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出てくるもの (3):1粒子の理論では足りない理由

2026年10月15日12分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第5部 第4章 相対論的量子力学
目次
  1. 速度の演算子と Zitterbewegung
  2. Klein の段
  3. 負のエネルギーの解をどう読むか
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部 第4章 §5.4.5 ★★★ 負のエネルギーの解は消せず、速度の固有値は ±1\pm1、高い段は粒子を通す。解を場として量子化し、粒子と反粒子を数えると整合する

速度の演算子と Zitterbewegung

第4部第3章の Heisenberg の式 dAdt=i[H, A]\frac{\mathrm{d} A}{\mathrm{d} t}=\mathrm{i}\left[H,\,A\right] を、自由な Dirac 粒子の位置に当てる。[HD, xi]=αi[pi, xi]=−iαi\left[H_{\mathrm D},\,x_i\right]=\alpha_i\left[p_i,\,x_i\right]=-\mathrm{i}\alpha_i なので

dxdt=α(5.4.27)\frac{\mathrm{d} \bm{x}}{\mathrm{d} t}=\bm{\alpha}\tag{5.4.27}

である。非相対論の dxdt=p/m\frac{\mathrm{d} \bm{x}}{\mathrm{d} t}=\bm{p}/m と違い、速度の演算子は運動量によらない行列で、その各成分の固有値は ±1\pm1、つまり光の速さである。また αx\alpha_x と αy\alpha_y は交換しないので、速度の2成分を同時に確定させることもできない。

α\bm{\alpha} 自身の時間変化は、{HD,αi}+=2pi\{H_{\mathrm D},\alpha_i\}_{+}=2p_i を使って

dαidt=i[HD, αi]=i({HD,αi}+−2αiHD)=2i (pi−αiHD)\frac{\mathrm{d} \alpha_i}{\mathrm{d} t}=\mathrm{i}\left[H_{\mathrm D},\,\alpha_i\right]=\mathrm{i}\bigl(\{H_{\mathrm D},\alpha_i\}_{+}-2\alpha_iH_{\mathrm D}\bigr)=2\mathrm{i}\,(p_i-\alpha_iH_{\mathrm D})

である。ηi(t)≔αi(t)−piHD−1\eta_i(t)\coloneqq\alpha_i(t)-p_iH_{\mathrm D}^{-1} とおくと(pip_i と HDH_{\mathrm D} は保存量)dηidt=−2i ηiHD\frac{\mathrm{d} \eta_i}{\mathrm{d} t}=-2\mathrm{i}\,\eta_iH_{\mathrm D} なのでηi(t)=ηi(0)e−2iHDt\eta_i(t)=\eta_i(0)\mathrm{e}^{-2\mathrm{i} H_{\mathrm D}t} で、これを積分すると

xi(t)=xi(0)+piHD−1t+i2 ηi(0)(e−2iHDt−1)HD−1(5.4.28)x_i(t)=x_i(0)+p_iH_{\mathrm D}^{-1}t+\frac{\mathrm{i}}{2}\,\eta_i(0)\bigl(\mathrm{e}^{-2\mathrm{i} H_{\mathrm D}t}-1\bigr)H_{\mathrm D}^{-1}\tag{5.4.28}

になる。第2項は群速度 p/E\bm{p}/E の等速運動で、古典の相対論的粒子(第2部第3章)と同じである。第3項は角振動数 2∣E∣≥2m2\lvert E\rvert \ge2m の振動で、振幅は 1/(2∣E∣)≤1/(2m)1/(2\lvert E\rvert )\le1/(2m) の程度である。{HD,ηi(0)}+={HD,αi}+−2pi=0\{H_{\mathrm D},\eta_i(0)\}_{+}=\{H_{\mathrm D},\alpha_i\}_{+}-2p_i=0 なので、ηi(0)\eta_i(0) は正のエネルギーの状態を負のエネルギーの状態へ移す。したがってこの振動は、正のエネルギーの成分と負のエネルギーの成分の干渉で、正のエネルギーの成分だけでできた波束では消える。この振動を Zitterbewegung(震える運動)と呼ぶ。SI に戻すと、電子の振動の角振動数は 2mc2/ℏ=1.55×1021 s−12mc^2/\hbar=1.55\times10^{21}\,\mathrm{s^{-1}}、振幅は ℏ/(2mc)=1.93×10−13 m\hbar/(2mc)=1.93\times10^{-13}\,\mathrm m である。

