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出てくるもの (2):単電子箱の Szilard エンジン

2026年10月15日13分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第4部 第7章 実験で見る情報熱力学
目次
  1. 単電子箱
  2. Szilard エンジンの1周
  3. 誤りのある測定と相互情報量
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第4部 第7章 §4.7.4 ★★★ 1個の電子の位置で1ビットを作り、測定とフィードバックで熱浴から kBTln⁡2k_{\mathrm B} T\ln2 に近い熱を仕事に変えた。誤り率 ε\varepsilon の測定では相互情報量 ln⁡2−hb(ε)\ln2-h_{\mathrm b}(\varepsilon) が取り出せる上限で、最適なフィードバックで等号になる

単電子箱

単電子箱は、トンネル接合でつながった2つの小さな金属の島である。島は外の回路と容量でしかつながっていないので、電子は2つの島のあいだを行き来するだけで、全体の電荷は変わらない。一方の島に余分な電子が nn 個あるとき(もう一方には −n-n 個)、静電エネルギーは

En=EC (n−ng)2,EC=e22CΣ(4.7.11)E_n=E_{\mathrm C}\,(n-n_{\mathrm g})^2,\qquad E_{\mathrm C}=\frac{e^2}{2C_\Sigma}\tag{4.7.11}

である。CΣC_\Sigma は島のあいだの容量、ng=CgVg/en_{\mathrm g}=C_{\mathrm g}V_{\mathrm g}/e はゲート電圧 VgV_{\mathrm g} で外から決める電荷(電気素量を単位とした数)である。EC≫kBTE_{\mathrm C}\gg k_{\mathrm B} T なら nn は 0 か 1 の2つの値しかとらず、2つのエネルギーの差は E1−E0=EC(1−2ng)E_1-E_0=E_{\mathrm C}(1-2n_{\mathrm g}) である。ng=1/2n_{\mathrm g}=1/2(縮退点)で2つの状態は同じエネルギーになり、電子は等しい確率でどちらかの島にいる。これが1ビットの記憶になる。

前の節の2状態の模型と比べると、EE には E1−E0E_1-E_0 が、熱浴には島の中の電子の気体が対応する。トンネルの速さは詳細つり合い k0→1/k1→0=e−β(E1−E0)k_{0\to1}/k_{1\to0}=\mathrm{e}^{-\beta(E_1-E_0)} を満たすことが、磁場と温度を変えた測定で確かめられている。1回のトンネルで電子の気体へ出る熱は ±(E1−E0)\pm(E_1-E_0) で、近くに置いた単電子トランジスタの電流で nn を実時間で読むので、トンネルが起きた時刻とその瞬間のエネルギー差から、熱を1回ずつ数えられる。

Szilard エンジンの1周

J. V. Koski, V. F. Maisi, J. P. Pekola and D. V. Averin (2014), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 111, 13786(以下 Koski ほか 2014a)は、この箱を Szilard エンジンとして動かした(数値は arXiv:1402.5907 の版による。温度 T=102 mKT=102\,\mathrm{mK}、EC=111 μeVE_{\mathrm C}=111\,\mu\mathrm{eV})。1周は3段である。(1) 縮退点 ng=1/2n_{\mathrm g}=1/2 で nn を測る。結果 mm は等しい確率で 0 か 1 で、1ビットの情報が得られる。(2) 測った状態のエネルギーが低くなる向きに、ngn_{\mathrm g} を Δng\Delta n_{\mathrm g} だけ速く動かす(m=0m=0 なら 1/2−Δng1/2-\Delta n_{\mathrm g} へ、m=1m=1 なら 1/2+Δng1/2+\Delta n_{\mathrm g} へ)。動かしているあいだにトンネルが起きなければ、電子は測った島にいて、その状態のエネルギーが下がった分だけ系は仕事をする。2つの状態のエネルギー差は ΔE=2ECΔng\Delta E=2E_{\mathrm C}\Delta n_{\mathrm g} になる。(3) ngn_{\mathrm g} をゆっくり 1/21/2 に戻す。途中で電子は熱揺らぎで高い状態へ跳び、そのたびに電子の気体から熱をもらう。

(3) を準静的に行うと、状態の分布はいつも平衡で、仕事は自由エネルギーの差に等しい。(2) の直後の平衡(エネルギー差 ΔE\Delta E、低い側にいる確率 1/(1+e−βΔE)1/(1+\mathrm{e}^{-\beta\Delta E}))から縮退点へ戻る自由エネルギーの差と、(2) で系がした仕事を合わせると、1周の仕事は

