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比べる2つの分布:1ビットの記憶の消去の前と後

2026年10月15日11分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第4部 第7章 実験で見る情報熱力学
目次
  1. 二重井戸の記憶
  2. 消去の下限は の値
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第4部 第7章 §4.7.1 ★★★ 二重井戸の記憶は、井戸の中が局所平衡なら2状態の分布に粗視化でき、DD は連鎖則で2状態の DD に等しい。消去の仕事の下限は kBT D(pf ∥ π)=kBT[ln⁡2−hb(Ps)]k_{\mathrm B} T\,D(p_{\mathrm f}\,\|\,\pi)= k_{\mathrm B} T[\ln2-h_{\mathrm b}(P_{\mathrm s})]

この部のここまでの章では、熱浴の中で揺れる系に仕事と熱を割り当て(第4部第1章)、ゆらぎの定理(第4部第2章)と、エントロピー生成を経路の DD として書く見方(第4部第3章)を通って、測定とフィードバックを含む第二法則(第4部第4章)と消去のコスト(第4部第5章)にたどり着いた。どれも kBTln⁡2≈3×10−21 Jk_{\mathrm B} T\ln2\approx3\times10^{-21}\,\mathrm{J} の大きさの量を扱う主張で、2010年ごろまでは思考実験の中でしか確かめられていなかった。この章は、その後に行われた実験のうち、この巻の背骨である相対エントロピー DD の不等式と等式を直接に数値で確かめたものを選んで読む。

選んだ実験は3つの系にわたる。光ピンセットの二重井戸にとらえたコロイド粒子で1ビットを消去し、液体へ出ていく熱が kBTln⁡2k_{\mathrm B} T\ln2 に近づくことを測った実験(Bérut ほか 2012、Jun ほか 2014)、2つの金属の島のあいだを1個の電子が行き来する単電子箱を Szilard エンジンとして動かし、1ビットの情報から kBTln⁡2k_{\mathrm B} T\ln2 に近い仕事を取り出した実験(Koski ほか 2014)、そして回転するコロイド粒子にフィードバックをかけて、なされた仕事より多くの自由エネルギーを与えた実験(Toyabe ほか 2010)である。

比べる2つの分布は、消去の実験では消去の前と後の記憶の分布、フィードバックの実験では測定の直後の「系と測定結果の結合分布」と「それぞれの分布の積」である。後者の DD が相互情報量 I(X;M)I(X;M) になる。第1節で記憶を2状態に粗視化してよい理由と、消去の下限が DD の値そのものであることを確かめる。第2節では、2状態の主方程式で、有限の時間の消去に 1/τ1/\tau の余りが必ず付くことを示す。実験のデータを τ→∞\tau\to\infty へ延ばす解析は、この式にもとづいている。第3節から第5節が3つの実験で、第6節で授業で習う熱力学(Kelvin の原理・理想気体の等温膨張・コンデンサのエネルギー・Arrhenius の式)と並べる。

この章でもエントロピーの対数は自然対数で単位は nat、エントロピー生成 Σ\Sigma は kBk_{\mathrm B} を単位とする無次元の量とする。WW は系がされる仕事、QQ は系が受け取る熱で、実験の論文がいう「散逸した熱」は液体や電子の気体へ出ていく熱 −Q-Q にあたる。測定の誤り率を ε\varepsilon と書く(この章には1電子のエネルギーが出てこないので、この字を誤り率に使う)。定義には ≔\coloneqq を使う。

二重井戸の記憶

位置 xx の粒子が、x=0x=0 に障壁を持つ左右対称の二重井戸 U(x)U(x) の中にいるとする。粒子が左の井戸にいる状態を 0、右にいる状態を 1 と読めば、これは1ビットの記憶である。障壁の高さ EbE_{\mathrm b} が kBTk_{\mathrm B} T よりずっと高いと、粒子は1つの井戸の中で速く平衡に落ち着き、反対の井戸へは熱揺らぎでまれにしか跳び移らない。井戸の中で落ち着くまでの時間を τw\tau_{\mathrm w}、跳び移りの平均の待ち時間を τK\tau_{\mathrm K} と書くと、τw≪t≪τK\tau_{\mathrm w}\ll t\ll\tau_{\mathrm K} の時間 tt のあいだ、記憶は保たれる。τK\tau_{\mathrm K} は Arrhenius の式 τK∝eβEb\tau_{\mathrm K}\propto\mathrm{e}^{\beta E_{\mathrm b}} にしたがって障壁とともに急に長くなる(β=1/kBT\beta=1/ k_{\mathrm B} T)。実際の実験では、Bérut らのコロイド粒子で障壁 8 kBT8\, k_{\mathrm B} T のとき τK≈3000 s\tau_{\mathrm K}\approx3000\,\mathrm s、井戸の中の緩和は 0.08 s0.08\,\mathrm s だった(4.7.3 節)。