ここから読み取ることができるのは、電子を Compton 波長 ℏ/(mc)\hbar/(mc) より狭い範囲に閉じ込めようとすると、負のエネルギーの成分が必ず混ざるということである。Compton 波長より細かい位置の波束は、∣p∣≳m\lvert \bm{p}\rvert \gtrsim m の成分を含み、その範囲の平面波で正の枝だけを使って局在した関数を作ることはできない。1粒子の位置という概念は、この長さより下では意味を失う。

Klein の段

z<0z<0 で V=0V=0、z>0z>0 で V=V0>0V=V_0>0 の段に、左から E>mE>m の電子がスピンを zz の向きに揃えて入射する場合を考える。式 (5.4.18) の形から、各領域の平面波は (1,0,b,0)Teikz(1,0,b,0)^{\mathsf T}\mathrm{e}^{\mathrm{i} kz} で、b=k/(E−V+m)b=k/(E-V+m)、k2=(E−V)2−m2k^2=(E-V)^2-m^2 である。左の領域の運動量を p=E2−m2p=\sqrt{E^2-m^2}、右の領域の波数を p′p' とし、入射波・反射波・透過波の振幅を 11、rr、tt とおく。Dirac 方程式は1階なので、段の上で ψ\psi が連続であればよい。第1成分と第3成分の連続から

1+r=t,pE+m(1−r)=p′E−V0+m t1+r=t,\qquad \frac{p}{E+m}(1-r)=\frac{p'}{E-V_0+m}\,t

で、κ≔p′p⋅E+mE−V0+m\kappa\coloneqq\dfrac{p'}{p}\cdot\dfrac{E+m}{E-V_0+m} とおくと r=1−κ1+κr=\dfrac{1-\kappa}{1+\kappa}、t=21+κt=\dfrac{2}{1+\kappa} である。流れ jz=ψ†αzψj_z=\psi^\dagger\alpha_z\psi は (a,0,b,0)(a,0,b,0) の形の状態で 2Re⁡(a∗b)2\operatorname{Re}(a^*b) なので、反射率と透過率は

R=(1−κ1+κ)2,T=4κ(1+κ)2,R+T=1(5.4.29)R=\Bigl(\frac{1-\kappa}{1+\kappa}\Bigr)^{2},\qquad T=\frac{4\kappa}{(1+\kappa)^2},\qquad R+T=1\tag{5.4.29}

になる。κ\kappa の値は V0V_0 によって3つの場合に分かれる。

V0<E−mV_0<E-m では p′p' は実数で、通常の段の透過と同じである。E−m<V0<E+mE-m<V_0<E+m では (E−V0)2<m2(E-V_0)^2<m^2 で p′p' は虚数になり、右の領域の波は減衰し、R=1R=1、T=0T=0 である。ここまでは非相対論の段と同じ振る舞いである。ところが V0>E+mV_0>E+m になると (E−V0)2>m2(E-V_0)^2>m^2 で p′p' はふたたび実数になる。右の領域の運動エネルギー E−V0E-V_0 は −m-m より小さく、図 5.4.1 の下の枝に当たる。下の枝の群速度 dEdp′=p′/(E−V0)\frac{\mathrm{d} E}{\mathrm{d} p'}=p'/(E-V_0) が正(右へ進む)になるようにp′<0p'<0 を選ぶと、E−V0+m<0E-V_0+m<0 と合わせて κ>0\kappa>0 になる。したがって T>0T>0 で、段がどれだけ高くても粒子は通り抜ける。V0→∞V_0\to\infty では κ→(E+m)/(E−m)\kappa\to\sqrt{(E+m)/(E-m)} で、TT は 00 にならない(図 5.4.3)。非相対論の量子力学では、段が高くなるほど透過は指数関数的に小さくなる。これを Klein の逆説と呼ぶ1O. Klein (1929), Zeitschrift für Physik 53, 157–165。p′p' の符号を群速度でなく位相速度で選ぶと R>1R>1、T<0T<0 が出て、文献ではこちらを Klein の逆説と呼ぶこともある。下の脚注へ。

