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出てくるもの(3):Markov 連鎖の H 定理

2026年10月15日8分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第1部 第4章 データ処理不等式と十分統計量
目次
  1. 定常分布に近づく向き
  2. エントロピーが増えるのは定常分布が一様なとき
  3. 単調性は収束を保証しない
  4. 物理への読み替え
  5. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第1部 第4章 §1.4.5 ★★★ 定常分布との相対エントロピーは時間とともに増えない。エントロピーそのものは増えるとは限らない。第二法則の最初の情報的な形

定常分布に近づく向き

状態の集合の上で、1ステップごとに確率行列 WW で遷移する Markov 連鎖を考える。時刻 nn の分布を pnp_n とすると pn+1=Wpnp_{n+1}=Wp_n である。Wπ=πW\pi=\pi を満たす分布 π\pi を定常分布と呼ぶ。

定理 1.4.6(Markov 連鎖の H 定理 ★★★)

π\pi が定常分布なら、任意の初期分布 p0p_0 について

D(pn+1 ∥ π)≤D(pn ∥ π)(n=0,1,2,… ).(1.4.21)D(p_{n+1}\,\|\,\pi)\le D(p_n\,\|\,\pi)\qquad(n=0,1,2,\dots).\tag{1.4.21}

より一般に、2つの初期分布 p0,q0p_0,q_0 から出発した pn=Wnp0p_n=W^np_0, qn=Wnq0q_n=W^nq_0 について D(pn ∥ qn)D(p_n\,\|\,q_n) は nn について増えない。

証明

定理 1.4.1 を pnp_n と qnq_n に当てると D(Wpn ∥ Wqn)≤D(pn ∥ qn)D(Wp_n\,\|\,Wq_n)\le D(p_n\,\|\,q_n)。q0=πq_0=\pi と置けば qn=πq_n=\pi のままなので式 (1.4.21) になる。

証明は定理 1.4.1 の言い直しにすぎない。時間発展を1ステップ進めることは確率的な処理であり、2つの分布(今の分布と定常分布)に同じ処理を当てているので、その違いは減る。定理は詳細つり合い(W(y ∣ x)π(x)=W(x ∣ y)π(y)W(y\,|\,x)\pi(x)=W(x\,|\,y)\pi(y))を仮定していない。

エントロピーが増えるのは定常分布が一様なとき

各行の和も 11 である確率行列(二重確率行列)では一様分布 u(x)=1/Nu(x)=1/N(NN は状態の数)が定常分布になる。このとき

D(p ∥ u)=∑xp(x)ln⁡(Np(x))=ln⁡N−H(p)(1.4.22)D(p\,\|\,u)=\sum_xp(x)\ln\bigl(Np(x)\bigr)=\ln N-H(p)\tag{1.4.22}

なので、式 (1.4.21) は H(pn+1)≥H(pn)H(p_{n+1})\ge H(p_n) と同じになる。「エントロピーは増える」という形の主張は、定常分布が一様な場合に限って D の単調性と一致する。

定常分布が一様でないときは、増えないのは D(pn ∥ π)D(p_n\,\|\,\pi) であって、エントロピー H(pn)H(p_n) は減ることがある。図 1.4.4 は3状態の連鎖

W=(0.900.20.10.8000.20.8),π=(12, 14, 14)(1.4.23)W=\begin{pmatrix}0.9&0&0.2\\0.1&0.8&0\\0&0.2&0.8\end{pmatrix},\qquad \pi=\Bigl(\frac12,\,\frac14,\,\frac14\Bigr)\tag{1.4.23}

で、状態2から出発した場合の2つの量を描いたものである(WW の (y,x)(y,x) 成分が x→yx\to y の遷移確率)。この連鎖は 1→2→3→11\to2\to3\to1 の向きにだけ遷移するので詳細つり合いを満たさない。D(pn ∥ π)D(p_n\,\|\,\pi) は単調に 00 へ減るが、H(pn)H(p_n) は n=5n=5 で定常分布の値 H(π)=32ln⁡2=1.040H(\pi)=\frac32\ln2=1.040 を超え、n=7n=7 で最大になった後は減って H(π)H(\pi) に近づく。定常分布より「広がった」分布を経由するとき、エントロピーは減る向きに動く。

図

図 1.4.4 3状態の連鎖 (1.4.23) を状態2から出発させたときの、定常分布との相対エントロピー(丸)とエントロピー(四角)。どちらも正確な値なので点線。相対エントロピーは定理 1.4.6 のとおり単調に減るが、エントロピーは H(π)H(\pi)(破線)を超えた後に減る

単調性は収束を保証しない

定理 1.4.6 の主張は D(pn ∥ π)D(p_n\,\|\,\pi) が増えないことだけで、00 に近づくことは含まれていない。2状態を毎ステップ必ず入れ替える連鎖 W=(0110)W=\bigl(\begin{smallmatrix}0&1\\1&0\end{smallmatrix}\bigr) では π=(1/2,1/2)\pi=(1/2,1/2) だが、p0=(1,0)p_0=(1,0) から出発すると pnp_n は (1,0)(1,0) と (0,1)(0,1) を交互にとり、D(pn ∥ π)=ln⁡2D(p_n\,\|\,\pi)=\ln2 のまま減らない。WW が置換行列なので処理で失われるものがなく、定理 1.4.1 の等号が成り立ち続ける。pn→πp_n\to\pi を言うには、連鎖がどの状態からどの状態へも行けること(既約)と、戻る時刻の最大公約数が 11 であること(非周期)を別に仮定し、単調性に「等号が続くのは pn=πp_n=\pi のときだけ」という評価を足す必要がある。