−Wok=kBTln⁡21+e−βΔE(測定が正しいとき),−Wng=−Wok−ΔE(測定が誤ったとき)(4.7.12)-W_{\mathrm{ok}}= k_{\mathrm B} T\ln\frac{2}{1+\mathrm{e}^{-\beta\Delta E}}\quad(\text{測定が正しいとき}),\qquad -W_{\mathrm{ng}}=-W_{\mathrm{ok}}-\Delta E\quad(\text{測定が誤ったとき})\tag{4.7.12}

になる。測定が誤ると、(2) で電子のいる状態を ΔE\Delta E だけ持ち上げてしまい、電子はすぐに低い状態へトンネルして ΔE\Delta E を熱として捨てる。その後の (3) は正しいときと同じである。ΔE→∞\Delta E\to\infty で −Wok→kBTln⁡2-W_{\mathrm{ok}}\to k_{\mathrm B} T\ln2 で、Szilard の思考実験の値になる。1周で ngn_{\mathrm g} は元に戻るので、内部エネルギーの平均は変わらず、取り出した仕事はそのまま熱浴からもらった熱である。

Koski らは、まず (3) の準静的な掃引だけを取り出して、ng=0n_{\mathrm g}=0(状態が確定)から 1/21/2(縮退)まで動かしたときに電子の気体からもらう熱を測り、掃引を遅くするほど kBTln⁡2k_{\mathrm B} T\ln2 に近づくことを示した。これは消去を逆向きにたどった操作で、記憶の分布を (1,0)(1,0) から (1/2,1/2)(1/2,1/2) に広げると熱 kBTln⁡2k_{\mathrm B} T\ln2 を吸うことにあたる。次に Δng=0.125\Delta n_{\mathrm g}=0.125 でエンジンを2944周動かし、測定とフィードバックが正しかった周の平均で −W≈0.9 kBTln⁡2-W\approx0.9\, k_{\mathrm B} T\ln2、全周の平均で 0.75 kBTln⁡20.75\, k_{\mathrm B} T\ln2 を得た。測定しないで同じ操作をすると半分の周で向きを誤るので、平均では正の仕事をする(エンジンが仕事を食う)ことになる。

誤りのある測定と相互情報量

J. V. Koski, V. F. Maisi, T. Sagawa and J. P. Pekola (2014), Phys. Rev. Lett. 113, 030601(以下 Koski ほか 2014b)は、測定の誤り率 ε\varepsilon をわざと変えて同じエンジンを動かした(T=100 mKT=100\,\mathrm{mK}、Δng=0.167\Delta n_{\mathrm g}=0.167)。読み取りの信号にかける低域通過フィルタの遮断周波数を上げると雑音が増え、nn を誤って読む確率が増える。ε=0.02\varepsilon=0.02、0.050.05、0.130.13 の3通りで約1000周ずつ測った。

比べる2つの分布は、測定の直後の系と結果の結合分布 P(n,m)P(n,m) と、それぞれの分布の積 P(n)Pd(m)P(n)P_{\mathrm d}(m) である。その DD が相互情報量

I(X;M)=D(P(n,m) ∥ P(n)Pd(m))=ln⁡2−hb(ε)(4.7.13)I(X;M)=D\bigl(P(n,m)\,\big\|\,P(n)P_{\mathrm d}(m)\bigr)=\ln2-h_{\mathrm b}(\varepsilon)\tag{4.7.13}

で(第1部第3章)、縮退点では P(n)=Pd(m)=1/2P(n)=P_{\mathrm d}(m)=1/2 なので、2値対称通信路の値になる。1周ごとの確率変数としてはI(n,m)=ln⁡P(n ∣ m)P(n)I(n,m)=\ln\frac{P(n\,|\,m)}{P(n)} を使い、正しく読んだ周で ln⁡[2(1−ε)]\ln[2(1-\varepsilon)]、誤った周で ln⁡(2ε)\ln(2\varepsilon) をとる。平均が式 (4.7.13) である。

測定とフィードバックを含む第二法則(第4部第4章)は、沙川–上田の一般化 Jarzynski 等式

⟨e−β(W−ΔF)−I⟩=1,したがって⟨W⟩−ΔF ≥ −kBT I(X;M)(4.7.14)\langle \mathrm{e}^{-\beta(W-\Delta F)-I} \rangle =1,\qquad\text{したがって}\quad\langle W \rangle -\Delta F\ \ge\ - k_{\mathrm B} T\,I(X;M)\tag{4.7.14}

