解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部 第8章 §3.8.6 ★★ Drude の運動方程式・気体分子運動論の粘性率と拡散係数は、Boltzmann 方程式に運動量を掛けて積分したもの
Drude の運動方程式
固体物理の授業では、電子の平均の速度 vd に対する運動方程式
mdtdvd=−eE−τmvd(3.8.27)
を立て、定常解 vd=−eτE/m から J=−envd=(ne2τ/m)E を出す。右辺の第2項は「摩擦」として導入されることが多い。この式は、一様な場合の Boltzmann 方程式 ∂f/∂t−eE⋅∇pf=−(f−f0)/τ に p を掛けて運動量で積分したものである。左辺の第2項は部分積分すると +eE∫fd3p=enE になり(移項して −enE)、右辺は f0 が ∫pf0d3p=0 を満たすので −τ1∫pfd3p である。∫pfd3p=nmvd と書けば式 (3.8.27) の n 倍になる。「摩擦」と呼んだ項は、運動量を保存しない f0 への緩和である。自由電子でない(ε(p) が2次でない)場合は ∫pf と電流が比例しないので、この手は使えず、式 (3.8.25) の ⟨m∗−1⟩ が代わりになる。
気体分子運動論の輸送係数
気体分子運動論の授業では、分子が平均自由行程 λ だけ飛ぶ間に運んでくる運動量やエネルギーの差を数えて、粘性率・熱伝導率・拡散係数を
η≈31nmvˉλ,D≈31vˉλ(3.8.28)
と見積もる。この「31×速さ×平均自由行程」の形は、緩和時間近似の Boltzmann 方程式を1次まで解くと係数まで含めて出てくる。拡散では、数密度 n(x) が x 方向にゆっくり変わる温度一様の気体に、粒子の数を保つ緩和 f0=n(x)G(p) を当てる。定常で1次まで取ると δf=−τvx∂f0/∂x で、粒子の流れは ∫vxδfd3p=−τ⟨vx2⟩∂n/∂x、すなわち Fick の法則 −D∂n/∂x で D=τkBT/m になる。Einstein の関係 D=kBTμe/e(移動度 μe=eτ/m)も、伝導度 (3.8.26) と同じ τ から同時に出る。λ=vˉτ を入れると 31vˉλ=31vˉ2τ=3π8mkBTτ で、式 (3.8.28) は係数 8/(3π)=0.849 だけ違う。初等的な見積もりでは全部の分子が平均の速さで飛ぶとしたが、Boltzmann 方程式では vx2 の平均を正しく取るので、この比が現れる。
例題 3.8.7 ずれの流れの粘性率 ★★
オリジナルx 方向の流れの速度が y によって ux(y)=γy と変わる気体(温度 T、数密度 n は一様)を、BGK 模型で考える。f0 はその場の局所 Maxwell 分布 f0=n(2πmkBT)−3/2exp(−m∣v−ux(y)ex∣2/(2kBT))(v=p/m)である。
- (1) 定常で γ の1次まで取ると δf=−τvy∂f0/∂y となることを示せ。
- (2) y 方向に運ばれる x 方向の運動量の流れ Πxy=∫mvxvyfd3p を、y=0 で計算し、Πxy=−ηγ の形から粘性率 η=nkBTτ を導け。
- (3) 平均自由行程 λ=vˉτ を使って、式 (3.8.28) の 31nmvˉλ との比を求めよ。
解答
(1) 定常で外力が無いので、Boltzmann 方程式は vy∂f/∂y=−(f−f0)/τ。右辺の f−f0=δf は γ の1次で、左辺の f を f0 で置き換えると δf=−τvy∂f0/∂y。
(2) ∂f0/∂y=∂ux∂f0γ=kBTm(vx−ux)f0γ で、y=0 では ux=0。f0 の部分は vxvy が奇関数なので Πxy に寄与しない。したがってΠxy=−τγkBTm2∫vx2vy2f0d3p=−τγkBTm2n(mkBT)2=−nkBTτγ。Maxwell 分布では vx と vy が独立で ⟨vx2⟩=⟨vy2⟩=kBT/m であることを使った。η=nkBTτ=Pτ(P は圧力)。
(3) 31nmvˉλ=31nmvˉ2τ=31nm⋅πm8kBTτ=3π8nkBTτ。比は 31nmvˉλ/η=8/(3π)=0.849 で、初等的な見積もりは緩和時間近似の値の約 85% になる。ただし BGK 模型そのものも衝突の項を置き換えたものなので、実際の気体の粘性率とは別に比べる必要がある(剛体球の衝突の項を使った値は 近似の数理 第8章)。(検算 scripts/verify_ch3-08.py)
連続の方程式
流体力学や電磁気学の授業の連続の方程式 ∂ρm/∂t+∇⋅(ρmu)=0、電荷の保存 ∂ρe/∂t+∇⋅J=0 は、3.8.4節の式 (3.8.16) で示したとおり、Boltzmann 方程式を運動量で積分したものである。衝突の項が積分で消えるのは粒子数が衝突不変量だからで、Noether の定理で言えば、電荷の保存は第2部第7章の場の位相の変換(第2部第7章)、粒子数の保存は衝突の前後で粒子の数が変わらないことにあたる。緩和時間近似で f0 の密度を f の密度に合わせておかないと(たとえば f0 を固定した Maxwell 分布にすると)、この保存則が破れる。緩和時間近似を使うときは、f0 が何を保存するように選ばれているかを必ず確かめる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com