物理への読み替え

π\pi が温度 TT の Gibbs 分布 π(x)=e−βE(x)/Z\pi(x)=\mathrm{e}^{-\beta E(x)}/Z(β=1/(kBT)\beta=1/( k_{\mathrm B} T))のとき、

kBT D(p ∥ π)=⟨E⟩p−kBT H(p)−Feq,Feq=−kBTln⁡Zk_{\mathrm B} T\,D(p\,\|\,\pi)=\langle E \rangle _p- k_{\mathrm B} T\,H(p)-F_{\mathrm{eq}},\qquad F_{\mathrm{eq}}=- k_{\mathrm B} T\ln Z

となる。右辺の ⟨E⟩p−kBTH(p)\langle E \rangle _p- k_{\mathrm B} TH(p) は分布 pp に対する非平衡の自由エネルギーで、H 定理は「熱浴に接した系の自由エネルギーは時間とともに減る」という形の第二法則になる。この式の導出と、平衡分布がこの自由エネルギーの最小点であることは 第2部第2章(Gibbs の変分原理)で扱う。物理の系の時間発展そのものはユニタリ(古典なら Liouville の定理で相空間の体積を保つ)で、細かく見ればエントロピーは変わらない。状態を粗く見たときの時間発展が Markov 連鎖で書けるかどうかは、この章の外の問題で、第2部第4章(粗視化と第二法則)と解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第1章 で、情報の側と力学の側から扱う。経路の確率の相対エントロピーとして第二法則を書く形は 第4部第3章 で扱う。

例題 1.4.5 エントロピーが減っても D は減る ★★★

オリジナル2状態の連鎖で、状態1から状態2へ移る確率を a=0.2a=0.2、状態2から状態1へ移る確率を b=0.1b=0.1 とする。

  1. 確率行列 WW と定常分布 π\pi を求めよ。
  2. 初期分布 p0=(1/2, 1/2)p_0=(1/2,\,1/2) から1ステップ進めた p1p_1 を求めよ。
  3. H(p0)H(p_0), H(p1)H(p_1) と D(p0 ∥ π)D(p_0\,\|\,\pi), D(p1 ∥ π)D(p_1\,\|\,\pi) を求め、エントロピーは減るが相対エントロピーも減ることを確かめよ。
  4. 一般に pn−π=(1−a−b)n(p0−π)p_n-\pi=(1-a-b)^n(p_0-\pi) を示し、n→∞n\to\infty で D(pn ∥ π)→0D(p_n\,\|\,\pi)\to0 となることを確かめよ。
解答
  1. W=(1−aba1−b)=(0.80.10.20.9)W=\begin{pmatrix}1-a&b\\a&1-b\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0.8&0.1\\0.2&0.9\end{pmatrix}。Wπ=πW\pi=\pi の1成分目は aπ1=bπ2a\pi_1=b\pi_2 なので π=(b,a)/(a+b)=(1/3, 2/3)\pi=\bigl(b,a\bigr)/(a+b)=(1/3,\,2/3)。
  2. p1=(0.8×0.5+0.1×0.5, 0.2×0.5+0.9×0.5)=(0.45, 0.55)p_1=(0.8\times0.5+0.1\times0.5,\ 0.2\times0.5+0.9\times0.5)=(0.45,\,0.55)。
  3. H(p0)=ln⁡2=0.6931H(p_0)=\ln2=0.6931、H(p1)=−0.45ln⁡0.45−0.55ln⁡0.55=0.6881H(p_1)=-0.45\ln0.45-0.55\ln0.55=0.6881 でエントロピーは減る。一方 D(p0 ∥ π)=0.5ln⁡1.5+0.5ln⁡0.75=0.0589D(p_0\,\|\,\pi)=0.5\ln1.5+0.5\ln0.75=0.0589、D(p1 ∥ π)=0.45ln⁡1.35+0.55ln⁡0.825=0.0292D(p_1\,\|\,\pi)=0.45\ln1.35+0.55\ln0.825=0.0292 で、相対エントロピーは定理 1.4.6 のとおり減る。p0p_0 は一様でエントロピーが最大だが、定常分布 π=(1/3,2/3)\pi=(1/3,2/3) からは離れているので、π\pi に近づく途中でエントロピーは下がる。
  4. 2状態では成分の和が 11 なので1成分目だけ見ればよい。pn+1,1=(1−a)pn,1+b(1−pn,1)p_{n+1,1}=(1-a)p_{n,1}+b(1-p_{n,1}) から π1=b/(a+b)\pi_1=b/(a+b) を引くとpn+1,1−π1=(1−a−b)(pn,1−π1)p_{n+1,1}-\pi_1=(1-a-b)(p_{n,1}-\pi_1)。よって pn−π=(1−a−b)n(p0−π)=0.7n(p0−π)→0p_n-\pi=(1-a-b)^n(p_0-\pi)=0.7^n(p_0-\pi)\to0 で、DD は pp について連続なので D(pn ∥ π)→0D(p_n\,\|\,\pi)\to0。式 (1.4.12) から、nn が大きいとき D(pn ∥ π)D(p_n\,\|\,\pi) は 0.72n=0.49n0.7^{2n}=0.49^n に比例して減る。実際 D(p1 ∥ π)/D(p0 ∥ π)=0.497D(p_1\,\|\,\pi)/D(p_0\,\|\,\pi)=0.497 はすでに 0.490.49 に近い。

ほかの巻では

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