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時間分割:分配関数は閉じた経路の和

2026年10月17日11分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第3部 第6章 虚時間と統計力学
目次
  1. Trotter の積公式は虚時間の方が素直
  2. トレースが端をつなぐ
  3. 重みが正であることの意味:Feynman–Kac の公式
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子力学の様々な構成方法 第3部 第6章 §3.6.2 ★★★ Trotter の積公式を e−βH^\mathrm{e}^{-\beta\hat H} に当てると、ZZ は重み e−SE/ℏ\mathrm{e}^{-S_{\mathrm E}/\hbar} をつけた周期 βℏ\beta\hbar の閉じた経路の和になり、重みが正なので Wiener 測度の期待値として定義できる

Trotter の積公式は虚時間の方が素直

第3部第2章では、実時間の e−i(T^+V^)t/ℏ\mathrm{e}^{-\mathrm{i}(\hat T+\hat V)t/\hbar} を (e−iT^ϵ/ℏe−iV^ϵ/ℏ)N(\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\hat T\epsilon/\hbar}\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\hat V\epsilon/\hbar})^N で近似する Trotter の積公式を使った。H. F. Trotter の元の論文(Trotter (1959), Proc. Amer. Math. Soc. 10, 545)は、ユニタリ群に限らず縮小半群(ノルムが1以下の半群)の積について

e−β(T^+V^)=lim⁡P→∞(e−βT^/P e−βV^/P)P(強収束)(3.6.4)\mathrm{e}^{-\beta(\hat T+\hat V)}=\lim_{P\to\infty}\bigl(\mathrm{e}^{-\beta\hat T/P}\,\mathrm{e}^{-\beta\hat V/P}\bigr)^P\qquad(\text{強収束})\tag{3.6.4}

を示したもので、T^,V^\hat T,\hat V と T^+V^\hat T+\hat V の閉包がそれぞれ縮小半群を生成することが前提である。T^=p^2/(2m)≥0\hat T=\hat p^2/(2m)\ge0 と V^≥0\hat V\ge0(定数を足して下に有界な VV を非負にしておく)なら e−βT^/P\mathrm{e}^{-\beta\hat T/P} と e−βV^/P\mathrm{e}^{-\beta\hat V/P} はノルム1以下の縮小で、虚時間はこの元の形がそのまま当たる場面である。実時間の場合はユニタリ(ノルムがちょうど1)で、こちらも同じ定理の特別な場合として扱える。(3.6.4) の右辺の因子を PP 個並べ、各因子の間に位置の完全系 ∫dxk∣xk⟩⟨xk∣\int\mathrm{d} x_k| x_k \rangle \langle x_k | を挿むと、e−βV^/P\mathrm{e}^{-\beta\hat V/P} は位置表示で掛け算、e−βT^/P\mathrm{e}^{-\beta\hat T/P} は熱核 (3.6.3) の β\beta を β/P\beta/P にしたものになる。

トレースが端をつなぐ

分配関数はトレース Z=∫dx0 ⟨x0∣e−βH^∣x0⟩Z=\int\mathrm{d} x_0\,\langle x_0 | \mathrm{e}^{-\beta\hat H} | x_0 \rangle なので、最初と最後の位置が同じ x0x_0 になる。PP 個に分けた虚時間の刻みを ϵ=βℏ/P\epsilon=\beta\hbar/P とし、xP≔x0x_P\coloneqq x_0 と書くと

ZP=(m2πℏϵ)P/2∫dx0⋯dxP−1  exp⁡{−1ℏ∑k=0P−1[m(xk+1−xk)22ϵ+ϵV(xk)]},Z=lim⁡P→∞ZP(3.6.5)Z_P=\Bigl(\frac{m}{2\pi\hbar\epsilon}\Bigr)^{P/2}\int\mathrm{d} x_0\cdots\mathrm{d} x_{P-1}\;\exp\Bigl\{-\frac1\hbar\sum_{k=0}^{P-1}\Bigl[\frac{m(x_{k+1}-x_k)^2}{2\epsilon}+\epsilon V(x_k)\Bigr]\Bigr\},\qquad Z=\lim_{P\to\infty}Z_P\tag{3.6.5}

