ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部 第6章 §5.6.2 ★★★ 2バンドの Chern 数は単位ベクトル g^ が球面を何回覆うかを数える整数で、逆像の点を数えるだけで求まる
Berry 曲率と Chern 数
下のバンドの Bloch ベクトルを ∣u−(k)⟩ とし、Berry 接続を A−(k)=i⟨u−∣∇ku−⟩、Berry 曲率を Ω−(k)=∂kxA−,y−∂kyA−,x とする(記法の正本の流儀)。Brillouin 域で積分した
C−=2π1∫BZΩ−(k)d2k(5.6.5)
が Chern 数で、下のバンドが上のバンドとギャップで隔たっている限り整数になる。この定義と整数になる理由、詰まったバンドの Hall 伝導度が σxy=−C−e2/h になることは、Berry 曲率の章で導いた(第5部第5章・解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第11章)。この節では結果だけを借り、2バンドの場合に C− を手で数える道具を作る。
h(k)=g⋅σ の下のバンドは、擬スピンが −g^(g^=g/∣g∣)を向いた状態である。k を動かすと g^(k) は単位球面の上を動き、状態は g^ だけで決まる。スピン ½ の Berry 位相は球面の上で囲んだ立体角の半分で、場と逆を向いた状態では +(立体角)/2 になる(記法の正本 §7 の符号)。k 空間の小さな四角 dkxdky の像が球面の上で張る立体角はg^⋅(∂kxg^×∂kyg^)dkxdky なので、
Ω−(k)=21g^⋅(∂kxg^×∂kyg^)(5.6.6)
を得る(検算で、小さな四角を回る Berry 位相の数値と一致することを確かめた)。質量のある Dirac 模型 g=(ℏvkx,ℏvky,M) に当てると Ω−=ℏ2v2M/(2∣g∣3) となり、Berry 曲率の章の結果に戻る。
写像の度数として数える
式 (5.6.6) を式 (5.6.5) に入れると
C−=4π1∫BZg^⋅(∂kxg^×∂kyg^)d2k(5.6.7)
となる。右辺は、Brillouin 域(周期境界で端をつないだドーナツの面)から単位球面への写像 g^ が、球面全体の立体角 4π を符号つきで何回覆うかを数えている。この整数を写像の度数と呼ぶ。度数は、球面の上の1点 n を選び、g^(k)=n となる k(逆像)を全部探して、各点で写像が向きを保つか(+1)裏返すか(−1)を足せば求まる。向きは、n のまわりの球面の座標で測った Jacobian の行列式の符号で決まる。どの n を選んでも答えは同じである。
この数え方から、C− が変わりうるのは g=0 となる k がある、つまりギャップが閉じるときだけであることが読み取れる。ギャップが開いている限り g^ は連続に変わり、逆像は対で生まれるか対で消えるだけなので、符号つきの和は変わらない。式 (5.6.3) と合わせると、C− は λ の区間 (−∞,−2), (−2,0), (0,2), (2,∞) のそれぞれで一定である。

図 5.6.1 QWZ 模型の下のバンドの Chern 数 C−(太い線。40×40 の格子の上で 5.6.2節の方法で数えた)と、ギャップ εg/th(点線。式 (5.6.3))。C− はギャップが 0 になる λ=−2,0,2 でだけ跳ぶ。
格子の上で数える
数値で C− を求めるには、式 (5.6.5) の積分を細かい格子の和で近似したくなる。しかし A− は ∣u−⟩ の位相の選び方で変わるので、各点の固有ベクトルを数値の対角化で出すと、位相が点ごとにでたらめになり、A− の差分が意味を持たない。そこで福井・初貝・鈴木の方法(T. Fukui, Y. Hatsugai and H. Suzuki (2005), J. Phys. Soc. Jpn. 74, 1674)を使う。隣どうしの格子点の内積 ⟨u−(k)∣u−(k+δ)⟩≈e−iA−⋅δ を小さな四角の4辺について掛けると、位相の選び方は打ち消し合い、積の偏角の符号を変えたものがその四角を貫く Berry 曲率の流束になる。全部の四角について足して 2π で割ると、格子が粗くても結果は整数になる。数値では 3×3 の格子ですでに C−=±1 が正しく出て、2×2 では 0 に落ちた。図 5.6.1 の太い線はこの方法で数えたもので、−2<λ<0 で C−=+1、0<λ<2 で C−=−1、∣λ∣>2 で 0 である。
例題 5.6.2 逆像を数えて Chern 数を出す ★★★
オリジナルQWZ 模型 (5.6.2) で θx=kxa, θy=kya と書く。
- (1) λ=1 で g^=+ez(北極)となる (θx,θy) を全部求めよ。
- (2) 北極のまわりでは球面の座標として (gx,gy) がそのまま使え、その向きは外向きの法線 +ez と合う。(1) の各点で ∂(gx,gy)/∂(θx,θy) の行列式の符号を求め、度数 C− を出せ。
- (3) 南極 g^=−ez の逆像からも同じ C− が出ることを確かめよ。南極では外向きの法線が −ez なので、(gx,gy) の向きは逆になることに注意する。
- (4) λ=−1 で北極の逆像を数え、C− を求めよ。
解答
(1) g^=+ez には gx=gy=0 かつ gz>0 が要る。sinθx=sinθy=0 の4点で gz/th は (0,0) で 3、(π,0) と (0,π) で 1、(π,π) で −1 なので、逆像は (0,0), (π,0), (0,π) の3点である。
(2) gx=thsinθx, gy=thsinθy なので行列式は th2cosθxcosθy である。(0,0) で +、(π,0) と (0,π) で − なので、度数は +1−1−1=−1、すなわち C−=−1 である。
(3) 南極の逆像は gz<0 の点 (π,π) だけで、行列式は cosπcosπ=+1。南極では (gx,gy) の向きが裏返っているので、寄与は −1 である。北極から数えても南極から数えても C−=−1 で、図 5.6.1 と一致する。
(4) λ=−1 では gz/th が (0,0) で 1、(π,0) と (0,π) で −1、(π,π) で −3 なので、北極の逆像は (0,0) の1点で、行列式は +1。C−=+1 である。λ が 0 を横切ると、(π,0) と (0,π) の2点が北極の逆像から南極の逆像へ移る。各点の寄与が北極で −1、南極で +1(向きの反転で符号が変わる)と入れ替わることで、度数は −1 から +1 へ 2 だけ跳ぶ。これは「解析力学から様々な理論分野を組み立てる」第4部第11章で、ギャップの閉じる点のまわりを Dirac 模型で展開して求めた跳び −2(逆向き)と同じ内容を、逆像の数え上げで言い直したものである。
ほかの巻では
- 近似の数理 第13章:同じ2バンド模型の Chern 数を写像度で数える例題が証明の側から読める。記号の対応:向こうの m・d はこの巻の λ・g/th
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com