相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第7部 第4章 §7.4.3 ★★★ 定理を古いブラックホール・若いブラックホール・その中間に当て、日記は「Page 時間」と「日記を入れてから k k k 量子ビット」の遅い方で出てくることを示す
立ち上がりの位置
定理 7.4.2 の比を量子ビットの数で書く。d A = 2 k d_A=2^k d A = 2 k 、d E = 2 m d_E=2^m d E = 2 m 、d L = 2 s d_L=2^s d L = 2 s 、d C = 2 n + k − s d_C=2^{n+k-s} d C = 2 n + k − s を入れると
d A d C d E d L = 2 2 k + ( n − m ) − 2 s , E I ( R ; C ) ≤ ln ( 1 + 2 2 k + ( n − m ) − 2 s ) (7.4.11) \frac{d_Ad_C}{d_Ed_L}=2^{\,2k+(n-m)-2s},\qquad \mathbb E\,I(R;C)\le\ln\bigl(1+2^{\,2k+(n-m)-2s}\bigr)\tag{7.4.11} d E d L d A d C = 2 2 k + ( n − m ) − 2 s , E I ( R ; C ) ≤ ln ( 1 + 2 2 k + ( n − m ) − 2 s ) ( 7.4.11 )
になる。指数が負になる、すなわち
s > k + n − m 2 (7.4.12) s>k+\frac{n-m}{2}\tag{7.4.12} s > k + 2 n − m ( 7.4.12 )
を境に、I ( R ; C ) I(R;C) I ( R ; C ) は1量子ビット増えるごとに4分の1ずつ小さくなる。
古いブラックホール (m = n m=n m = n )では、条件は s > k s>k s > k である。s = k + c s=k+c s = k + c 個の量子ビットが出れば
E I ( R ; C ) ≤ ln ( 1 + 4 − c ) ≤ 4 − c , F ≥ 1 − 2 − c / 2 (7.4.13) \mathbb E\,I(R;C)\le\ln\bigl(1+4^{-c}\bigr)\le4^{-c},\qquad F\ge1-2^{-c}/\sqrt2\tag{7.4.13} E I ( R ; C ) ≤ ln ( 1 + 4 − c ) ≤ 4 − c , F ≥ 1 − 2 − c / 2 ( 7.4.13 )
で、日記の大きさ k k k に c c c を足した数の量子ビットを待てば、誤りは 2 − c 2^{-c} 2 − c で小さくなる。ブラックホールの大きさ n n n はこの式に入らない。太陽質量のブラックホール(n ≈ 1.5 × 10 77 n\approx1.5\times10^{77} n ≈ 1.5 × 1 0 77 )でも、1 kB の日記(k = 8000 k=8000 k = 8000 )なら 8020 8020 8020 量子ビット程度の放射で忠実度 1 − 10 − 6 1-10^{-6} 1 − 1 0 − 6 を超える。これが Hayden と Preskill が「鏡」と呼んだ振る舞いである。
若いブラックホール (m = 0 m=0 m = 0 )では、条件は s > k + n / 2 s>k+n/2 s > k + n /2 である。ブラックホールの半分以上が放射として出るまで、日記は1ビットも取り出すことができない。
中間:Page 時間との関係
ブラックホールが N N N 量子ビットの純粋な状態から生まれ、それまでに m ′ m' m ′ 量子ビットを放射したとする。Page の結果(第7部第3章の式 (7.3.7) )によれば、混ぜる力学のもとで放射とブラックホールのもつれは min ( m ′ , N − m ′ ) \min(m',N-m') min ( m ′ , N − m ′ ) 量子ビット分で、残りのブラックホールは n = N − m ′ n=N-m' n = N − m ′ 量子ビットである。Page 時間の前(m ′ < N / 2 m'<N/2 m ′ < N /2 )では B B B のうちもつれているのは m = m ′ m=m' m = m ′ 量子ビットで、式 (7.4.12) は s > k + ( N − 2 m ′ ) / 2 s>k+(N-2m')/2 s > k + ( N − 2 m ′ ) /2 、すなわち
m ′ + s > N 2 + k (7.4.14) m'+s>\frac N2+k\tag{7.4.14} m ′ + s > 2 N + k ( 7.4.14 )
になる。放射の総数が Page 時間の量 N / 2 N/2 N /2 を k k k だけ超えた所で日記が出る。Page 時間の後(m ′ ≥ N / 2 m'\ge N/2 m ′ ≥ N /2 )では B B B 全体がもつれていて s > k s>k s > k である。まとめると、
要点
日記は、「Page 時間」と「日記を入れてから k k k 量子ビットの放射」の遅い方を少し過ぎた所で、放射から取り出せるようになる。
図 7.4.2 は、k = 2 k=2 k = 2 、n = 8 n=8 n = 8 の模型で m = 8 , 4 , 0 m=8,4,0 m = 8 , 4 , 0 の3通りを描いたものである。実線は定理の上界、点線は Haar 乱数のユニタリを3つ選んで I ( R ; C ) I(R;C) I ( R ; C ) を直接計算した平均で、どちらも式 (7.4.12) の s = 2 , 4 , 6 s=2,4,6 s = 2 , 4 , 6 を過ぎた所で急に落ちる。
