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Fermi 液体と BCS:くりこみ群の厳密化から GL へ

2026年10月15日11分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第13章 固体編:多体と秩序(熱力学極限から BCS まで)
目次
  1. Fermi 液体は摂動論で正当化できるか
  2. ギャップは摂動論のどの次数にも現れない
  3. BCS 汎関数と GL への極限
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

近似の数理 第13章 §13.5 ★★★ 相互作用する電子の描像が摂動論でどこまで正当化され、超伝導のギャップがなぜ摂動論の外にあるか

Fermi 液体は摂動論で正当化できるか

相互作用する電子の気体が、低いエネルギーでは「準粒子」の気体として振る舞うというのが Landau の Fermi 液体の描像である(ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部第1章)。これを数学的に裏付ける道具がくりこみ群で、Fermi 面から遠い励起を順に積分して消し、Fermi 面近くの有効理論を作る。J. Feldman、H. Knörrer、E. Trubowitz は、2次元で、相互作用が短距離で弱く、Fermi 面が強く凸で k→−k\bm{k}\to-\bm{k} について対称でない場合に、温度 00 でも摂動展開が収束して Fermi 液体になることを証明した(Feldman, Knörrer, Trubowitz (2004), Commun. Math. Phys. 247, 1 からの連作)。

条件「k→−k\bm{k}\to-\bm{k} について対称でない」は技術的な仮定でなく、物理の本質に関わる。Fermi 面が反転対称なら、運動量 k\bm{k} と −k-\bm{k} の電子の対(Cooper 対)の散乱がエネルギーの対数 ln⁡(ℏωD/E)\ln(\hbar\omega_{\mathrm D}/E) を伴って増え、引力があれば低温で必ず超伝導に移る。斥力しかなくても、角運動量 ℓ≠0\ell\ne0 の対の通り道で実効的な引力が生じて超伝導が起きうる(Kohn, Luttinger (1965), Phys. Rev. Lett. 15, 524)。したがって反転対称な Fermi 面では、Fermi 液体は絶対零度までは安定でなく、摂動展開が収束しないことのほうが正しい物理である。1次元では Fermi 液体そのものが成り立たず、別の固定点(Luttinger 液体)に流れる。

3次元の高密度の電子ガスの相関エネルギーについては、Gell-Mann と Brueckner が摂動級数のうち最も発散の強い項(リング図形、RPA)を足し上げ、εc=Aln⁡rs+C+O(rs)\varepsilon _{\mathrm c}=A\ln r_s+C+\mathcal{O}(r_s) を得た(Gell-Mann, Brueckner (1957), Phys. Rev. 106, 364)。この式は、相互作用を平均場のスケーリングで弱めた Fermi 気体(Coulomb 相互作用を含む)では、上界(Christiansen, Hainzl, Nam (2023), Commun. Math. Phys. 401, 1469)と下界(Christiansen, Hainzl, Nam (2024), arXiv:2405.01386、J. Amer. Math. Soc. に掲載予定)の両方が証明されたが、平均場のスケーリングをとらない本来の rs→0r_s\to0 の極限はこれらの結果の範囲の外にある。

ギャップは摂動論のどの次数にも現れない

BCS 理論(ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部第4章)で、Fermi 面から ℏωD\hbar\omega_{\mathrm D} 以内の電子どうしに一定の引力をはたらかせると、転移温度は

kBTc=2eγEπℏωD e−1/λ=1.134 ℏωD e−1/λ(13.12)k_{\mathrm B} T_{\mathrm c}=\frac{2\mathrm{e}^{\gamma_{\mathrm E}}}{\pi}\hbar\omega_{\mathrm D}\,\mathrm{e}^{-1/\lambda}=1.134\,\hbar\omega_{\mathrm D}\,\mathrm{e}^{-1/\lambda}\tag{13.12}

になる(λ\lambda は状態密度をかけた無次元の結合定数、γE=0.5772\gamma_{\mathrm E}=0.5772 は Euler の定数)。関数 e−1/λ\mathrm{e}^{-1/\lambda} は λ→0+\lambda\to0^+ で 00 に近づき、そのすべての階数の微分も 00 に近づく。したがって TcT_{\mathrm c} を λ\lambda のべき級数に展開すると、すべての係数が 00 になる。相互作用を λ\lambda の1次、2次、…と摂動で入れていく限り、超伝導は決して現れない。

