光学と量子エレクトロニクス 第27章 §27.2 ★★★ 周期 a のポテンシャルの中の原子の固有状態は準運動量 q でラベルされる Bloch 関数で、エネルギーはバンドに分かれる。深い格子では最低バンドは −2thcosqa で、トンネル th は深さとともに e−2s で小さくなる
中心方程式
1次元の格子 V(x)=V0sin2kx の中の原子の Hamiltonian は H^=p^2/(2m)+V(x^) である。ポテンシャルは格子定数 a=π/k だけずらしても変わらないので、Bloch の定理(ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第2部第4章)から、固有関数は
ψn,q(x)=eiqxun,q(x),un,q(x+a)=un,q(x)
の形に選べる。q を準運動量と呼び、−π/a<q≤π/a(π/a=k)の第1 Brillouin ゾーンに取る。n=0,1,2,… はバンドの番号である。
周期関数 un,q を周期 a の Fourier 級数 u=∑jcje2ijkx に展開する。ポテンシャルは
V0sin2kx=2V0−4V0(e2ikx+e−2ikx)
で、Fourier 成分が 0 と ±2k の3つしかない。Schrödinger 方程式に入れて ei(q+2jk)x の係数を比べると、エネルギーを ER、q を k の単位で書いて
[(q+2j)2+2s]cj−4s(cj+1+cj−1)=EREcj(27.5)
になる。これは j について3重対角の行列の固有値問題で、j を −20≤j≤20 ほどで打ち切れば、最低の数本のバンドは数値的に正確に求まる(この章の数値はすべてこの行列の対角化による)。ポテンシャルの Fourier 成分が3つしかないことが、正弦波の格子が計算しやすい理由で、固体の結晶のポテンシャル(多くの Fourier 成分を持つ)との大きな違いである。
s→0 では行列は対角で、バンドは自由粒子の放物線 (q+2j)2 を第1 Brillouin ゾーンに折り返したものになる。s が小さいとき、ゾーンの端 q=±k で、j=0 と j=−1 の2つの放物線が縮退し、その縮退を非対角要素 −s/4 が解いて、隙間 2×s/4=V0/2 が開く。これは固体の「ほぼ自由な電子」の Bragg 反射の隙間と同じである。
深い格子:調和振動子とトンネル
s が大きいと、原子は各井戸の底に閉じ込められる。井戸の底で V0sin2kx≈V0k2x2 と展開すると、調和振動子 21mω2x2 と比べて
ℏω=2sER(27.6)
になる。各井戸の準位はほぼ ℏω(ν+21)(ν=0,1,…)で、それぞれの準位が隣の井戸とのトンネルでわずかに広がってバンドになる。最低バンドは
E0(q)≈εˉ0−2thcosqa(27.7)
の形をとる。th をトンネル振幅(ホッピング)と呼び、バンドの幅は 4th である。記法の正本に従い、時間 t と区別して添字 h を付ける。式 (27.7) は、各井戸に局在した状態を1つずつ取り、隣どうしの井戸の間だけに行列要素 −th を置いた強束縛の模型の分散と同じ形で、この章では th=[E0(k)−E0(0)]/4 と定義する。正弦波のポテンシャルの Schrödinger 方程式は Mathieu 方程式で、その漸近形から、深い格子で
ERth≈π4s3/4e−2s(27.8)
が知られている(W. Zwerger (2003)、J. Opt. B 5, S9 の式)。指数 e−2s は、井戸の間の障壁を WKB でくぐるトンネルの因子 exp(−∫∣p∣dx/ℏ) を、高さ V0・幅 a の正弦波の障壁で計算したものである。格子を深くすると、ℏω は s でゆっくり増えるのに、th は指数関数的に小さくなる。光の強さを数倍変えるだけで、トンネルの速さを桁で変えることができる。
最低バンドの Bloch 関数を q について足し合わせると、1つの井戸 xj=ja に局在した関数
w(x−xj)=N1q∑e−iqxjψ0,q(x)
ができる(N は井戸の数)。これをWannier 関数と呼ぶ。Wannier 関数は井戸ごとに直交し、深い格子では調和振動子の基底状態 ∝e−x2/(2x02)(x02=ℏ/(mω))に近い。27.3節では、原子を Wannier 関数の上に置いて数える。

図 27.2 深さ s=5 の格子のバンド(点線は式 (27.5) の対角化)。最低バンドに重ねた赤の実線は強束縛の形 εˉ0−2thcos(πq/k) で、th=0.066ER。ゾーンの端 q=±k の n=0 と n=1 の隙間は 2.44ER で、V0/2 に近い。
例題 27.2 深さ s=10 の格子のバンド ★★
オリジナル深さ s=10 の1次元格子(87Rb、λL=1064nm、ER/h=2.03kHz)を考える。中心方程式 (27.5) を数値で対角化すると、最低バンドは E0(0) から E0(k) まで幅 0.0767ER を持ち、q=0 の n=1 は n=0 より 5.65ER 上、ゾーンの端の n=0 と n=1 の隙間は 4.57ER である。
- (1) トンネル振幅 th を ER と Hz の単位で求め、原子が隣の井戸へ移るのにかかる時間の目安 ℏ/th を求めよ。
- (2) 漸近式 (27.8) の値と比べよ。
- (3) 調和近似の ℏω を求め、バンドの隙間と比べよ。
解答
(1) th=0.0767ER/4=0.0192ER で、th/h=0.0192×2.03kHz=38.9Hz である。ℏ/th=1/(2π×38.9Hz)=4.09ms で、原子は数ミリ秒かけて隣の井戸へ移る。最低バンドを −2thcos(πq/k) で書いたときのずれは、バンドの幅の2%未満で、隣どうしだけのトンネルでよく表すことができる。
(2) 式 (27.8) は π4×103/4×e−210=0.0227 で、数値の 0.0192 より 18.5% 大きい。漸近式は s→∞ の主要項なので、s=10 ではまだ2割ずれる。s=30 では比が 1.09 まで1に近づく。
(3) ℏω=210ER=6.32ER である。q=0 の隙間 5.65ER はこれより1割ほど小さい。正弦波の井戸は底から離れるほど調和振動子より緩やかに広がるので、上の準位ほど間隔が詰まるからである(非調和性)。最低バンドの幅 0.077ER は隙間の約 1/70 で、深い格子では、原子を最低バンドだけで扱ってよい。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com