となる(m/(2πℏϵ)=mP/(2πℏ2β)m/(2\pi\hbar\epsilon)=mP/(2\pi\hbar^2\beta) は熱核の前因子の2乗)。指数の和は、折れ線の経路についての Euclid 作用

SE[x]=∫0βℏ[m2(dxdτ)2+V(x(τ))]dτ(3.6.6)S_{\mathrm E}[x]=\int_0^{\beta\hbar}\Bigl[\frac m2\Bigl(\frac{\mathrm{d} x}{\mathrm{d} \tau}\Bigr)^2+V(x(\tau))\Bigr]\mathrm{d}\tau\tag{3.6.6}

を区間ごとに評価したもので、P→∞P\to\infty の極限を

Z=∮Dx  e−SE[x]/ℏ,x(0)=x(βℏ)(3.6.7)Z=\oint\mathcal Dx\;\mathrm{e}^{-S_{\mathrm E}[x]/\hbar},\qquad x(0)=x(\beta\hbar)\tag{3.6.7}

と書く。∮\oint は「周期 βℏ\beta\hbar の閉じた経路について積分する」ことの印である。

Euclid 作用は実時間の作用 S=∫(m2x˙2−V)dtS=\int(\frac m2\dot x^2-V)\mathrm{d} t から t=−iτt=-\mathrm{i}\tau で出てくる。dt=−idτ\mathrm{d} t=-\mathrm{i}\mathrm{d}\tau、dx/dt=i dx/dτ\mathrm{d} x/\mathrm{d} t=\mathrm{i}\,\mathrm{d} x/\mathrm{d}\tau を入れると

iS=i∫[−m2(dxdτ)2−V](−i dτ)=−∫[m2(dxdτ)2+V]dτ=−SE(3.6.8)\mathrm{i} S=\mathrm{i}\int\Bigl[-\frac m2\Bigl(\frac{\mathrm{d} x}{\mathrm{d} \tau}\Bigr)^2-V\Bigr](-\mathrm{i}\,\mathrm{d}\tau)=-\int\Bigl[\frac m2\Bigl(\frac{\mathrm{d} x}{\mathrm{d} \tau}\Bigr)^2+V\Bigr]\mathrm{d}\tau=-S_{\mathrm E}\tag{3.6.8}

で、振幅の位相 eiS/ℏ\mathrm{e}^{\mathrm{i} S/\hbar} が実の重み e−SE/ℏ\mathrm{e}^{-S_{\mathrm E}/\hbar} に変わる。運動エネルギーとポテンシャルの符号がそろって「両方とも足される」形になるのが Euclid 作用の特徴で、速く動く経路(運動項が大きい)と、ポテンシャルの高い所に長くいる経路(ポテンシャル項が大きい)は、どちらも重みが小さくなる。

重みが正であることの意味:Feynman–Kac の公式

実時間の経路積分は振動する位相の和で、第3部第5章が述べたとおり経路の上の測度として定義することができない。虚時間では1区間の核が正の Gauss 関数 (3.6.3) なので、時間分割の積は「各刻みで分散 ℏϵ/m\hbar\epsilon/m の Gauss の跳びをする」確率過程の有限次元分布になり、P→∞P\to\infty の極限は Brown 運動の経路の上の確率測度(Wiener 測度)として存在する。この確率過程の分散は ⟨(dx)2⟩=(ℏ/m)dτ=2D dτ\langle (\mathrm{d} x)^2 \rangle =(\hbar/m)\mathrm{d}\tau=2D\,\mathrm{d}\tau(D=ℏ/(2m)D=\hbar/(2m))で、式 (3.6.2) の拡散係数と一致する。運動項 e−1ℏ∫m2x˙2dτ\mathrm{e}^{-\frac1\hbar\int\frac m2\dot x^2\mathrm{d}\tau} はこの測度に吸収され、残るポテンシャルの項が汎関数として期待値の中に入る。

