光学と量子エレクトロニクス 第23章 §23.2 ★★★ パルスの包絡線とスペクトルは Fourier 変換の対で、時間の幅と周波数の幅の積には下限がある。下限に達するのはチャープの無いパルスだけで、群速度分散はチャープを足してパルスを広げる
不確定性関係
1つのパルスの包絡線 E(t) のスペクトルを、記法の正本の流儀で E~(ω)=∫E(t)eiωtdt と書く(ω は搬送波 ωc から測った角周波数)。時間と周波数の広がりを、強度の重みによる2乗平均の幅
σt2=∫∣E∣2dt∫(t−tˉ)2∣E∣2dt,σω2=∫∣E~∣2dω∫(ω−ωˉ)2∣E~∣2dω
で測る(tˉ, ωˉ は同じ重みの平均)。
定理 23.1(時間と周波数の不確定性関係)
E と tE と E′ が2乗可積分なら σtσω≥21 が成り立つ。等号は E(t)=Cexp[−(t−tˉ)2/(2τ02)−iωˉt](C は複素定数、τ0>0)のときに限る。
証明
E(t) に eiωˉt をかけ、時刻を tˉ だけずらしても σt, σω は変わらないので、tˉ=ωˉ=0 としてよい。Parseval の等式 ∫∣E~∣2dω/(2π)=∫∣E∣2dt と、E′ の変換が −iωE~ であることから、∫ω2∣E~∣2dω/(2π)=∫∣E′∣2dt である。したがって W=∫∣E∣2dt として σt2σω2W2=∫∣tE∣2dt∫∣E′∣2dt になる。Cauchy–Schwarz の不等式から、これは ∣∫tE∗E′dt∣2 以上である。一方、部分積分により 2Re∫tE∗E′dt=∫t(∣E∣2)′dt=−W なので、∣∫tE∗E′dt∣≥W/2 である。合わせて σtσω≥1/2 を得る。等号には、Cauchy–Schwarz の等号 E′=λtE と、∫tE∗E′dt=λ∫t2∣E∣2dt が実数であること(λ が実数)の両方が要る。E′=λtE の解は E=Ceλt2/2 で、2乗可積分なので λ=−1/τ02<0 である。
量子力学の位置と運動量の不確定性関係と同じ証明で、t と ω が Fourier 変換で結ばれた共役な変数であることだけを使っている。
時間帯域幅積
実験では2乗平均の幅でなく、強度の半値全幅 τp と、スペクトルの強度 ∣E~∣2 の周波数で測った半値全幅 Δνp を使う。積 τpΔνp を時間帯域幅積と呼ぶ。その値はパルスの形で決まる。Gauss 型 E=exp(−t2/(2τ02)) では強度 e−t2/τ02 の半値全幅が τp=2ln2τ0、スペクトル e−ω2τ02 の半値全幅が Δνp=ln2/(πτ0) で、
τpΔνp=π2ln2=0.441(Gauss 型),τpΔνp=(π2ln(1+2))2=0.315(sech2 型)(23.6)
となる。sech2 型は E=sech(t/τ) で、強度の半値全幅が τp=2ln(1+2)τ=1.763τ、スペクトルも sech(πωτ/2) の形になることから出る。23.4節のソリトンがこの形である。チャープの無いパルスがこれらの値をとり、その状態を変換限界と呼ぶ。
チャープと群速度分散
包絡線に時間の2次の位相をつけた E=exp[−(1+iC)t2/(2τ02)] を考える。C をチャープの大きさと呼ぶ。強度は C によらず同じだが、位相 −Ct2/(2τ02) を時間で微分した瞬間の角周波数のずれ Ct/τ02 が時間とともに変わる。Gauss 積分から E~∝exp[−ω2τ02/(2(1+iC))] で、その強度は exp[−ω2τ02/(1+C2)] なので、スペクトルの幅は 1+C2 倍になり、
τpΔνp=0.4411+C2(23.7)
となる。時間帯域幅積が変換限界の値より大きいことは、チャープがあることの目印である。
第11章(第11章)で、媒質の中を距離 z 進む包絡線は、角周波数のずれ ω ごとに位相 k′′zω2/2 を受けることを示した(k′′=d2k/dω2 は群速度分散)。チャープの無い Gauss 型のパルスから出発すると、E~∝exp[−ω2(τ02−ik′′z)/2] で、逆変換は exp[−t2/(2(τ02−ik′′z))] である。1/(τ02−ik′′z)=(τ02+ik′′z)/(τ04+k′′2z2) と書き直すと、包絡線は幅 τ(z) とチャープ C(z) を持つ Gauss 型
τ(z)=τ01+(τ02k′′z)2,C(z)=τ02k′′z(23.8)
になる。スペクトルの強度は位相だけの変化では変わらないので、幅の増えた分がそのままチャープに入る。この幅の式は第11章の例題と同じものである。逆に、チャープを持つパルスに逆符号の k′′z を与えればチャープが消え、変換限界まで縮む。短いパルスのレーザーでは、プリズムの対や、層の厚さを変えた多層膜の鏡(チャープ鏡)で負の群速度分散を足し、共振器を1周したときの分散 D=∑iki′′Li を打ち消すか、わずかに負にする。
分散は縦モードの間隔にも現れる。モード ℓ の共鳴の条件は、1周の位相 Φ(ω)=∑iki(ω)Li が 2πℓ に等しいことである。となりのモードとの間隔は Δω=2π/Φ′(ω) で、Φ′=∑iLi/vg,i は1周の群遅延である。したがって νrep は位相速度でなく群速度で決まり、Φ′′=D=0 なら間隔は周波数とともに少しずつ変わる。自由に発振するモードは厳密には等間隔でない。モード同期が成り立つと、結合によってすべてのモードが等間隔に引き込まれ、パルスは1周ごとに同じ形に戻る。その間隔が 23.5節の櫛の歯の間隔 νrep である。
例題 23.2 10 fs のパルスの帯域と、ガラス板によるチャープ ★★
オリジナル
- (1) 中心の波長 800nm、半値全幅 10fs の変換限界の sech2 型のパルスのスペクトルの半値全幅を、周波数と波長で求めよ。
- (2) 半値全幅 10fs の変換限界の Gauss 型のパルスが、厚さ 2mm の N-BK7(k′′=44.7fs2/mm、第11章)を通る。出てきたパルスの幅、チャープ C、時間帯域幅積を求めよ。
- (3) (2) のパルスを変換限界に戻すには、どれだけの群速度分散を足せばよいか。
解答
(1) 式 (23.6) から Δνp=0.315/(10fs)=31.5THz。ν=c/λ を微分した Δλ=λ2Δν/c から、Δλ=(800nm)2×31.5THz/c=67.2nm である。10fs のパルスは、搬送波の周期 2.67fs の4周期分ほどの長さしかなく、スペクトルは可視の赤から近赤外までの幅を持つ。
(2) τ0=τp/(2ln2)=6.01fs、k′′z=89.4fs2 なので C=k′′z/τ02=2.48。式 (23.8) から幅は 1+2.482=2.67 倍の 26.7fs になる。スペクトルの幅は変わらないので、時間帯域幅積は 0.441×2.67=1.18 で、式 (23.7) とも一致する。
(3) 位相 k′′zω2/2 を打ち消せばよいので、−89.4fs2 の群速度分散を足す。チャープ鏡1枚が反射ごとに −40〜−60fs2 ほどの分散を持つように作れば、2枚の間で2回反射させて打ち消すことができる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com