である(後半は Jensen の不等式)。この周期の操作では ΔF=0\Delta F=0 で、取り出せる仕事の平均は kBT I(X;M)k_{\mathrm B} T\,I(X;M) を超えない。

命題 4.7.3(理想化した単電子箱のエンジン ★★★)

(3) が準静的で、測定から (2) までのあいだにトンネルが起きないとする。x≔e−βΔEx\coloneqq\mathrm{e}^{-\beta\Delta E} と書く。

  1. (a) 仕事は式 (4.7.12) の2つの値だけをとり、⟨e−βW−I⟩=1\langle \mathrm{e}^{-\beta W-I} \rangle =1 が成り立つ。
  2. (b) 平均は −β⟨W⟩=ln⁡21+x+εln⁡x-\beta\langle W \rangle =\ln\frac{2}{1+x}+\varepsilon\ln x で、これを最大にするのは βΔE=ln⁡1−εε\beta\Delta E=\ln\frac{1-\varepsilon}{\varepsilon}、そのとき −β⟨W⟩=ln⁡2−hb(ε)=I(X;M)-\beta\langle W \rangle =\ln2-h_{\mathrm b}(\varepsilon)=I(X;M) で、式 (4.7.14) の等号が成り立つ。
証明

(a) 正しく読む周(確率 1−ε1-\varepsilon)は e−βWok=21+x\mathrm{e}^{-\beta W_{\mathrm{ok}}}=\frac{2}{1+x}、e−I=12(1−ε)\mathrm{e}^{-I}=\frac{1}{2(1-\varepsilon)}、誤る周(確率 ε\varepsilon)は e−βWng=2x1+x\mathrm{e}^{-\beta W_{\mathrm{ng}}}=\frac{2x}{1+x}、e−I=12ε\mathrm{e}^{-I}=\frac1{2\varepsilon} なので、平均は (1−ε)21+x12(1−ε)+ε2x1+x12ε=1+x1+x=1(1-\varepsilon)\frac{2}{1+x}\frac{1}{2(1-\varepsilon)}+\varepsilon\frac{2x}{1+x}\frac{1}{2\varepsilon}=\frac{1+x}{1+x}=1 である。

(b) −β⟨W⟩=(1−ε)ln⁡21+x+ε(ln⁡21+x+ln⁡x)-\beta\langle W \rangle =(1-\varepsilon)\ln\frac2{1+x}+\varepsilon(\ln\frac2{1+x}+\ln x) である。xx で微分して0とおくと −11+x+εx=0-\frac1{1+x}+\frac{\varepsilon}{x}=0、すなわち x=ε1−εx=\frac{\varepsilon}{1-\varepsilon} である。このとき 1+x=11−ε1+x=\frac1{1-\varepsilon} なので、−β⟨W⟩=ln⁡2+ln⁡(1−ε)+εln⁡ε1−ε=ln⁡2+(1−ε)ln⁡(1−ε)+εln⁡ε-\beta\langle W \rangle =\ln2+\ln(1-\varepsilon)+\varepsilon\ln\frac{\varepsilon}{1-\varepsilon}=\ln2+(1-\varepsilon)\ln(1-\varepsilon)+\varepsilon\ln\varepsilon である。

最適な ΔE\Delta E は、誤りの代価 εΔE\varepsilon\Delta E と、正しいときの取り分 ln⁡21+x\ln\frac{2}{1+x} の釣り合いで決まる。ΔE\Delta E を大きくしすぎると誤ったときに捨てる熱が増え、小さすぎると正しいときに取り出せる量が減る。最適な点で上限 I(X;M)I(X;M) にちょうど届くことは、測定で得た情報が余さず仕事になる可逆なフィードバックの条件と一致する。実験では Δng\Delta n_{\mathrm g} を固定したので、ε\varepsilon が大きいほど上限との差が開く(図 4.7.4)。Koski らは、誤り率が小さいところで取り出した仕事の平均がおよそ 0.7 kBTln⁡20.7\, k_{\mathrm B} T\ln2 であること、そして式 (4.7.14) の左辺が誤差の範囲で1になることを、3通りの ε\varepsilon で確かめた。(3) が完全には準静的でないことと、測定から (2) まで数 ms の遅れのあいだに電子が跳ぶことのために、実験の値は命題の理想より小さい。論文は、この2つの効果を入れた式で測定の分布を再現している。

