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輸送:弱い乱れの Boltzmann 極限・Kubo 公式・Hall 伝導度の指数定理

2026年10月15日10分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第13章 固体編:多体と秩序(熱力学極限から BCS まで)
目次
  1. 弱い乱れの極限で Boltzmann 方程式が出る
  2. Kubo 公式は線形応答
  3. Hall 伝導度の量子化は指数定理
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

近似の数理 第13章 §13.6 ★★ 電気伝導の3つの道具がそれぞれ B 型の極限・線形応答・トポロジーで正当化される範囲

弱い乱れの極限で Boltzmann 方程式が出る

不純物のある金属の電気伝導は、電子の分布関数 f(r,k,t)f(\bm{r},\bm{k},t) が従う Boltzmann 方程式で計算する(ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部第2章)。第8章では、古典的な気体の Boltzmann 方程式が Boltzmann–Grad 極限で短時間だけ証明されていること(Lanford の定理)を見た。電子と不純物の問題では、より強い結果がある。

乱れたポテンシャル Vω(r)V_\omega(\bm{r}) の中の1電子 H^λ=−12∇2+λVω\hat H_\lambda=-\frac12\nabla^2+\lambda V_\omega を考え、乱れの強さ λ→0\lambda\to0 と同時に時間を t=λ−2st=\lambda^{-2}s(ss は巨視的な時間)に伸ばす。これは第8章の van Hove 極限で、1回の散乱の率が λ2\lambda^2 に比例するので、時間 λ−2\lambda^{-2} で有限回の散乱が起きる。H. Spohn は短い巨視的時間でこの極限をとると、波動関数の Wigner 関数(位置と運動量の擬分布)の乱れについての平均が線形 Boltzmann 方程式に従うことを示し(Spohn (1977), J. Stat. Phys. 17, 385)、L. Erdős と H.-T. Yau がこれを任意の巨視的時間 ss に拡張した(Erdős, Yau (2000), Commun. Pure Appl. Math. 53, 667)。散乱の率は Born 近似(Fermi の黄金律)の式になり、乱れの相関関数の Fourier 変換で決まる。さらに時間を λ−2−κ′\lambda^{-2-\kappa'}(小さい κ′>0\kappa'>0)まで伸ばすと、電子の運動が拡散になることも証明されている(Erdős, Salmhofer, Yau (2008), Acta Math. 200, 211)。

非線形の Lanford の定理が短時間に限られるのに対し、こちらは線形で、Wigner 関数の評価を時間について一様に保てる。ただし、この結果は相互作用しない電子についてのもので、電子どうしの散乱や、Boltzmann 方程式の衝突項を −(f−f0)/τ-(f-f_0)/\tau と置き換える緩和時間近似は含まない。緩和時間近似は C 型(閉じる)の近似で、内部に誤差の評価を持たない(第8章・第9章)。

格子の熱伝導では、フォノンの Boltzmann 方程式が電子の Boltzmann 方程式の役を担う。弱い非調和性の極限で格子の Hamilton 力学から Wigner 関数を通してこの方程式を導く枠組みと、そこから Fourier の法則(熱流が温度勾配に比例すること)と熱伝導率の表示が出る道筋は示されている(Spohn (2006), J. Stat. Phys. 124, 1041)が、Hamilton 力学からどの時間まで厳密に導けるかはここでは要確認とする。一方、1次元の FPU-β\beta 鎖では Boltzmann 方程式の範囲でも電流の相関が t−3/5t^{-3/5} でしか減らず熱伝導率が系の大きさとともに発散して、Fourier の法則そのものが破れる(Lukkarinen, Spohn (2008), Commun. Pure Appl. Math. 61, 1753)。

流体方程式や拡散方程式の前提である局所平衡(各点の近くが、その点の温度・化学ポテンシャルの平衡分布に近いこと)を微視的な力学から導くには、H.-T. Yau の相対エントロピーの方法がある。確率的な格子模型(Ginzburg–Landau 模型)で流体力学極限を導き(Yau (1991), Lett. Math. Phys. 22, 63)、Hamilton 力学に弱い雑音を加えた系に拡張された(Olla, Varadhan, Yau (1993), Commun. Math. Phys. 155, 523)が、雑音を含まない決定論的な Hamilton 力学での局所平衡の導出は、これらの結果の範囲の外にある。

