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出てくるもの (1):粗視化したエントロピーは初めより小さくならない

2026年10月15日8分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第2部 第4章 粗視化と第二法則
目次
  1. 第二法則の1つの形
  2. 定理が言っていないこと
  3. 猫写像で見る
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第2部 第4章 §2.4.3 ★★★ Liouville(DD は一定)と粗視化(DD は減る)を並べると、初めに粗い知識しかなかった系の粗いエントロピーは初めの値を下回らない

第二法則の1つの形

2つの節の結果を1列に並べる。初めの時刻に、系について知っているのは「どの区画にいるか」の確率だけだったとする。知識がそれだけなら、区画の中では一様な密度をとるのが自然で(最大エントロピー原理。第2部第1章)、ρ0=Cρ0\rho_0=\mathcal C\rho_0 となる。

定理 2.4.5(粗視化したエントロピーの増大 ★★★)

体積を保つ可逆な運動 ϕt\phi_t で、一様分布 uu が動かないとする。初めの密度が ρ0=Cρ0\rho_0=\mathcal C\rho_0 を満たすなら、すべての tt で

D(Cρt ∥ u)≤D(ρt ∥ u)=D(ρ0 ∥ u)=D(Cρ0 ∥ u),すなわちH(Cρt)≥H(Cρ0).(2.4.11)D(\mathcal C\rho_t\,\|\,u)\le D(\rho_t\,\|\,u)=D(\rho_0\,\|\,u)=D(\mathcal C\rho_0\,\|\,u),\qquad\text{すなわち}\quad H(\mathcal C\rho_t)\ge H(\mathcal C\rho_0).\tag{2.4.11}

増えた分は H(Cρt)−H(Cρ0)=D(ρt ∥ Cρt)H(\mathcal C\rho_t)-H(\mathcal C\rho_0)=D(\rho_t\,\|\,\mathcal C\rho_t) である。周辺の積 M\mathcal M についても、ρ0=Mρ0\rho_0=\mathcal M\rho_0 なら同じことが成り立ち、増えた分は I(Γ1;Γ2)ρtI(\Gamma_1;\Gamma_2)_{\rho_t} である。

証明

不等号は式 (2.4.9)、1つ目の等号は定理 2.4.2(ϕt\phi_t は DD を保ち uu を動かさない)、2つ目の等号は仮定 ρ0=Cρ0\rho_0=\mathcal C\rho_0 である。増えた分は、H(ρt)=H(ρ0)=H(Cρ0)H(\rho_t)=H(\rho_0)=H(\mathcal C\rho_0) と式 (2.4.10) を合わせれば出る。

この定理の内容は、初めに区画の確率という粗い情報しかなかったなら、粗い見方でのエントロピーはその値より小さくなれない、ということである。細かい密度の DD は一定で、粗い密度の DD はその下にあり、初めの時刻だけ両者が一致している。したがって粗い DD は初めの値が最大で、それより下にしか行けない。情報が消えるのではなく、粗視化では見えない区画の中の細かい構造へ移る。その移った量が D(ρt ∥ Cρt)D(\rho_t\,\|\,\mathcal C\rho_t) である。解析力学の巻で見た回転子の集まり(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第1章)では、位置と運動量の相関を忘れる粗視化 M\mathcal M を使っており、エントロピーの増えはこの定理の後半で言う相互情報量 I(q;p)I(q;p) だった。

定理が言っていないこと

式 (2.4.11) には、3つの点で注意が要る。

第一に、比べているのは時刻 tt と初めの時刻 00 だけで、0<t1<t20<t_1<t_2 のあいだで H(Cρt2)≥H(Cρt1)H(\mathcal C\rho_{t_2})\ge H(\mathcal C\rho_{t_1}) とは言っていない。時刻 t1t_1 の粗い密度 Cρt1\mathcal C\rho_{t_1} と細かい密度 ρt1\rho_{t_1} は一般に違うので、t1t_1 を新しい初めの時刻として同じ議論を繰り返すことはできない。実際、有限の系では Poincaré の再帰定理(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第1章)により、細かい密度は何度でも初めの近くに戻り、粗いエントロピーもそのたびに初めの値の近くまで下がる。

第二に、初めの時刻は特別扱いされている。仮定 ρ0=Cρ0\rho_0=\mathcal C\rho_0 が「初めは区画の中の細かい構造を何も知らない」ことを述べており、時間の向きはこの仮定だけに入っている。運動方程式は時間反転について対称なので、同じ議論を過去に向けても H(Cρ−t)≥H(Cρ0)H(\mathcal C\rho_{-t})\ge H(\mathcal C\rho_0) が出る。初めの時刻に知識が最も少ないので、そこから未来へも過去へも粗いエントロピーは大きくなる。

第三に、時刻 tt で全粒子の運動量を反転した密度から出発すると、粗いエントロピーは下がって初めの値に戻る(Loschmidt の反論)。これは定理と矛盾しない。反転した密度は区画の中に D(ρt ∥ Cρt)D(\rho_t\,\|\,\mathcal C\rho_t) だけの細かい構造を持っており、ρ=Cρ\rho=\mathcal C\rho という仮定を満たさないからである。第二法則が当てはまるのは、細かい構造について何も知らない状態から始めたときである。

猫写像で見る

体積を保つ可逆な写像の簡単な例として、2次元のトーラス([0,1)2[0,1)^2 の上下・左右をつないだもの)の上の Arnold の猫写像

(x,y)↦(x+y, x+2y)(mod1),A=(1112), det⁡A=1(2.4.12)(x,y)\mapsto(x+y,\ x+2y)\pmod 1,\qquad A=\begin{pmatrix}1&1\\1&2\end{pmatrix},\ \det A=1\tag{2.4.12}

