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出てくるもの2:衝突不変量と H 定理

2026年10月15日12分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第3部 第8章 Liouville に衝突を足すと Boltzmann 方程式
目次
  1. 衝突不変量
  2. H 定理
  3. Liouville では一定なのに、なぜ増えるか
  4. 大域的な平衡
  5. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部 第8章 §3.8.4 ★★★ 衝突で保たれる量は2体の Noether の保存量と同じ 1,p,∣p∣2/(2m)1,\bm{p},\lvert \bm{p}\rvert ^2/(2m)。1粒子分布のエントロピーは衝突で増え、増えなくなる分布が Maxwell 分布

衝突不変量

衝突の項に関数 ψ(p)\psi(\bm{p}) を掛けて運動量で積分した量を考える。衝突の測度 dμ\mathrm{d}\mu は、粒子1と2の入れ替え、および順の衝突と逆衝突の入れ替え(式 (3.8.12))で変わらない。この2つの入れ替えで積分の変数の名前を付け替えると

∫ψ(p1) C[f](p1) d3p1=14∫dμ  (ψ1+ψ2−ψ1′−ψ2′)(f1′f2′−f1f2)(3.8.14)\int\psi(\bm{p}_1)\,C[f](\bm{p}_1)\,\mathrm{d}^3p_1=\frac14\int\mathrm{d}\mu\;\bigl(\psi_1+\psi_2-\psi_1'-\psi_2'\bigr)\bigl(f_1'f_2'-f_1f_2\bigr)\tag{3.8.14}

を得る(ψ1=ψ(p1)\psi_1=\psi(\bm{p}_1) など)。1と2の入れ替えで ψ1\psi_1 を 12(ψ1+ψ2)\frac12(\psi_1+\psi_2) にでき、順と逆の入れ替えで f1′f2′−f1f2f_1'f_2'-f_1f_2 の符号が変わるので、さらに半分にして ψ′\psi' の項が出る。

ψ1+ψ2=ψ1′+ψ2′\psi_1+\psi_2=\psi_1'+\psi_2' がどの衝突でも成り立つ ψ\psi を衝突不変量と呼ぶ。保存則 (3.8.10) から、

ψ(p)=1,ψ(p)=p,ψ(p)=∣p∣22m(3.8.15)\psi(\bm{p})=1,\qquad \psi(\bm{p})=\bm{p},\qquad \psi(\bm{p})=\frac{\lvert \bm{p}\rvert ^2}{2m}\tag{3.8.15}

とその線形結合は衝突不変量である。逆に、連続な衝突不変量はこの5つの線形結合に限られることが知られている(証明は 近似の数理 第8章)。粒子数の保存は衝突で粒子が消えないこと、運動量とエネルギーの保存は H12H_{12} の並進と時間並進の Noether の保存量である。衝突不変量について式 (3.8.14) は 00 なので、Boltzmann 方程式 (3.8.13) に ψ\psi を掛けて運動量で積分すると、右辺が消えて保存則が残る。たとえば ψ=m\psi=m では、ρm=mn\rho_{\mathrm m}=mn を質量密度、u\bm{u} を流れの速度として

∂ρm∂t+∇⋅(ρmu)=0,nu=∫pmf d3p(3.8.16)\frac{\partial \rho_{\mathrm m}}{\partial t}+\nabla\cdot(\rho_{\mathrm m}\bm{u})=0,\qquad n\bm{u}=\int\frac{\bm{p}}{m}f\,\mathrm{d}^3p\tag{3.8.16}

となる(左辺の F⋅∇pf\bm{F}\cdot\nabla_{\bm{p}}f は運動量の全微分なので積分すると消える)。運動量とエネルギーについても同じ手順で流体の保存則が出る。これらは閉じていない(応力と熱流束という高次のモーメントが現れる)ので、閉じる手続き(Chapman–Enskog 展開)は第V巻に送る。

H 定理

1粒子分布から計算したエントロピーを

SB[f]=−kB∫f[ln⁡(h3f)−1]d3r d3p(3.8.17)S_{\mathrm B}[f]=- k_{\mathrm B}\int f\Bigl[\ln\bigl(h^3f\bigr)-1\Bigr]\mathrm{d}^3r\,\mathrm{d}^3p\tag{3.8.17}

で定義し、Boltzmann のエントロピーと呼ぶ。h3h^3 は対数の中を無次元にするための升目の体積、−1-1 は同じ種類の粒子を区別しない数え方(第1章の 1/N!1/N!)にあたる。一様な Maxwell 分布 (3.8.4) を入れると SB=NkB[52−ln⁡(nλT3)]S_{\mathrm B}=N k_{\mathrm B}\bigl[\frac52-\ln(n\lambda_T^3)\bigr] で、単原子理想気体の Sackur–Tetrode のエントロピーに一致する(例題 3.8.4)。歴史的には −SB/kB-S_{\mathrm B}/ k_{\mathrm B} にあたる量を H と呼んだので、次の定理を H 定理と呼ぶ。この本では H を Hamiltonian に使うので、エントロピーの形で書く。

