解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部 第2章 §5.2.4 ★★★ ak† を真空に当てるとエネルギー ωk・運動量 k の粒子が1つでき、粒子は自動的に Bose 統計に従う。自由度が無限なので、真空の選び方は1つでない
真空と1粒子の状態
すべての k について ak∣0⟩=0 を満たす規格化された状態 ∣0⟩ を真空と呼ぶ。式 (5.2.18) から H∣0⟩=0、式 (5.2.19) から P∣0⟩=0 で、真空はエネルギーも運動量も持たない。各モードが調和振動子の基底状態にある状態である。真空に生成演算子を1つ当てた
∣k⟩=2ωkak†∣0⟩(5.2.20)
を考える。[H,ak†]=ωkak†、[P,ak†]=kak† から
H∣k⟩=ωk∣k⟩,P∣k⟩=k∣k⟩,ωk2−∣k∣2=m2(5.2.21)
である。エネルギー E=ωk と運動量 p=k が静止質量 m の粒子の関係を満たす。古典の場では「平面波の角振動数と波数の関係」だった式 (5.2.3) が、量子化によって「1つの量子が持つエネルギーと運動量の関係」に読み替わった。場の量子を粒子と呼ぶのはこのためで、粒子は場とは別に持ち込んだものでなく、場の調和振動子の励起の1単位である。
式 (5.2.20) の係数 2ωk は内積を⟨k∣k′⟩=2ωk(2π)3δ(3)(k−k′) にするために付けた。2ωkd3k は Lorentz 変換で不変な測度で(∫dk0δ(k2−m2)θ(k0)=1/(2ωk) を d4k と掛けたもの)、この規格化はどの慣性系でも同じ形になる。
多粒子の状態と Bose 統計
生成演算子を2つ当てた ak1†ak2†∣0⟩ はエネルギー ωk1+ωk2、運動量 k1+k2 を持つ2粒子の状態である。[ak1†,ak2†]=0 なので、2つの生成演算子の順序を入れ替えても状態は変わらない。
ak1†ak2†∣0⟩=ak2†ak1†∣0⟩.
2つの粒子を入れ替えて符号も変わらないので、この粒子は Bose 統計に従う。多粒子の量子力学では、同種粒子の波動関数の対称性を別の公準として要請したが、場の量子化では交換子 [⋅,⋅] を選んだ時点で対称性が決まっている。さらに、同じモードに何個でも粒子を入れられ、n!1(ak(V)†)n∣0⟩ が n 個の粒子が同じ k に入った規格化された状態になる(第4部第4章の ∣n⟩=(a^†)n∣0⟩/n! そのもの)。
箱の中では、モードごとの占有数 {nk} を並べた状態∏knk!1(ak(V)†)nk∣0⟩(nk のうち 0 でないものは有限個)が正規直交系をなす。これらの有限個の線形結合とその極限からなる空間を Fock 空間と呼び、F と書く。粒子数演算子N=∑kak(V)†ak(V) は H と交換するので、自由な場では粒子数は保存する。相互作用を足すと H に a†a†a のような項が入り、粒子数は保存しなくなる。それが場の量子論で粒子が生まれたり消えたりすることの形式上の中身である。
真空は1つでない
第4部第1章の Stone–von Neumann の定理は、自由度が有限なら交換関係の既約な表示がユニタリ同値を除いて1つしかないことを保証した。その定理は自由度が無限の場には当てはまらない。このことを、質量の違う2つの真空で確かめる。
時刻 t=0 の場の演算子 ϕ(x), π(x) は同じまま、質量 m を m′ に変えた Hamiltonian を考える。式 (5.2.10) で ωk をωk′=∣k∣2+m′2 に変えたものが新しい消滅演算子 ak′(V) で、式 (5.2.11) を入れると
ak′(V)=ukak(V)+vka−k(V)†,uk=2ωkωk′ωk′+ωk,vk=2ωkωk′ωk′−ωk(5.2.22)