をとる。det⁡A=1\det A=1 なので面積を保ち、一方向に (3+5)/2≈2.62(3+\sqrt5)/2\approx2.62 倍ずつ伸ばし、別の方向に同じ比で縮めるので、小さな領域は細い筋に引き伸ばされてトーラス全体に巻きつく。厳密に計算するために、トーラスを 256×256256\times256 の格子点に置き換える。格子点の上で式 (2.4.12) を 256256 を法として計算すると、写像は格子点の置換になる(離散の Liouville の定理)。区画は 64×6464\times64 の正方形 1616 個とし、初めの密度は左下の区画の 40964096 点の上の一様分布とする(ρ0=Cρ0\rho_0=\mathcal C\rho_0)。

図

図 2.4.2 256×256256\times256 の格子の猫写像で、16 区画に区画平均した分布のエントロピー(厳密な計算。scripts/verify_ch2-04.py)。細かい分布のエントロピーは ln⁡4096\ln4096 のまま一定。4 回で上限 ln⁡16\ln16 にほぼ達し、その後は上限に張りつくが、t=96t=96 で ln⁡4\ln4 に下がり、t=192t=192 で 00 に戻る(格子の置換の周期)。

図 2.4.2 の曲線は、定理 2.4.5 のとおり一度も初めの値 00 を下回らない。立ち上がりは速く、t=1,2,3,4t=1,2,3,4 で 1.3861.386、2.2472.247、2.7362.736、2.7722.772 と、4回で上限 ln⁡16=2.773\ln16=2.773 にほぼ達する。細かい密度のエントロピーは ln⁡4096\ln4096 のまま一定で、細かい D(ρt ∥ u)=ln⁡(65536/4096)=ln⁡16D(\rho_t\,\|\,u)=\ln(65536/4096)=\ln16 も一定である。粗い D(Cρt ∥ u)=ln⁡16−H(Cρt)D(\mathcal C\rho_t\,\|\,u)=\ln16-H(\mathcal C\rho_t) は ln⁡16\ln16 から 00 近くまで下がり、その差がすべて区画の中の細い筋の構造 D(ρt ∥ Cρt)D(\rho_t\,\|\,\mathcal C\rho_t) に移っている。

格子の点の数は有限なので、置換を繰り返すといつか元に戻る。この格子では A192≡I(mod256)A^{192}\equiv I\pmod{256} で、t=192t=192 に初めの密度へ正確に戻り、粗いエントロピーも 00 に戻る。途中の t=96t=96 では A96≡129 I(mod256)A^{96}\equiv129\,I\pmod{256} となり、xx や yy が奇数の点だけが 128128 ずれるので、初めの区画の点が4つの区画に等分されてエントロピーが ln⁡4\ln4 に下がる。格子を細かくすると再帰の時間は長くなるが、有限である限り再帰は必ず起こる。上の第一の注意が、ここで目に見える形になっている。

例題 2.4.3 いちばん小さな猫写像 ★★

オリジナル4×44\times4 の格子点 (x,y)(x,y)(x,y∈{0,1,2,3}x,y\in\{0,1,2,3\})に猫写像 (x,y)↦(x+y, x+2y) mod 4(x,y)\mapsto(x+y,\,x+2y)\bmod4 を当てる。区画は 2×22\times2 の正方形4つとし、初めの分布は区画 {0,1}×{0,1}\{0,1\}\times\{0,1\} の4点の上の一様分布とする。

  1. 1回写したあとの4点の行き先と、区画の確率を求めよ。粗いエントロピー H(Cρ1)H(\mathcal C\rho_1) はいくらか。
  2. A3≡I(mod4)A^3\equiv I\pmod4 を確かめ、この系で粗いエントロピーがどう振る舞うかを述べよ。
解答

(1) (0,0)↦(0,0)(0,0)\mapsto(0,0)、(1,0)↦(1,1)(1,0)\mapsto(1,1)、(0,1)↦(1,2)(0,1)\mapsto(1,2)、(1,1)↦(2,3)(1,1)\mapsto(2,3) である。区画を (⌊x/2⌋,⌊y/2⌋)(\lfloor x/2\rfloor,\lfloor y/2\rfloor) で名づけると、行き先の区画は (0,0),(0,0),(0,1),(1,1)(0,0),(0,0),(0,1),(1,1) なので、区画の確率は (0,0)(0,0) に 1/21/2、(0,1)(0,1) に 1/41/4、(1,1)(1,1) に 1/41/4、(1,0)(1,0) に 00 である。H(Cρ1)=12ln⁡2+2⋅14ln⁡4=32ln⁡2=1.040H(\mathcal C\rho_1)=\frac12\ln2+2\cdot\frac14\ln4=\frac32\ln2=1.040 nat で、初めの 00 より大きい。細かい分布は4点の上の一様分布のままで H=ln⁡4H=\ln4 は一定である。

(2) A2=(2335)A^2=\begin{pmatrix}2&3\\3&5\end{pmatrix}、A3=(58813)≡(1001)(mod4)A^3=\begin{pmatrix}5&8\\8&13\end{pmatrix}\equiv\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}\pmod4 である。したがって3回で全点が元に戻り、粗いエントロピーは 0, 1.040, 1.040, 0, …0,\ 1.040,\ 1.040,\ 0,\ \dots と周期3で繰り返す(t=2t=2 の値も厳密計算で 1.0401.040)。初めの値 00 を下回ることは一度もないが、単調には増えず、上限 ln⁡4=1.386\ln4=1.386 にも達しない。格子が粗すぎて筋が区画全体に広がる前に戻ってしまう。

木下の勉強ステータス

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