定理 3.8.2(H 定理 ★★★)

ff が Boltzmann 方程式 (3.8.13) に従い、容器の壁で粒子が鏡のように反射するとき、

dSBdt=kB4∫d3r∫dμ  (f1′f2′−f1f2)ln⁡f1′f2′f1f2 ≥ 0(3.8.18)\frac{\mathrm{d} S_{\mathrm B}}{\mathrm{d} t}=\frac{ k_{\mathrm B}}{4}\int\mathrm{d}^3r\int\mathrm{d}\mu\;\bigl(f_1'f_2'-f_1f_2\bigr)\ln\frac{f_1'f_2'}{f_1f_2}\ \ge\ 0\tag{3.8.18}

である。等号が成り立つのは、各点で ln⁡f\ln f が衝突不変量の線形結合のとき、すなわち ff が局所 Maxwell 分布f=n(r,t)(2πmkBT(r,t))−3/2exp⁡(−∣p−mu(r,t)∣2/(2mkBT(r,t)))f=n(\bm{r},t)\bigl(2\pi m k_{\mathrm B} T(\bm{r},t)\bigr)^{-3/2}\exp\bigl(-\lvert \bm{p}-m\bm{u}(\bm{r},t)\rvert ^2/(2m k_{\mathrm B} T(\bm{r},t))\bigr) のときに限る。

証明

dSBdt=−kB∫ln⁡(h3f) ∂f∂t d3r d3p\frac{\mathrm{d} S_{\mathrm B}}{\mathrm{d} t}=- k_{\mathrm B}\int\ln(h^3f)\,\frac{\partial f}{\partial t}\,\mathrm{d}^3r\,\mathrm{d}^3p(−1-1 の項と ln⁡\ln の微分の項は ∫∂f/∂t=dNdt=0\int\partial f/\partial t=\frac{\mathrm{d} N}{\mathrm{d} t}=0 で消える)。∂f/∂t={H1,f}+C[f]\partial f/\partial t=\{H_1,f\}+C[f] を入れる。{H1,f}\{H_1,f\} の部分は ln⁡(h3f){H1,f}={H1,G(f)}\ln(h^3f)\{H_1,f\}=\{H_1,G(f)\}(G(f)=fln⁡(h3f)−fG(f)=f\ln(h^3f)-f)と書けて、{H1,G}=∇r⋅(−vG)+∇p⋅(∇U G)\{H_1,G\}=\nabla_{\bm{r}}\cdot(-\bm{v}G)+\nabla_{\bm{p}}\cdot(\nabla U\,G) は全微分なので、壁で鏡のように反射する(壁を通る流れが 00)なら積分すると 00 になる。これは第1章の「Gibbs のエントロピーは一定」と同じ計算である(第3部第1章)。残るのは衝突の項で、式 (3.8.14) を ψ=ln⁡(h3f)\psi=\ln(h^3f) で使うと−kB⋅14∫dμ (ln⁡f1+ln⁡f2−ln⁡f1′−ln⁡f2′)(f1′f2′−f1f2)- k_{\mathrm B}\cdot\frac14\int\mathrm{d}\mu\,(\ln f_1+\ln f_2-\ln f_1'-\ln f_2')(f_1'f_2'-f_1f_2) となり、式 (3.8.18) を得る。任意の正の数 x,yx,y について (x−y)ln⁡(x/y)≥0(x-y)\ln(x/y)\ge0 で、等号は x=yx=y に限るので、被積分関数は負にならない。等号は衝突の測度で正の重みを持つすべての衝突で f1′f2′=f1f2f_1'f_2'=f_1f_2、すなわち ln⁡f\ln f が衝突不変量のときで、式 (3.8.15) の線形結合ln⁡f=a+b⋅p−c∣p∣2/(2m)\ln f=a+\bm{b}\cdot\bm{p}-c\lvert \bm{p}\rvert ^2/(2m)(c>0c>0 でないと積分できない)を平方完成すると局所 Maxwell 分布になる。

Liouville では一定なのに、なぜ増えるか

第1章では、NN 粒子の Liouville 方程式に従う ρ\rho の Gibbs のエントロピーが一定であることを示した。同じ力学から作った ff の SBS_{\mathrm B} が増えるのは矛盾に見える。違いは分子的混沌の仮定にある。ff は ρ\rho から2粒子以上の相関を捨てたもので、SBS_{\mathrm B} は「各粒子が独立だとしたときのエントロピー」である。衝突の直後には2粒子の間に相関が生じるが、Boltzmann 方程式は次の衝突の前にその相関を捨てる(衝突の直前に積の形を仮定し直す)。捨てた相関の分だけ SBS_{\mathrm B} は Gibbs のエントロピーより大きく見積もられ、その差が時間とともに増える。エントロピーが増えた分を「捨てた相関の情報量(相互情報量)」として数え直す見方は情報の巻(相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第2部第4章)で扱う。

