解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第15章 §2.15.5 ★★★ 弱い静的な場で Einstein 方程式が Poisson 方程式に戻ることを要求して 8πG/c4 と作用の符号を決め、Λ を斥力として読む
係数を Newton の重力に合わせる
Einstein 方程式の右辺の係数を、いったん未知の κ′ として Gμν=κ′Tμν(Λ=0)と書き、Newton の重力に戻るように κ′ を決める。重力が弱く、物質がゆっくり動き、場が時間によらない場合を考える。計量を
g00≈1+c22Φ,gij≈−(1−c22Φ)δij(2.15.17)
とおく(Φ は Newton のポテンシャル、∣Φ∣≪c2。記法の正本 §4)。第2部第12章で、この g00 のもとで測地線方程式が x¨=−∇Φ になることを見た。この計量の Ricci テンソルの 00 成分は、Φ/c2 の1次で R00=∇2Φ/c2 である(記法の正本 §4 で確かめた)。物質は静止した塵で、T00=ρc2、T=g00T00≈ρc2。トレースを取り直した式 (2.15.12) の形 R00=κ′(T00−21g00T) に入れると
c2∇2Φ=κ′(ρc2−21ρc2)=2κ′ρc2⟹∇2Φ=2κ′c4ρ
となる。これが Poisson 方程式 ∇2Φ=4πGρ と一致するには κ′=8πG/c4 でなければならない。作用の前の係数 c3/(16πG) の 16π はここから決まった。
符号も同じ式で決まる。作用の前の符号を + にすると 2.15.3節の計算で右辺の符号が反転し、∇2Φ=−4πGρ になる。このとき Φ は質量のまわりで正の極大を持ち、力 −∇Φ は質量から離れる向き、つまり斥力になる。重力が引力であることが、(+,−,−,−) の流儀で前の符号を − にする理由である。
宇宙項は距離に比例する斥力
Λ を残すと、式 (2.15.12) の 00 成分に −Λg00≈−Λ が加わり、
∇2Φ=4πGρ−Λc2(2.15.18)
となる。物質のない所での球対称な解は ΦΛ=−6Λc2r2(∇2r2=6)で、加速度 −∇ΦΛ=+3Λc2rer は外向きで距離に比例する。Λ>0 は距離に比例して強くなる斥力として現れる。物質のない宇宙の解 a(t)=eHt(de Sitter 宇宙)では Gμν=c23H2gμν なので、式 (2.15.11) から Λ=3H2/c2 で、Λ>0 が加速膨張にあたる(記法の正本 §4 で確かめた)。このときスカラー曲率は式 (2.15.12) のトレースから R=−4Λ=−12H2/c2 である。符号の向きに注意する。(−,+,+,+) の教科書は Gμν+Λgμν と書き、作用は R−2Λ になるが、Λ>0 が斥力である点は同じである(記法の正本 §4 の表)。
宇宙項を右辺へ移すと Gμν=κ(Tμν+κΛgμν) で、κΛgμν を真空の持つエネルギー運動量テンソルと読むことができる。完全流体の形 (ρc2+P)uμuν/c2−Pgμν と比べると、エネルギー密度 ρΛc2=Λc4/(8πG)>0、圧力 PΛ=−ρΛc2<0 の流体にあたる。例題 2.15.4 の w=−1 で、膨張しても密度が薄まらない。Poisson 方程式の源は式 (2.15.12) から ρ+3P/c2 の形で入るので、ρΛ+3PΛ/c2=−2ρΛ<0 が斥力になる。
宇宙項は A. Einstein が静止した宇宙の解を作るために導入した(A. Einstein (1917), Sitzungsber. Preuss. Akad. Wiss. 1917, 142)。現在の観測値として、Planck Collaboration は宇宙背景放射の解析から Hubble 定数 H0=67.4kms−1Mpc−1、物質の密度パラメータ Ωm=0.315 を得ている(Planck Collaboration (2020), Astron. Astrophys. 641, A6)。空間が平坦なら ΩΛ=1−Ωm=0.685 で、Λ=3ΩΛH02/c2=1.09×10−52m−2、ρΛ=5.85×10−27kgm−3(エネルギー密度 5.25×10−10Jm−3)になる。H0=67.4kms−1Mpc−1=2.18×10−18s−1 を使った。
例題 2.15.5 太陽の引力と宇宙項の斥力がつり合う距離 ★★
オリジナル太陽(GM⊙=1.327×1020m3s−2)からの距離 r で、引力の加速度 GM⊙/r2 と宇宙項の加速度 Λc2r/3(Λ=1.09×10−52m−2)を比べる。
- (1) 2つがつり合う距離 rΛ を求め、パーセク(1pc=3.086×1016m)で表せ。
- (2) 地球の軌道 r=1au=1.496×1011m での比 GM⊙/r2Λc2r/3 を求めよ。
解答
(1) r2GM⊙=3Λc2r から rΛ=(Λc23GM⊙)1/3=(1.09×10−52×8.988×10163×1.327×1020)1/3=3.44×1018m=111pc。
(2) 比は 3GM⊙Λc2r3=(rΛr)3=8.2×10−23。太陽系の中では宇宙項の効果は測れないほど小さく、恒星どうしの間隔(1pc ほど)でもまだ引力が勝つ。宇宙項が引力に勝つのは、物質の平均密度が 2ρΛ を下回る宇宙論的な尺度である。図 2.15.1 に2つの加速度を両対数で示した。

図 2.15.1 太陽からの距離 r での引力(実線)と宇宙項の斥力(破線)の加速度。どちらも厳密な式で、傾きは −2 と +1。rΛ で交わる(例題 2.15.5)
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ∣Φ∣/c2→0 と v/c→0(重力が弱く、物質がゆっくり動く。太陽の表面で ∣Φ∣/c2=2×10−6) | 証明 要確認(Einstein 方程式の解の族が c→∞ で Newton の解に収束するための前提は原論文で確かめていない) | 行き先 近似の数理 第7章
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com