を ωc(ωcnL/c=πℓ)と書くと、位相の条件は ω[1+χ′/(2n2)]=ωc になる。一様に広がった Lorentz 形の線では、第11章(第11章)の振動子の感受率を共鳴の近くで書いた形から χ′/χ′′=2(ω0−ω)/Δωg で(利得の媒質でも、全体の符号が変わるだけでこの比は同じ)、しきい値では χ′′=−ncgth/ω、cgth/n=1/τc≡Δωc(共振器の共鳴の全幅。第5章の線幅 1/(2πτc) を角周波数で書いたもの)である。これを位相の条件に入れると
ω=Δωg+ΔωcωcΔωg+ω0Δωc(22.19)
を得る。発振の角周波数は、共振器の共鳴 ωc と線の中心 ω0 を、それぞれの幅の逆数の重みで平均したもので、線の中心の側へ (ω0−ωc)Δωc/(Δωg+Δωc) だけ引き寄せられる。普通のレーザーでは Δωc≪Δωg なので、発振の周波数はほぼ共振器の共鳴で決まり、線の中心の側へのずれは小さい。共鳴の幅が狭い(Q 値の高い)ほうが周波数を決める。
例題 22.4 隣のモードが消える時間と周波数の引き込み ★★
オリジナル例題 22.2 のレーザー(Δνg=100GHz の一様な広がり、τc=19.1ns、L=0.10m、n=1.50)を考える。空間的ホールバーニングは無視する。
- (1) 縦モードの間隔を求めよ。線の中心にあるモードと、その隣のモードの K の比を求め、隣のモードの光子数が中心のモードに比べて e−1 倍になる時間を求めよ。
- (2) 共振器の共鳴が線の中心から 10GHz ずれているとき、発振の周波数は共鳴からどれだけ線の中心の側へ引き寄せられるか。
解答
(1) νFSR=c/(2nL)=3.00×108/(2×1.50×0.10)=1.00GHz。Lorentz 形では K は S に比例し、S(ν0+δ)/S(ν0)=1/[1+(2δ/Δνg)2] なので、δ=1.00GHz で K2/K1=1/(1+4.0×10−4)=0.99960(式 (22.4) の 1/ω2 の違いは 2δ/ν0=7×10−6 の桁で、ここでは無視できる)。定理 22.3 の証明で、中心のモードの光子数が定常になったあとは n2/n1 が e−κ2t で減り、κ2=(1−K2/K1)/τc=4.0×10−4/(1.91×10−8s)=2.09×104s−1 である。e−1 倍になる時間は 1/κ2=48μs で、緩和振動の周期 15μs より長い。利得の差が 0.04% しかないので、競合の決着には時間がかかり、その間に空間的ホールバーニングや励起の揺らぎが入れば隣のモードが残ることもある。
(2) Δνc=1/(2πτc)=8.32MHz で、式 (22.19) から引き寄せの量は10GHz×8.32MHz/(100GHz+8.32MHz)=0.83MHz である。共振器の共鳴の幅 8.3MHz の1割にとどまり、発振の周波数はほぼ共振器の長さで決まる。
例題 22.5 空間的ホールバーニングで隣のモードが受け取る利得 ★★
オリジナル定在波の共振器を満たす一様に広がった媒質で、モード 1 が腹で飽和強度の3倍(s=3)の強度を持つとする。式 (22.17) の2つの平均を計算し、隣のモードがモード 1 の何倍の利得を受け取るかを求めよ。
解答
θ=k1z について一様に平均する。⟨1/(1+ssin2θ)⟩=π1∫0π1+ssin2θdθ=1+s1(t=tanθ と置換すると ∫dt/(1+(1+s)t2) になる)なので、s=3 で 1/2。⟨2sin2θ/(1+ssin2θ)⟩=s2⟨1−1+ssin2θ1⟩=s2(1−1+s1) で、s=3 で 32×21=31。比は (1/2)/(1/3)=1.5 で、式 (22.17) の 3/(2(4−1))=1.5 と一致する。モード 1 は自分の腹の原子を使い果たして利得を損失まで下げるが、節の原子は手つかずで、隣のモードはそこから 1.5 倍の利得を受け取る。例題 22.4 で見た 0.04% の利得の差はこの 50% の差に比べてはるかに小さいので、定在波の共振器では一様な広がりの媒質でも複数の縦モードが発振する。
例題 22.6 He–Ne レーザーの発振するモードの数 ★★
オリジナルNe 原子(質量数 20)の 632.8nm の遷移で、放電の中の原子の温度を 400K とする。
- (1) Doppler の全幅を求めよ。
- (2) 線の中心での小信号の利得がしきい値の2倍のとき、利得がしきい値を超える周波数の幅を求めよ。共振器の長さが 30cm と 15cm のとき、発振するモードは何本の目安か。
解答
(1) ν0=c/λ=4.738×1014Hz、M=20×1.661×10−27kg=3.32×10−26kg。8kBTln2/M=8×1.381×10−23×400×0.693/3.32×10−26=960ms−1 なので、式 (22.18) から ΔνD=4.738×1014×960/(3.00×108)=1.52GHz である。
(2) g0(ν0)/gth=2 なので、幅は ΔνDln2/ln2=ΔνD=1.52GHz。L=30cm では νFSR=c/(2L)=500MHz で、幅に 1.52/0.50=3.0 本分が入る。モードの1本が線の中心にあれば、中心と ±500MHz の3本が発振する(図 22.3。±500MHz で g0/gth=1.48、±1GHz で 0.60)。L=15cm では νFSR=1.00GHz で 1.5 本分になり、モードの位置によって1本か2本が発振する。共振器を短くすると縦モードが減るのは、モードの間隔が利得の幅に近づくからである。
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