図

図 5.4.3 E=2mE=2m の Dirac 粒子が高さ V0V_0 の段を通る透過率 TT(式 (5.4.29)、厳密、点線)。E−m<V0<E+mE-m<V_0<E+m の帯では透過しないが、V0>E+mV_0>E+m でふたたび透過し、V0→∞V_0\to\infty で 43/(1+3)2=0.9284\sqrt3/(1+\sqrt3)^2=0.928 に近づく

右の領域へ透過したのは、下の枝の状態、つまり負の運動エネルギーの状態である。1粒子の理論の中では、これを解釈する手段が無い。場の理論では、強いポテンシャルの段が真空から粒子と反粒子の対を作り、反粒子が右へ、粒子が左へ流れると読む。そのために要るポテンシャルの差は 2m2m 程度で、それが Compton 波長 1/m1/m ほどの距離で変わる必要がある。電場の強さに直すと m2/em^2/e、SI でEc=m2c3/(eℏ)=1.32×1018 V/mE_{\mathrm c}=m^2c^3/(e\hbar)=1.32\times10^{18}\,\mathrm{V/m} である。段を滑らかにして幅を広げると、透過は指数関数的に小さくなり、この強さが目安になる。

負のエネルギーの解をどう読むか

負のエネルギーの解がある限り、外場や放射との結合があれば、正のエネルギーの電子は光を出して下の枝へ際限なく落ちていくはずである。Dirac は、真空では負のエネルギーの状態がすべて電子で埋まっていて、Pauli の排他原理により正のエネルギーの電子は下へ落ちることができない、と考えた。埋まった海に開いた穴は、電荷 +e+e・正のエネルギーの粒子としてふるまう。この粒子(陽電子)は宇宙線の中に見つかった2C. D. Anderson (1933), Physical Review 43, 491–494.下の脚注へ。

ただしこの読み方は、もはや1粒子の理論ではない。無限個の電子で埋まった状態を基準にし、そこからの粒子と穴の数を数えているからである。また Klein–Gordon の粒子のように排他原理に従わない粒子には、海を埋める読み方を使うことができない。どちらにも通用するのは、ψ\psi や ϕ\phi を波動関数でなく場として扱い、第5部第2章の場の正準量子化を当てる読み方である。複素の Klein–Gordon 場を平面波で展開すると

ϕ(x)=∫d3p(2π)312ωp(ap e−ip⋅x+bp† eip⋅x)(5.4.30)\phi(x)=\int\frac{\mathrm{d}^3p}{(2\pi)^3}\frac{1}{\sqrt{2\omega_{\bm{p}}}}\Bigl(a_{\bm{p}}\,\mathrm{e}^{-\mathrm{i} p\cdot x}+b_{\bm{p}}^\dagger\,\mathrm{e}^{\mathrm{i} p\cdot x}\Bigr)\tag{5.4.30}

で、負の振動数の係数は、正の振動数の係数とは別の演算子 b†b^\dagger になる。[ap, ap′†]=[bp, bp′†]=(2π)3δ(3)(p−p′)\left[a_{\bm{p}},\,a_{\bm{p}'}^\dagger\right]=\left[b_{\bm{p}},\,b_{\bm{p}'}^\dagger\right]=(2\pi)^3\delta^{(3)}(\bm{p}-\bm{p}') として正規順序をとると、エネルギーと電荷は

H=∫d3p(2π)3 ωp(ap†ap+bp†bp),Q=∫d3p(2π)3 (ap†ap−bp†bp)(5.4.31)H=\int\frac{\mathrm{d}^3p}{(2\pi)^3}\,\omega_{\bm{p}}\bigl(a_{\bm{p}}^\dagger a_{\bm{p}}+b_{\bm{p}}^\dagger b_{\bm{p}}\bigr),\qquad Q=\int\frac{\mathrm{d}^3p}{(2\pi)^3}\,\bigl(a_{\bm{p}}^\dagger a_{\bm{p}}-b_{\bm{p}}^\dagger b_{\bm{p}}\bigr)\tag{5.4.31}

