光学と量子エレクトロニクス 第23章 §23.1 ★★★ N 本の等間隔のモードの位相がそろうと、強度は Dirichlet 核 sin2(Nωrept/2)/sin2(ωrept/2) のパルス列になる。平均の強度は位相によらず、ピークだけが N 倍に集まる
第5章(第5章)で、長さ L の共振器の縦モードが自由スペクトル領域 νFSR=c/(2L) の等間隔で並ぶことを示した。第22章(第22章)では、利得の帯域が縦モードの間隔より広いレーザーが多くの縦モードで同時に発振することを扱った。そのとき各モードの位相はばらばらで、出力の強度は平均の値のまわりで不規則に揺らぐだけである。この章では、同じ縦モードの位相をそろえると何が起こるかを考える。
この章で取り出すモードは、共振器の N 本の縦モードである。物質のモデルは、第19章から第21章の2準位(4準位)の利得媒質を、幅の広い均一な利得の線 g(ω) にまとめたものと、モードどうしを結合させる素子(変調器か、強度によって損失が変わる可飽和吸収体・Kerr 媒質)である。結合は、縦モードの間隔と同じ周波数で場の振幅を時間的に変えることで、モード ℓ の側帯がとなりのモード ℓ±1 に重なり、その位相を引き込む。23.1節で N 本のモードの和を書き、位相がそろうと Dirichlet 核の形のパルス列になることを示す。23.2節で道具として Fourier 変換の不確定性関係と時間帯域幅積を用意し、群速度分散によるチャープを扱う。23.3節では変調器による能動モード同期を1周ごとの主方程式で書き、定常なパルスが調和振動子の基底状態と同じ Gauss 型になることを示す。23.4節では受動モード同期を扱い、負の分散と自己位相変調がつり合うソリトンのパルスを出す。23.5節では、パルス列のスペクトルが νn=nνrep+νceo の櫛になることを示し、f–2f 法で νceo を測って光の周波数を数える手順を述べる。23.6節で置いた近似と測る量を述べ、学部の授業でのモード同期の式と並べる。
この章では時間の因子を記法の正本どおり e−iωt にとり、電場は E(t)=Re[E(t)e−iωct] と包絡線 E(t) と搬送波の角周波数 ωc で書く。この章には温度が出てこないので、時間の長さに T を使う。
N 本の縦モードの和
共振器の出口の鏡の位置で、縦モード ℓ の場を角周波数 ωℓ、複素振幅 Aℓeiϕℓ(Aℓ≥0)で書く。発振している N 本のモードの角周波数が
ωℓ=ωc+ℓωrep,ωrep=2πνrep,ℓ=0,1,…,N−1(23.1)
のように等間隔に並ぶとする。空の共振器では νrep=νFSR=c/(2L) で、媒質があるときの νrep の決まり方は 23.2節で述べる。電場は E(t)=Re[∑ℓAℓeiϕℓe−iωℓt] で、包絡線は
E(t)=ℓ=0∑N−1Aℓeiϕℓe−iℓωrept(23.2)
になる。E(t) は trt=1/νrep を周期とする周期関数である。trt は光が共振器を1周する時間で、第5章の trt=2L/c と同じものである。強度は ∣E(t)∣2 に比例するので、以下では ∣E∣2 を強度と呼ぶ(21ncε0 の因子は省く)。
強度を1周期にわたって平均すると、異なる ℓ の積は e−i(ℓ−ℓ′)ωrept の因子を持つので平均が 0 になり、
trt1∫0trt∣E(t)∣2dt=ℓ=0∑N−1Aℓ2(23.3)
が残る。これは Fourier 級数の Parseval の等式で、平均の強度は位相 ϕℓ によらない。位相を変えると、1周期の中でのエネルギーの配られ方だけが変わる。
位相がそろうと Dirichlet 核になる
振幅がそろっていて(Aℓ=A)、位相もそろっている(ϕℓ=0)とする。式 (23.2) は等比級数で、
E(t)=Aℓ=0∑N−1e−iℓωrept=A1−e−iωrept1−e−iNωrept=Ae−i(N−1)ωrept/2sin(ωrept/2)sin(Nωrept/2)
となる。強度は
∣E(t)∣2=A2sin2(ωrept/2)sin2(Nωrept/2)(23.4)
で、この関数を Dirichlet 核(の2乗)と呼ぶ。性質を順に読む。
t=ktrt(k は整数)では分母と分子がともに 0 になり、極限は N2A2 である。すべてのモードがこの時刻に同じ位相で重なり、振幅が N 倍、強度が N2 倍になる。最初の零点は Nωrept/2=π、すなわち t=trt/N にある。ピークの近くでは sin(ωrept/2)≈ωrept/2 と置けて、強度は N2A2sinc2(Nωrept/2) になる(sincu=sinu/u)。sinc2u=1/2 の解 u=1.392 から、強度の半値全幅は
