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出てくるもの(3):直せない系と、直し方の限界

2026年10月16日11分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第1部 第15章 運動方程式から L と H を組む
目次
  1. 判定の決め手:体積が縮む流れ
  2. 時刻を含む :Caldirola–Kanai
  3. リミットサイクル:van der Pol
  4. 散逸は系と熱浴の大きな Hamilton 系から出す
  5. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第15章 §1.15.5 ★★★ 相空間の体積が縮む流れは、どの座標をとっても時刻を含まない Hamilton 系に直せない。時刻を含む LL は作れても量子化すると不自然になり、散逸は系と熱浴を合わせた大きな Hamilton 系から出す

判定の決め手:体積が縮む流れ

H(q,p)H(q,p) が時刻を含まない Hamilton 系では、流れは相空間の体積を保ち(第1部第12章・第3部第1章)、HH の値も保つ。ここから、Hamilton 系に直せる流れの必要条件が出る。

命題 1.15.2(引き込む集合を持つ流れは Hamilton 系でない ★★★)

z˙=X(z)\dot z=X(z) が漸近安定な平衡点か、まわりの軌道を引き込む周期軌道(リミットサイクル)を持つとする。このとき、引き込まれる領域のどこにも、その流れを時刻を含まない HH の Hamilton 方程式として書く滑らかな座標 (q,p)(q,p) は無い。

証明

そのような HH が在るとする。HH は軌道に沿って一定で、連続である。引き込まれる領域の点から出た軌道は平衡点(または周期軌道)にいくらでも近づくので、その点での HH の値は平衡点(または周期軌道の上)での値に等しい。周期軌道の上でも HH は一定なので、領域全体で HH は1つの値をとり、dH=0\mathrm{d} H=0。すると Hamilton 方程式の右辺 (∂H/∂p,−∂H/∂q)(\partial H/\partial p,-\partial H/\partial q) が 00 で、流れが止まっていることになり、仮定に反する。

体積で言い直すこともできる。Hamilton 系の流れで保たれる体積は、どの座標で書いても正の密度 ρ(z)\rho(z) による体積 ∫ρ dz\int\rho\,\mathrm{d} z で、それが保たれることは ∇⋅(ρX)=0\nabla\cdot(\rho X)=0 である。減衰振動子 q˙=v\dot q=v, v˙=−ω2q−γv\dot v=-\omega^2q-\gamma v の流れの発散は −γ-\gamma で、(q,v)(q,v) の平面の面積は e−γt\mathrm{e}^{-\gamma t} で縮み(図 1.15.4)、すべての点が原点へ引き込まれる。密度をどう選んでも、原点の近くの有限の体積が 00 へ縮むことを止められない。Lotka–Volterra の式では密度 1/(xy)1/(xy) で発散が消えたが、減衰振動子にはそのような密度が無い。

図

図 1.15.4 減衰振動子(ω=1\omega=1, γ=0.2\gamma=0.2)の相空間で、半径 0.40.4 の円が流れで運ばれる様子。面積は t=2t=2 で e−0.4=0.670\mathrm{e}^{-0.4}=0.670 倍、t=4t=4 で e−0.8=0.449\mathrm{e}^{-0.8}=0.449 倍になる。灰色の線は円の中心の軌道

時刻を含む LL:Caldirola–Kanai

1.15.2節で見たとおり、減衰振動子にも時刻を含む L=eγt(12mq˙2−12mω2q2)L=\mathrm{e}^{\gamma t}(\frac12m\dot q^2-\frac12m\omega^2q^2) は在る。命題 1.15.2 は時刻を含まない HH についての主張なので、これと矛盾しない。この LL から正準運動量と HH を作ると

p=meγtq˙,H=e−γtp22m+eγtmω2q22(1.15.30)p=m\mathrm{e}^{\gamma t}\dot q,\qquad H=\mathrm{e}^{-\gamma t}\frac{p^2}{2m}+\mathrm{e}^{\gamma t}\frac{m\omega^2q^2}{2}\tag{1.15.30}

で、(q,p)(q,p) の平面では流れは面積を保つ(時刻を含む HH でも流れは正準変換である)。物理の運動量 mq˙=e−γtpm\dot q=\mathrm{e}^{-\gamma t}p は pp に比べて e−γt\mathrm{e}^{-\gamma t} で縮むので、(q,mq˙)(q,m\dot q) の平面に戻すと図 1.15.4 と同じく面積は縮む。HH の値は eγt\mathrm{e}^{\gamma t} に力学的エネルギーを掛けたもので、エネルギーではない。

