解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第5章 §4.5.2 ★★★ 「G^ で回して H^ が変わらない」「[G^,H^]=0」「G^ が保存する」の3つが同値であることを示す。古典の Noether の定理(第1部第10・11章)の量子版
古典の命題の復習
第1部第11章では、Hamilton 形式の Noether の定理を次の形にまとめた。相空間の関数 G について、(a)G の生成する変換で H が変わらない、(b){G,H}=0、(c)G が運動の間一定、の3つは同値である。(a)と(b)が同値なのは、G で ϵ だけ動かしたときの H の変化が δH=ϵ{H,G} だからで、(b)と(c)が同値なのは、時間発展が dtdG={G,H} だからである。同じ括弧 {G,H} が、「G で動かしたときの H の変化」と「H で動かしたとき(時間発展)の G の変化」の両方を表している。括弧が反対称であることが、対称性と保存則を結んでいる。
量子力学では、Poisson 括弧を交換子に置き換える規則 {A,B}→[A^,B^]/(iℏ)(第4部第1章)と、Heisenberg 描像の運動方程式 dtdA^H=[A^H,H^]/(iℏ)(第4部第3章)を使って、同じ命題を組み立て直す。
量子の Noether の定理
定理 4.5.2(量子の Noether の定理 ★★★)
G^ をエルミート演算子、U^(α)=e−iαG^/ℏ をそれが生成する変換、H^ を時刻によらない Hamiltonian とする。次の3つは同値である。
- (a) すべての α で U^(α)†H^U^(α)=H^(G^ の生成する変換で H^ が変わらない)。
- (b) [G^,H^]=0。
- (c) Heisenberg 描像の G^H(t)=eiH^t/ℏG^e−iH^t/ℏ が時刻によらず G^ に等しい。
このとき、どの状態についても G^ の期待値は時間で変わらず、さらに G^ を測ったときに各固有値 g が出る確率も時間で変わらない。
証明
(a)と(b):F(α):=U^(α)†H^U^(α) を α で微分すると、dαdU^=−ℏiG^U^ と、G^ と U^ が可換であることから
dαdF=U^†ℏiG^H^U^−U^†H^ℏiG^U^=ℏiU^(α)†[G^,H^]U^(α)
となる。(a)なら F は定数なので α=0 で dαdF=ℏi[G^,H^]=0。逆に(b)なら、すべての α で dαdF=0 なので F(α)=F(0)=H^。
(b)と(c):同じ計算を H^ と G^ の役を入れ替えて行うとdtdG^H(t)=eiH^t/ℏ[G^,H^]e−iH^t/ℏ/(iℏ) となる。(b)ならこれが 0 で、G^H(t)=G^H(0)=G^。逆に(c)なら t=0 で [G^,H^]=0 である。
最後の主張:G^ の固有値 g の固有空間への射影を P^g とする。P^g は G^ の関数(G^ の固有値 g で 1、それ以外で 0 をとる関数)なので、H^ が G^ と可換なら P^g とも可換で、(c)と同じ理由で P^g の期待値、すなわち g が出る確率は時間で変わらない。g= 期待値の場合として ⟨G^⟩ も変わらない。
定理の中の(a)と(b)の同値は、第1部第9章の式 U^†A^U^−A^=ϵ[A^,G^]/(iℏ) を A^=H^ に当てた形をしている。古典の命題との違いは、最後の主張にある。古典力学では保存量は1つの数で、それが変わらないというだけだが、量子力学では測定値は確率的に出るので、「期待値が変わらない」よりも強い「測定値の確率分布が変わらない」を示すことができる。もう1つの違いは、G^ と H^ が可換なら両方の同時固有状態を選べることで、次の2節でこれを使ってエネルギー準位を G^ の固有値で分類する。
