この章のまとめ
AI 生成・木下が未勉強
近似の数理 第13章 §13.7 ★★★ 第11章の表の固体版。固体の多体の近似を、型と証明の状況で一覧する
固体の多体の近似を、第11章の表と同じ形で表 13.1 にまとめる。一電子の近似(バンド・tight-binding・有効質量・半古典運動・Wannier 関数)は第12章で扱った。
| 近似 | 型 | 数学が保証すること | 証明の状況 | 破綻する場面 |
| 熱力学極限(13.1 節) | B | 単位体積あたりの量の極限が存在し、箱の形によらない | 証明済み(安定性は Dyson–Lenard・Lieb–Thirring、Coulomb 系は Lieb–Lebowitz) | ボソンの荷電粒子、有限の小さな系(表面 ) |
| 結晶であること(13.2 節) | — | 2次元の模型で三角格子 | 3次元は未解決 | — |
| 調和近似・フォノン(13.2 節) | B | 結晶のまわりの ・ の漸近展開 | 結晶を仮定すれば条件付き | 融解・解離( の寄与) |
| Thomas–Fermi の固体(13.2 節) | B | 熱力学極限 | 証明済み(Lieb–Simon) | 凝集エネルギー(Teller の定理で結合しない) |
| 平均場の磁性(13.3 節) | B | 到達距離無限大で自由エネルギーが一致、誤差 | Curie–Weiss・Kac 極限で証明済み | 1次元、2次元の連続対称性(Mermin–Wagner) |
| スピン波(13.3 節) | B | 3次元の量子強磁性体の低温の自由エネルギーの主要項 | 証明済み(Correggi–Giuliani–Seiringer。自発磁化は未解決) | 高温、低次元 |
| Peierls 不安定性(13.4 節) | B | 半分詰まりの輪の最小が周期2 | 静止した格子・自由な電子で証明済み(Kennedy–Lieb) | 格子の量子揺らぎ・電子相関(要確認) |
| Hubbard の Hartree–Fock(13.4 節) | A | 上界 | 証明済み。基底状態の全スピンは Lieb の定理 | 対称性を破った解は有限系の産物 |
| Fermi 液体(13.5 節) | B | 摂動展開の収束 | 2次元・非対称な Fermi 面で証明済み(Feldman–Knörrer–Trubowitz) | 反転対称な Fermi 面(Cooper 不安定性)、1次元 |
| RPA の相関エネルギー(13.5 節) | B | 高密度で Gell-Mann–Brueckner の式 | 平均場スケーリングで上界・下界とも証明済み(Christiansen–Hainzl–Nam) | 本来の の極限は範囲外、低密度 |
| BCS から GL(13.5 節) | B | 近く・ゆっくりした外場で GL 汎関数 | BCS 汎関数から証明済み(Frank–Hainzl–Seiringer–Solovej) | 、強結合 |
| Boltzmann 方程式(13.6 節) | B | 弱い乱れの van Hove 極限で線形 Boltzmann | 相互作用しない電子で証明済み(Spohn・Erdős–Yau) | 強い乱れ(局在)、電子どうしの散乱 |
| 緩和時間近似(13.6 節) | C | なし | 内部の評価なし | 異方的な散乱、非弾性散乱 |
| フォノンの Boltzmann と Fourier の法則(13.6 節) | B | 弱い非調和性で熱伝導率の表示 | 導く枠組みはある(Spohn)。厳密な導出の範囲は要確認 | 1次元の FPU 鎖(熱伝導率が発散) |
| 局所平衡(13.6 節) | B | 流体力学極限で巨視的な方程式 | 確率的な模型と弱い雑音つきの Hamilton 力学で証明済み(Yau・Olla–Varadhan–Yau) | 雑音のない Hamilton 力学 |
| Hall 伝導度の量子化(13.6 節) | 厳密 | Chern 数による整数倍 | 証明済み(ギャップ・局在があれば乱れ・相互作用込み) | ギャップが閉じる(金属・転移点) |
表を第11章の表と並べると、3つのことが読み取れる。
第一に、固体の定理の多くはギャップを前提にしている。Hall 伝導度の量子化、線形応答の正当化、絶縁体の Hubbard 模型の性質は、どれもギャップがあるときに成り立ち、ギャップが閉じる所で証明が途切れる。第12章の tight-binding・半古典運動・Wannier 関数と同じ構造で、金属(Fermi 面があってギャップがない系)の性質は、Fermi 液体の特別な場合を除いて定理の外にある。