Kubo 公式は線形応答

電気伝導度を、平衡状態での電流の相関関数で書く Kubo 公式(Kubo (1957), J. Phys. Soc. Jpn. 12, 570)は、外場の1次の時間依存摂動論から出る。導き方そのものは形式的で、熱力学極限と外場 →0\to0 の極限の順序、長時間の振る舞いが問題になる。ギャップのある多体系については、S. Bachmann、W. De Roeck、M. Fraas が断熱定理(第7章)を熱力学極限で一様な形に拡張し、線形応答を正当化した(Bachmann, De Roeck, Fraas (2018), Commun. Math. Phys. 361, 997)。金属の直流伝導度を微視的なダイナミクスから Kubo 公式で出す段は、ギャップがないため、この方法の外にある。

Hall 伝導度の量子化は指数定理

2次元の絶縁体(Fermi 準位がギャップの中にある)に Kubo 公式を当てはめると、Hall 伝導度は占有されたバンドの Berry 曲率 Ωn(k)\Omega_n(\bm{k}) の Brillouin 域での積分になる。D. J. Thouless、甲元眞人、M. P. Nightingale、M. den Nijs は、これが

∣σxy∣=e2h∣∑n: 占有Cn∣,Cn=12π∫BZΩn(k) d2k∈Z(13.14)\lvert \sigma_{xy}\rvert =\frac{e^2}{h}\Bigl\lvert\sum_{n:\,\text{占有}}C_n\Bigr\rvert,\qquad C_n=\frac{1}{2\pi}\int_{\mathrm{BZ}}\Omega_n(\bm{k})\,\mathrm{d}^2k\in\mathbb{Z}\tag{13.14}

と整数倍に量子化されることを示した(Thouless, Kohmoto, Nightingale, den Nijs (1982), Phys. Rev. Lett. 49, 405。全体の符号は電荷と座標の向きの流儀で決まる)。CnC_n が整数になるのは、Brillouin 域がトーラスで、その上の線束の Chern 数は位相的な不変量だからである(J. E. Avron、R. Seiler、B. Simon (1983), Phys. Rev. Lett. 51, 51 がこの見方を明確にした)。近似を一切使っておらず、ハミルトニアンを連続的に変形してもギャップが閉じない限り値は変わらない。

この結論は乱れと相互作用のある場合にも拡張されている。乱れのある系では Fermi 準位の状態が局在していれば量子化が保たれ(Bellissard, van Elst, Schulz-Baldes (1994), J. Math. Phys. 35, 5373)、相互作用のあるギャップ系でも量子化が証明された(Hastings, Michalakis (2015), Commun. Math. Phys. 334, 433)。h/e2=25812.807 Ωh/e^2=25812.807\,\Omega が抵抗の標準に使えるほど精密に測れるのは、量子化が「ギャップがある」という頑健な条件だけに依っているためである。

例題 13.7 2バンド模型の Chern 数を写像度で数える ★★★

オリジナル2次元の正方格子の2バンド模型 h^(k)=d(k)⋅σ\hat h(\bm{k})=\bm{d}(\bm{k})\cdot\bm{\sigma}、d(k)=(sin⁡kx, sin⁡ky, m+cos⁡kx+cos⁡ky)\bm{d}(\bm{k})=(\sin k_x,\ \sin k_y,\ m+\cos k_x+\cos k_y) を考える(mm は実数、σ=(σx,σy,σz)\bm{\sigma}=(\sigma_x,\sigma_y,\sigma_z))。エネルギーは ±∣d(k)∣\pm\lvert \bm{d}(\bm{k})\rvert で、下のバンドの Chern 数 CC はこの本の流儀(An=i⟨n∣∇kn⟩\bm{A}_n=\mathrm{i}\langle n | \nabla_{\bm{k}}n \rangle)で、単位ベクトル d^=d/∣d∣\hat{\bm{d}}=\bm{d}/\lvert \bm{d}\rvert が Brillouin 域(トーラス)から球面への写像として球面を何回覆うか(写像度)に等しい。写像度は、球面の1点(北極か南極)に移る k\bm{k} を全部探し、各点で写像の向き(Jacobian の符号)を足して求められる。

