解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第11章 §4.11.4 ★★★ 異常速度を占有された状態について足すと σxy=−ℏe2∫(2π)2d2kfΩn。詰まったバンドでは積分が 2π の整数倍(Chern 数)になり、Hall 伝導度が e2/h の整数倍になる
占有された状態の和
2次元の結晶で、バンド n の状態が分布 f(k) で占められているとする。単位面積あたりの状態の数は d2k/(2π)2 なので、電流密度は
j=−e∫BZ(2π)2d2kf(k)r˙
である。磁場が無いとして式 (4.11.14) を入れる。f が平衡分布 f0(εn(k)) なら、群速度の項は∫f0(εn)∇kεnd2k=∫∇kF(εn)d2k(F′=f0)で、周期関数の勾配を Brillouin 域で積分したものなので 0 になる。群速度による普通の電流は、第3部第8章(第3部第8章)の Boltzmann 方程式で f が f0 からずれた分から出る。一方、異常速度の項は f=f0 のままで残り、2次元で Ωn=Ωnez とすると E×ez=(Ey,−Ex) より
jx=σxyEy,jy=σyxEx,σxy=−σyx=−ℏe2∫BZ(2π)2d2kf0(k)Ωn(k)(4.11.15)
を得る。複数のバンドが占められていれば、バンドごとの和をとる。式 (4.11.15) は散乱の緩和時間を含まない。Berry 曲率だけで決まる Hall 伝導度で、異常 Hall 伝導度の内因的な部分と呼ばれる。異常速度が電子の運動に付くことは、強磁性体の Hall 効果を説明するために Karplus と Luttinger が初めて指摘した(R. Karplus and J. M. Luttinger (1954), Phys. Rev. 95, 1154)。
詰まったバンドと Chern 数
Fermi 準位がギャップの中にあり、バンド n がすべて詰まっている(f0=1)とき、式 (4.11.15) の積分は
Cn:=2π1∫BZΩn(k)d2k(4.11.16)
を使って σxy=−Cne2/(2πℏ)=−Cne2/h と書ける。Cn を Chern 数と呼ぶ。
命題 4.11.2(Chern 数は整数)
バンド n がすべての k でほかのバンドとギャップで隔たっているなら、Cn は整数である。
証明の筋
Brillouin 域は kx と ky の両方向に周期的なので、ドーナツの表面(トーラス)と同じく、縁の無い閉じた面である。もし Brillouin 域全体で滑らかで周期的な unk の位相が選べるなら、Stokes の定理で ∫Ωnd2k は境界の線積分になり、向かい合う辺の寄与が打ち消し合って 0 になる。一般にはそのような選び方ができないので、Brillouin 域を2つの領域 D1, D2 に分け、それぞれで滑らかな u(1), u(2) を選ぶ。境界の線 Γ の上で両者は位相だけ違い、u(2)=e−iχ(k)u(1)、したがって A(2)=A(1)+∇kχ である。Stokes の定理を D1, D2 で別々に使うと、Γ を逆向きにたどる2つの線積分の差が残り、
∫BZΩnd2k=∮Γ(A(1)−A(2))⋅dk=−∮Γ∇kχ⋅dk
となる。e−iχ は Γ を一周すると元に戻る1価の関数なので、χ の増分は 2π の整数倍である。よって Cn は整数になる。
例題 4.11.1 の Dirac 模型で全流束が π(C=21)になったのは、k が平面全体に広がっていて閉じた面になっていないためである。格子の模型では Brillouin 域が閉じるので、整数しか許されない。式 (4.11.15) と合わせると、
σxy=−he2n 詰まった∑Cn,he2=3.874×10−5S,e2h=25812.8Ω(4.11.17)
となり、絶縁体の Hall 伝導度は e2/h の整数倍に量子化される。この関係は Thouless・甲元・Nightingale・den Nijs が Kubo 公式から導いた(D. J. Thouless, M. Kohmoto, M. P. Nightingale and M. den Nijs (1982), Phys. Rev. Lett. 49, 405。著者の頭文字から TKNN の式と呼ばれる)。符号は電荷と Berry 接続の流儀で変わるので、ほかの教科書と比べるときは ∣σxy∣=∣C∣e2/h の形で照らし合わせる(この本の流儀)。
格子の模型
具体例として、正方格子(格子定数 a)の2バンド模型
H^(k)=th[sin(kxa)σx+sin(kya)σy+(λ+cos(kxa)+cos(kya))σz](4.11.18)
をとる(X.-L. Qi, Y.-S. Wu and S.-C. Zhang (2006), Phys. Rev. B 74, 085308 にちなみ Qi–Wu–Zhang 模型と呼ばれる)。λ は無次元のパラメータである。H^(k)=g(k)⋅σ の形で、2つのバンドのエネルギーは ±∣g∣、∣g∣=0 となる点でだけギャップが閉じる。sin(kxa)=sin(kya)=0 を満たすのは kxa,kya∈{0,π} の4点で、そこで gz は λ+2、λ(2点)、λ−2 になる。したがってギャップが閉じるのは λ=−2,0,2 だけで、その間では Chern 数は変わらない(整数が連続的に変わることはできないため)。Brillouin 域を 60×60 の格子に区切り、各小正方形の4辺で ⟨u(k)∣u(k+Δk)⟩ の位相を掛け合わせて Berry 位相を足し上げると(T. Fukui, Y. Hatsugai and H. Suzuki (2005), J. Phys. Soc. Jpn. 74, 1674 の方法)、図 4.11.2 の値を得る。

