解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部 第12章 §5.12.2 ★★★ 粒子は「正の振動数のモード」の係数として定義され、正の振動数は時間座標の選び方で決まる。2つの選び方を結ぶ Bogoliubov 係数 β から、一方の真空に含まれる他方の粒子の数が決まる
Klein–Gordon 内積はシンプレクティック形式
場の方程式の2つの解 f、g(複素数値でよい)に対して、平坦な時空の座標で
(f,g)=ℏci∫−∞∞(f∗∂tg−g∂tf∗)dx(5.12.12)
を Klein–Gordon 内積と呼ぶ。被積分関数は流れ jμ=f∗∂μg−g∂μf∗ の時間成分で、場の方程式から ∂μjμ=0 が出るので、(f,g) は時刻 t によらない。曲がった時空でも、−gjμ の発散が0になるので、どの空間的な面で積分しても同じ値になる。
この内積は、解析力学の言葉では場の相空間のシンプレクティック形式である。場の解を1つ選ぶことは相空間の点 (ϕ(x),π(x)) を1つ選ぶことで、2つの解 f、g を「相空間の点のずれ」とみなすとω(f,g)=∫(fπg−gπf)dx(πf=∂tf/c)が定まる。式 (5.12.12) は (f,g)=(i/ℏ)ω(f∗,g) である。第1部第12章で見たように、Hamilton 方程式による時間発展は正準変換で、シンプレクティック形式を保つ。内積 (5.12.12) が時刻によらないのは、この一般的な事実の場の版である。
右へ進む解 f(U) では ∂t=d/dU で、時刻を固定すると dx=−cdU なので、内積は
(f,g)=ℏi∫−∞∞(f∗dUdg−gdUdf∗)dU(5.12.13)
と光的座標の積分で書ける。被積分関数 f∗dg−gdf∗ は座標の取り替え U→u(U) で形を変えないので、同じ式が u でも成り立つ。
内積 (5.12.12) は正定値でない。(f∗,g∗)=−(f,g)∗ が成り立ち、(f,f)>0 なら (f∗,f∗)<0 である。(f,f)>0 になる解を正の振動数の解と呼ぶ。平面波 e−iωU(ω>0)は正の振動数で、その複素共役は負の振動数である。
モード展開と真空
Minkowski の右へ進む正の振動数のモードを
fω(U)=4πωℏe−iωU(ω>0)(5.12.14)
と規格化すると、式 (5.12.13) と ∫ei(ω−ω′)UdU=2πδ(ω−ω′) から
(fω,fω′)=δ(ω−ω′),(fω∗,fω′∗)=−δ(ω−ω′),(fω,fω′∗)=0(5.12.15)
になる。場の右へ進む部分をこのモードで展開し、
ϕ^=∫0∞dω(a^ωfω+a^ω†fω∗),a^ω=(fω,ϕ^)(5.12.16)
と書く。交換関係 (5.12.4) から [a^ω,a^ω′†]=δ(ω−ω′) が出る(第5部第2章の箱の規格化を連続の振動数に直したもの)。Minkowski 真空 ∣0M⟩ を、すべての ω について a^ω∣0M⟩=0 を満たす状態と定める。
この定義では、時間座標 t(または U)を1つ選んでいる。e−iωU が正の振動数だというのは、時刻 t で測った振動数が正だという意味で、別の時間座標 t′ を選べば、正の振動数のモードの組が別のものになり、それで定めた消滅演算子と真空も別のものになる。平坦な時空では、慣性系どうしの Lorentz 変換が U→e−θU と光的座標を定数倍するだけなので、正の振動数は正の振動数に移り、真空は変わらない。
Bogoliubov 変換
別の時間座標で定めた正の振動数のモードの組 gΩ(同じ規格化 (gΩ,gΩ′)=δ(Ω−Ω′))を、もとのモードで展開して
gΩ=∫0∞dω(αΩωfω+βΩωfω∗),αΩω=(fω,gΩ),βΩω=−(fω∗,gΩ)(5.12.17)
と書く。係数 α、β を Bogoliubov 係数と呼ぶ。新しいモードの消滅演算子は
b^Ω=(gΩ,ϕ^)=∫0∞dω(αΩω∗a^ω−βΩω∗a^ω†)(5.12.18)
で、β=0 なら古い生成演算子が混ざる。新しいモードの規格化からは
∫0∞dω(αΩωαΩ′ω∗−βΩωβΩ′ω∗)=δ(Ω−Ω′)(5.12.19)
が出る。これは新しい演算子も [b^Ω,b^Ω′†]=δ(Ω−Ω′) を満たすための条件で、第1部第12章の言葉では、Bogoliubov 変換がシンプレクティック形式を保つ線形の正準変換であることを表している。
古い真空 ∣0M⟩ に含まれる新しい粒子の数は、式 (5.12.18) で a^ω∣0M⟩=0 を使うと
⟨0M∣b^Ω†b^Ω∣0M⟩=∫0∞dω∣βΩω∣2(5.12.20)
になる。β が0でなければ、一方の真空はもう一方の観測者には粒子を含む状態に見える。5.12.3節と5.12.4節で、加速する観測者とブラックホールの遠方の観測者について β を計算する。
例題 5.12.2 振動数を急に切り替えた振動子の Bogoliubov 係数 ★★
オリジナル1つの振動子(質量 m)のばね定数を、時刻 0 に一瞬で角振動数 ω から ω′ に切り替える。切り替えの前後で q^、p^ は連続である。
- 切り替えの後の消滅演算子 a^′ を前の a^、a^† で表し、a^′=αa^+βa^† の α、β を求めよ。
- ∣α∣2−∣β∣2=1 を確かめよ。
- 前の基底状態 ∣0⟩ に含まれる後の量子の数 ⟨0∣a^′†a^′∣0⟩ を求め、ω′=4ω で値を出せ。
解答
(1) 第4部第4章の式で q^=ℏ/(2mω)(a^+a^†)、p^=imℏω/2(a^†−a^)。後の消滅演算子 a^′=mω′/(2ℏ)(q^+ip^/(mω′)) にこれを入れると
a^′=21(ωω′+ω′ω)a^+21(ωω′−ω′ω)a^†,α=2ωω′ω′+ω,β=2ωω′ω′−ω.
(2) ∣α∣2−∣β∣2=[(ω′+ω)2−(ω′−ω)2]/(4ωω′)=1。これで [a^′,a^′†]=1 が保たれる。
(3) a^∣0⟩=0 なので a^′∣0⟩=βa^†∣0⟩、⟨0∣a^′†a^′∣0⟩=∣β∣2=(ω′−ω)2/(4ωω′)。ω′=4ω では 9/16=0.5625。前の真空は後の振動子から見ると平均 0.56 個の量子を含む。場では各モードがこの振動子にあたり、β がモードの間で混ざるのが式 (5.12.17) である。この例では「切り替え」という時間に依存する外力が量子を作ったが、この章の Unruh 効果では、外力が無く、観測者の時間座標だけが違う。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com