解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第5章 §4.5.6 ★★ トルクの式・球面調和関数の微分方程式・Pauli 行列の導入・Laguerre 多項式による水素原子の解き方を、この章の「生成子と交換関係」の書き方と並べる
学部の授業では、角運動量は次の4つの場面で別々に導入されることが多い。ここではそれぞれをこの章の形と並べる。
第一は力学のトルクの式である。授業では Newton の運動方程式から
dtdL=r×F=:N,F=−∇V(r) ⇒ N=−V′(r)r×rr=0
として、中心力では角運動量が保存すると示す。この章では、同じ式は期待値の式 (4.5.7) として現れ、保存の理由は「H^ が回転で変わらない」(定理 4.5.2)である。トルクが 0 になることと、回転の生成子が H^ と可換であることは、同じ事実の2つの書き方になっている。
第二は球面調和関数である。授業では Laplace 演算子を極座標で書き、角度の部分
L^2=−ℏ2[sinθ1∂θ∂(sinθ∂θ∂)+sin2θ1∂φ2∂2],L^z=−iℏ∂φ∂
の固有関数を変数分離 Y=Θ(θ)eimφ で探し、Θ の方程式(Legendre の陪微分方程式)が θ=0,π で有限な解を持つ条件から l が整数で ∣m∣≤l と結論する。この章では、同じ結論を交換関係だけから出した(定理 4.5.4)。l が整数になる理由は、θ の端の条件でなく φ の一価性、つまり 2π 回転で元に戻ることである。微分方程式を解く代わりに、昇降演算子
L^±=ℏe±iφ(±∂θ∂+icotθ∂φ∂)(4.5.26)
で L^+Yll=0 を解き、L^− を当てて降りれば、Ylm を順に作ることができる。
第三はスピンである。授業では Stern–Gerlach の実験から「電子には2つの値しかとらない内部自由度がある」と述べ、Pauli 行列 (4.5.20) を天下り的に与えることが多い。この章では、回転の生成子の交換関係を満たす最も小さい半整数の組として、定理 4.5.4 の j=21 から Pauli 行列が出てくる。磁気共鳴の授業で使う Bloch 方程式 dtdM=γM×B(緩和を除いた部分)は、式 (4.5.22) の期待値を多数のスピンで足したものである。
第四は水素原子の解き方である。授業では動径の方程式 (4.5.14) を級数で解き、級数が途中で切れる条件から En=−Mκ2/(2ℏ2n2) と n=nr+l+1(nr は動径の節の数)を出し、l によらないことを「偶然の縮退」と呼ぶことがある。この章では、その縮退は Runge–Lenz ベクトルの保存という対称性の結果で、準位の式も対称性から出た(命題 4.5.5)。「偶然」と呼ばれていたものは、回転より大きい4次元の回転の対称性だった、というのがこの章の見方である。
例題 4.5.7 昇降演算子で Y11 から Y10 を作る ★★
オリジナル
- (1) Y∝sinθeiφ が L^+Y=0 と L^zY=ℏY を満たすことを、式 (4.5.26) で確かめよ。
- (2) L^− を当てて Y10 の形を求めよ。
- (3) 単位球面上で規格化した Y11, Y10 を使って、L^−Y11=2ℏY10(式 (4.5.11) の値)となることを確かめよ。位相は Y10 を正にとる。
解答
(1) ∂θ(sinθeiφ)=cosθeiφ、icotθ∂φ(sinθeiφ)=icotθ⋅isinθeiφ=−cosθeiφ で、和が 0。L^z=−iℏ∂φ は eiφ に ℏ を掛ける。
(2) L^−(sinθeiφ)=ℏe−iφ(−cosθeiφ−cosθeiφ)=−2ℏcosθ で、Y10∝cosθ。授業で Legendre の多項式 P1(cosθ)=cosθ として出てくるものと同じである。
(3) ∫02π∫0πsin2θsinθdθdφ=8π/3、∫02π∫0πcos2θsinθdθdφ=4π/3 なので、Y11=−3/(8π)sinθeiφ, Y10=3/(4π)cosθ と規格化できる(Y11 の負号は、L^−Y11 を Y10 の正の倍にするための位相の選び方)。(2) から L^−Y11=−3/(8π)⋅(−2ℏcosθ)=2ℏ3/(8π)cosθ=2ℏ3/(4π)cosθ=2ℏY10。式 (4.5.11) の ℏl(l+1)−m(m−1)=ℏ2−0 と一致する。
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