例題 1.15.9 Caldirola–Kanai の量子化で起きること ★★

オリジナル式 (1.15.30) で正準量子化 [q^,p^]=iℏ[\hat q,\hat p]=\mathrm{i}\hbar を行う。

  1. (1) 物理の運動量 mq˙m\dot q に対応する演算子 π^=e−γtp^\hat\pi=\mathrm{e}^{-\gamma t}\hat p と q^\hat q の交換子を求め、不確定性関係 Δq Δπ≥⋯\Delta q\,\Delta\pi\ge\cdots の右辺を書け。
  2. (2) γ=0.1 ω\gamma=0.1\,\omega のとき、ωt=50\omega t=50 で右辺は初めの何倍か。
  3. (3) この結果が物理的に受け入れにくい理由を述べよ。
解答

(1) [q^,π^]=e−γt[q^,p^]=iℏe−γt[\hat q,\hat\pi]=\mathrm{e}^{-\gamma t}[\hat q,\hat p]=\mathrm{i}\hbar\mathrm{e}^{-\gamma t}。Robertson の不等式から Δq Δπ≥ℏ2e−γt\Delta q\,\Delta\pi\ge\frac{\hbar}{2}\mathrm{e}^{-\gamma t}。

(2) γt=0.1×50=5\gamma t=0.1\times50=5 で e−5=6.7×10−3\mathrm{e}^{-5}=6.7\times10^{-3} 倍。

(3) 位置と物理の運動量の不確定性の積が、いくらでも小さくなってよいことになる。実際の減衰する振動子(例えば抵抗のある LC 回路)は時間がたつと周囲の温度の熱平衡に近づき、揺らぎは ℏ/2\hbar/2 を下回らず、温度があればそれより大きくなる。Caldirola–Kanai の LL は古典の運動方程式を正しく出すが、エネルギーの捨て先(周囲)を式に含まないので、量子化すると捨て先との相関や揺らぎが現れない。

リミットサイクル:van der Pol

命題 1.15.2 のもう1つの例が、真空管の発振回路の模型として van der Pol(1926)が調べた1B. van der Pol(1926)、Phil. Mag. (7) 2、978–992。下の脚注へ

x¨−μ(1−x2)x˙+x=0(μ>0)(1.15.31)\ddot x-\mu(1-x^2)\dot x+x=0\qquad(\mu>0)\tag{1.15.31}

である。流れの発散は μ(1−x2)\mu(1-x^2) で、∣x∣<1\lvert x\rvert <1 では面積が増え、∣x∣>1\lvert x\rvert >1 では減る。小さい振幅は増え、大きい振幅は減って、すべての軌道が1つの周期軌道に引き込まれる。1自由度なので1.15.2節の乗数で時刻を含む LL は作れるが、時刻を含まない HH は引き込まれる領域のどこにも無い。

例題 1.15.10 van der Pol の振幅を平均化で出す ★★

オリジナル式 (1.15.31) で μ≪1\mu\ll1 とし、x=rcos⁡θx=r\cos\theta, x˙=−rsin⁡θ\dot x=-r\sin\theta(θ=t+φ\theta=t+\varphi)と書く。

  1. (1) 第V巻の平均化の式 r˙=−hsin⁡θ‾\dot r=-\overline{h\sin\theta}(h=μ(1−x2)x˙h=\mu(1-x^2)\dot x を代入し θ\theta について1周期平均する)から、r˙=μr2(1−r24)\dot r=\frac{\mu r}{2}\bigl(1-\frac{r^2}{4}\bigr) を示せ。
  2. (2) リミットサイクルの振幅と、r(0)=0.1r(0)=0.1 から r=1r=1 に達するまでの時間を μ=0.1\mu=0.1 で求めよ。
解答

(1) 運動方程式は x¨+x=h\ddot x+x=h の形で、h=μ(1−r2cos⁡2θ)(−rsin⁡θ)h=\mu(1-r^2\cos^2\theta)(-r\sin\theta)。−hsin⁡θ=μrsin⁡2θ(1−r2cos⁡2θ)-h\sin\theta=\mu r\sin^2\theta(1-r^2\cos^2\theta) を平均すると、sin⁡2θ‾=12\overline{\sin^2\theta}=\frac12、sin⁡2θcos⁡2θ‾=18\overline{\sin^2\theta\cos^2\theta}=\frac18 から r˙=μr(12−r28)=μr2(1−r24)\dot r=\mu r\bigl(\frac12-\frac{r^2}8\bigr)=\frac{\mu r}2\bigl(1-\frac{r^2}4\bigr)。