⟨x∣e−βH^∣x′⟩=ρ0(x,x′;β)  Ex′→x[exp⁡(−1ℏ∫0βℏV(X(τ)) dτ)](3.6.9)\langle x | \mathrm{e}^{-\beta\hat H} | x' \rangle =\rho_0(x,x';\beta)\;\mathbb E_{x'\to x}\Bigl[\exp\Bigl(-\frac1\hbar\int_0^{\beta\hbar}V(X(\tau))\,\mathrm{d}\tau\Bigr)\Bigr]\tag{3.6.9}

ここで Ex′→x\mathbb E_{x'\to x} は、τ=0\tau=0 で x′x' を出て τ=βℏ\tau=\beta\hbar で xx に戻る Brown 運動(Brown 橋、拡散係数 D=ℏ/(2m)D=\hbar/(2m))についての期待値である。これが Feynman–Kac の公式で、M. Kac が Wiener 汎関数の分布の問題として示した(Kac (1949), Trans. Amer. Math. Soc. 65, 1)。VV が下に有界なら被積分関数は有界で、式 (3.6.9) の右辺は数学的に厳密に定義された量である。確率過程からの見方は第7部第5・6章(第7部第5章・第7部第6章)で Nelson の確率過程と並べる。

注意

「虚時間の経路積分は厳密に定義できるのに、実時間の経路積分はできない」という非対称は、この巻で経路積分を構成の1つとして扱うときの大事な事実である。実時間の量は、虚時間で厳密に定義した量を命題 3.6.1 の解析接続で延ばしたものとして得るのが、数学的に最も安全な道になる。場の理論でこの道を公理の形にしたのが Osterwalder–Schrader の再構成(Osterwalder–Schrader (1973), Commun. Math. Phys. 31, 83)で、3.6.6節で名前だけ触れる。

例題 3.6.2 ビーズ PP 個の調和振動子 ★★★

オリジナルV=12mω2x2V=\frac12m\omega^2x^2 について、式 (3.6.5) の ZPZ_P を求める。u=βℏω/Pu=\beta\hbar\omega/P とおく。

  1. (1) 指数を −12∑jkxjMjkxk-\frac12\sum_{jk}x_jM_{jk}x_k と書いたときの行列 MM の固有値を求め、ZP=∏k=0P−1(4sin⁡2(πk/P)+u2)−1/2Z_P=\prod_{k=0}^{P-1}\bigl(4\sin^2(\pi k/P)+u^2\bigr)^{-1/2} を示せ。
  2. (2) 恒等式 ∏k=0P−1(2cosh⁡θ−2cos⁡(2πk/P))=2cosh⁡Pθ−2\prod_{k=0}^{P-1}\bigl(2\cosh\theta-2\cos(2\pi k/P)\bigr)=2\cosh P\theta-2 を使い、ZP=1/(2sinh⁡(Pθ/2))Z_P=1/(2\sinh(P\theta/2))(sinh⁡(θ/2)=u/2\sinh(\theta/2)=u/2)を示せ。
  3. (3) P=1P=1 と P→∞P\to\infty の値を求めよ。βℏω=5\beta\hbar\omega=5 で ZPZ_P の相対誤差が1%を切る最小の PP を求めよ。
解答

(1) 指数は −1ℏ∑k[m2ϵ(xk+1−xk)2+ϵmω22xk2]-\frac1\hbar\sum_k[\frac{m}{2\epsilon}(x_{k+1}-x_k)^2+\frac{\epsilon m\omega^2}{2}x_k^2] である。各 xkx_k は2本の差に入るので、M=mℏϵ(2⋅1−S−ST)+ϵmω2ℏ1M=\frac m{\hbar\epsilon}(2\cdot\mathbb 1-S-S^{\mathsf T})+\frac{\epsilon m\omega^2}{\hbar}\mathbb 1(SS は1つずらす巡回行列)と書ける。巡回行列は Fourier 基底 vk=(e2πikj/P)jv_k=(\mathrm{e}^{2\pi\mathrm{i} kj/P})_j で対角化され、SS の固有値は e2πik/P\mathrm{e}^{2\pi\mathrm{i} k/P} なので、MM の固有値はμk=mℏϵ(2−2cos⁡2πkP)+ϵmω2ℏ=mℏϵ(4sin⁡2πkP+u2)\mu_k=\frac m{\hbar\epsilon}\bigl(2-2\cos\frac{2\pi k}P\bigr)+\frac{\epsilon m\omega^2}\hbar=\frac m{\hbar\epsilon}\bigl(4\sin^2\frac{\pi k}P+u^2\bigr) である(ϵω=u\epsilon\omega=u)。PP 重の Gauss 積分は (2π)P/2/det⁡M(2\pi)^{P/2}/\sqrt{\det M} なので

