解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部 第7章 §5.7.5 ★★ ℏ を戻すと L ループの図は ℏL−1。ループの無い図は古典の場の方程式の解で、ループが量子の補正になる。λ の級数は収束半径 0 の漸近級数
ℏ を数える
この小節だけ ℏ を戻す(c=1 のまま)。重みは ei(S[ϕ]+∫Jϕ)/ℏ で、2次の部分の係数が 1/ℏ 倍になるので、その逆である伝播関数は ℏDF になる。相互作用の頂点は −iλ/ℏ、源は iJ/ℏ を運ぶ。lnZ[J] に入る連結な図で、内側の線が nI 本、相互作用の頂点が nV 個、源の点が nJ 個なら、その図は ℏnI−nV−nJ に比例する。一方、連結なグラフの独立な輪の数(ループの数)nL は、辺の数から点の数を引いて 1 を足したもの
nL=nI−(nV+nJ)+1
である(Euler の公式。木の形の連結なグラフでは辺が点より1本少ない)。したがって
(nL ループの図)∝ℏnL−1(5.7.17)
になる。λ の展開と ℏ の展開は別物で、ℏ の展開では、同じ λ の次数の中でもループの少ない図ほど低い次数に入る。
ループの無い図(木の図)は ℏ−1 で、lnZ の中で ℏi×(ℏによらない量) の形をしている。これは第4部第7章の停留位相の最低次eiScl/ℏ と同じ形で、実際に木の図の和は ℏi(S[ϕcl]+∫Jϕcl)、すなわち古典の場の方程式 (5.7.2) の解での作用の値に等しい。方程式 (5.7.2) を λ について逐次に解くと
ϕcl=ϕ0−6λ∫d4ziDF(x−z)ϕ0(z)3+⋯,ϕ0(x)=∫d4yiDF(x−y)J(y)
となり(iDF が (∂2+m2) の逆)、ϕ0 を源から伸びる線、ϕ03 を3本の線が1つの頂点に集まるところと読むと、各項がそのまま木の図になる。1ループの図は ℏ0 で、停留点のまわりの Gauss 積分の揺らぎの因子(第4部第8章の Van Vleck の行列式にあたる detA−1/2)に当たる。こうして、経路積分の ℏ による展開(半古典展開)と、図をループの数で並べることが同じものになる。
級数は収束しない
λ の級数に戻る(ℏ=1)。0次元の場の係数は
Z(λ,0)=n=0∑∞cnλn,cn=n!1(−241)n(4n−1)!!,cncn+1=−24(n+1)(4n+1)(4n+3)≈−32n
で、隣の係数の比が n に比例して大きくなる。係数の大きさは ∣cn∣≈π21(32)n(n−1)! で、階乗で増える。どんなに小さい λ でも ∣cn∣λn はいずれ増え始めるので、この級数の収束半径は 0 である。
Dyson はこれを、λ を負にした理論を考えて説明した1F. J. Dyson (1952), Phys. Rev. 85, 631。議論は QED の結合 e2 を −e2 にした場合について述べられた。。λ<0 ではポテンシャル 21m2ϕ2−4!∣λ∣ϕ4 が大きな ∣ϕ∣ で下に開き、真空は安定でなくなる。0次元では積分 ∫e−ϕ2/2+∣λ∣ϕ4/24dϕ そのものが存在しない。収束半径が正なら、級数は λ=0 のまわりの円板の中で解析的な関数を表し、小さい負の λ でも意味を持つはずである。負の側で理論が存在しないのだから、収束半径は正でありえない。量子力学の非調和振動子でも、基底エネルギーの摂動級数の係数が階乗で増えることを Bender と Wu が示した2C. M. Bender and T. T. Wu (1969), Phys. Rev. 184, 1231。。
収束しない級数でも、λ→0 の漸近級数としては意味を持つ。図 5.7.3 は、0次元の場で N 次までの部分和と厳密値の差を描いたものである。差は N≈3/(2λ) まで小さくなり、その先で増える。λ=0.3 では N=5 で差 7.96×10−4、λ=0.15 では N=10 で 3.91×10−6 が最小で、小さい λ ほど到達できる精度が上がる。打ち切りの最適な次数は、項の大きさ ∣cn∣λn が最小になる次数とほぼ同じである(∣cn+1/cn∣λ≈1 から n≈3/(2λ))。近似の数理 第1章(近似の数理 第1章)で、非調和振動子の摂動級数が2〜3次で誤差最小になったのと同じ現象である。

図 5.7.3 0次元の場 Z(λ,0) の N 次までの部分和 ZN と厳密値 Z(Bessel 関数の式)の差。丸は λ=0.3、四角は λ=0.15。差はそれぞれ N=5、N=10 で最小になり、その先は係数の階乗の増加によって大きくなる(検算 scripts/verify_ch5-07.py)
例題 5.7.5 0次元の場で漸近級数であることを示す ★★
オリジナル
- (1) u≥0 で e−u−∑n=0Nn!(−u)n≤(N+1)!uN+1 を示せ。
- (2) (1) を u=λϕ4/24 に当てはめ、∣Z(λ,0)−ZN(λ)∣≤∣cN+1∣λN+1 を示せ。これから級数が漸近級数であることを結論せよ。
- (3) λ=0.3 で N=5 のとき、(2) の上界を計算し、図 5.7.3 の実際の差と比べよ。
解答
(1) Taylor の定理の剰余を積分の形で書くと e−u−∑n≤Nn!(−u)n=N!(−1)N+1∫0u(u−s)Ne−sds。0≤e−s≤1 なので絶対値は N!1∫0u(u−s)Nds=(N+1)!uN+1 以下である。
(2) Z−ZN=∫2πdϕe−ϕ2/2[e−u−∑n≤Nn!(−u)n] で、e−ϕ2/2>0 なので (1) から
∣Z−ZN∣≤(N+1)!1(24λ)N+1⟨ϕ4N+4⟩0=∣cN+1∣λN+1
を得る。右辺は λ→0 で λN+1 の速さで 0 になるので、どの N についても Z−ZN=O(λN+1) が成り立つ。これが漸近級数の定義である。一方で λ を固定して N→∞ とすると上界は発散し、部分和の差も発散する。λ>0 のとき剰余は次の項と同じ符号を持つので、部分和は厳密値を交互に上下から挟む。
(3) ∣c6∣=6!1(241)6⋅23!!=2.30 で、∣c6∣(0.3)6=1.68×10−3。実際の差 7.96×10−4 はこの上界の半分ほどで、確かに上界の内側にある。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの λ→0(結合定数が小さい) | 証明 未解決(0次元の場では漸近級数であることをこの節の例題で示した。4次元の ϕ4 理論は連続極限が自由場になる〔Aizenman–Duminil-Copin 2021〕ので、摂動級数が何の漸近展開かが定まらない) | 行き先 近似の数理 第1章
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ℏ/S→0(作用が ℏ に比べて大きい。ループの数で展開する) | 証明 要確認(有限自由度では停留位相・Laplace の方法で示される。無限自由度の場の経路積分への適用は原論文で確かめていない) | 行き先 近似の数理 第7章
1 F. J. Dyson (1952), Phys. Rev. 85, 631。議論は QED の結合 e2 を −e2 にした場合について述べられた。
2 C. M. Bender and T. T. Wu (1969), Phys. Rev. 184, 1231。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com