大域的な平衡

H 定理の等号の条件は衝突の項だけから決まり、局所 Maxwell 分布の nn, u\bm{u}, TT は位置と時刻によってよい。しかし Boltzmann 方程式の定常解であるためには、さらに左辺の {H1,f}\{H_1,f\} も 00 でなければならない。ln⁡f=a(r)+b(r)⋅p−c(r)∣p∣2/(2m)\ln f=a(\bm{r})+\bm{b}(\bm{r})\cdot\bm{p}-c(\bm{r})\lvert \bm{p}\rvert ^2/(2m) を {H1,ln⁡f}=0\{H_1,\ln f\}=0 に入れて p\bm{p} の各次数を比べると、cc は定数(温度が一様)、b\bm{b} は剛体の並進と回転、a=−cU(r)+a=-cU(\bm{r})+定数 となる。容器が静止していれば b=0\bm{b}=0 で、

feq(r,p)∝exp⁡(−βH1(r,p))(3.8.19)f_{\mathrm{eq}}(\bm{r},\bm{p})\propto\exp\bigl(-\beta H_1(\bm{r},\bm{p})\bigr)\tag{3.8.19}

が残る。これは第3章のカノニカル分布 e−βH\mathrm{e}^{-\beta H} を粒子1つの H1H_1 で書いたもの(第3部第3章)で、例題 3.8.2 の気体の柱もこの形である。第1章では「定常な分布は保存量の関数」まで言え、どの関数かは決まらなかった。衝突の項が加わったことで、関数が exp⁡(−βH1)\exp(-\beta H_1) に絞られる。

例題 3.8.4 Sackur–Tetrode のエントロピーとアルゴン ★★

オリジナル

  1. (1) 一様な Maxwell 分布 (3.8.4) を式 (3.8.17) に入れて、SB=NkB[52−ln⁡(nλT3)]S_{\mathrm B}=N k_{\mathrm B}\bigl[\frac52-\ln(n\lambda_T^3)\bigr] を示せ。
  2. (2) アルゴン(m=39.948 um=39.948\,\mathrm u)の理想気体の、T=298.15 KT=298.15\,\mathrm K, P=105 PaP=10^5\,\mathrm{Pa} での1モルあたりのエントロピーを求めよ(R=8.3145 J K−1 mol−1R=8.3145\,\mathrm{J\,K^{-1}\,mol^{-1}})。
解答

(1) ln⁡(h3fM)=ln⁡(nh3(2πmkBT)−3/2)−∣p∣2/(2mkBT)=ln⁡(nλT3)−∣p∣2/(2mkBT)\ln(h^3f_{\mathrm M})=\ln\bigl(nh^3(2\pi m k_{\mathrm B} T)^{-3/2}\bigr)-\lvert \bm{p}\rvert ^2/(2m k_{\mathrm B} T)=\ln(n\lambda_T^3)-\lvert \bm{p}\rvert ^2/(2m k_{\mathrm B} T)。∫fM ∣p∣2/(2mkBT) d3p=n⋅32\int f_{\mathrm M}\,\lvert \bm{p}\rvert ^2/(2m k_{\mathrm B} T)\,\mathrm{d}^3p=n\cdot\frac32(等分配則)なので、∫fM[ln⁡(h3fM)−1] d3p=n[ln⁡(nλT3)−32−1]\int f_{\mathrm M}[\ln(h^3f_{\mathrm M})-1]\,\mathrm{d}^3p=n\bigl[\ln(n\lambda_T^3)-\frac32-1\bigr]。体積 VV を掛け、−kB- k_{\mathrm B} を掛けると SB=NkB[52−ln⁡(nλT3)]S_{\mathrm B}=N k_{\mathrm B}\bigl[\frac52-\ln(n\lambda_T^3)\bigr]。

(2) n=P/(kBT)=2.429×1025 m−3n=P/( k_{\mathrm B} T)=2.429\times10^{25}\,\mathrm{m^{-3}}、λT=h/2πmkBT=1.600×10−11 m\lambda_T=h/\sqrt{2\pi m k_{\mathrm B} T}=1.600\times10^{-11}\,\mathrm m で、nλT3=9.95×10−8n\lambda_T^3=9.95\times10^{-8}、SB/(NkB)=52−ln⁡(9.95×10−8)=18.62S_{\mathrm B}/(N k_{\mathrm B})=\frac52-\ln(9.95\times10^{-8})=18.62。1モルでは 18.62 R=154.8 J K−1 mol−118.62\,R=154.8\,\mathrm{J\,K^{-1}\,mol^{-1}} である。これは第3部第2章の例題 3.2.6 でミクロカノニカルの状態数から出した値(有効数字3桁で 155 J K−1 mol−1155\,\mathrm{J\,K^{-1}\,mol^{-1}})と同じで、ここでは同じ値に Boltzmann のエントロピー SBS_{\mathrm B} という別の道筋で着いた。熱量測定から求めたアルゴンの標準エントロピーは 154.846 J K−1 mol−1154.846\,\mathrm{J\,K^{-1}\,mol^{-1}}(Cox, Wagman, Medvedev(1989)、CODATA Key Values for Thermodynamics、Hemisphere)で、4桁まで一致する。1粒子分布だけから計算したエントロピーが、希薄な単原子気体では実測のエントロピーそのものである。(検算 scripts/verify_ch3-08.py)

ほかの巻では

木下の勉強ステータス

木下はまだこの記事を勉強していません。

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