解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第11章 §4.11.3 ★★★ Berry 曲率があると {x,y}=Ωn/ℏ。電場の中で E×Ωn の向きに速度の補正(異常速度)が付き、その速度は仕事をしない
運動方程式
式 (4.11.3) に Euler–Lagrange 方程式を当てる。r について:∂L/∂r˙=ℏk−eA(r,t) の時間微分と∂L/∂r=e∇ϕ−e∇(r˙⋅A) を等しいとおき、第2部第2章と同じベクトルの恒等式∇(r˙⋅A)−(r˙⋅∇)A=r˙×(∇×A) を使うと、
ℏk˙=−e(E+r˙×B),E=−∇ϕ−∂t∂A,B=∇×A(4.11.11)
が出る。これは第10章の式と同じである。k について:∂L/∂k˙=ℏAn(k) の時間微分は ℏ(k˙⋅∇k)An、∂L/∂k=ℏr˙+ℏ∇k(k˙⋅An)−∇kεn で、同じ恒等式を k 空間で使うと
r˙=ℏ1∇kεn(k)−k˙×Ωn(k)(4.11.12)
を得る。第2項が Berry 項から出た補正で、異常速度と呼ばれる。式 (4.11.11) の −er˙×B と式 (4.11.12) の −k˙×Ωn は、r と k を入れ替えると同じ形になっている。実空間の磁場が k の変化を曲げるのと同じ形で、k 空間の Berry 曲率が r の変化を曲げる。
括弧
磁場が無い場合(A=0)に命題 4.11.1 を当てる。変数を (r,k) とすると ar=ℏk、ak=ℏAn(k) で、
ωrirj=0,ωrikj=−ℏδij,ωkirj=ℏδij,ωkikj=ℏ(∂ki∂An,j−∂kj∂An,i)=ℏl∑ϵijlΩn,l.
これは例題 4.11.2 の ω で、位置と速度の役割を入れ替えたものである。同じ計算で逆行列をとると
{ri,kj}=ℏδij,{ki,kj}=0,{ri,rj}=ℏ1l∑ϵijlΩn,l(k)(4.11.13)
となる。2次元なら {x,y}=Ωn(k)/ℏ である。Berry 曲率があると、位置の成分どうしが Poisson 括弧の意味で交換しない。第1部第11章で括弧は「一方の量を生成子として他方を動かしたときの変化」だった。{x,y}=0 は、y を生成子にとると x が動くことを意味する。電場 Eey(ϕ=−Ey)のポテンシャルエネルギー −eϕ(r)=eEy は y に比例するので、x˙={x,eEy}=eEΩn/ℏ という x 方向の速度が出る。これが異常速度である。
括弧 (4.11.13) は、正準変数を見つけることでも確かめられる。R:=r−An(k) とおくと
ℏk⋅r˙+ℏk˙⋅An=ℏk⋅(R˙+dtdAn)+ℏk˙⋅An=ℏk⋅R˙+dtd(ℏk⋅An)
なので、(R,ℏk) が Darboux の定理の正準変数である。{Ri,kj}=δij/ℏ、{Ri,Rj}=0 から{ri,rj}={Ri+An,i,Rj+An,j}=ℏ1(∂kiAn,j−∂kjAn,i) となり、式 (4.11.13) に戻る。ただし R は An のゲージを変えると変わるので、観測できる位置ではない。観測できるのは波束の中心 r で、それは正準変数ではない。第10章で (r,ℏk) を正準変数にとったのは、Ωn=0 のときにだけ許される選び方だった。
異常速度の性質
磁場が無いとき、ℏk˙=−eE を式 (4.11.12) に入れると
r˙=ℏ1∇kεn+ℏeE×Ωn(k)(4.11.14)
となる。異常速度 ℏeE×Ωn は電場に垂直なので、電場が電子にする仕事 (−eE)⋅r˙ に寄与しない。磁場の Lorentz 力が仕事をしない(第2部第2章)のと同じ理由で、異常速度による電流はエネルギーを散逸させない。また異常速度は群速度と違ってバンドの傾きによらないので、バンドが平らな所や、すべての状態が詰まったバンドでも残る。この性質が次の節の主題になる。

図 4.11.1 質量のある2次元 Dirac 模型の下のバンドの Berry 曲率(式 (4.11.6)、厳密なので点線)。曲率はギャップが最も狭い k=0 のまわり、半径 M/(ℏv) 程度の円に集まり、中心の値は (ℏv)2/(2M2) である。ギャップを狭めると曲率は高く狭くなるが、全体の流束は π のまま変わらない
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの eEa/εg→0(1格子間隔で電場がする仕事がバンドギャップ εg より十分小さい)、外場が格子間隔に比べてゆっくり変わる | 証明 条件付き(ほかのバンドとギャップで隔たった孤立バンド。Berry 曲率の項までの1次の補正は Panati–Spohn–Teufel(2003)が空間断熱摂動論で導いた。ギャップが閉じると破れる) | 行き先 近似の数理 第7章・近似の数理 第12章
例題 4.11.3 異常速度の大きさを見積もる ★★
オリジナル例題 4.11.1 の模型で v=1.0×106ms−1、M=0.1eV とする(数値は模型のために選んだもので、特定の物質の値ではない)。
- 長さ ℏv/M と、k=0 での Berry 曲率の大きさ ∣Ω(0)∣ を求めよ。
- 上のバンド(伝導帯)の底 k=0 にいる電子に x 方向の電場 E=1.0×104Vm−1 をかけたときの異常速度の大きさと向きを求めよ。
- ℏvk=M の点で、Berry 曲率と群速度はそれぞれ k=0 の値の何倍か。
解答
- ℏv=1.0546×10−34×1.0×106=1.055×10−28Jm=0.658eVnm なので ℏv/M=6.58nm。式 (4.11.6) から ∣Ω(0)∣=21(ℏv/M)2=21.7nm2。格子間隔(0.1〜0.5nm 程度)の2乗に比べて2桁ほど大きい。
- 上のバンドは Ω+=−Ω− なので Ω+(0)=−21.7nm2ez。式 (4.11.14) の第2項はℏeEex×(−∣Ω(0)∣ez)=ℏeE∣Ω(0)∣ey。大きさはℏe=1.519×1015V−1s−1 を使って 1.519×1015×1.0×104×2.17×10−17=329ms−1、向きは +y である。バンドの底では群速度が 0 なので、電場をかけた瞬間の速度は横向きの異常速度だけである。
- Berry 曲率は (1+1)−3/2=0.354 倍になる。群速度は k=0 で 0 だったものが、ℏvk=M では vℏvk/g=v/2=7.07×105ms−1 になる。電子が電場で加速されて k が動くと、群速度が急に大きくなる一方で異常速度は小さくなるので、異常速度が目立つのはギャップの近くの狭い範囲である。
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