τp=π2×1.392Ntrt=0.886Ntrt=Nνrep0.886(23.5)
である。Nνrep は発振しているスペクトルの全幅なので、パルスの幅はスペクトルの幅の逆数で決まる。平均の強度は式 (23.3) から NA2 で、ピークと平均の比は N になる。1周期の中で、エネルギーが幅 trt/N ほどの時間に集まったことになる。
位相がそろうことの意味を正確に言うと、ϕℓ が ℓ の1次式 ϕℓ=ϕ0+ℓωrept0 であればよい。そのとき式 (23.2) は eiϕ0E(t−t0) になり、パルスの時刻が t0 だけずれるだけである。ϕℓ に ℓ の2次の項があると、周波数によって到着の時刻が違い、パルスはチャープして広がる(23.2節)。
位相がばらばらのとき
位相 ϕℓ が互いに無関係な乱数であると、式 (23.2) の N 個の項は時刻ごとに違う向きの複素数の和になる。強度の平均は式 (23.3) の NA2 のままだが、どの時刻にも項が同じ向きにそろうことはなく、強度は平均の数倍の山と谷を不規則にくり返す(図 23.1)。自由に発振している多モードのレーザーの出力がこれに当たる。各モードの位相は自然放出の雑音で独立にゆっくり変わるので(第22章の Schawlow–Townes の線幅)、山と谷の並びも時間とともに変わる。

図 23.1 N=8 本の等振幅の縦モードの強度。位相がそろうと式 (23.4) の鋭いピーク(高さ N=8、幅 ≈trt/N)が周期 trt でくり返す。位相を乱数にとった1つの例では、山の高さは平均の 2.5 倍ほどにとどまる。どちらの曲線も、1周期の平均は破線の 1(式 (23.3))に等しい
位相をそろえる結合
位相をそろえるには、モードどうしを結合させる仕組みが要る。共振器の中に置いた変調器が、場の振幅に周期 trt の変調 1−M(1−cosωrept) をかけるとする。モード ℓ の場 e−iωℓt に cosωrept=21(eiωrept+e−iωrept) をかけると、角周波数 ωℓ±ωrep=ωℓ±1 の側帯ができる。側帯はとなりのモードの周波数に重なり、そのモードを決まった位相で駆動する。これが1周ごとにくり返されると、モード ℓ と ℓ±1 の位相差が変調の位相で決まる値に引き込まれる。変調器の代わりに、強い光ほど損失の小さい素子(可飽和吸収体)を置いても、強度の山だけが損失を受けにくいので、山を作る位相の配置が残る。前者を能動モード同期、後者を受動モード同期と呼ぶ(23.3節・23.4節)。変調器によるモード同期は、He–Ne レーザーの共振器の中で損失を音響光学的に変調して最初に観測された(Hargrove, Fork, Pollack (1964), Appl. Phys. Lett. 5, 4)。
例題 23.1 1200 本の縦モードをそろえる ★★
オリジナル長さ L=1.50m の直線の共振器(中は空気とみなし屈折率 1)のレーザーが、幅 120GHz の平らな利得の帯域の中のすべての縦モードで、同じ振幅で発振している。平均の出力は 1.00W とする。
- (1) νrep と、発振しているモードの数 N を求めよ。
- (2) 位相がそろったときのパルスの半値全幅、1つのパルスのエネルギー、ピークの出力を求めよ。
- (3) 位相がそろっていてもそろっていなくても、平均の出力が同じであることを、式 (23.3) を使わずにエネルギーの保存から説明せよ。
解答
(1) νrep=c/(2L)=2.998×108/3.00=99.9MHz。帯域の中のモードの数は N=120×109/(99.9×106)≈1200 本である。
(2) 式 (23.5) から τp=0.886/(120GHz)=7.38ps。1周期 trt=10.0ns に1つのパルスが出るので、エネルギーは 1.00W×10.0ns=10.0nJ。ピークと平均の比は N なので、ピークの出力は 1200×1.00W=1.20kW である。10nJ を 7.38ps で割っても 1.36kW と同じ桁になる(Dirichlet 核の形とパルスを長方形とみなした違いの分だけずれる)。
(3) 各モードが共振器から持ち出すエネルギーの流れは、そのモードの振幅 Aℓ2 と出口の鏡の透過率だけで決まり、ほかのモードの位相に依存しない。出力の全体はその和なので、位相の配置によらない。位相の配置によって変わるのは、同じエネルギーが1周期の中のいつ出るかだけである。
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