角運動量に当てると次のようになる。中心力の H^(式 (4.5.6))は回転対称なので、どの軸 n についても [n⋅L^,H^]=0 で、L^x,L^y,L^z はどれも保存する。軸対称な H^ では、その軸の成分だけが保存する。
3成分は同時に決まらない
古典力学では、中心力の下で角運動量ベクトル L の3成分がすべて一定で、軌道面が決まる。量子力学でも3成分はそれぞれ保存するが、次節で見るように [L^x,L^y]=iℏL^z=0 なので、3成分を同時に確定した値にすることはできない。同時に固有値を持てるのは、L^2=L^x2+L^y2+L^z2 と1つの成分(ふつうは L^z)である。「保存する」と「同時に確定できる」は別の性質で、後者は保存量どうしの交換子で決まる。
トルクの期待値
H^=p^2/(2M)+V(r^) で V が回転対称でないとき、角運動量の期待値がどう変わるかを計算しておく。[L^z,p^2]=0(次節の式 (4.5.9) で p^2 はスカラー)なので、ポテンシャルの項だけが残り、[L^z,V]ψ=−iℏ(x∂yV−y∂xV)ψ から
dtd⟨L^z⟩=iℏ1⟨[L^z,H^]⟩=⟨x(−∂y∂V)−y(−∂x∂V)⟩=⟨(r^×F^)z⟩,F^=−∇V(4.5.7)
を得る。古典の「角運動量の時間変化はトルク」の式の期待値版で、Ehrenfest の定理の角運動量版である。
例題 4.5.2 異方的な振動子の中の角運動量の期待値 ★★
オリジナル平面上の粒子の Hamiltonian を H^=p^2/(2M)+2k(x^2+λ2y^2)(λ>0)とし、ω=k/M と書く。
- (1) [L^z,H^] を求め、λ=1 のときだけ L^z が保存することを確かめよ。
- (2) 時刻 0 の状態を、x と y の波動関数の積 ψ(x,y)=ϕ1(x)ϕ2(y) で、⟨x^⟩=⟨y^⟩=a、⟨p^x⟩=⟨p^y⟩=0 とする。時刻 t の ⟨L^z⟩ を求め、dtd⟨L^z⟩ が (1) の結果と合うことを確かめよ。
- (3) λ=1.2 のとき、ωt=π/2 での ⟨L^z⟩ を Mωa2 を単位にして求めよ。
解答
(1) [L^z,p^2]=0 なので [L^z,H^]=2k[L^z,x^2+λ2y^2]。[L^z,V]=−iℏ(x∂yV−y∂xV) に ∂yV=kλ2y, ∂xV=kx を入れて
[L^z,H^]=−iℏk(λ2−1)x^y^,dtd⟨L^z⟩=k(1−λ2)⟨x^y^⟩.
λ=1 のときだけ 0 になる。第1部第10章で古典の dtdLz=k(1−λ2)xy を2通りに出した例題と同じ形で、量子では xy が期待値 ⟨x^y^⟩ に替わる。
(2) H^=H^x+H^y は x の部分と y の部分の和なので、積の状態は時間がたっても積のままで、⟨x^y^⟩=⟨x^⟩⟨y^⟩、⟨L^z⟩=⟨x^⟩⟨p^y⟩−⟨y^⟩⟨p^x⟩ が成り立つ。調和振動子では期待値が古典の運動方程式に正確に従うので(第4部第3章)、⟨x^⟩=acosωt, ⟨p^x⟩=−Mωasinωt, ⟨y^⟩=acosλωt, ⟨p^y⟩=−Mλωasinλωt である。したがって
⟨L^z⟩(t)=Mωa2(sinωtcosλωt−λcosωtsinλωt).
微分すると sinωtsinλωt の項が打ち消し合い、Mω2a2(1−λ2)cosωtcosλωt=k(1−λ2)⟨x^⟩⟨y^⟩ となって (1) と合う。
(3) ωt=π/2 では sinωt=1, cosωt=0 なので ⟨L^z⟩=Mωa2cos(0.6π)=−0.309Mωa2。はじめ 0 だった角運動量が、x と y の振動数のずれのために負の向きに生じている。
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