解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第3章 §2.3.5 ★★ ブーストに Noether の定理を当てると「エネルギーで重みを付けた重心が等速で動く」という保存則が出る。不変量 pμpμ から反応のしきい値が決まる
ブーストの生成子
2.3.3節で、時刻と空間の並進から E と p の保存が出た。Lorentz 変換群には並進と回転のほかにブーストがある。回転からは第1部第10章と同じく角運動量の保存が出るので、ここではブーストを扱う。1次元の自由粒子で、rapidity ϵ の無限小のブースト
ct′=ct+ϵx,x′=x+ϵct
を考える。第1部第10章の、時刻もずらす変換の書き方(t′=t+ϵτ, q′(t′)=q(t)+ϵK)では τ=x/c, K=ct である。時刻を止めた変分は δx=ϵ(K−τx˙)=ϵ(ct−xx˙/c) で(第1部第10章)、ここからはドットは t 微分である。L の1次の変化は
δL=pδx˙=ϵγmx˙(c−cx˙2−cxx¨)
で、運動方程式を使わずに δL=ϵdtdΛ、Λ=mcx1−x˙2/c2=−xL/c と書ける(dtd(mcx1−x˙2/c2)=mcx˙1−x˙2/c2−γmx˙xx¨/c と比べればよい)。保存量 Q=p(K−τx˙)−Λ は
Q=p(ct−cxx˙)+cxL=cpt−cx(px˙−L)=c(pt−c2Ex)(2.3.17)
になる。N 個の自由粒子が衝突する場合も、並進の保存量と同じく各粒子の Q を足したものが保存する。全エネルギー Etot=∑aEa と全運動量 P=∑apa を使って書くと
XE(t):=Etot∑aEaxa(t)=EtotPc2t+定数(2.3.18)
である。エネルギーで重みを付けた位置の平均(エネルギーの重心)が、速度 Pc2/Etot で等速に動く。遅い極限では Ea≈mac2 で、Newton 力学の重心の等速運動に戻る。相対論では「質量の重心」は保存則に現れず、重みは静止エネルギーでなく全エネルギーである。
不変量としきい値
4元運動量の和 Pμ=∑apaμ は保存し、その「長さ」PμPμ はどの慣性系でも同じ値をとる。P=0 となる系(エネルギーの重心が止まって見える系)では PμPμ=Ecm2/c2 で、Ecm は粒子を作るために使えるエネルギーの全部である。反応の後に静止質量 Mf の和を持つ粒子群が作れる条件は Ecm≥Mfc2 になる。保存量どうしを組み合わせた PμPμ は変換で値を変えないので、反応が起こるかどうかを1つの数で判定することができる。
例題 2.3.5 光子で電子と陽電子の対を作るしきい値 ★★
オリジナル静止した電子(質量 m)に光子(エネルギー Eγ、運動量の大きさ Eγ/c)が当たり、反応 γ+e−→e−+e−+e+ が起こる。陽電子の質量は電子と同じ m である。
- (1) 反応前の PμPμc2 を Eγ と mc2 で表せ。
- (2) 反応後の3粒子がすべて同じ速度で動くとき PμPμc2 が最小で、その値が (3mc2)2 であることを示せ。
- (3) しきい値 Eγ を mc2 で表し、mc2=0.511MeV として数値を求めよ。真空中で光子1個が電子と陽電子の対になれない理由も述べよ。
解答
(1) P0=(Eγ+mc2)/c、∣P∣=Eγ/c なので PμPμc2=(Eγ+mc2)2−Eγ2=m2c4+2Eγmc2。
(2) P=0 の系では PμPμc2=(∑aEa)2 で、各 Ea≥mc2、等号は全粒子がその系で静止するとき。したがって最小値は (3mc2)2 で、そのとき3粒子はどの系から見ても同じ速度で動く。
(3) m2c4+2Eγmc2≥9m2c4 から Eγ≥4mc2=2.044MeV。対を作るのに要る 2mc2 の2倍が必要になるのは、運動量の保存のために生成物全体が動かなければならず、その運動エネルギーにも配分されるからである。光子1個では PμPμ=Eγ2/c2−Eγ2/c2=0 で、(2mc2)2/c2>0 を下回るので、どれだけエネルギーが大きくても反応は起こらない。
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