光学と量子エレクトロニクス 第26章 §26.6 ★★ 学部の電磁気学の放射圧、Brown 運動の Langevin 方程式と Einstein の関係、力学の減衰振動が、それぞれ散乱力・Doppler 限界・磁気光学トラップの式になる
放射圧
学部の電磁気学では、物体に吸収される光は、吸収された電力 Pabs を光速で割った力 Pabs/c を及ぼすと習う。断面積 σabs の物体なら Pabs=σabsI で、
F=cσabsI(26.17)
である。散乱力 (26.2) を ℏkΓsc=ℏωLΓsc/c と書き直すと、ℏωLΓsc は原子が吸収する電力なので、原子の吸収断面積を σabs=ℏωLΓsc/I とおけば同じ式になる。2つの違いは断面積の中身だけで、原子では断面積が離調と強さで変わり、強い光では飽和して σabs∝1/I になる。放射圧の式には光の周波数が入らないので、動く物体に対する力の速度依存性は、Doppler のずれで断面積が変わることを通してしか入らない。この章の冷却は、その速度依存性が原子の狭い共鳴で大きくなることに頼っている。
Langevin 方程式と Einstein の関係
Brown 運動の授業では、液体の中の微粒子の運動を Langevin 方程式
mv˙=−ηv+ξ(t),⟨ξ(t)ξ(t′)⟩=2Dpδ(t−t′)(26.18)
で書く。ξ(t) は液体の分子からのでたらめな力である。この式から ⟨p2⟩ の方程式を作ると式 (26.6) になり、定常状態で kBT=Dp/η が出る。液体の場合は温度 T が先に与えられていて、この関係は「摩擦と揺らぎは温度で結びついている」(揺動散逸の関係、空間の拡散係数で書くと Einstein の関係 D=kBT/η)と読む。レーザー冷却では逆に、η と Dp が光と原子の結合から別々に決まり、その比として温度が決まる。原子は液体の分子でなく光子と熱をやり取りしていて、光子の場が温度 TD の熱浴の役を果たしている。ただし熱浴とは違い、この「浴」の温度は離調と強さで変えられる。
減衰振動
力学で習う減衰振動 mx¨+ηx˙+κx=0 の解は、η2<4mκ で振動しながら減衰し、η2>4mκ で振動せずに減衰する(過減衰)。磁気光学トラップの式 (26.15) はその後者で、ばねの役を Zeeman のずれが、ダンパーの役を Doppler のずれが果たしている。どちらも同じ関数 Γsc の傾きから出るので、κ/η=μeffb/(ℏk) のように、2つの係数の比は光の強さと離調によらず、磁場の勾配と波数だけで決まる。
例題 26.7 光の糖蜜で止まるまでの時間 ★
オリジナル光の糖蜜の中で、遅い原子の速度は式 (26.4) の摩擦だけで v(t)=v(0)e−ηt/m と減る。各光の強さを s=1、離調を Δ=−Γ/2 とする。
- (1) 速度が 1/e になる時間 m/η を、m・ℏ・k だけで書け。
- (2) 87Rb(λ=780.24nm)と 23Na(λ=589.16nm、m=3.82×10−26kg)で m/η を求め、1ms と比べよ。
- (3) 2本の光の力 (26.3) を、放射圧の式 (26.17) の2本の差として書き、摩擦の係数 η が吸収断面積の離調についての傾きで決まることを示せ。
解答
(1) 式 (26.4) に −Δ/Γ=1/2、s=1、1+s+(2Δ/Γ)2=3 を入れて η=8ℏk2×(1/2)/9=4ℏk2/9、したがって m/η=9m/(4ℏk2) である。Γ が消え、時間は質量と波数だけで決まる。
(2) Rb では ℏk2=6.84×10−21kgs−1 で m/η=9×1.443×10−25/(4×6.84×10−21)=47.5μs、Na では k=1.066×107m−1、ℏk2=1.20×10−20kgs−1 で m/η=7.16μs である。Na は軽く、波長も短いので、Rb より約7倍早く止まる。どちらも 1ms の間に速度は e−21(Rb)、e−140(Na)まで下がるので、光の糖蜜に入った遅い原子の Doppler 冷却は 1ms より十分早く終わり、そのあとの温度は加熱とのつり合い(26.2節)で決まる。
(3) 速度 v の原子は +x 向きの光を離調 Δ−kv で、−x 向きの光を離調 Δ+kv で見る。離調 Δ での吸収断面積を σabs(Δ)=ℏωLΓsc(Δ)/I とおくと、式 (26.3) は
F(v)=cI[σabs(Δ−kv)−σabs(Δ+kv)]≈−(2kcIσabs′(Δ))v
と、向きの逆な2本の放射圧 σabsI/c の差になる(ℏωL/c=ℏk を使った)。摩擦の係数は η=2k(I/c)σabs′(Δ) で、断面積が離調とともに増える赤い側(Δ<0)で正になる。放射圧そのものは2本で打ち消し合い、Doppler のずれで2本の断面積に差がついた分だけが摩擦として残る。
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