解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部 第2章 §5.2.5 ★★★ Heisenberg 方程式は Klein–Gordon 方程式そのもの。異なる時刻の交換子は c 数で、空間的に離れた2点では 0 になる。値は古典の Poisson 括弧の i 倍
Heisenberg 方程式
正準交換関係 (5.2.6) と Hamiltonian (5.2.5) から、Heisenberg 方程式 ∂tA=i[H,A] を計算する。[π(y)2,ϕ(x)]=−2iπ(x)δ(3)(x−y) などから
∂tϕ(t,x)=i[H,ϕ(t,x)]=π(t,x),∂tπ(t,x)=i[H,π(t,x)]=∇2ϕ(t,x)−m2ϕ(t,x)(5.2.24)
を得る(第2項の勾配の部分は部分積分で ∇2 に移す)。2つを合わせると、演算子の場 ϕ(x) が Klein–Gordon 方程式 (5.2.2) を満たす。第2部第5章の古典の Hamilton 方程式と同じ形である。第4部第1章で示したとおり、Hamiltonian が正準変数の2次以下なら、交換子の計算は Poisson 括弧の計算と項ごとに一致する。自由な場はその場合に当たり、演算子の運動方程式は古典の運動方程式と同じになる。
異なる時刻の交換子
式 (5.2.16) と [ak,ak′†]=(2π)3δ(3)(k−k′) から、異なる時空点の場の交換子は
[ϕ(x),ϕ(y)]=D(x−y)−D(y−x),D(x)=∫(2π)3d3k2ωk1e−ik⋅x(5.2.25)
となる。D(x) は ⟨0∣ϕ(x)ϕ(0)∣0⟩ に等しく、真空の中で2点の場がどれだけ相関しているかを表す。交換子 (5.2.25) は演算子でなく数(c 数)で、どの状態で期待値をとっても同じ値になる。
空間的に離れた2点
x−y が空間的((x−y)2<0)なら [ϕ(x),ϕ(y)]=0 であることを示す。測度 2ωkd3k と k⋅x が Lorentz 変換で不変なので、D(x) は x2=t2−∣x∣2 と(x が時間的なときは)t の符号だけに依る。x が空間的なら、Lorentz 変換で t=0 の系に移れる。そこでは D(0,x)=∫(2π)3d3k2ωk1eik⋅x が ∣x∣ だけの関数なので D(0,x)=D(0,−x)、すなわち D(x)=D(−x) で、交換子 (5.2.25) は 0 になる。同じ時刻の2点で [ϕ(x),ϕ(y)]=0 だったこと(式 (5.2.6))が、Lorentz 変換によって空間的に離れたすべての2点へ広がる。
互いに交換する2つのエルミート演算子は同時に測ることができ、一方を測っても他方の測定の確率分布は変わらない。したがって、空間的に離れた2点の場の測定は互いに影響しない。光より速く信号を送れないという相対論の要請が、場の量子論では交換子が 0 になるという形で表れる。これを微視的因果律と呼ぶ。
注意しておくと、空間的に離れた2点でも相関 D(x) そのものは 0 でない。t=0 で球座標の積分を実行すると
D(0,r)=4π2r1∫0∞k2+m2ksinkrdk=4π2rmK1(mr),r=∣r∣(5.2.26)
で、K1 は第2種の変形 Bessel 関数である。mr≫1 では K1(x)≈π/(2x)e−x なので、相関は距離 1/m(換算 Compton 波長)の程度で指数関数的に弱まる(図 5.2.2)。真空の揺らぎは空間的に離れた点の間でも相関しているが、その相関を使って信号を送ることはできない。m→0 では D(0,r)=1/(4π2r2) で、r→0 で発散する。5.2.2節で1点の ϕ(x) の揺らぎが発散すると述べたのは、この r→0 の発散のことである。

図 5.2.2 同じ時刻の2点の真空の相関 D(0,r) に 4π2r2 を掛けたもの。m=0 なら 1 のまま一定で、質量があると距離 1/m の程度で指数関数的に弱まる。相関は 0 でないが、交換子 D(x)−D(−x) は空間的に離れた2点で 0 になる
交換子は古典の Poisson 括弧の i 倍
