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当てる道具:変分の逆問題

2026年10月16日13分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第1部 第15章 運動方程式から L と H を組む
目次
  1. 有限次元の手本:力がポテンシャルの勾配であるための条件
  2. Helmholtz の条件
  3. 乗数:式に関数を掛けてよい
  4. は一意でない
  5. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第15章 §1.15.2 ★★★ 運動方程式が Euler–Lagrange の式であるための条件(Helmholtz の条件)、式に掛けてよい乗数、1自由度では必ず解けること、LL が一意でないこと

有限次元の手本:力がポテンシャルの勾配であるための条件

変分の逆問題の有限次元版は、高校の物理にも出てくる「力が保存力であるための条件」である。Rn\mathbb{R}^n の力 Fi(x)F_i(x) が、ある関数 ff の勾配 Fi=∂f/∂xiF_i=\partial f/\partial x_i と書けるとすると、2階の偏微分が順序によらないことから

∂Fi∂xj=∂Fj∂xi(1.15.3)\frac{\partial F_i}{\partial x_j}=\frac{\partial F_j}{\partial x_i}\tag{1.15.3}

が要る。つまり FF の Jacobi 行列が対称でなければならない(3次元なら回転が 00)。逆に、星形の領域(ある点から各点まで線分が引ける領域)で式 (1.15.3) が成り立てば、f(x)=∫01∑ixiFi(λx) dλf(x)=\int_0^1\sum_ix_iF_i(\lambda x)\,\mathrm{d}\lambda と線分に沿って積分して ff が作れる(Poincaré の補題)。条件は「微分が対称」、構成は「原点からの線分に沿った積分」である。

変分の逆問題でも同じ2つが現れる。違いは、変数が数の組 xx でなく経路 q(t)q(t) で、「勾配」が汎関数微分になることだけである。

Helmholtz の条件

式 (1.15.1) の左辺を経路の汎関数と見て、経路を q+ϵηq+\epsilon\eta とずらしたときの1次の変化(線形化)を取る。GiG_i を q¨\ddot q・q˙\dot q・qq で偏微分した行列を

Aij=∂Gi∂q¨j,Bij=∂Gi∂q˙j,Cij=∂Gi∂qjA_{ij}=\frac{\partial G_i}{\partial \ddot q_j},\qquad B_{ij}=\frac{\partial G_i}{\partial \dot q_j},\qquad C_{ij}=\frac{\partial G_i}{\partial q_j}

と書くと、線形化は ∑j(Aijη¨j+Bijη˙j+Cijηj)\sum_j(A_{ij}\ddot\eta_j+B_{ij}\dot\eta_j+C_{ij}\eta_j) である。GiG_i が作用の汎関数微分なら、線形化は作用の2次の変分の汎関数微分になり、2次の変分は η\eta について対称な2次形式だから、線形化は自己随伴でなければならない(有限次元の Hesse 行列が対称であることにあたる)。自己随伴の条件を部分積分で η\eta・η˙\dot\eta・η¨\ddot\eta の係数ごとに書くと、次の3つになる。

定理 1.15.1(Helmholtz の条件 ★★★)

Gi(t,q,q˙,q¨)G_i(t,q,\dot q,\ddot q) がある L(q,q˙,t)L(q,\dot q,t) の Euler–Lagrange の式 Ei[L]E_i[L] と恒等的に一致するのは、次の3つがすべての (t,q,q˙,q¨)(t,q,\dot q,\ddot q) で成り立つときで、そのときに限る(局所的に。qq の領域は星形とする)。

Aij=Aji,Bij+Bji=2ddtAij,Cij−Cji=12ddt(Bij−Bji).\begin{align*}&A_{ij}=A_{ji},\tag{1.15.4}\\&B_{ij}+B_{ji}=2\frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} t}A_{ij},\tag{1.15.5}\\&C_{ij}-C_{ji}=\frac12\frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} t}\bigl(B_{ij}-B_{ji}\bigr).\tag{1.15.6}\end{align*}

