相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第4部 第7章 §4.7.6 ★★ Kelvin の原理・1分子の気体の等温膨張・コンデンサのエネルギー・Arrhenius の式を、この章の式と並べる
Kelvin の原理と Szilard エンジン
熱力学の授業では、第二法則を「1つの熱浴から熱をもらい、それを全部仕事に変えて、ほかに何の変化も残さない周期的な過程は無い」(Kelvin の原理)と述べる。式で書けば、周期的な過程で ⟨W⟩≥0、すなわち ⟨W⟩−ΔF≥0(ΔF=0)である。単電子箱のエンジンは、1つの熱浴から kBTln2 に近い熱をもらって仕事にしているので、一見この原理に反する。式 (4.7.14) は、測定の結果を記憶した装置の側に「ほかの変化」が残っていて、その大きさが I(X;M) であることを示す。記憶を消して装置を元に戻すと、4.7.1 節の下限の熱が出て、帳尻が合う(第4部第5章)。総合問題でこの帳尻を数値で確かめる。
1分子の気体の等温膨張
Szilard の思考実験は、箱の中の1個の分子を使う。仕切りで箱を半分に分け、分子がどちらにいるかを測ってから、その側の仕切りをピストンとして体積 V/2 から V まで等温で膨張させる。理想気体の状態方程式 PV=NkBT で N=1 とすれば、取り出す仕事は
∫V/2VPdV=kBT∫V/2VVdV=kBTln2(4.7.17)
で、これが「1ビットで kBTln2」の授業の形である。単電子箱では、体積を広げる代わりに ng を縮退点へ戻して2つの状態のエネルギーをそろえ、電子が使える状態の数を1から2に増やす。どちらも、分布のエントロピーを 0 から ln2 に増やす等温の過程で、熱浴から kBTΔH=kBTln2 の熱をもらう。
コンデンサのエネルギーと Arrhenius の式
式 (4.7.11) は電磁気学のコンデンサのエネルギー Q2/(2C) である。島の電荷を e(n−ng) と書けば 2CΣe2(n−ng)2=EC(n−ng)2 で、ゲートの電荷 eng を変えると、エネルギーが最小になる n の位置がずれる。島が小さく CΣ が 10−15F ほどしかないので、電子1個で EC=111μeV(温度にすると 1.3K)になり、これより十分低い 0.1K では n は2つの値に限られる。
記憶がどれだけ保たれるかは、化学反応の速さの Arrhenius の式 k=k0e−Ea/kBT と同じ形で、障壁 Eb が活性化エネルギー Ea にあたる。4.7.1 節の粗視化は、反応の速さより速く反応物の中で平衡が成り立つという、化学反応速度論の前提と同じものである。
例題 4.7.6 障壁の高さと記憶の寿命 ★
オリジナルBérut らの装置で、障壁が 8kBT のとき跳び移りの時間は約 3000s、2.2kBT のとき約 10s と報告されている。(a) Arrhenius の式で前の係数 k0 が同じとしたときの比 eβΔEb を求め、報告された比と比べよ。(b) 障壁を 13kBT にすると、8kBT のときより跳び移りの時間は何倍になると見積もれるか。
解答
(a) e8−2.2=e5.8=330 で、報告された比 3000/10=300 と同じ桁にある。実際にはレーザーを弱めると井戸のばね定数も 1.5 から 0.3pN/μm に下がり、Kramers の理論では前の係数も変わるので、ぴったり合うことは期待できない。指数の因子 e5.8 が前の係数の変化(数倍)よりずっと大きいので、桁は合う。
(b) e13−8=e5=148 倍、すなわち 3000s の約150倍で 4×105s(5日ほど)である(前の係数を同じとした見積もり)。Jun らは、操作の外での跳び移りを無視できるようにして完全な消去 Ps≈1 を実現するために、障壁を 13kBT に取った。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com