この時間の分離があると、粒子の位置の分布 p(x)p(x) は「どちらの井戸にいるか」の確率 (p0,p1)(p_0,p_1) と、それぞれの井戸の中の条件付きの分布 p(x ∣ i)p(x\,|\,i) に分けて書ける。井戸の中が局所平衡にあるとは、p(x ∣ i)p(x\,|\,i) が平衡分布 π(x)=e−βU(x)/Z\pi(x)=\mathrm{e}^{-\beta U(x)}/Z をその井戸に制限して規格化しなおしたもの π(x ∣ i)\pi(x\,|\,i) に等しいことをいう。2つの分布を比べるとき、DD の連鎖則(第1部第3章)から

D(p ∥ π)=D((p0,p1) ∥ (π0,π1))+∑i=0,1pi D(p(⋅ ∣ i) ∥ π(⋅ ∣ i))(4.7.1)D(p\,\|\,\pi)=D\bigl((p_0,p_1)\,\big\|\,(\pi_0,\pi_1)\bigr)+\sum_{i=0,1}p_i\,D\bigl(p(\cdot\,|\,i)\,\big\|\,\pi(\cdot\,|\,i)\bigr)\tag{4.7.1}

が成り立つ。(π0,π1)(\pi_0,\pi_1) はそれぞれの井戸に入る平衡の確率で、対称な二重井戸では (1/2,1/2)(1/2,1/2) である。井戸の中が局所平衡なら第2項は0で、連続の分布の DD は2状態の分布の DD に等しい。局所平衡からずれていれば第2項の分だけ DD は大きい。この等式が、記憶を2つの数 (p0,p1)(p_0,p_1) だけで扱ってよい理由である。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの τw/τK→0\tau_{\mathrm w}/\tau_{\mathrm K}\to0(井戸の中の緩和と井戸のあいだの跳び移りの時間の比。障壁では e−βEb\mathrm{e}^{-\beta E_{\mathrm b}} の程度) | 証明 要確認(二重井戸の拡散が2状態の跳び移りに近づくことは Kramers の理論として知られるが、前提を原論文で照合していない) | 行き先 近似の数理 第7章

消去の下限は DD の値

消去とは、記憶が 0 と 1 のどちらであったかによらず、最後に記憶を 0 にそろえる操作である。初めの記憶は等しい確率 (1/2,1/2)(1/2,1/2) で、平衡分布 π\pi に一致しているとする。操作の後に障壁を戻し、井戸を左右対称に戻したとき、粒子が 0 にいる確率を消去の成功率 PsP_{\mathrm s} と書く。終わりの分布は pf=(Ps,1−Ps)p_{\mathrm f}=(P_{\mathrm s},1-P_{\mathrm s}) で、井戸の形は初めと同じなので ΔFeq=0\Delta F_{\mathrm{eq}}=0 である。平衡から始める操作では、第4部第1章で示した帳尻

⟨W⟩−ΔFeq=kBT D(pf ∥ πf)+kBT⟨Σ⟩,⟨Σ⟩≥0(4.7.2)\langle W \rangle -\Delta F_{\mathrm{eq}}= k_{\mathrm B} T\,D(p_{\mathrm f}\,\|\,\pi_{\mathrm f})+ k_{\mathrm B} T\langle \Sigma \rangle ,\qquad\langle \Sigma \rangle \ge0\tag{4.7.2}

が成り立つ(第4部第1章。系は連続の位置でも2状態でも同じ形である。2状態の場合は次の節で導き直す)。したがって消去の仕事には

⟨W⟩ ≥ kBT D((Ps,1−Ps) ∥ (12,12))=kBT[ln⁡2−hb(Ps)](4.7.3)\langle W \rangle \ \ge\ k_{\mathrm B} T\,D\bigl((P_{\mathrm s},1-P_{\mathrm s})\,\big\|\,(\tfrac12,\tfrac12)\bigr)= k_{\mathrm B} T\bigl[\ln2-h_{\mathrm b}(P_{\mathrm s})\bigr]\tag{4.7.3}

という下限がある。hb(p)=−pln⁡p−(1−p)ln⁡(1−p)h_{\mathrm b}(p)=-p\ln p-(1-p)\ln(1-p) は二値エントロピーである。完全な消去 Ps=1P_{\mathrm s}=1 でこれは kBTln⁡2k_{\mathrm B} T\ln2 になり、Landauer の原理の形に戻る。Ps=1/2P_{\mathrm s}=1/2(何もしない)なら下限は0である。式 (4.7.3) の右辺は、消去によって記憶の分布が平衡 (1/2,1/2)(1/2,1/2) からどれだけ離れたかを DD で測った値で、第2部第2章 の言葉では、終わりの記憶が持つ非平衡の自由エネルギーの余り F[pf]−FeqF[p_{\mathrm f}]-F_{\mathrm{eq}} である。