図 4.11.2 Qi–Wu–Zhang 模型 (4.11.18) の下のバンドの Chern 数(点は λ=−3,−1,1,3 で数値計算した値、点線はその間で値が変わらないことを示す)。縦の破線 λ=−2,0,2 でギャップが閉じ、そこでだけ C が跳ぶ。λ=0 では2点で同時に閉じるので跳びは 2
Bloch 振動に付く横ずれ
詰まったバンドの電子1つ1つが何をしているかを、第10章の Bloch 振動で見る。x 方向に一様な電場 E をかけると ℏk˙x=−eE で、kx は周期 TB=2πℏ/(eEa) で Brillouin 域を一周する。x 方向には第10章の Bloch 振動をするが、y 方向の速度は式 (4.11.12) からy˙=ℏ1∂kyεn+k˙xΩn である(k˙×ez=(k˙y,−k˙x) に注意)。1周期で y が進む距離は、第2項について
Δy=∫0TBk˙xΩndt=∫kx0kx0−2π/aΩn(kx,ky)dkx=−∫−π/aπ/aΩn(kx,ky)dkx
である。1本の ky の線ごとには、この値は整数とは限らない。ところが詰まったバンドのすべての ky について平均すると(第1項の ∂kyεn は平均で 0)、
⟨Δy⟩=−2πa∫BZΩnd2k=−Cna(4.11.19)
となる。電子は Bloch 振動の1周期ごとに、平均でちょうど Cn 格子間隔だけ横へずれる(図 4.11.3)。これを電流に直すとjy=−e⋅a21⋅TB−Cna=Cnhe2E で、σyx=Cne2/h=−σxy となり式 (4.11.17) と一致する。Hall 伝導度の量子化は、「Bloch 振動の1周期あたりの横ずれが格子間隔の整数倍になる」と言い換えられる。これは Thouless の量子ポンプ(D. J. Thouless (1983), Phys. Rev. B 27, 6083)と同じ構造である。

図 4.11.3 Qi–Wu–Zhang 模型(λ=1、下のバンドの C=−1)に x 方向の電場 eEa=0.2th をかけたときの、半古典運動 (4.11.12) の数値解(近似なので実線)。ky=0 の電子は群速度の y 成分を持たず、異常速度だけで動く。1周期の横ずれは 0.271a で整数でない。詰まったバンドのすべての ky で平均すると、1周期ごとにちょうど −Ca=a ずつ進む。x 方向には幅 10a の範囲で Bloch 振動をしている
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの E→0 の線形応答(Fermi 準位がギャップの中) | 証明 条件付き(相互作用の無い電子・周期ポテンシャル・ギャップあり。Kubo 公式から Chern 数の式が出ることは TKNN(1982)、整数への量子化はトポロジーの議論で示された〔Avron–Seiler–Simon(1983)ほか〕) | 行き先 近似の数理 第13章
例題 4.11.4 ギャップが閉じる所で Chern 数が跳ぶ ★★★
オリジナルQi–Wu–Zhang 模型 (4.11.18) について次の問いに答えよ。a=1 とおいてよい。
- λ が 2 に近いとき、ギャップが最も狭い点 k=(π,π) のまわりで k=(π,π)+q と書き、H^ を q の1次まで展開せよ。
- 例題 4.11.1 の結果を使い、λ が 2 を下から上へ越えるときの下のバンドの C の変化を求めよ。λ>2 で C=0 であることを使い、0<λ<2 での C を求めよ。
- λ=0 で閉じる2点 (π,0)、(0,π) について同じ計算をし、図 4.11.2 の跳び −2 を説明せよ。
解答
- sin(π+q)=−q+O(q3)、cos(π+q)=−1+O(q2) なので、H^≈th[−qxσx−qyσy+(λ−2)σz]。これは例題 4.11.1 の模型で ℏv=th、M=th(λ−2) とし、(qx,qy) を (−qx,−qy) に置き換えたものである。(qx,qy)→(−qx,−qy) は平面の 180∘ 回転で、向き(右回り・左回り)を変えないので、Berry 曲率の式 (4.11.6) をそのまま使うことができる。
- 点 (π,π) の近くの曲率の流束は、例題 4.11.1 (3) から πsgn(M)=πsgn(λ−2)。λ が 2 をまたぐとき、遠くの点の曲率は滑らかにしか変わらないので、C の変化はこの局所の流束の変化 2π1(π−(−π))=+1 で決まる。λ>2 で C=0 なら、λ がわずかに 2 より小さいとき C=0−1=−1。λ=0 まではギャップが閉じないので、0<λ<2 で C=−1 である(図 4.11.2 と一致)。
- (π,0)+q では sin(π+qx)≈−qx、sinqy≈qy、gz≈λ なので H^≈th[−qxσx+qyσy+λσz]。x だけ符号を変える置き換えは平面の向きを反転させるので、曲率の符号が逆になり、局所の流束は −πsgn(λ)。(0,π) も同じ形で同じ値である。λ が 0 を下から上へ越えると、2点それぞれで 2π1(−π−π)=−1 だけ変わり、合計 −2。−2<λ<0 の C=+1 から 0<λ<2 の C=−1 への跳びと一致する。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com