になる。エネルギーは aa の粒子と bb の粒子の両方について正で、電荷は aa の数から bb の数を引いたものである。例題 5.4.2 の「正の電荷と負の電荷が同じだけある」状態は、粒子と反粒子が同じ数ある状態として読み直される。5.4.2節で j0j^0 が正にも負にもなったのは、それが確率でなく粒子数の差に比例する電荷だったからである。Dirac 場では bb と dd の演算子に反交換関係を課すと、同じ形でエネルギーが正になり、電荷は電子の数から陽電子の数を引いたものになる(第5部第5章で電磁場とともに扱う)。粒子の数は保存しないので、1粒子の波動関数の理論で閉じないのは当然である。

例題 5.4.5 E=2mE=2m の電子と高さ 5m5m の段 ★★★

オリジナル式 (5.4.29) の設定で E=2mE=2m とする。

  1. (1) V0=5mV_0=5m のとき pp、p′p'、κ\kappa、RR、TT を求めよ。
  2. (2) V0=2.5mV_0=2.5m のとき、右の領域で波の振幅が 1/e1/\mathrm{e} になる距離を 1/m1/m の単位で求めよ。
  3. (3) V0→∞V_0\to\infty の TT を求めよ。
  4. (4) (1) で透過した状態の運動エネルギー E−V0E-V_0 と、右の領域での jzj_z の符号を確かめよ。
解答

(1) p=4m2−m2=3 mp=\sqrt{4m^2-m^2}=\sqrt3\,m。右の領域では (E−V0)2−m2=9m2−m2=8m2(E-V_0)^2-m^2=9m^2-m^2=8m^2 で、群速度を正にする符号は p′=−22 mp'=-2\sqrt2\,m。E−V0+m=−2mE-V_0+m=-2m なので κ=−223⋅3−2=6=2.449\kappa=\dfrac{-2\sqrt2}{\sqrt3}\cdot\dfrac{3}{-2}=\sqrt6=2.449。R=(1−61+6)2=0.177R=\bigl(\frac{1-\sqrt6}{1+\sqrt6}\bigr)^2=0.177、T=46(1+6)2=0.823T=\frac{4\sqrt6}{(1+\sqrt6)^2}=0.823 で、R+T=1R+T=1。

(2) (E−V0)2−m2=0.25m2−m2=−0.75m2(E-V_0)^2-m^2=0.25m^2-m^2=-0.75m^2 なので p′=i0.75 mp'=\mathrm{i}\sqrt{0.75}\,m、波は e−0.75 mz\mathrm{e}^{-\sqrt{0.75}\,mz} で減衰する。1/e1/\mathrm{e} になる距離は 1/(0.75 m)=1.155/m1/(\sqrt{0.75}\,m)=1.155/m で、Compton 波長と同じ程度である。

(3) V0→∞V_0\to\infty では p′≈−(V0−E)p'\approx-(V_0-E)、E−V0+m≈−(V0−E)E-V_0+m\approx-(V_0-E) なので κ→(E+m)/p=3/3=3\kappa\to(E+m)/p=3/\sqrt3=\sqrt3。T→43/(1+3)2=0.928T\to4\sqrt3/(1+\sqrt3)^2=0.928。

(4) E−V0=−3m<−mE-V_0=-3m<-m で、下の枝の状態である。jz=2Re⁡(a∗b)∣t∣2j_z=2\operatorname{Re}(a^*b)\lvert t\rvert ^2 の形で、b=p′/(E−V0+m)=(−22)/(−2)=2>0b=p'/(E-V_0+m)=(-2\sqrt2)/(-2)=\sqrt2>0 なので jz>0j_z>0、右向きに流れる。負の運動エネルギーの状態が右へ流れている。電荷 −e-e の電子が負のエネルギーで右へ進むことは、電荷 +e+e の陽電子が正のエネルギーで左から右へ…と読み替えることになり、この読み替えを整合的に行うのが場の理論である。

1 O. Klein (1929), Zeitschrift für Physik 53, 157–165。p′p' の符号を群速度でなく位相速度で選ぶと R>1R>1、T<0T<0 が出て、文献ではこちらを Klein の逆説と呼ぶこともある。

2 C. D. Anderson (1933), Physical Review 43, 491–494.

木下の勉強ステータス

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