1周の操作で井戸の形が元に戻るので、内部エネルギーの平均は初めと終わりで同じ(どちらの井戸も同じ形)で、第一法則から ⟨Q⟩=−⟨W⟩\langle Q \rangle =-\langle W \rangle である。液体へ出ていく熱の平均 −⟨Q⟩-\langle Q \rangle も同じ下限を持つ。このため、コロイド粒子の実験では仕事でなく熱を測って Landauer の原理を確かめることができる。

図

図 4.7.1 成功率 PsP_{\mathrm s} の消去に要る仕事(液体へ出ていく熱)の下限 kBT[ln⁡2−hb(Ps)]k_{\mathrm B} T[\ln2-h_{\mathrm b}(P_{\mathrm s})](点線、厳密な式)。2つの印は Bérut ほか (2015) の消去時間 40 s40\,\mathrm s の測定で、Ps≈0.8P_{\mathrm s}\approx0.8 のとき全軌道の平均が 0.26 kBT0.26\, k_{\mathrm B} T、0 に着いた軌道だけの平均が 0.59 kBT0.59\, k_{\mathrm B} T だった。どちらも下限 0.19 kBT0.19\, k_{\mathrm B} T より上にある。

同じ名前の別の結果

R. Landauer は、電気伝導を透過確率で書く公式(Landauer の公式)でも知られる。この章の Landauer の原理(消去に要る熱の下限)とは別の結果で、ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部第7章(トンネルと STM)に出てくるのは前者である。

例題 4.7.1 成功率つきの下限と実験の数値 ★★

オリジナル(a) 温度 300 K300\,\mathrm K で kBTln⁡2k_{\mathrm B} T\ln2 をジュールと電子ボルトで求めよ。(b) 成功率 Ps=0.95P_{\mathrm s}=0.95 と 0.80.8 の消去の下限を kBTk_{\mathrm B} T の単位で求めよ。(c) Bérut らは、消去時間 40 s40\,\mathrm s の操作で Ps≈0.8P_{\mathrm s}\approx0.8、全軌道で平均した散逸の熱 0.26 kBT0.26\, k_{\mathrm B} T、0 に着いた軌道だけの平均 0.59 kBT0.59\, k_{\mathrm B} T を報告した。これらが式 (4.7.3) と矛盾しないことを確かめ、0 に着いた軌道だけの平均が大きく出る理由を述べよ。

解答

(a) kB=1.380649×10−23 J K−1k_{\mathrm B}=1.380649\times10^{-23}\,\mathrm{J\,K^{-1}} から kBTln⁡2=1.380649×10−23×300×0.6931=2.87×10−21 Jk_{\mathrm B} T\ln2=1.380649\times10^{-23}\times300\times0.6931=2.87\times10^{-21}\,\mathrm J で、1 eV=1.602×10−19 J1\,\mathrm{eV}=1.602\times10^{-19}\,\mathrm J で割ると 0.0179 eV0.0179\,\mathrm{eV} である。

(b) hb(0.95)=0.1985h_{\mathrm b}(0.95)=0.1985 から下限は 0.693−0.199=0.495 kBT0.693-0.199=0.495\, k_{\mathrm B} T、hb(0.8)=0.5004h_{\mathrm b}(0.8)=0.5004 から 0.193 kBT0.193\, k_{\mathrm B} T である。成功率を 95% から 80% に下げただけで下限は4割ほどになる。ln⁡2−hb(Ps)\ln2-h_{\mathrm b}(P_{\mathrm s}) は Ps=1/2P_{\mathrm s}=1/2 のまわりで (Ps−1/2)2(P_{\mathrm s}-1/2)^2 の2次でしか増えず、1 に近づくほど急に増えるためである。

(c) 全軌道の平均 0.26 kBT0.26\, k_{\mathrm B} T は下限 0.19 kBT0.19\, k_{\mathrm B} T より大きく、式 (4.7.3) を満たす。0 に着いた軌道だけを集めると、力に逆らって 1 に残った軌道(熱揺らぎで押し返された軌道で、散逸の熱が小さいか負のもの)が除かれるので、平均は大きく出る。この平均は「成功率 100% の操作の熱」の代わりとして使われ、比べる相手は完全な消去の下限 ln⁡2=0.693\ln2=0.693 である。0.59<0.6930.59<0.693 だが、これは平均を条件付きでとったためで、式 (4.7.3) の反例ではない。成功率が1に近い操作で比べることが、この代用の前提になる(4.7.3 節)。

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