  • (1) d^\hat{\bm{d}} が北極か南極を向く点は dx=dy=0d_x=d_y=0 の点で、k=(0,0),(π,0),(0,π),(π,π)\bm{k}=(0,0),(\pi,0),(0,\pi),(\pi,\pi) の4つである。各点の dzd_z と、(dx,dy)(d_x,d_y) の (kx,ky)(k_x,k_y) についての Jacobian cos⁡kxcos⁡ky\cos k_x\cos k_y の符号を表にせよ。
  • (2) 北極と南極の数え方の平均をとった公式 C=12∑4点sgn(dz) sgn(cos⁡kxcos⁡ky)C=\frac12\sum_{4\text{点}}\mathrm{sgn}(d_z)\,\mathrm{sgn}(\cos k_x\cos k_y) で、0<m<20<m<2、−2<m<0-2<m<0、∣m∣>2\lvert m\rvert >2 のときの CC を求めよ。
  • (3) mm を 11 から 33 へ変えると CC が変わる。そのときどこでギャップが閉じるかを示し、「ギャップが閉じない限り CC は変わらない」ことと照らせ。
解答

(1) 4点の dzd_z はそれぞれ m+2m+2、mm、mm、m−2m-2。Jacobian の符号は cos⁡kxcos⁡ky\cos k_x\cos k_y から +1,−1,−1,+1+1,-1,-1,+1。

(2) 0<m<20<m<2:sgn(dz)=+,+,+,−\mathrm{sgn}(d_z)=+,+,+,- なので和は (+1)+(−1)+(−1)+(−1)=−2(+1)+(-1)+(-1)+(-1)=-2、C=−1C=-1。−2<m<0-2<m<0:sgn(dz)=+,−,−,−\mathrm{sgn}(d_z)=+,-,-,- で和は (+1)+(+1)+(+1)+(−1)=2(+1)+(+1)+(+1)+(-1)=2、C=+1C=+1。m>2m>2:全部 ++ で和 1−1−1+1=01-1-1+1=0、C=0C=0。m<−2m<-2:全部 −- で和 00、C=0C=0。Berry 曲率を 48×4848\times48 の格子の上で積分する数値計算(Fukui–Hatsugai–Suzuki の方法)でも、m=1m=1 で −1-1、m=−1m=-1 で +1+1、m=±3m=\pm3 で 00 が得られる。

(3) CC が変わるには、下のバンドが上のバンドと接する、すなわち ∣d(k)∣=0\lvert \bm{d}(\bm{k})\rvert =0 となる k\bm{k} が現れる必要がある。m=2m=2 では k=(π,π)\bm{k}=(\pi,\pi) で d=(0,0,m−2)=0\bm{d}=(0,0,m-2)=0 となりギャップが閉じる。1≤m<21\le m<2 と 2<m≤32<m\le3 ではギャップが開いていて CC は一定で、m=2m=2 を通るときにだけ −1-1 から 00 へ跳ぶ。Hall 伝導度の量子化が近似によらず、ギャップが閉じる所でだけ値を変えるという指数定理の性格が、ここに具体的に現れている(検算スクリプト)。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの 乱れの強さ λ→0\lambda\to0 と時間 t=λ−2st=\lambda^{-2}s(van Hove 極限) | 証明 条件付き(相互作用しない電子の線形 Boltzmann 方程式は Spohn 1977・Erdős–Yau 2000 で証明。電子どうしの散乱を含む場合と緩和時間近似〔C 型〕は外) | 行き先 近似の数理 第8章

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの 電場 →0\to0(線形応答)と試料の大きさ →∞\to\infty。Fermi 準位がギャップ(または局在した状態の領域)にある | 証明 証明済み(相互作用なしは TKNN 1982・Avron–Seiler–Simon 1983、乱れは Bellissard–van Elst–Schulz-Baldes 1994、相互作用のあるギャップ系は Hastings–Michalakis 2015、線形応答は Bachmann–De Roeck–Fraas 2018) | 行き先 近似の数理 第7章

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