光学と量子エレクトロニクス 第23章 §23.4 ★★ 強い光ほど損失が小さい素子はパルスの山だけを残し、負の群速度分散と自己位相変調がつり合うと sech 型のソリトンが1周ごとに形を保つ。幅は τ=2∣D∣/(δKWp) でエネルギーに反比例する
速い可飽和吸収体
能動モード同期のパルスの幅は、前節で見たように変調の周波数で制限される。パルス自身の強度で損失を変えれば、損失の変化はパルスと同じ速さで起こり、この制限が無くなる。回復の時間がパルスの幅より短い可飽和吸収体(速い可飽和吸収体)では、振幅の損失が瞬間の出力 ∣a∣2 で決まり、q(∣a∣2)=q0/(1+∣a∣2/Psat)≈q0−(q0/Psat)∣a∣2 となる。主方程式には +ηsa∣a∣2a(ηsa=q0/Psat)の項が加わる。パルスの山は損失が小さく、裾は損失が大きいので、1周ごとにパルスは短くなり、利得の帯域による広がりとつり合う所で止まる。固体の中の Kerr 効果で光の強い所に凸レンズができ(Kerr レンズ)、強い光ほど開口を通りやすくなる配置も、同じ働きをする速い可飽和吸収体になる。分散を補償した Ti:サファイアのレーザーでこの仕組みを使い、60fs のパルスが直接得られた(Spence, Kean, Sibbett (1991), Opt. Lett. 16, 42)。
分散と自己位相変調
パルスが短くなると、共振器の中の群速度分散と、強度に比例する屈折率の変化 n=n0+n2I(Kerr 効果、第17章)による位相を無視できなくなる。1周の群速度分散を D=∑iki′′Li とすると、23.2節のとおり包絡線は角周波数のずれ ω ごとに位相 Dω2/2 を受け、ω2→−∂t2 から主方程式に −i(D/2)∂t2a の項が加わる。Kerr 効果は瞬間の出力に比例する位相 δK∣a∣2 を与え、δK=k0n2LK/Aeff(LK は1周で Kerr 媒質を通る長さ、Aeff はビームの実効的な断面積)である。利得と損失がつり合っていて、その帯域の効果が分散と非線形性より小さいとき、主方程式は
trt∂T∂a=−i2D∂t2∂2a+iδK∣a∣2a(23.13)
になる。これは非線形 Schrödinger 方程式で、T が時間、t が空間の役をしている。
ソリトン
a(T,t)=A0sech(t/τ)eiθT/trt を入れる。sech′′=(sech−2sech3)/τ2 を使うと、右辺は
i[−2τ2D]a+i[τ2D+δKA02]A0sech3(t/τ)
で、左辺は iθa である。sech3 の項が消えるには D/τ2+δKA02=0 が要り、これは D<0(負の群速度分散、異常分散)のときだけ満たせる。そのとき θ=∣D∣/(2τ2) である。パルスのエネルギー Wp=∫∣a∣2dt=2A02τ を使って A0 を消すと、
∣D∣=δKA02τ2,τ=δKWp2∣D∣(23.14)
を得る。この解を(基本の)ソリトンと呼ぶ。強度は sech2 型で、半値全幅は τp=1.763τ、チャープは無いので時間帯域幅積は 0.315 である。
つり合いの中身は次のとおりである。Kerr 効果の位相 δK∣a∣2 はパルスの前半で時間とともに増え、後半で減る。電場 e−iωct+iδK∣a∣2 の瞬間の角周波数は ωc−δK∂t∣a∣2 なので、前半は周波数が下がり(赤)、後半は上がる(青)。これを自己位相変調と呼ぶ。負の群速度分散の中では青い成分が赤い成分より速く進むので、後ろの青が前の赤に追いつき、自己位相変調で広がろうとするパルスが押し縮められる。2つが1周ごとに打ち消し合う幅が式 (23.14) である。正の分散の中では、どちらの効果もパルスの前を赤、後ろを青にする向きに働くので、つり合いは成り立たない。
例題 23.4 Er ファイバーのソリトンレーザー ★★
オリジナル中心の波長 1560nm のリング型のファイバーレーザーの共振器が、長さ Lf=2.04m のファイバーだけでできている。ファイバーの群屈折率を 1.47、群速度分散を β2=k′′=−22ps2/km、非線形係数を k0n2/Aeff=1.3W−1km−1 とする(標準的な単一モードファイバーに近い値として与える)。共振器の中のパルスのエネルギーは Wp=50pJ とする。
- (1) νrep、D、δK を求めよ。
- (2) ソリトンの τ、強度の半値全幅、スペクトルの半値全幅(周波数と波長)、ピークの出力を求めよ。
- (3) エネルギーを2倍にすると、幅とスペクトルの幅はどうなるか。
解答
(1) リング型なので1周の長さは Lf で、νrep=c/(1.47×2.04m)=100MHz。D=β2Lf=−22×10−27s2/m×2.04m=−4.49×10−26s2=−4.49×104fs2、δK=1.3×10−3×2.04=2.65×10−3W−1 である。
(2) 式 (23.14) から τ=2×4.49×10−26/(2.65×10−3×5.0×10−11)=677fs、半値全幅は 1.763×677=1.19ps。スペクトルの半値全幅は 0.315/1.19ps=264GHz、波長では λ2Δν/c=2.14nm である。ピークの出力は A02=Wp/(2τ)=36.9W で、平均の出力 Wpνrep=5.0mW の 7000 倍を超える。
(3) τ∝1/Wp なので幅は半分の 0.60ps、スペクトルの幅は2倍の 528GHz になる。ソリトンでは強いパルスほど短い。エネルギーをさらに上げていくと1周の非線形の位相が大きくなり、23.6節で述べる平均化の前提が崩れる。
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