ZP=(m2πℏϵ)P/2(2π)P/2∏kμk1/2=∏k=0P−1(ℏϵmμk)−1/2=∏k=0P−1(4sin⁡2πkP+u2)−1/2Z_P=\Bigl(\frac m{2\pi\hbar\epsilon}\Bigr)^{P/2}\frac{(2\pi)^{P/2}}{\prod_k\mu_k^{1/2}}=\prod_{k=0}^{P-1}\Bigl(\frac{\hbar\epsilon}{m}\mu_k\Bigr)^{-1/2}=\prod_{k=0}^{P-1}\Bigl(4\sin^2\frac{\pi k}P+u^2\Bigr)^{-1/2}

を得る。

(2) 4sin⁡2(πk/P)+u2=2−2cos⁡(2πk/P)+u24\sin^2(\pi k/P)+u^2=2-2\cos(2\pi k/P)+u^2 であり、2cosh⁡θ=2+u22\cosh\theta=2+u^2、つまり 4sinh⁡2(θ/2)=u24\sinh^2(\theta/2)=u^2 となる θ>0\theta>0 を選ぶと、各因子は 2cosh⁡θ−2cos⁡(2πk/P)2\cosh\theta-2\cos(2\pi k/P) になる。恒等式(ePθ\mathrm{e}^{P\theta} の多項式としての因数分解 zP+z−P−2=∏k(z+z−1−2cos⁡(2πk/P))z^P+z^{-P}-2=\prod_k(z+z^{-1}-2\cos(2\pi k/P)) に z=eθz=\mathrm{e}^\theta を入れたもの)により積は 2cosh⁡Pθ−2=4sinh⁡2(Pθ/2)2\cosh P\theta-2=4\sinh^2(P\theta/2) なので、ZP=1/(2sinh⁡(Pθ/2))Z_P=1/(2\sinh(P\theta/2)) である。

(3) P=1P=1 では sinh⁡(θ/2)=βℏω/2\sinh(\theta/2)=\beta\hbar\omega/2 なので Z1=1/(2sinh⁡(θ/2))=1/(βℏω)Z_1=1/(2\sinh(\theta/2))=1/(\beta\hbar\omega) で、これは古典の分配関数 ∫dx dp2πℏe−βH\int\frac{\mathrm{d} x\,\mathrm{d} p}{2\pi\hbar}\mathrm{e}^{-\beta H} に一致する。ビーズ1個の輪は1点で、運動項が消えるからである。P→∞P\to\infty では θ≈u\theta\approx u なので Pθ/2→βℏω/2P\theta/2\to\beta\hbar\omega/2 となり、Z=1/(2sinh⁡(βℏω/2))Z=1/(2\sinh(\beta\hbar\omega/2))(共通例題①の正答)に戻る。βℏω=5\beta\hbar\omega=5 では ZP/ZZ_P/Z が P=1P=1 で 2.4202.420、P=4P=4 で 1.1521.152、P=16P=16 で 1.01031.0103 で、1%を切る最小の PP は 1717 である。大きい PP では ln⁡(ZP/Z)≈(βℏω)3coth⁡(βℏω/2)/(48P2)\ln(Z_P/Z)\approx(\beta\hbar\omega)^3\coth(\beta\hbar\omega/2)/(48P^2) で、誤差は 1/P21/P^2 で減る。必要なビーズの数はおよそ βℏω\beta\hbar\omega に比例して増え、低温ほど細かく分ける必要がある。

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