解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部 第4章 §5.4.2 ★★★ 位相の対称性の Noether の流れ jμ=i(ϕ∗∂μϕ−ϕ∂μϕ∗) は保存するが、j0 は正にも負にもなる。確率密度にはならない
位相の対称性の流れ
第2部第7章の場の Noether の定理は、L が場の無限小変換 δϕ=ϵK で変わらないとき、流れ jμ=∑∂L/∂(∂μϕa)Ka が ∂μjμ=0 を満たすことを述べる。位相の取り替えの無限小形は δϕ=−iϵϕ、δϕ∗=iϵϕ∗ である。∂LKG/∂(∂μϕ)=∂μϕ∗、∂LKG/∂(∂μϕ∗)=∂μϕ なので、全体の符号を正の振動数で j0>0 となるように選ぶと
jμ=i(ϕ∗∂μϕ−ϕ∂μϕ∗),∂μjμ=0(5.4.7)
である。保存は式 (5.4.3) を使って直接確かめることもできる。∂μjμ=i(ϕ∗□ϕ−ϕ□ϕ∗)=i(−m2ϕ∗ϕ+m2ϕϕ∗)=0 である。
成分で書くと
j0=i(ϕ∗∂tϕ−ϕ∂tϕ∗),j=−i(ϕ∗∇ϕ−ϕ∇ϕ∗)(5.4.8)
である。j は Schrödinger 方程式の確率の流れ 2mi1(ψ∗∇ψ−ψ∇ψ∗) の 2m 倍と同じ形をしている。違いは j0 で、Schrödinger 方程式では ∣ψ∣2 だったものが、時間微分を含む式になっている。
平面波 ϕ=Ne−i(Et−p⋅x) を入れると ∂tϕ=−iEϕ なので
j0=2E∣N∣2(5.4.9)
になる。E=+ωp なら正、E=−ωp なら負である。したがって j0 は確率密度として読むことができない。
Lorentz 不変性がこの形を強いる理由
j0 に時間微分が入るのは偶然ではない。保存則 ∂μjμ=0 が座標系によらず成り立つためには、jμ は4元ベクトルでなければならない。ϕ がスカラーの場の場合、ϕ と ϕ∗ から微分なしで作ることができるのはスカラー ϕ∗ϕ だけで、4元ベクトルの添字 μ を持たせるには∂μ を1つ入れるしかない。その第0成分は必ず ∂t を含み、∂tϕ は ϕ と独立に与えることができる初期条件なので、j0 の符号を決めることはできない。Schrödinger 方程式の ∣ψ∣2 が密度になったのは、Galilei 変換では ∣ψ∣2 がそのまま密度として変換されるからで、Lorentz 変換ではこの組み立てが通らない。
エネルギーは正、電荷は正負
同じ LKG の時間並進の Noether の保存量(第2部第7章のエネルギー運動量テンソルの T00)を計算すると、π=∂L/∂(∂tϕ)=∂tϕ∗、π∗=∂tϕ として
T00=π∂tϕ+π∗∂tϕ∗−LKG=∣∂tϕ∣2+∣∇ϕ∣2+m2∣ϕ∣2 ≥0(5.4.10)
である。場のエネルギーは正だが、位相の対称性の保存量 Q=∫j0d3x は正にも負にもなる。この組み合わせは、Q を確率でなく電荷として読めば矛盾しない。電荷は正にも負にもなる量だからである。複素場に電磁場を結合させると(5.4.4節)、qjμ が電流になる。次の例題で、正と負の振動数の重ね合わせについてこの2つを計算する。
例題 5.4.2 正と負の振動数を混ぜた一様な解 ★★★
オリジナル体積 V の箱の中で、空間に一様な解 ϕ(t)=ae−imt+beimt(a,b は複素定数)を考える。
- (1) これが式 (5.4.3) を満たすことを確かめよ。
- (2) Q=∫j0d3x を求め、時刻によらないことを確かめよ。
- (3) エネルギー ∫T00d3x を求めよ。
- (4) ∣a∣=∣b∣ のとき Q と j0 の時間変化について何が言えるかを述べよ。
解答
(1) ∇ϕ=0、∂t2ϕ=−m2ϕ なので (□+m2)ϕ=−m2ϕ+m2ϕ=0。
(2) ∂tϕ=−im(ae−imt−beimt) を式 (5.4.8) に入れると
j0=m[(a∗eimt+b∗e−imt)(ae−imt−beimt)+c.c.]=m[∣a∣2−∣b∣2−a∗be2imt+ab∗e−2imt+c.c.].
z:=ab∗e−2imt とおくと括弧の中の交差項は z−z∗ で純虚数なので、複素共役を足すと消える。したがってj0=2m(∣a∣2−∣b∣2)、Q=2mV(∣a∣2−∣b∣2) で、時刻によらない。
(3) ∣∂tϕ∣2=m2∣ae−imt−beimt∣2、m2∣ϕ∣2=m2∣ae−imt+beimt∣2 で、交差項は互いに打ち消し合う。したがって ∫T00d3x=2m2V(∣a∣2+∣b∣2) で、正である。
(4) ∣a∣=∣b∣ なら Q=0 で、密度 j0 も各点で 0 になる。それでもエネルギーは 4m2V∣a∣2>0 である。確率として読むと「粒子がどこにもいないのにエネルギーがある」ことになり、電荷として読むと「正の電荷と負の電荷が同じだけある」ことになる。後者の読み方が、5.4.5節で場を量子化したときの粒子と反粒子の数え方につながる。
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