解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第1章 §1.1.5 ★★★ 作用を座標と時刻の関数とみなすと、古典力学と波動力学が同じ方程式の2つの極限になる
座標と時刻の関数としての作用
式 (1.1.1) の作用は経路を入れて数を返すものだった。始点 (q0,t0) を決め、終点 (q,t) を変数として、その2点を結ぶ実際の経路に沿って作用を計算すると、q と t の普通の関数 S(q,t) ができる。これを Hamilton の主関数と呼ぶ。終点を動かしたときの S の変化を調べると(第1部第13章)、
∂q∂S=p,∂t∂S+H(q,∂q∂S,t)=0(1.1.9)
が成り立つ。2つ目が Hamilton–Jacobi 方程式で、運動方程式を S(q,t) についての1本の偏微分方程式に書き直したものである。H が時刻に依らなければ S(q,t)=W(q)−Et と分けることができ、W(q) は H(q,dqdW)=E を満たす。W(q)=∫pdq は経路に沿って運動量を積分したものである。
波の位相としての作用
量子力学の波動関数を ψ=AeiS/ℏ(A は定数)と書き、1次元の Schrödinger 方程式 iℏ∂t∂ψ=−2mℏ2∂q2∂2ψ+V(q)ψ に入れると、ψ で割った式は
∂t∂S+2m1(∂q∂S)2+V(q)=2miℏ∂q2∂2S(1.1.10)
になる。左辺は Hamilton–Jacobi 方程式 (1.1.9) の左辺そのもので、右辺だけが ℏ に比例する余分な項である。自由粒子の平面波 S=pq−2mp2t では ∂q2∂2S=0 なので右辺が消え、ψ=Aei(pq−Et)/ℏ は Schrödinger 方程式の厳密な解になる。このとき波数は k=p/ℏ、角周波数は ω=E/ℏ で、de Broglie と Einstein の関係が作用を位相とみなすことから出てくる。
一般の V(q) では右辺は消えない。しかし右辺と左辺の各項の比は、おおよそ ℏ∣∂2S/∂q2∣/∣∂S/∂q∣2 の大きさで、これは波長が1波長のあいだにどれだけ変わるかを表す。波長の変化が緩やかなら右辺を落としてよく、波動関数の位相は古典力学の作用で決まる。これが WKB 近似であり、Hamilton–Jacobi 方程式は量子力学の ℏ→0 の極限として現れる。WKB 近似の中身は 第4部第7章 で、作用 S[q] をそのまま位相 eiS[q]/ℏ として経路について足し合わせる経路積分は 第4部第8章 で扱う。
作用変数と量子化
周期運動では、相空間の閉じた軌道に沿った作用変数
J=2π1∮pdq(1.1.11)
が、軌道の囲む面積を 2π で割ったものになる(第1部第14章)。WKB 近似で波動関数が一周して元に戻る条件を課すと、Bohr–Sommerfeld の量子化条件 J=(n+21)ℏ(n=0,1,2,…)が出る。調和振動子 H=2mp2+21mω2q2 では軌道は楕円で、J=E/ω になるのでEn=(n+21)ℏω を得る。調和振動子では、この値が Schrödinger 方程式の厳密な固有値と一致する(1.1.7節の総合問題)。図 1.1.4 は、この条件で選ばれる軌道を描いたものである。

図 1.1.4 調和振動子の相空間の軌道のうち、Bohr–Sommerfeld の条件で選ばれるもの(m=ω=ℏ=1 の単位では円になる。半径 2n+1)。最も内側の軌道(塗りつぶし)の面積は πℏ である。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ℏ/S→0(作用が ℏ に比べて大きい。波長の変化が緩やか) | 証明 条件付き(ポテンシャルが滑らかで転回点が孤立) | 行き先 近似の数理 第7章
例題 1.1.5 自由粒子の主関数と de Broglie 波長 ★★
オリジナル1次元の自由粒子 H=2mp2 を考え、時刻 0 に q0 を出発した粒子が時刻 t>0 に q に着くとする。
- (1) 主関数 S(q,t)=2tm(q−q0)2 が Hamilton–Jacobi 方程式 (1.1.9) を満たすことを確かめよ。
- (2) ∂q∂S と −∂t∂S を求め、それぞれ何を表すかを述べよ。
- (3) 運動エネルギー 1eV の電子(m=9.109×10−31kg)の de Broglie 波長 λ=h/p を求めよ。
解答
(1) ∂t∂S=−2t2m(q−q0)2, ∂q∂S=tm(q−q0) なので∂t∂S+2m1(∂q∂S)2=−2t2m(q−q0)2+2t2m(q−q0)2=0。
(2) ∂q∂S=mtq−q0 は、q0 から q まで一定の速さ (q−q0)/t で進む実際の経路の運動量である。−∂t∂S=2t2m(q−q0)2=21m(tq−q0)2 はその経路のエネルギーである。S は実際の経路に沿って L=21mq˙2 を積分した値 21m(tq−q0)2t に一致している。
(3) p=2mE=2×9.109×10−31×1.602×10−19≈5.40×10−25kgms−1。λ=ph=5.40×10−256.626×10−34≈1.23×10−9m=1.23nm。原子の大きさ(0.1nm 程度)より1桁大きいだけなので、この電子が原子の中を動くときは、波長の変化が緩やかという WKB 近似の前提がそのままは成り立たない。例題 1.1.1 の小球では作用が ℏ の 1034 倍程度あり、古典力学で十分である。
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