(2) r˙=0\dot r=0 の正の解は r=2r=2 で、r<2r<2 で r˙>0\dot r>0、r>2r>2 で r˙<0\dot r<0 なので振幅 22 の周期軌道に引き込まれる。μ=0.1\mu=0.1 で式 (1.15.31) を数値積分すると、内側の (0.1,0)(0.1,0) からも外側の (4,0)(4,0) からも振幅 2.0002.000 に近づく。u=r2u=r^2 とおくと u˙=μu(1−u/4)\dot u=\mu u(1-u/4) の logistic 型の式で、解は r2=4/(1+(4/r02−1)e−μt)r^2=4/\bigl(1+(4/r_0^2-1)\mathrm{e}^{-\mu t}\bigr)。r=1r=1 になるのは t=1μln⁡4/r02−13=10ln⁡133=48.9t=\frac1\mu\ln\frac{4/r_0^2-1}{3}=10\ln133=48.9 で、数値解の極大が初めて 11 を超えるのは t=50.3t=50.3 である。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの μ→0\mu\to0(速い位相について1周期平均) | 証明 条件付き(時間 1/μ1/\mu までの近さは平均化定理。周期軌道そのものの存在は、平均化した式の平衡点 r=2r=2 が双曲的であることを使う別の定理による) | 行き先 近似の数理 第7章

散逸は系と熱浴の大きな Hamilton 系から出す

散逸を正しく扱うには、エネルギーの捨て先を式に入れればよい。注目する振動子に、多数の調和振動子(熱浴)を1次の結合で付けた

H=p22m+V(q)+∑k[pk22mk+12mkωk2(xk−ckqmkωk2)2](1.15.32)H=\frac{p^2}{2m}+V(q)+\sum_k\Bigl[\frac{p_k^2}{2m_k}+\frac12m_k\omega_k^2\Bigl(x_k-\frac{c_kq}{m_k\omega_k^2}\Bigr)^2\Bigr]\tag{1.15.32}

は時刻を含まない普通の Hamiltonian で、全体の流れは体積を保つ。熱浴の振動子の運動方程式は線形なので解いて代入でき、qq だけの式に記憶のある摩擦と揺らぐ力が現れる。結合の強さを J(ω)=π2∑kck2/(mkωk) δ(ω−ωk)J(\omega)=\frac\pi2\sum_kc_k^2/(m_k\omega_k)\,\delta(\omega-\omega_k) にまとめ、J(ω)=mγωJ(\omega)=m\gamma\omega(Ohm 型)とすると、記憶の時間が 00 の極限で摩擦の項は −mγq˙-m\gamma\dot q になる。Caldeira と Leggett(1983)はこの模型で散逸のある系の量子力学を扱った2A. O. Caldeira, A. J. Leggett(1983)、Ann. Phys. 149、374–456。下の脚注へ。ωk\omega_k を 0.004ω0.004\omega 刻みで 8ω8\omega まで並べた2000個の振動子で式 (1.15.32)(γ=0.1ω\gamma=0.1\omega)を厳密に解くと、注目する振動子のエネルギーはωt=10,20,30\omega t=10,20,30 で初めの 0.3740.374, 0.1360.136, 0.0500.050 倍になり、e−γt\mathrm{e}^{-\gamma t} の 0.3680.368, 0.1350.135, 0.0500.050 と一致する。注目する振動子の相空間の面積は縮むが、全体の相空間の体積は保たれていて、面積は熱浴の自由度へ流れ出ている。

この見方では、揺らぎと散逸が1つの Hamiltonian から同時に出るので、Caldirola–Kanai で失われた揺らぎも現れる。その関係(揺動散逸定理)は 第3部第9章で扱う。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの 熱浴の切断振動数 →∞\to\infty と弱い結合(記憶の時間 →0\to0) | 証明 要確認(量子の開放系の弱結合極限は第V巻 第14章の van Hove 極限の範囲。Ohm 型の浴の古典の極限の前提は原論文で確かめていない) | 行き先 近似の数理 第14章

最後に、LL が見つかっても先へ進めない場合がもう1つある。速度の Hesse 行列が退化している場合で、1階の系の LL (1.15.24) や電磁場の LL がこれにあたる。1階の系では「座標の半分が運動量」と読み直せば済んだが、電磁場ではスカラーポテンシャル ϕ\phi の速度が LL に現れず、ゲージの自由度という拘束が残る。その扱いは 第1部第6章の乗数と 第2部第8章に送る。

1 B. van der Pol(1926)、Phil. Mag. (7) 2、978–992。

2 A. O. Caldeira, A. J. Leggett(1983)、Ann. Phys. 149、374–456。

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