命題 13.7(e−1/λ\mathrm{e}^{-1/\lambda} は平坦 ★★)

g(λ)=e−1/λg(\lambda)=\mathrm{e}^{-1/\lambda}(λ>0\lambda>0)、g(0)=0g(0)=0 とすると、すべての nn で g(n)(λ)→0g^{(n)}(\lambda)\to0(λ→0+\lambda\to0^+)である。

証明

帰納法で g(n)(λ)=Pn(1/λ)e−1/λg^{(n)}(\lambda)=P_n(1/\lambda)\mathrm{e}^{-1/\lambda}(PnP_n は多項式)と書ける。x=1/λ→∞x=1/\lambda\to\infty で xke−x→0x^k\mathrm{e}^{-x}\to0 なので、どの項も 00 に近づく。

この非解析性は 13.4 節の Peierls の2量体化 (13.10) と同じ形である。どちらも、Fermi 面(またはギャップの閉じた点)の近くの状態の数がエネルギーの対数の積分を与え、1=λln⁡(比)1=\lambda\ln(\text{比}) の形の条件から指数関数が出る。第7章の WKB のトンネル積分 e−S/ℏ\mathrm{e}^{-S/\hbar} と同じく、B 型の近似の「極限で 00 になる量」が、べき級数でなく指数関数で 00 に近づく例である。

BCS 汎関数と GL への極限

BCS 理論の数学的な定式化として、C. Hainzl、E. Hamza、R. Seiringer、J. P. Solovej は、電子の1体密度行列と対の振幅を変数とする BCS の自由エネルギー汎関数を、一般の対の相互作用 VV について調べた(Hainzl, Hamza, Seiringer, Solovej (2008), Commun. Math. Phys. 281, 349)。彼らの結果の要点は、超伝導の解(対の振幅が 00 でない最小点)が存在するかどうかが、線形の作用素

KT+V,KT=ξ(p)tanh⁡(ξ(p)/(2kBT)),ξ(p)=p22m−μ(13.13)K_T+V,\qquad K_T=\frac{\xi(\bm{p})}{\tanh\bigl(\xi(\bm{p})/(2 k_{\mathrm B} T)\bigr)},\quad \xi(\bm{p})=\frac{\bm{p}^2}{2m}-\mu\tag{13.13}

が負の固有値を持つかどうかで決まり、TcT_{\mathrm c} はその最小固有値が 00 を横切る温度として定まる、ということである。非線形の変分問題の転移点が、線形の固有値問題(第3章の min-max 原理の対象)に帰着している。

TcT_{\mathrm c} のすぐ下では、R. L. Frank、C. Hainzl、R. Seiringer、J. P. Solovej が BCS 汎関数から Ginzburg–Landau 理論を導いた(Frank, Hainzl, Seiringer, Solovej (2012), J. Amer. Math. Soc. 25, 667)。主張の骨格は次のとおりである(前提の正確な形は原論文)。微視的な長さに対する外場の変化の長さの比を 1/h1/h とし、温度を T=Tc(1−Dh2)T=T_{\mathrm c}(1-Dh^2)(D>0D>0)にとって h→0h\to0 とすると、BCS の最小の自由エネルギーと正常状態の差は hh と GL 汎関数の最小値の積に o(h)o(h) を除いて等しく、Cooper 対の波動関数は、重心座標の関数 ψ\psi(GL の秩序変数)と相対座標の関数(TcT_{\mathrm c} で (13.13) の固有値 00 を与える固有関数)の積に近い。GL 理論が「TcT_{\mathrm c} の近くで秩序変数がゆっくり変わる」という2つの小さいパラメータの極限で正しいことが、物理の直観どおりの形で定理になった。

例題 13.6 線形化したギャップ方程式と TcT_{\mathrm c} ★★

オリジナルFermi 面から ∣ξ∣<ℏωD\lvert \xi\rvert <\hbar\omega_{\mathrm D} の殻の中だけで一定の引力がはたらくとき、(13.13) の固有値が 00 を横切る条件は

1=λ∫0ℏωDtanh⁡(ξ/(2kBT))ξ dξ1=\lambda\int_0^{\hbar\omega_{\mathrm D}}\frac{\tanh\bigl(\xi/(2 k_{\mathrm B} T)\bigr)}{\xi}\,\mathrm{d}\xi