となる。uk2−vk2=1 が成り立ち、新しい演算子も [a′,a′†]=1 を満たす。このように生成演算子と消滅演算子を混ぜる線形変換を Bogoliubov 変換と呼ぶ。新しい真空 ∣0′⟩(ak′∣0′⟩=0)の中の、古い粒子の数の期待値は
⟨0′∣ak(V)†ak(V)∣0′⟩=vk2,⟨0′∣N∣0′⟩=k∑vk2=V∫(2π)3d3kvk2(5.2.23)
である(a=ua′−va−k′† と逆に解いて計算する)。大きな ∣k∣ で vk≈(m′2−m2)/(4∣k∣2) なので積分は収束し、古い粒子の数は体積 V に比例する。V→∞ では ∣0′⟩ は古い粒子を無限個含み、古い Fock 空間 F のどの状態(粒子数が有限の状態の線形結合)とも直交する。∣0′⟩ から作った Fock 空間と F は、同じ交換関係 (5.2.6) の表示でありながら、互いにユニタリ変換で移り合わない。
有限自由度では、どの表示を選んでも同じ物理になった。場では、真空(Fock 空間の土台)の選び方そのものが物理の内容を持つ。加速する観測者と慣性系の観測者で真空が違って見えること(Unruh 効果)は、この事実の物理的な帰結で、第5部第12章で同じ Bogoliubov 変換を使って扱う。
例題 5.2.4 質量の違う2つの真空の重なり ★★
オリジナル
- (1) 1自由度の振動子 H=21(p2+ω2q2) の基底状態 ψω(q)=(ω/π)1/4e−ωq2/2 について、⟨0ω∣0ω′⟩=(4ωω′/(ω+ω′)2)1/4 を示せ。
- (2) 箱の中の場で、ln⟨0∣0′⟩=41∑kln(ωk+ωk′)24ωkωk′ を示せ。
- (3) V→∞ で ln⟨0∣0′⟩=−fV と書いたときの f を、m′=2m について m3 の単位で数値で求めよ。V=106/m3(一辺が 1/m の100倍の立方体)のとき ⟨0∣0′⟩ はいくらか。
解答
(1) Gauss 積分 ∫e−(ω+ω′)q2/2dq=2π/(ω+ω′) から⟨0ω∣0ω′⟩=(ωω′)1/4π−1/22π/(ω+ω′)=(4ωω′/(ω+ω′)2)1/4。相加相乗平均の不等式から 4ωω′≤(ω+ω′)2 なので、重なりは 1 以下で、ω=ω′ のときだけ 1 になる。
(2) 時刻 0 の場 ϕk は2つの真空で共通の変数で、どちらの真空もモードごとの Gauss 関数の積である。複素数の ϕk は ϕ−k=ϕk∗ なので、k と −k の組が実の自由度2つ(実部と虚部)を持ち、組ごとに (1) の因子が2つ掛かる。組の数はモードの数の半分なので、モード1つあたり (1) の因子の 1/2 乗、すなわち (4ωω′/(ω+ω′)2)1/4 が掛かる。対数をとって与式を得る。
(3) V→∞ で和を積分に置き換えると
f=−41∫(2π)3d3kln(ωk+ωk′)24ωkωk′=−8π21∫0∞k2ln(ωk+ωk′)24ωkωk′dk.
大きな k では ω′−ω≈(m′2−m2)/(2k) なので ln(⋯)≈−(ω′−ω)2/(4k2) で、被積分関数は (m′2−m2)2/(128π2k2) のように減り、積分は収束する(図 5.2.1)。m′=2m で数値積分すると f=3.65×10−3m3。V=106/m3 では fV=3652 で、⟨0∣0′⟩=e−3652。モード1つあたりの重なりは 1 に近いが、モードの数が体積に比例して増えるので、積は指数関数的に 0 に向かう。

図 5.2.1 質量 m と m′=2m の真空の重なりの対数 −ln⟨0∣0′⟩/V を波数で分けたもの(例題 5.2.4)。曲線の下の面積が f=3.65×10−3m3。大きな k で k−2 のように減るので面積は有限だが、体積 V を掛けた fV は V→∞ で発散する
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com