Heisenberg 方程式 (5.2.24) が線形なので、ϕ(x) は時刻 0 の ϕ(0,y) と π(0,y) の線形結合で、その係数は古典の Klein–Gordon 方程式の解と同じ c 数である。したがって [ϕ(x),ϕ(y)] は、古典の場で計算した異なる時刻の Poisson 括弧 {ϕ(x),ϕ(y)} に i を掛けたものに厳密に等しい。古典の側では、この Poisson 括弧は「時刻 y0 に点 y で場を小さく押したとき、時刻 x0 の点 x の場がどれだけ動くか」を表し、遅延 Green 関数 GR(x)((∂μ∂μ+m2)GR=δ(4)(x)、t<0 で 0)と先進 Green 関数 GA(x)=GR(−x) を使って
[ϕ(x),ϕ(0)]=i{ϕ(x),ϕ(0)}=−i(GR(x)−GA(x))(5.2.27)
と書ける。古典の場で、遅延 Green 関数が光円錐の内側(と表面)にしか値を持たないことは「波は光より速く伝わらない」ことで、量子の微視的因果律はその古典の性質を交換子に移したものである。次の例題で、1次元の弦(第2部第4章)に当たる場合を確かめる。
例題 5.2.5 1+1 次元の質量 0 の場の交換子 ★★★
オリジナル空間1次元・質量 0 の場 ϕ(t,x)=∫2πdk2∣k∣1(ake−i(∣k∣t−kx)+ak†ei(∣k∣t−kx))、[ak,ak′†]=2πδ(k−k′) を考える(第2部第4章の弦で v=1 としたもの)。
- (1) [ϕ(t,x),ϕ(0,0)]=−4i[sgn(t−x)+sgn(t+x)] を示せ。∫0∞ksinkadk=2πsgna を使ってよい。
- (2) (1) を光円錐の内側(∣x∣<∣t∣)と外側(∣x∣>∣t∣)に分けて書け。
- (3) 古典の弦では、時刻 0 の ϕ0(x), π0(x) から d'Alembert の解 ϕ(t,x)=21[ϕ0(x−t)+ϕ0(x+t)]+21∫x−tx+tπ0(y)dy が決まる。{π0(y),ϕ0(0)}=−δ(y) を使って t>0 の {ϕ(t,x),ϕ0(0)} を求め、(1) の i 倍と比べよ。
解答
(1) 交換子 [ak,ak′†] だけが残るので
[ϕ(t,x),ϕ(0,0)]=∫2πdk2∣k∣1(e−i(∣k∣t−kx)−ei(∣k∣t−kx))=−i∫−∞∞2πdk∣k∣sin(∣k∣t−kx).
k>0 の部分は sin(k(t−x))/k、k<0 の部分は k→−k で sin(k(t+x))/k になるので−2πi⋅2π[sgn(t−x)+sgn(t+x)]=−4i[sgn(t−x)+sgn(t+x)]。
(2) ∣x∣<∣t∣ なら t−x と t+x はどちらも t と同じ符号なので、交換子は −2isgnt。∣x∣>∣t∣ なら t−x と t+x の符号が逆なので 0。まとめて [ϕ(t,x),ϕ(0,0)]=−2isgn(t)θ(t2−x2) で、光円錐の外では 0、内側では大きさ 21 の一定値になる(図 5.2.3)。質量のある3次元の場と違い、1+1 次元の質量 0 の場では光円錐の内側の値が距離によらない。
(3) ϕ0(x∓t) の項は ϕ0(0) と Poisson 括弧が 0 なので、残るのは π0 の積分の項だけである。
{ϕ(t,x),ϕ0(0)}=21∫x−tx+t{π0(y),ϕ0(0)}dy=−21∫x−tx+tδ(y)dy=−21θ(t−∣x∣)(t>0).
i を掛けると −2iθ(t−∣x∣) で、(2) の t>0 の場合と一致する。古典の弦で「時刻 0 に原点で弦を押すと、その影響は速さ 1 で左右に広がる」ことが、量子の交換子の値と符号をそのまま決めている。1+1 次元の波動方程式の遅延 Green 関数は GR=21θ(t−∣x∣) なので、式 (5.2.27) の形とも一致する。

図 5.2.3 1+1 次元の質量 0 の場の交換子 [ϕ(t,x),ϕ(0,0)] の値(例題 5.2.5)。原点と空間的に離れた点では 0 で、未来の光円錐の内側で −i/2、過去の光円錐の内側で +i/2 になる
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