ここで ddt\frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} t} は経路に沿った全微分(∂t+∑kq˙k∂qk+∑kq¨k∂q˙k+⋯\partial_t+\sum_k\dot q_k\partial_{q_k}+\sum_k\ddot q_k\partial_{\dot q_k}+\cdots)である。条件が成り立つとき、

L=−∑i∫01qi Gi(t,λq,λq˙,λq¨) dλ(1.15.7)L=-\sum_i\int_0^1q_i\,G_i\bigl(t,\lambda q,\lambda\dot q,\lambda\ddot q\bigr)\,\mathrm{d}\lambda\tag{1.15.7}

は q¨\ddot q を含む LL だが、その(2階の LL の)Euler–Lagrange の式は GiG_i に一致する。GiG_i が q¨\ddot q について1次なら、全微分を引いて q¨\ddot q を含まない LL に直せる。

条件は Helmholtz(1887)が述べ1H. Helmholtz(1887)、J. reine angew. Math. 100、137–166。下の脚注へ、式 (1.15.7) の構成は有限次元の Poincaré の補題と同じ「原点からの線分に沿った積分」である。証明は、必要性が上の自己随伴性の計算、十分性が式 (1.15.7) の LL に Euler–Lagrange の式を当てて条件を使う計算で、どちらも長いので省く。1自由度では (1.15.4) と (1.15.6) は自動的に成り立ち、残るのは

∂G∂q˙=ddt∂G∂q¨(1.15.8)\frac{\partial G}{\partial \dot q}=\frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} t}\frac{\partial G}{\partial \ddot q}\tag{1.15.8}

だけである。例題 1.15.1 の GG では左辺が 2qq˙2q\dot q、右辺が ddt(1+q2)=2qq˙\frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} t}(1+q^2)=2q\dot q で、条件が成り立っている。q˙2\dot q^2 の係数を 2q2q に変えた式では左辺が 4qq˙4q\dot q になって条件が破れ、その式そのものはどんな LL の Euler–Lagrange の式でもない。

乗数:式に関数を掛けてよい

運動方程式で決まるのは解の集合であって、GiG_i という式そのものではない。逆行列を持つ行列 gij(t,q,q˙)g_{ij}(t,q,\dot q) を掛けた ∑jgijGj=0\sum_jg_{ij}G_j=0 も同じ解を持つ。したがって本当の問いは「Helmholtz の条件を満たすように gg を選べるか」である。

1自由度で、運動方程式が解いた形 q¨=F(t,q,q˙)\ddot q=F(t,q,\dot q) で与えられているとする。μ(t,q,q˙) (q¨−F)\mu(t,q,\dot q)\,(\ddot q-F) が E[L]E[L] に一致するなら、q¨\ddot q の係数を比べて μ=∂2L/∂q˙2\mu=\partial^2L/\partial\dot q^2 である。E[L]=μq¨+q˙ ∂2L/∂q∂q˙+∂2L/∂t∂q˙−∂L/∂qE[L]=\mu\ddot q+\dot q\,\partial^2L/\partial q\partial\dot q+\partial^2L/\partial t\partial\dot q-\partial L/\partial q と −μF-\mu F を比べた式を q˙\dot q で偏微分して整理すると、μ\mu が満たすべき式

∂μ∂t+q˙∂μ∂q+F∂μ∂q˙=−μ∂F∂q˙(1.15.9)\frac{\partial \mu}{\partial t}+\dot q\frac{\partial \mu}{\partial q}+F\frac{\partial \mu}{\partial \dot q}=-\mu\frac{\partial F}{\partial \dot q}\tag{1.15.9}

