解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部 第4章 §5.4.6 ★★ SI の Klein–Gordon・Dirac 方程式、Schrödinger 方程式への極限、微細構造の3つの補正項を Dirac 方程式の展開と並べる
SI で書いた2つの方程式
学部の教科書では、2つの方程式は SI で次のように書かれる。
(c21∂t2∂2−∇2+ℏ2m2c2)ϕ=0,iℏ∂t∂ψ=[cα⋅(p−qA)+βmc2+qϕ]ψ(5.4.32)
(左は Klein–Gordon 方程式で、ϕ は場。右は Dirac 方程式で、ϕ はスカラーポテンシャル)。この章の自然単位の式から、m→mc/ℏ(長さの逆数)、HD の p→cp、m→mc2 と戻せば得られる。第2部第5章の κ=mc/ℏ は、Klein–Gordon 方程式の質量の項を長さの逆数で書いたものである。
Schrödinger 方程式は Klein–Gordon 方程式の極限
Klein–Gordon 方程式で ϕ=e−imtψ とおくと、∂t2ϕ=e−imt(ψ¨−2imψ˙−m2ψ) なので
ψ¨−2imψ˙−∇2ψ=0
になる。ψ の時間変化の角振動数が m よりずっと小さければ、ψ¨ は mψ˙ に比べて落とすことができ、iψ˙=−∇2ψ/(2m)、つまり自由粒子の Schrödinger 方程式になる。保存密度も j0=i(ϕ∗ϕ˙−ϕϕ˙∗)≈2m∣ψ∣2 で、2m で割ると確率密度 ∣ψ∣2 に戻る。授業で「非相対論の極限では正のエネルギーの解だけを考えればよい」と言うときに暗に使っているのはこの極限である。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ∣i∂tψ∣/m∼(v/c)2→0(静止エネルギーをくくり出した後の振動数が静止エネルギーより小さい) | 証明 要確認(負の振動数の成分が初期に無く外場で混ざらない前提での収束を原論文で確かめていない) | 行き先 近似の数理 第7章
微細構造の3つの項
学部の量子力学では、水素原子の微細構造を Schrödinger 方程式の摂動として、次の3つの項から計算する。
Hrel=−8m3c2p4,HSO=2m2c21r1drdVS⋅L,HD(2)=2m2c2πℏ24πε0Ze2δ(3)(r)(5.4.33)
(HD(2) は Darwin 項で、Dirac の Hamiltonian HD と区別するため上付きの (2) を付けた)。授業では、Hrel は p2c2+m2c4 の展開、HSO は電子の静止系で見た原子核の磁場と電子の磁気モーメントの相互作用にThomas の歳差の因子 21 を掛けたもの、Darwin 項は電子の位置が Compton 波長ほどぼやけることの効果、と別々の理由で説明される。
この章の形では、3つは式 (5.4.24) の第4・5・6項で、1つの Dirac 方程式を v/c について展開した同じ次数の項である。V=−Zα/r を入れると、第5項は 2m21r3ZαS⋅L、第6項は 8m21∇2V=2m2πZαδ(3)(r)(∇2(1/r)=−4πδ(3))で、SI に戻すと式 (5.4.33) と一致する。Thomas の因子 21 は、別に付け足す必要がなく、展開の係数 4m21 と S=21σ の積として最初から入っている。Darwin 項は l=0 の状態にしか寄与せず、ちょうど HSO が l=0 で 0 になる分を補う形になる。その結果、3つの和は j だけによる式 (5.4.26) に一致する。次の例題で、n=2 の準位でこれを確かめる。
例題 5.4.6 n=2 の3つの補正を足すと j だけによる ★★
オリジナルBohr の準位を En=−mc2α2/(2n2) とする(Z=1)。水素の束縛状態での1次の摂動の期待値は
⟨Hrel⟩=−2mc2En2(l+214n−3),⟨HD(2)⟩=mc2En22n(l=0),⟨HSO⟩=mc2En2l(l+21)(l+1)n[j(j+1)−l(l+1)−43](l≥1)
である(⟨1/r⟩・⟨1/r2⟩・⟨1/r3⟩・∣ψ(0)∣2 の標準的な値から出る)。
- (1) n=2 の 2s1/2、2p1/2、2p3/2 について3つの項の和を mc2α4 の倍数で求めよ。
- (2) (1) の結果を式 (5.4.26) の第3項と比べよ。
解答
(1) n=2 で E22/(mc2)=mc2α4/64。
2s1/2(l=0):⟨Hrel⟩=−1281(1/28−3)=−12813、Darwin 項 641⋅4=1288、スピン軌道は 0。和は −1285。
2p1/2(l=1, j=21):⟨Hrel⟩=−1281(3/28−3)=−3847。スピン軌道は j(j+1)−2−43=43−411=−2 で、641⋅32⋅(−2)=−481=−3848。和は −38415=−1285。
2p3/2(l=1, j=23):⟨Hrel⟩=−3847、スピン軌道は 415−411=1 で 641⋅32=3844。和は −3843=−1281。
(いずれも単位は mc2α4。)
(2) 式 (5.4.26) の第3項は n=2 で −32mc2α4(j+1/22−43) で、j=21 で −321⋅45=−1285、j=23 で −321⋅41=−1281 である。(1) の3つの値と一致する。2s1/2 と 2p1/2 は、相対論的な補正の大きさが−12813 と −3847 で大きく違うのに、Darwin 項とスピン軌道相互作用がその差をちょうど埋めて、同じ −1285 になる。別々の理由で説明された3つの項がこのように揃うのは、それらが1つの Dirac 方程式の展開の同じ次数の項だからである。
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