第二に、B 型の近似では、どの極限をどの順にとるかが結論を変える。平均場は到達距離の極限で正しく、短距離のまま熱力学極限をとると次元によって誤る。Kac の模型では熱力学極限を先にとるか後にとるかで Maxwell の作図の有無が変わる。原子・分子の近似(第11章)では極限は1つ(、、)で済んだが、固体では熱力学極限が常にもう1つの極限として加わるので、順序の問題が避けられない。
第三に、秩序や超伝導の大きさは小さいパラメータの指数関数で決まり、摂動展開に現れない。BCS の 、Peierls の 、解離の は、どれもべき級数の外にある。第7章の WKB のトンネル積分と合わせ、B 型の近似の正しさを述べるときは「どの次数まで正しいか」と並んで「べき級数に乗らない量が何か」を確かめる必要がある。
総合問題 縮退した対の模型:BCS 平均場はどの極限で厳密か ★★★
オリジナル運動量 の対を入れる準位が 個あり、どれも同じエネルギー( とする)を持つとする。対の生成演算子を とし、対がばらばらにならない部分空間(各準位が空か対で詰まっているかのどちらか)に限って
を考える。対の数を とする。
- (1) (使う道具:13.5 節)各準位の2つの状態(空・対)を擬スピンの下向き・上向きとみなすと、、 がスピンの交換関係を満たし、 と書けることを示せ。
- (2) (使う道具:13.4 節の小さな系の厳密解)基底エネルギーが であることを示せ。基底状態の対の数はゆらぐか。
- (3) (使う道具:近似の数理 第4章の変分原理)BCS 状態 (、)でのエネルギー を求め、(BCS 状態での対の数の分散)が成り立つことを示せ。
- (4) (使う道具:13.3 節の Curie–Weiss 模型・近似の数理 第6章の平均場スケーリング・13.1 節)、( は一定)として とする。1準位あたりのエネルギーが と で同じ極限を持つことと、差 の大きさを求めよ。これを定理 13.4 と比べよ。
- (5) (使う道具:13.4 節の Lieb の定理と対称性の破れ)BCS 状態の対の数の相対的なゆらぎ を求め、「有限の系の基底状態は粒子数の決まった状態だが、BCS 状態は粒子数の保存(U(1) の対称性)を破っている」ことが熱力学極限でどう解消されるかを述べよ。
解答
(1) 1つの準位では が「空」を「対」に移し、それ以外を にするので、 の上で 、 と同じ行列になる( は2つのフェルミオン演算子の積なので、異なる どうしでは交換する)。したがって 、 は 個のスピン の合成スピンの演算子で、交換関係 を満たす。 はそのまま和の形から出て、スピンの恒等式 を使えばよい。
(2) は保存する。 の固有値 は が大きいほど大きく、 をかけるとエネルギーが下がるので、基底状態は最大の をとる。代入すると 。 の厳密な対角化(例:、 で )と一致する。基底状態は の固有状態なので、対の数はゆらがない。
(3) BCS 状態では異なる準位が独立なので、 で 、 で 。したがって。 を入れて を引くと
一方、各準位の占有は確率 の独立な2値変数なので で、上の差は に等しい。BCS 状態は試行関数なので は変分原理から当然で、差が正確に「粒子数のゆらぎ」の分だけである。例:、 で 、分散 。
(4) 、 で、1準位あたりのエネルギーは一致する。差は で、 によらない の量である。全エネルギーは に比例する(13.1 節の示量性)ので、相対誤差は 。これは Curie–Weiss 模型の と同じく、全員が等しい強さ で結合する平均場スケーリングで平均場が厳密になる例であり、小さいパラメータは (相手の数の逆数)である。縮退していない一般の準位でもこの模型は厳密に解け(Richardson(1963))、同じ結論になることが知られている。
(5) 。、 で で、 で に近づく。有限の の真の基底状態は対の数の決まった状態で、粒子数の保存を破らない。これは Hubbard の2量体の真の基底状態がスピンの回転の対称性を破らない一重項だったこと(定理 13.6)と同じである。BCS 状態は粒子数の決まった状態の重ね合わせで対称性を破っているが、相対的なゆらぎが で消え、エネルギーの差も1準位あたり で消えるので、熱力学極限では両者の区別がなくなる。対称性の破れは有限の系の性質でなく、熱力学極限をとって初めて現れる性質であり、平均場の状態はその極限を先取りした状態である(検算スクリプト)。
ほかの巻では
- ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部第6章:この表と同じ形の固体の札の一覧(全31章)と、第11章の表と並べた3つの読み取りが読める
木下の勉強ステータス
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