が出る。左辺は解に沿った μ\mu の全微分なので、この式は「解に沿って μ\mu が e−∫∂F/∂q˙ dt\mathrm{e}^{-\int\partial F/\partial\dot q\,\mathrm{d} t} の割合で変わる」という1階の線形の偏微分方程式で、特性曲線(運動方程式の解そのもの)に沿って積分すれば正の解が局所的に必ず作れる。μ\mu が決まれば ∂2L/∂q˙2=μ\partial^2L/\partial\dot q^2=\mu を q˙\dot q で2回積分し、残りの qq と tt の関数を E[L]=μ(q¨−F)E[L]=\mu(\ddot q-F) から決めればよい。

1自由度の変分の逆問題

q¨=F(t,q,q˙)\ddot q=F(t,q,\dot q) には、式 (1.15.9) を満たす乗数 μ>0\mu>0 が局所的に必ず在り、∂2L/∂q˙2=μ\partial^2L/\partial\dot q^2=\mu となる LL が作れる。

減衰振動子 q¨=−γq˙−ω2q\ddot q=-\gamma\dot q-\omega^2q では ∂F/∂q˙=−γ\partial F/\partial\dot q=-\gamma なので式 (1.15.9) の右辺は γμ\gamma\mu で、μ=eγt\mu=\mathrm{e}^{\gamma t} が解である。これから L=eγt(12mq˙2−12mω2q2)L=\mathrm{e}^{\gamma t}\bigl(\frac12m\dot q^2-\frac12m\omega^2q^2\bigr) が出る。この LL は 第1部第4章の例題で減衰振動の方程式を出したものと同じで、Caldirola(1941)と Kanai(1948)が量子化を試みたことから Caldirola–Kanai の Lagrangian と呼ばれる2P. Caldirola(1941)、Nuovo Cimento 18、393–400。E. Kanai(1948)、Prog. Theor. Phys. 3、440–442。下の脚注へ。摩擦があっても1自由度なら LL は在る。ただし時刻をあらわに含み、それが何を意味するかは1.15.5節で調べる。

2自由度以上では、乗数 gijg_{ij} は対称行列で、式 (1.15.9) の行列版に加えて代数的な条件も満たさなければならない。Douglas(1941)は2自由度の場合を分類し、乗数をどう選んでも LL が作れない系が在ることを示した3J. Douglas(1941)、Trans. Amer. Math. Soc. 50、71–128。下の脚注へ。次の例題は、乗数を定数に限ったときに LL が作れない系である。

例題 1.15.2 定数の乗数では直せない2自由度の系 ★★

オリジナル運動方程式 x¨+y˙=0\ddot x+\dot y=0, y¨+y=0\ddot y+y=0 を考える。

  1. (1) この式を q¨+Bq˙+Kq=0\ddot q+B\dot q+Kq=0(q=(x,y)q=(x,y))の形に書き、BB と KK を求めよ。
  2. (2) 定数の対称行列 gg を掛けた g(q¨+Bq˙+Kq)g(\ddot q+B\dot q+Kq) に Helmholtz の条件を当て、gBgB が反対称・gKgK が対称であることが要ると示せ。
  3. (3) (2) の条件を満たす gg はすべて行列式が 00 であることを示せ。
解答

(1) B=(0100)B=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}、K=(0001)K=\begin{pmatrix}0&0\\0&1\end{pmatrix}。

(2) g(q¨+Bq˙+Kq)g(\ddot q+B\dot q+Kq) では A=gA=g(定数)、B→gBB\to gB、C→gKC\to gK である。条件 (1.15.5) は A˙=0\dot A=0 なので gB+(gB)T=0gB+(gB)^{\mathsf T}=0、条件 (1.15.6) は右辺が定数の時間微分で 00 なので gK=(gK)TgK=(gK)^{\mathsf T} になる。

