解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第1章 §1.1.4 ★★★ Noether の定理と生成子を、並進・回転・時間発展の3つで並べて先に使う
無限小変換と保存量
一般化座標を、実数 ϵ だけわずかにずらす変換
qi→qi+ϵKi(q)(i=1,…,f)(1.1.6)
を考える(Ki はずらし方を決める関数)。この変換で L が ϵ の1次まで変わらないとき、
Q=i=1∑fpiKi(q),pi=∂q˙i∂L(1.1.7)
は運動のあいだ一定に保たれる。これが Noether の定理の最も簡単な形である。
理由は Euler–Lagrange 方程式 (1.1.2) から1行で出る。変換で q˙i は q˙i+ϵK˙i に変わるので、L の1次の変化はϵ∑i(∂qi∂LKi+∂q˙i∂LK˙i) である。一方、Q の時間微分は、運動方程式 p˙i=∂qi∂L を使うと
dtdQ=i∑(p˙iKi+piK˙i)=i∑(∂qi∂LKi+∂q˙i∂LK˙i)
となり、L の1次の変化を ϵ で割ったものと同じ式になる。L が変わらないならこれは 0 なので、Q は保存する。L が全微分の分だけ変わる場合や、時刻もずらす変換を含めた一般の形は 第1部第10章 で示す。
保存量が変換を起こす
式 (1.1.7) の Q には、もう1つの役割がある。相空間の関数 A(q,p), B(q,p) の Poisson 括弧を
{A,B}=i=1∑f(∂qi∂A∂pi∂B−∂pi∂A∂qi∂B)(1.1.8)
で定義すると、{qi,Q}=∂pi∂Q=Ki なので、変換 (1.1.6) は δqi=ϵ{qi,Q} と書き直すことができる。保存量 Q を Poisson 括弧の片方に入れると、その保存量に対応する変換が出てくる。この意味で Q をその変換の生成子と呼ぶ。並進・回転・時間発展について、変換と生成子を並べると次のようになる。
| 変換 | ずらし方 | 生成子(=保存量) |
| 並進 | δq=ϵ | 運動量 p({q,p}=1) |
| z 軸まわりの回転 | δx=−ϵy, δy=+ϵx | 角運動量 Lz=xpy−ypx |
| 時間発展 | δqi=q˙idt | ハミルトニアン H(ϵ=dt) |
時間発展の行は、Hamilton 方程式 q˙i=∂pi∂H={qi,H} を「H が時間の並進を生成する」と読んだものである。量子力学では Poisson 括弧が交換子に置き換わり({⋅,⋅}→[⋅,⋅]/(iℏ))、運動量が空間の並進を、角運動量が回転を、ハミルトニアンが時間発展を生成する、という同じ表がそのまま成り立つ。この置き換えは第4部で、場の Noether の定理(電荷の保存・エネルギー運動量テンソル)は 第2部第7章 で扱う。無限小変換・保存量・Poisson 括弧の3つを1本の議論として組み立てるのが、第1部第9〜11章の役目である。
例題 1.1.4 中心力の回転対称性から角運動量を取り出す ★★★
オリジナル平面内を運動する質量 m の粒子が、原点からの距離 r=x2+y2 だけに依る位置エネルギー V(r) の中にある。L=21m(x˙2+y˙2)−V(r) とする。
- (1) 回転 δx=−ϵy, δy=+ϵx で、L が ϵ の1次まで変わらないことを示せ。
- (2) 式 (1.1.7) から保存量 Q を求めよ。
- (3) 運動方程式から直接 dtdQ=0 を確かめよ。
- (4) Poisson 括弧 {x,Q}, {y,Q} を計算し、Q が回転を生成することを確かめよ。
解答
(1) δ(x2+y2)=2x(−ϵy)+2y(ϵx)=0 なので r は1次まで変わらず、V(r) も変わらない。速度は δx˙=−ϵy˙, δy˙=ϵx˙ と変わるので δ(x˙2+y˙2)=2x˙(−ϵy˙)+2y˙(ϵx˙)=0。よって δL=0。
(2) Kx=−y, Ky=x, px=mx˙, py=my˙ なので Q=px(−y)+pyx=xpy−ypx。これは角運動量の z 成分 Lz である。
(3) 運動方程式は mx¨=−V′(r)rx, my¨=−V′(r)ry。よって
dtdQ=m(x˙y˙+xy¨−y˙x˙−yx¨)=−V′(r)rxy−yx=0.
(4) {x,Q}=∂px∂Q=−y, {y,Q}=∂py∂Q=x。したがって ϵ{x,Q}=−ϵy=δx, ϵ{y,Q}=ϵx=δy で、(1) の回転がそのまま出てくる。回転で変わらないという性質から保存量が取り出され、その保存量から同じ回転が取り戻される。この往復が、第1部第9〜11章で一般の変換について示すことの最も小さな例である。
ほかの巻では
- 相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第6部第1章:1量子ビットのゲートを Pauli 行列を生成子とする回転 e−iθn^⋅σ^/2 として組み立てる
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com