図

図 4.7.4 理想化した単電子箱のエンジンで取り出せる仕事。黒の点線は相互情報量で、各 ε\varepsilon で ΔE\Delta E を最適に選んだときの値に一致する(命題 4.7.3)。赤の破線は Koski ほか (2014b) の条件 βΔE=2ECΔng/kBT=4.30\beta\Delta E=2E_{\mathrm C}\Delta n_{\mathrm g}/ k_{\mathrm B} T=4.30 に固定したときの値。どちらも理想化した模型の厳密な式で、ε>0.16\varepsilon>0.16 では固定の操作は仕事を食う。

例題 4.7.4 2つの単電子箱の実験の数値 ★★★

オリジナル(a) Koski ほか (2014a) の条件 T=102 mKT=102\,\mathrm{mK}、EC=111 μeVE_{\mathrm C}=111\,\mu\mathrm{eV}、Δng=0.125\Delta n_{\mathrm g}=0.125 で βΔE\beta\Delta E を求め、誤りのない理想の −Wok-W_{\mathrm{ok}} を kBTln⁡2k_{\mathrm B} T\ln2 の単位で求めよ。報告された「正しかった周の平均 0.9 kBTln⁡20.9\, k_{\mathrm B} T\ln2」と比べよ。(b) 全周の平均 0.75 kBTln⁡20.75\, k_{\mathrm B} T\ln2 と正しかった周の平均 0.9 kBTln⁡20.9\, k_{\mathrm B} T\ln2 の差が、誤った周で捨てた ΔE\Delta E だけによるとして、誤った周の割合を見積もれ。(c) Koski ほか (2014b) の3通りの誤り率 ε=0.02\varepsilon=0.02、0.050.05、0.130.13 について I(X;M)I(X;M) を求め、βΔE=4.30\beta\Delta E=4.30 の理想の −β⟨W⟩-\beta\langle W \rangle と比べよ。

解答

(a) kBT=8.617×10−5 eV K−1×0.102 K=8.79 μeVk_{\mathrm B} T=8.617\times10^{-5}\,\mathrm{eV\,K^{-1}}\times0.102\,\mathrm K=8.79\,\mu\mathrm{eV} で、βEC=111/8.79=12.6\beta E_{\mathrm C}=111/8.79=12.6、βΔE=2×12.6×0.125=3.16\beta\Delta E=2\times12.6\times0.125=3.16 である。−βWok=ln⁡21+e−3.16=0.693−0.042=0.651-\beta W_{\mathrm{ok}}=\ln\frac{2}{1+\mathrm{e}^{-3.16}}=0.693-0.042=0.651 で、ln⁡2\ln2 で割ると 0.9400.940 である。報告の 0.90.9 はこれより少し小さく、(3) を有限の速さで行ったための余り(4.7.2 節の B/τB/\tau)にあたる。Δng\Delta n_{\mathrm g} が有限なので、準静的にしても ln⁡2\ln2 にはわずかに届かない。

(b) 誤った周の割合を ff とすると、全周の平均は正しかった周の平均より f ΔEf\,\Delta E だけ小さい。f×3.16=(0.9−0.75)×0.693=0.104f\times3.16=(0.9-0.75)\times0.693=0.104 から f≈0.033f\approx0.033 である。ほかの原因((3) の速さが周ごとに違う効果など)を無視した見積もりで、3% 程度の周でフィードバックを誤ったことになる。

(c) I=ln⁡2−hb(ε)I=\ln2-h_{\mathrm b}(\varepsilon) は ε=0.02\varepsilon=0.02 で 0.693−0.098=0.5950.693-0.098=0.595、0.050.05 で 0.4950.495、0.130.13 で 0.3070.307 である。βΔE=4.30\beta\Delta E=4.30 の理想の値 ln⁡21+e−4.30−4.30ε=0.680−4.30ε\ln\frac{2}{1+\mathrm{e}^{-4.30}}-4.30\varepsilon=0.680-4.30\varepsilon は、それぞれ 0.5940.594、0.4650.465、0.1210.121 である。ε=0.02\varepsilon=0.02 では最適の βΔE=ln⁡49=3.89\beta\Delta E=\ln49=3.89 に近いので上限にほぼ届くが、ε=0.13\varepsilon=0.13 では上限の4割にとどまる。誤りが多いときは ΔE\Delta E を小さくする必要がある。

ほかの巻では

木下の勉強ステータス

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