(3) g=(abbc)g=\begin{pmatrix}a&b\\b&c\end{pmatrix} とおくと gB=(0a0b)gB=\begin{pmatrix}0&a\\0&b\end{pmatrix}。これが反対称なら対角成分 b=0b=0、非対角成分から a=0a=0。このとき gK=(000c)gK=\begin{pmatrix}0&0\\0&c\end{pmatrix} は対称で条件を満たすが、g=(000c)g=\begin{pmatrix}0&0\\0&c\end{pmatrix} の行列式は 00 で、gg を掛けた式は xx の運動を失う。したがって定数の乗数では LL は作れない。乗数を qq・q˙\dot q・tt に依存させてよいときにこの系がどうなるかは、ここでは確かめない。

LL は一意でない

同じ運動方程式を出す LL は1つではない。全微分 dΛ(q,t)/dt\mathrm{d}\Lambda(q,t)/\mathrm{d} t を足しても、定数を掛けても運動方程式は変わらない(第1部第5章)。これらは同じ正準運動量の取り方を少しずらすだけだが、乗数 gg の選び方が違うと、互いに全微分でも定数倍でもない LL が出てくる。1次元の自由粒子 q¨=0\ddot q=0 では、f′′≠0f''\neq0 のどんな関数 ff についても L=f(q˙)L=f(\dot q) の Euler–Lagrange の式が f′′(q˙) q¨f''(\dot q)\,\ddot q になり、すべて同じ運動を出す。

例題 1.15.3 等方振動子の2つの LL ★★

オリジナル2次元の等方振動子 x¨=−ω2x\ddot x=-\omega^2x, y¨=−ω2y\ddot y=-\omega^2y に対し、L=12(x˙2+y˙2)−12ω2(x2+y2)L=\frac12(\dot x^2+\dot y^2)-\frac12\omega^2(x^2+y^2) と L′=x˙y˙−ω2xyL'=\dot x\dot y-\omega^2xy を比べる。

  1. (1) L′L' の Euler–Lagrange 方程式が同じ運動方程式になることを示せ。L′L' はどの乗数 gg に対応するか。
  2. (2) L′L' の正準運動量と H′H' を求め、H′H' の値を速度で書け。
  3. (3) x=cos⁡ωtx=\cos\omega t, y=0y=0 の運動で HH と H′H' の値を比べよ。
解答

(1) Ex[L′]=ddty˙+ω2y=y¨+ω2yE_x[L']=\frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} t}\dot y+\omega^2y=\ddot y+\omega^2y、Ey[L′]=x¨+ω2xE_y[L']=\ddot x+\omega^2x。LL の2つの式を入れ替えたもので、解は同じである。乗数は入れ替えの行列 g=(0110)g=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix} で、対称・正則だが正定値ではない。

(2) px=∂L′/∂x˙=y˙p_x=\partial L'/\partial\dot x=\dot y、py=x˙p_y=\dot x。H′=pxx˙+pyy˙−L′=pxpy+ω2xyH'=p_x\dot x+p_y\dot y-L'=p_xp_y+\omega^2xy で、値は x˙y˙+ω2xy\dot x\dot y+\omega^2xy。

(3) HH は力学的エネルギーで、値は 12ω2\frac12\omega^2。H′H' は x˙y˙+ω2xy=0\dot x\dot y+\omega^2xy=0 で、エネルギーとは別の保存量である(LL の言葉では xx と yy の運動の「交差したエネルギー」)。L′L' では xx と共役な運動量が y˙\dot y なので、L′L' で量子化すると xx と y˙\dot y が交換しない理論になる。古典の運動は同じでも、どちらの LL を選ぶかで HH の意味も量子論も変わる。LL を選ぶときは、運動方程式のほかに「どの量がエネルギーとして測られるか」「ほかの系とどう結合するか」という物理の情報が要る。

1 H. Helmholtz(1887)、J. reine angew. Math. 100、137–166。

2 P. Caldirola(1941)、Nuovo Cimento 18、393–400。E. Kanai(1948)、Prog. Theor. Phys. 3、440–442。

3 J. Douglas(1941)、Trans. Amer. Math. Soc. 50、71–128。

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