になる(引力が殻の中で一定なので、作用素の負の部分は階数1になり、固有値の条件がこの1本の式に縮む)。

  • (1) kBT≪ℏωDk_{\mathrm B} T\ll\hbar\omega_{\mathrm D} で右辺の積分が ln⁡2eγEℏωDπkBT+o(1)\ln\dfrac{2\mathrm{e}^{\gamma_{\mathrm E}}\hbar\omega_{\mathrm D}}{\pi k_{\mathrm B} T}+o(1) と振る舞うことを用いて、(13.12) を導け。
  • (2) λ=0.2, 0.25, 0.3\lambda=0.2,\,0.25,\,0.3 で kBTc/ℏωDk_{\mathrm B} T_{\mathrm c}/\hbar\omega_{\mathrm D} を求めよ。
  • (3) λ\lambda を 0.250.25 から 0.20.2 に 20% 下げると TcT_{\mathrm c} は何分の1になるか。この感度の高さを、命題 13.7 と結びつけて述べよ。
解答

(1) 条件は 1=λln⁡2eγEℏωDπkBTc1=\lambda\ln\dfrac{2\mathrm{e}^{\gamma_{\mathrm E}}\hbar\omega_{\mathrm D}}{\pi k_{\mathrm B} T_{\mathrm c}}、すなわち ln⁡2eγEℏωDπkBTc=1λ\ln\dfrac{2\mathrm{e}^{\gamma_{\mathrm E}}\hbar\omega_{\mathrm D}}{\pi k_{\mathrm B} T_{\mathrm c}}=\dfrac1\lambda で、指数をとると (13.12)。積分の評価は、ξ≫kBT\xi\gg k_{\mathrm B} T で tanh⁡→1\tanh\to1 となって ln⁡(ℏωD/kBT)\ln(\hbar\omega_{\mathrm D}/ k_{\mathrm B} T) を与え、ξ≲kBT\xi\lesssim k_{\mathrm B} T の部分が定数 ln⁡(2eγE/π)\ln(2\mathrm{e}^{\gamma_{\mathrm E}}/\pi) を足す。たとえば kBT=0.01ℏωDk_{\mathrm B} T=0.01\hbar\omega_{\mathrm D} で数値積分は 4.73084.7308、ln⁡(1.134/0.01)=4.7308\ln(1.134/0.01)=4.7308 である。

(2) (13.12) から λ=0.2\lambda=0.2 で 1.134 e−5=0.007641.134\,\mathrm{e}^{-5}=0.00764、λ=0.25\lambda=0.25 で 1.134 e−4=0.02081.134\,\mathrm{e}^{-4}=0.0208、λ=0.3\lambda=0.3 で 1.134 e−10/3=0.04041.134\,\mathrm{e}^{-10/3}=0.0404。線形化した方程式を数値で解いた値と相対誤差 10−310^{-3} 以内で一致する(e−1/λ\mathrm{e}^{-1/\lambda} の前の係数の補正は (kBTc/ℏωD)2( k_{\mathrm B} T_{\mathrm c}/\hbar\omega_{\mathrm D})^2 の程度で小さい)。

(3) 0.00764/0.0208=0.37=e−10.00764/0.0208=0.37=\mathrm{e}^{-1}。λ\lambda の 20% の変化で TcT_{\mathrm c} が 1/e1/\mathrm{e} 倍になる。一般に dln⁡Tc/dln⁡λ=1/λ\mathrm{d}\ln T_{\mathrm c}/\mathrm{d}\ln\lambda=1/\lambda で、λ\lambda が小さいほど感度は高い。摂動論は λ\lambda の各次数の係数を与えるが、命題 13.7 により TcT_{\mathrm c} のべき級数の係数はすべて 00 なので、どれほど高い次数まで計算しても TcT_{\mathrm c} は出てこない。超伝導の転移温度を出すには、Cooper の通り道の対数を全次数で足し上げる(はしご図形の和、あるいは平均場)必要がある(検算スクリプト)。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの (Tc−T)/Tc→0(T_{\mathrm c}-T)/T_{\mathrm c}\to0 と、外場の変化の長さに対する微視的な長さの比 h→0h\to0(Tc−T∝h2T_{\mathrm c}-T\propto h^2) | 証明 条件付き(BCS 汎関数から GL が出ることは Frank–Hainzl–Seiringer–Solovej 2012。BCS 汎関数自体を多体の Hamiltonian から出す段は要確認) | 行き先 近似の数理 第6章

ほかの巻では

木下の勉強ステータス

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