解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第11章 §2.11.4 ★★★ 計量が時刻によらないことに Noether の定理を当てると、静止した時計の固有時は g00dt、光の振動数は νg00 が一定。弱い場で Δν/ν=−ΔΦ/c2
静止した時計の固有時
時刻によらない計量(gμν が x0 によらず、g0i=0)を考える。場所 x に静止した時計の世界線は dx=0 なので、その時計の固有時は
dτ=cds=g00(x)dt(2.11.18)
である。座標時刻 t は全空間に共通の目盛りだが、実際に時計が刻むのは τ で、その比 g00 が場所によって違う。弱い場の式 (2.11.5) では dτ≈(1+Φ/c2)dt で、Φ の低い所(重力源に近い所)の時計ほど遅い。ただし、これだけでは「dt は誰も持っていない目盛り」なので、2つの時計を比べる手続きが要る。比べるには光の信号を送る。
光の信号で比べる
場所 A の時計が、光の山を一定の間隔で場所 B へ送る(図 2.11.2)。A を出た1つ目の山が B に着くまでの座標時間を tAB とする。計量が時刻によらないので、2つ目の山の経路は1つ目の経路を時刻の向きにずらしただけのもので、所要の座標時間は同じ tAB である。したがって、A で山を出す座標時刻の間隔 Δt と、B で山を受ける座標時刻の間隔は等しい。それぞれの時計で測る間隔は式 (2.11.18) から ΔτA=g00(A)Δt、ΔτB=g00(B)Δt で、振動数は間隔の逆数なので
νAνB=g00(B)g00(A)(2.11.19)
を得る。弱い場で展開すると
νAνB=1+c2ΦA−ΦB+O(c−4),νΔν≡νAνB−νA≈−c2ΦB−ΦA(2.11.20)
となる。B が A より高い所(ΦB>ΦA)にあれば、B で受ける光の振動数は低い(赤い方へずれる)。これを重力赤方偏移と呼ぶ。地表付近では ΦB−ΦA=gh で Δν/ν=−gh/c2 である。

図 2.11.2 時刻によらない計量の中で、A から B へ送る光の山。2つ目の山の経路は1つ目を時刻の向きにずらしただけなので、出す間隔と受ける間隔は座標時刻 t で等しい。各時計が刻む固有時は g00Δt で場所によって違い、その比が振動数の比になる
Noether の保存量で見る
同じ結果を、時刻をずらす変換の Noether の保存量から出す。作用 (2.11.3) を t を径数として書き、gij=−δij の場合を考えると L=−mcg00c2−v2 で、エネルギー関数は
E=v⋅∂v∂L−L=g00c2−v2mc3g00
である。L が t によらないので E は保存する。その場所に静止した観測者が測る速さは、距離 dx を自分の固有時 dτ=g00dt で割った vloc=v/g00 なので、g00c2−v2=g00c1−vloc2/c2 となり
E=g00Eloc,Eloc=1−vloc2/c2mc2(2.11.21)
を得る。Eloc はその場の観測者が特殊相対論の式で測るエネルギーである。保存するのは Eloc でなく g00Eloc なので、低い所(g00 が小さい所)ほど Eloc が大きい。落ちる物体が速くなるのはこのためである。光の粒子についても同じ形が成り立ち(m→0 の極限は第2部第12章で扱う)、Eloc=hνloc とおけば g00νloc が光の経路に沿って一定である。これは式 (2.11.19) そのものである。前の小節の「経路を時刻の向きにずらす」議論と、この節の Noether の保存量は、計量が時刻によらないという同じ対称性の2つの表し方になっている。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ∣Φ∣/c2→0(g00 の比を 1/c2 の1次で打ち切る) | 証明 証明済み((1+2ΦA/c2)/(1+2ΦB/c2) は ∣2Φ∣/c2<1 で収束する級数で、剰余は O(Φ2/c4)) | 行き先 近似の数理 第7章
例題 2.11.4 塔の上下で光の振動数を比べる ★★
オリジナル高さ h=22.5m の塔の下で原子核が出したガンマ線を、塔の上で同じ種類の原子核に吸収させる。g=9.807ms−2 とする。
- (1) 塔の上で受けるガンマ線の振動数のずれ Δν/ν を求めよ。
- (2) 吸収する側の原子核を動かして、Doppler 効果でこのずれを打ち消したい。どちら向きに、どれだけの速さで動かせばよいか。
- (3) 上から下へ送る場合と合わせて、上向きと下向きのずれの差はいくらか。
解答
(1) 式 (2.11.20) から Δν/ν=−gh/c2=−9.807×22.5/(2.998×108)2=−2.46×10−15 である。
(2) 受ける側が光源に向かって速さ u で近づくと、受ける振動数は 1+u/c 倍になる(u≪c)。u/c=2.46×10−15 から u=7.36×10−7ms−1、つまり毎秒 0.74μm で下向き(光源に近づく向き)に動かす。
(3) 下向きでは Φ が下がるので Δν/ν=+2.46×10−15(青い方へずれる)。差は 4.91×10−15 である。Pound と Rebka はこの配置で、上下を入れ替えた測定の差を取り、実測と予言の比を 1.05±0.10 と報告した1R. V. Pound and G. A. Rebka, Jr. (1960), Phys. Rev. Lett. 4, 337。鉄 57 の 14.4 keV のガンマ線を Mössbauer 効果で反跳なしに出し入れした。。10−15 の振動数のずれが測れたのは、Mössbauer 効果で線幅がきわめて狭いガンマ線を使えたからである。
1 R. V. Pound and G. A. Rebka, Jr. (1960), Phys. Rev. Lett. 4, 337。鉄 57 の 14.4 keV のガンマ線を Mössbauer 効果で反跳なしに出し入れした。
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