量子力学の様々な構成方法 第2部 第6章 §2.6.3 ★★★ 交換関係 [x^,p^]=iℏ を稠密な部分空間で満たす組には、Schrödinger の組と同値でないものがある。交換関係をユニタリ演算子の関係(Weyl の形)に直すと、問いが正しく立つ
交換関係の表現の問い
交換関係 [x^,p^]=iℏ を満たす自己共役な演算子の組 (x^,p^) をヒルベルト空間 H の上に与えることを、交換関係の表現と呼ぶ。2つの表現 (x^,p^) on H、(x^′,p^′) on H′ がユニタリ同値であるとは、ユニタリ写像 V:H→H′ があってx^′=Vx^V−1、p^′=Vp^V−1 となることをいう。同値な表現はすべての期待値と確率を同じに与えるので、物理として区別がつかない。基準の公理 Q1〜Q6 と行列力学が同じ理論であることは、「どの表現を選んでも Schrödinger の表現と同値」と言えれば保証される。ただし、表現を直和でいくつも重ねる自由(たとえば内部の自由度をもつ粒子 L2(R)⊗C2)は残るので、主張は「既約な表現は1つ」の形になる。
有限次元にはそもそも表現が無い(トレースをとると左辺が 0、右辺が iℏdimH)。無限次元では、交換関係をどの定義域で要求するかで答えが変わる。
区間の運動量:交換関係は満たすが同値でない
例題 2.6.2 の (3) の族を使う。H=L2(0,L) の上で、x^ を x を掛ける演算子、p^θ を境界条件 ψ(L)=eiθψ(0) をもつ −iℏd/dx とする。p^θ は自己共役で、固有関数は eikx(eikL=eiθ)、固有値は
pn(θ)=L(2πn+θ)ℏ,n∈Z(2.6.8)
である。H の中の、(0,L) の内側で台をもつ滑らかな関数の空間 D0 は稠密で、x^ と p^θ の両方で自分自身に写り、そこでは[x^,p^θ]ψ=iℏψ がどの θ でも成り立つ(台が内側にあるので境界の値は計算に入らず、θ は現れない)。
それでも、この組は Schrödinger の組と同値でない。理由は2つある。第一に、区間の x^ は有界(∥x^∥≤L)で、Schrödinger の x^ は有界でない。第二に、θ の違う組どうしも同値でない。図 2.6.2 のように、p^θ のスペクトル (2.6.8) は θ ごとに違う離散集合で、ユニタリ写像はスペクトルを変えないからである(θ と θ+2π は同じ)。交換関係を稠密な部分空間で満たすという条件だけでは、表現は1つに決まらない。

図 2.6.2 区間 (0,L) の運動量 p^θ のスペクトル (2.6.8)。縦に切った1本の線の上の点が1つの θ の固有値で、θ が違えば点の集合が違う。どの θ でも稠密な部分空間で [x^,p^θ]=iℏ が成り立つが、組どうしはユニタリ同値でない。
Weyl の形
H. Weyl は 1927 年に、交換関係を有界なユニタリ演算子の関係として書く形を出した1H. Weyl (1927), Zeitschrift für Physik 46, 1–46。経緯は第1部第4章。。運動量の並進 U(a):=eiap^/ℏ と位置の位相 V(b):=eibx^/ℏ をまとめて
W(a,b):=ei(ap^+bx^)/ℏ,s(z1,z2):=a1b2−b1a2(z=(a,b)∈R2)(2.6.9)
とおく(記号は第8部第3章と同じにした)。eXeY=eX+Ye[X,Y]/2([X,Y] が数のとき)に交換関係を入れると
W(z1)W(z2)=eis(z1,z2)/(2ℏ)W(z1+z2),U(a)V(b)=eiab/ℏV(b)U(a)(2.6.10)
を得る。Schrödinger 表現では (U(a)ψ)(x)=ψ(x+a)、(V(b)ψ)(x)=eibx/ℏψ(x) で、(2.6.10) は直接確かめられる。
定義 2.6.4(Weyl の形の表現 ★★★)
ヒルベルト空間 H の上のユニタリ演算子の族 W(z)(z∈R2)が (2.6.10) を満たし、すべてのベクトル u,v について z↦⟨u,W(z)v⟩ が連続であるとき、これを交換関係の正則な Weyl 表現と呼ぶ。W(z) を全部の z について同時に不変にする閉部分空間が {0} と H だけのとき、既約と呼ぶ。
正則なら、Stone の定理(定理 2.6.3)で U(a) と V(b) の自己共役な生成子 p^ と x^ が取り出せる。Weyl の形は交換関係より強い条件で、区間の組 (x^,p^θ) はこれを満たさない。次の例題でそれを確かめる。
例題 2.6.3 区間では Weyl の関係が破れる ★★
オリジナルH=L2(0,L)、p^θ を上の自己共役な運動量とする。U(a)=eiap^θ/ℏ は境界条件どおりに巻き付ける並進(U(a)ψ)(x)=ψ(x+a)(x+a<L)、eiθψ(x+a−L)(x+a≥L)で、V(b) は eibx/ℏ を掛ける演算子である(0<a<L)。
- (1) U(a)V(b) と eiab/ℏV(b)U(a) を x+a<L と x+a≥L の2つの領域で比べよ。
- (2) Weyl の関係 (2.6.10) が成り立つ b を求めよ。
- (3) (2) の結果と、Schrödinger 表現の V(b) が全部の実数 b で定義されていることを比べて、2つの組が同値でない理由を Weyl の形の言葉で述べよ。
解答
(1) x+a<L では (U(a)V(b)ψ)(x)=eib(x+a)/ℏψ(x+a)、(V(b)U(a)ψ)(x)=eibx/ℏψ(x+a) で、比は eiab/ℏ である。x+a≥L では (U(a)V(b)ψ)(x)=eiθeib(x+a−L)/ℏψ(x+a−L)、(V(b)U(a)ψ)(x)=eibx/ℏeiθψ(x+a−L) で、比は eiab/ℏe−ibL/ℏ である。
(2) 両方の領域で比が eiab/ℏ になるのは e−ibL/ℏ=1、すなわち b∈(2πℏ/L)Z のときだけである。それ以外の b では巻き付いた部分に余分な位相 e−ibL/ℏ がつき、関係が破れる(検算スクリプトで θ=0.7 の数値の関数に当てて確かめた)。
(3) V(b) が p^θ の定義域(境界条件)を保つのも同じ b∈(2πℏ/L)Z のときに限る。区間の組で Weyl の関係を満たすのは離散的な b の格子だけで、連続な b の全体では満たさない。定義 2.6.4 の表現になっていないので、次の節の定理の前提から外れ、Schrödinger の組と同値になる必要がない。
区間(あるいは円)の上で交換関係が離散的な格子の上でしか Weyl の形にならないことは、第2部第5章の Josephson 接合の位相 φ と電荷 n にも当てはまる。eiφ は1つずらすだけの演算子で、n を連続にずらす演算子は無い。そのため ng で番号づけた同値でない表現が並び、スペクトルが ng に依った。
1 H. Weyl (1927), Zeitschrift für Physik 46, 1–46。経緯は第1部第4章。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com