相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第1部 第2章 §1.2.4 ★★★ 典型集合はほぼ全確率を持ち、元の数は約 enH。これより本質的に小さい集合では確率を集められない
典型集合の3つの性質
定理 1.2.6(典型集合の性質 ★★★)
任意の ϵ>0 について次が成り立つ。
- (a) n が十分大きければ Pr(Xn∈Aϵ(n))≥1−ϵ。
- (b) すべての n で ∣Aϵ(n)∣≤en(H+ϵ)。
- (c) n が十分大きければ ∣Aϵ(n)∣≥(1−ϵ)en(H−ϵ)。
証明
(a) は定理 1.2.4 で右辺を ϵ 以下にすればよい(n≥σs2/ϵ3 で足りる)。
(b) 典型系列の確率は式 (1.2.13) から e−n(H+ϵ) 以上なので
1≥xn∈Aϵ(n)∑pn(xn)≥∣Aϵ(n)∣e−n(H+ϵ).
(c) 典型系列の確率は e−n(H−ϵ) 以下なので、(a) と合わせて1−ϵ≤∑xn∈Aϵ(n)pn(xn)≤∣Aϵ(n)∣e−n(H−ϵ) となる。
(b) と (c) をまとめると、n1ln∣Aϵ(n)∣ は n が大きいところで H−ϵ と H+ϵ の間にある。すべての系列の数は ∣X∣n=enln∣X∣ なので、典型系列が全体に占める割合はおよそ e−n(ln∣X∣−H)=e−nD(p∥u)で、p が一様分布でない限り n について指数関数的に小さい。確率のほとんどすべてが、系列全体の中の指数関数的に小さな一部に集まっている。式 (1.2.6) の D(p∥u) は、この割合の指数として意味を持つ。
エントロピーは何を数えているか
長さ n の系列のうち「実際に出てくるもの」は約 enH 個あり、どれもほぼ同じ確率 e−nH を持つ。したがってH=limn1ln(実際に出てくる系列の数) と読める。等確率の N 通りから選ぶ場合の情報量 lnN(Hartley)は、等確率でない情報源でも、長い系列にすれば「enH 通りの等確率」に置き換えて使える。
典型系列は最も確率の高い系列ではない
典型系列という名前から、確率の高い系列を集めたものと思いやすいが、そうではない。p=0.1 の2値の情報源では、最も確率の高い系列はすべて 0 の系列で、その確率 0.9n は典型系列1つの確率 e−nH よりはるかに大きい。それでもすべて 0 の系列は、1文字あたりの驚きが−ln0.9≈0.105 nat で H≈0.325 nat から遠いので典型集合に入らない。確率の高い系列は1つ1つの確率は大きいが数が少なく、典型系列は1つ1つの確率は小さいが数が多い。確率の総量で比べると、数の多い典型系列のほうが大きい。
この意味で典型集合は「確率をほぼ全部集めた集合のうち、元の数が最小のもの」と指数の精度で一致する。次の命題がそれを述べる。
命題 1.2.7(確率を集める集合の最小の大きさ ★★★)
0<δ<1 とする。Pr(Xn∈B)≥1−δ を満たす任意の集合 B⊂Xn について、n が十分大きければ
∣B∣≥(1−δ−ϵ)en(H−ϵ).
証明
n が十分大きければ Pr(Aϵ(n))≥1−ϵ なので、Pr(B∩Aϵ(n))≥1−δ−ϵ である(2つの集合の外にある確率の和は δ+ϵ 以下)。B∩Aϵ(n) の元はどれも確率が e−n(H−ϵ) 以下なので1−δ−ϵ≤∣B∩Aϵ(n)∣e−n(H−ϵ)≤∣B∣e−n(H−ϵ) となる。
命題と定理 1.2.6 (b) を合わせると、確率 1−δ 以上を集める集合の大きさは、どう選んでも指数の精度で enH である。この事実は第1部第5章のデータ圧縮の両側の評価になる。典型系列に 1 から番号を振れば、番号は n(H+ϵ)/ln2+1 ビットで書け、1文字あたり約 H/ln2 ビットで系列を送れる(達成できる側)。命題 1.2.7 は、それより本質的に短い番号では確率 1−δ 以上の系列に番号を付けきれないことを言う(越えられない側)。
例題 1.2.4 長さ 100 の系列で典型集合を数える ★★
オリジナルp(1)=0.1 の2値の情報源で n=100、ϵ=0.05 nat とする。
- (1) 典型集合に入る 1 の個数 k の範囲を求め、典型集合の元の数 ∣Aϵ(100)∣ と、その確率を求めよ。
- (2) 定理 1.2.6 (b) の上限 en(H+ϵ) と比べよ。また n1ln∣Aϵ(100)∣ を H±ϵ と比べよ。
- (3) すべて 0 の系列の確率と、k=10 の系列1つの確率の比を求めよ。
解答
(1) 式 (1.2.14) から条件は ∣k/100−0.1∣≤0.05/ln9=0.02276、つまり 7.72≤k≤12.28 で、k=8,9,10,11,12 の5通りである。
∣Aϵ(100)∣=k=8∑12(k100)≈1.211×1015,Pr(Aϵ(100))=k=8∑12(k100)0.1k0.9100−k≈0.596.
n=100 ではまだ (a) の 1−ϵ には達しない(図 1.2.3)。
(2) e100×0.3751≈1.95×1016 で、上限を満たしている。1001ln(1.211×1015)≈0.347 nat はH−ϵ=0.275 と H+ϵ=0.375 の間にある。全系列の数 2100≈1.27×1030 に対する割合は約 9.6×10−16 にすぎない。
(3) k=10 の系列の確率は 0.1100.990 で、k/n=p ちょうどなので e−nH≈7.6×10−15 に等しい。すべて 0 の系列の確率は0.9100≈2.66×10−5 で、比は 0.910/0.110=910≈3.5×109 である。すべて 0 の系列は1つで 3.5×109 倍の確率を持つが、k=10 の系列は (10100)≈1.73×1013 個あるので、確率の総量では k=10 の組(0.132)がすべて 0 の系列(2.7×10−5)を大きく上回る。
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