図 7.4.2 日記 k = 2 k=2 k = 2 量子ビット・ブラックホール n = 8 n=8 n = 8 量子ビットの模型で、残ったブラックホールと参照系の相互情報量 I ( R ; C ) I(R;C) I ( R ; C ) を放射の数 s s s の関数として描いた(ビット。最大値は 2 k = 4 2k=4 2 k = 4 )。実線は定理 7.4.2 の上界 min { ln ( d A d C E Tr ρ ^ R C 2 ) , 2 k ln 2 } \min\{\ln(d_Ad_C\,\mathbb E\operatorname{Tr}\hat\rho_{RC}^2),\,2k\ln2\} min { ln ( d A d C E Tr ρ ^ R C 2 ) , 2 k ln 2 } (式 (7.4.8) の厳密な平均を使った)、点線は Haar 乱数のユニタリ3個での I ( R ; C ) I(R;C) I ( R ; C ) の平均。もつれた量子ビットの数 m = 8 , 4 , 0 m=8,4,0 m = 8 , 4 , 0 に応じて、落ち始めが式 (7.4.12) の s = 2 , 4 , 6 s=2,4,6 s = 2 , 4 , 6 にずれる。
なぜ古いブラックホールは速いか
古いブラックホールでは、Bob が初期の放射 E E E を持っていることが決定的である。E E E は B B B と最大にもつれているので、Bob から見ると B B B は「自分の手元にある系の片割れ」である。L L L が出てくると、Bob は E E E と L L L を合わせて読むことができる。もし E E E が無ければ、L L L の中の日記の情報は、L L L の他の部分が B B B のもつれで覆い隠されていて読むことができない。E E E があると、Bob はその覆いを手元の片割れで打ち消すことができる。超高密度符号(第3部第6章 )で、あらかじめ共有したもつれが1量子ビットあたりの送れる情報を2倍にしたのと同じ仕組みで、この点は次の節で不等式として確かめる。
複製の検証に間に合わない
日記が C C C の中にもあり、すぐ外の L L L にも出てくるなら、外で日記を取り出した Bob がブラックホールに飛び込んで内側の日記と見比べ、複製を確かめられそうに見える。Hayden と Preskill は、取り出しに少なくとも r s / c r_{\mathrm s}/c r s / c の対数倍程度の時間がかかるなら、Bob が内側の日記に追いつくには Alice が Planck エネルギーを超える信号を送らねばならず、複製は確かめられないと論じた(前掲の論文)。対数倍の時間が 7.4.5 節のスクランブリング時間である。この議論の続きは 第7部第5章 で扱う。
例題 7.4.3 10量子ビットの模型で立ち上がりを読む ★★
オリジナル k = 2 k=2 k = 2 、n = 8 n=8 n = 8 の模型(図 7.4.2 )を考える。
m = 8 , 4 , 0 m=8,4,0 m = 8 , 4 , 0 のそれぞれで、式 (7.4.12) の立ち上がりの位置を求めよ。
m = 4 m=4 m = 4 、s = 6 s=6 s = 6 のとき、近似の上界 ln ( 1 + 2 2 k + n − m − 2 s ) \ln(1+2^{2k+n-m-2s}) ln ( 1 + 2 2 k + n − m − 2 s ) をビットで求め、図の実線の値(厳密な平均を使った上界)と比べよ。
m = 4 m=4 m = 4 のブラックホールを、N = 12 N=12 N = 12 量子ビットから生まれて m ′ = 4 m'=4 m ′ = 4 量子ビットを放射した後のものとみる。式 (7.4.14) の形で条件を書き直せ。
解答 (1) s > k + ( n − m ) / 2 s>k+(n-m)/2 s > k + ( n − m ) /2 は、m = 8 m=8 m = 8 で s > 2 s>2 s > 2 、m = 4 m=4 m = 4 で s > 4 s>4 s > 4 、m = 0 m=0 m = 0 で s > 6 s>6 s > 6 。図の3本の実線はそれぞれ s = 2 , 4 , 6 s=2,4,6 s = 2 , 4 , 6 でほぼ 1 1 1 ビットになり、そこから1量子ビットごとに約4分の1になる。
(2) 指数は 4 + 8 − 4 − 12 = − 4 4+8-4-12=-4 4 + 8 − 4 − 12 = − 4 なので上界は ln ( 1 + 1 / 16 ) = 0.0606 \ln(1+1/16)=0.0606 ln ( 1 + 1/16 ) = 0.0606 nat = 0.0875 =0.0875 = 0.0875 ビット。図の実線は 0.0868 0.0868 0.0868 ビットで、近似式よりわずかに小さい(式 (7.4.8) の不等号の分)。
(3) n = N − m ′ = 8 n=N-m'=8 n = N − m ′ = 8 、もつれは min ( 4 , 8 ) = 4 \min(4,8)=4 min ( 4 , 8 ) = 4 量子ビット。条件 s > 2 + ( 8 − 4 ) / 2 = 4 s>2+(8-4)/2=4 s > 2 + ( 8 − 4 ) /2 = 4 は m ′ + s > 8 = N / 2 + k m'+s>8=N/2+k m ′ + s > 8 = N /2 + k と同じで、式 (7.4.14) の形になる。Page 時間は m ′ = N / 2 = 6 m'=N/2=6 m ′ = N /2 = 6 なので、放射の総数が 6 + 2 = 8 6+2=8 6 + 2 = 8 を超えた所で日記が出始める。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com