解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第15章 §2.15.4 ★★★ 作用が座標の取り替えで変わらないことの Noether 恒等式が、縮約 Bianchi 恒等式と物質の保存則になる
座標を少しずらす変換
座標を x′μ=xμ+ϵξμ(x) とずらす(ξμ は時空の任意の関数)。同じ座標の値で比べた計量の成分の変化は、テンソルの変換則を ϵ の1次で展開すると
δgμν=gμν′(x)−gμν(x)=−ϵ(ξλ∂λgμν+gλν∂μξλ+gμλ∂νξλ)=−ϵ(∇μξν+∇νξμ)(2.15.14)
になる(括弧の中を Lie 微分と呼ぶ。2つめの等号は Γ の定義を代入すると確かめられる)。式 (2.15.5) から δgμν=ϵ(∇μξν+∇νξμ)。作用はスカラーの不変な積分なので、どんな ξμ(x) でも値が変わらない。これは 第2部第8章のゲージ変換と同じく、任意関数をパラメータに持つ対称性である。
物質の作用から:保存則
物質の作用 Sm[g,ψ] が座標のずらしで変わらないとき、変化は計量の変化による部分と物質の場の変化による部分の和で、合わせて 0 である。物質の場が運動方程式(δSm/δψ=0)を満たしていれば後者は消えるので、
0=δSm=2c1∫−gTμνϵ(∇μξν+∇νξμ)d4x=cϵ∫−gTμν∇μξνd4x=−cϵ∫−g(∇μTμν)ξνd4x
となる。2つめの等号は Tμν の対称性、3つめは部分積分(式 (2.15.9)。ξ は境界で 0)である。ξν は任意なので
∇μTμν=0(2.15.15)
を得る。これは物質の運動方程式から出る式で、Einstein 方程式は使っていない。平坦な時空では 第2部第7章の ∂μTμν=0 に戻る。
重力場の作用から:縮約 Bianchi 恒等式
同じ議論を Sg に当てる。Sg は計量だけの汎関数なので、運動方程式を仮定する必要がなく、どんな計量でも0=δSg∝∫−g(Gμν−Λgμν)∇μξνd4x が成り立つ。同じ部分積分と ∇g=0 から
∇μGμν=0(すべての計量で成り立つ恒等式)(2.15.16)
を得る。これは 第2部第14章で Riemann テンソルの Bianchi 恒等式を縮約して出した式と同じものである。任意関数をパラメータに持つ対称性があると、場の方程式の左辺どうしの間に恒等式が成り立つ。これを Noether の第2定理と呼ぶ(第2部第8章では、ゲージ不変性から ∂ν∂μFμν=0 が出た)。
2つを合わせると、Einstein 方程式 (2.15.11) の両辺の発散がそろって 0 になる。左辺は恒等式で、右辺は物質の運動方程式で 0 になる。宇宙項の Λgμν も ∇g=0 で発散が 0 なので、加えても矛盾しない。左辺の発散が恒等的に 0 であることは、10本の方程式のうち4本が独立でないことを意味する。計量の10成分のうち4つは座標の選び方で変えられる自由度で、方程式はそれを決めない。
共変な保存則は積分した保存則とは限らない
∇μTμν=∂μTμν+ΓμμλTλν+ΓνμλTμλ=0 の最後の項は普通の発散の形に書くことができない。そのため一般には、物質のエネルギーを空間で積分した量は時間とともに変わる。物質と重力場がエネルギーをやりとりしていると読むことができるが、重力場のエネルギー密度は座標によらない形では定義することができない。計量に対称性があり Killing ベクトル ξμ(∇μξν+∇νξμ=0、第2部第12章)があれば、∇μ(Tμνξν)=(∇μTμν)ξν+Tμν∇μξν=0(第2項は T が対称で ∇(μξν)=0)なので、式 (2.15.9) から ∂μ(−gTμνξν)=0 となり、積分した保存量を作ることができる。時間によらない計量ならエネルギーが、球対称なら角運動量が保存する。膨張する宇宙は時間の並進の Killing ベクトルを持たないので、次の例題のとおり光のエネルギーが減る。
例題 2.15.4 膨張する宇宙の中の連続の式 ★★
オリジナル平坦な一様等方の宇宙 ds2=c2dt2−a(t)2dx2 に、静止した完全流体 Tμν=(ρc2+P)c2uμuν−Pgμν、uμ=(c,0,0,0) がある(ρ は質量密度、P は圧力)。
- (1) ∇μTμ0=0 から ρ˙+3H(ρ+c2P)=0(H=a˙/a)を示せ。0以外の成分 Γ0ij=caa˙δij、Γi0j=caa˙δij を使ってよい(x0=ct)。
- (2) 塵 P=0、放射 P=ρc2/3、宇宙項 P=−ρc2 のそれぞれで ρ の a 依存性を求めよ。
解答
(1) T00=ρc2、Tij=−Pgij=a2Pδij、T0i=0。∇μTμ0=∂0T00+Γμμ0T00+Γ0ijTij で、Γμμ0=∑iΓii0=ca3a˙、Γ0ijTij=∑icaa˙a2P=ca3a˙P だから
c1c2ρ˙+ca3a˙ρc2+ca3a˙P=0⟺ρ˙+3H(ρ+c2P)=0.
(Γ000=0、Γ00i=0 で、ほかの項は寄与しない。)これは熱力学の d(ρc2a3)=−Pd(a3)、つまり体積が増えるとき圧力のする仕事の分だけ内部エネルギーが減る式である。
(2) P=wρc2 と書くと ρ˙/ρ=−3(1+w)a˙/a で、ρ∝a−3(1+w)。塵(w=0)は ρ∝a−3(粒子の数が保存し体積が a3 で増える)、放射(w=1/3)は ρ∝a−4(数の薄まりの a−3 に、1つ1つの光の波長が a で伸びる分の a−1 が加わる)、宇宙項(w=−1)は ρ= 一定である。放射のエネルギーが積分しても保存しないのは、この計量に時間の並進の Killing ベクトルが無いからである。
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