量子力学の様々な構成方法 第3部 第6章 §3.6.3 ★★★ 閉じた経路を周期 βℏ の Fourier 級数に分けると、2次の作用は成分ごとに分かれ、Z と虚時間の相関関数が無限積と無限和で厳密に出る
閉じた経路の Fourier 成分
周期 βℏ の経路は Fourier 級数
x(τ)=n=−∞∑∞xneiωnτ,ωn=βℏ2πn,x−n=xn∗(3.6.10)
に展開できる。ωn を Matsubara 角振動数と呼ぶ。虚時間の周期から出る離散的な角振動数で、熱平衡の Green 関数を虚時間の関数として扱う方法を松原武生が導入した(Matsubara (1955), Prog. Theor. Phys. 14, 351)。n=0 の成分 x0=βℏ1∫0βℏxdτ は経路の重心で、n=0 の成分は重心のまわりの揺らぎである。(ここの x0 は時間分割の最初の点でなく、Fourier の0番目の成分を指す。)
調和振動子 V=21mω2x2 では、Parseval の等式 βℏ1∫0βℏ∣f∣2dτ=∑n∣fn∣2 により
ℏSE=2mβn=−∞∑∞(ωn2+ω2)∣xn∣2=2mβω2x02+mβn≥1∑(ωn2+ω2)∣xn∣2(3.6.11)
となる。作用が成分ごとに分かれるので、経路積分は各成分の Gauss 積分の積になる。
積分の規格化と Z
経路の測度 Dx を成分の言葉で dx0∏n≥1dRexndImxn に定数を掛けたものと書くとき、その定数は ω によらないので、自由粒子の値で決めればよい。長さ L の領域の自由粒子では Z=L/λT(3.6.1節)で、重心の積分 ∫dx0=L がそのまま L を出すので、揺らぎの積分に掛かる定数は「自由粒子で揺らぎの積分全体が 1/λT になる」ように決まる。この規格化で、調和振動子の Z は
Z=λT1∫dx0e−βmω2x02/2n≥1∏ωn2+ω2ωn2=βℏω1n≥1∏(1+(2πn)2(βℏω)2)−1(3.6.12)
となる(各 n≥1 の複素成分の Gauss 積分は π/(mβ(ωn2+ω2)) で、自由粒子の値 π/(mβωn2) との比が因子になる。重心の積分は 2π/(βmω2)/λT=1/(βℏω))。第1因子 1/(βℏω) は古典の Z で、量子の補正はすべて無限積に含まれる。sinhy=y∏n≥1(1+y2/(πn)2) に y=βℏω/2 を入れると無限積は y/sinhy なので
Z=βℏω1⋅sinh(βℏω/2)βℏω/2=2sinh(βℏω/2)1(3.6.13)
を得る。第3部第3章の Mehler 核も、ビーズの積 (3.6.5) も経由せず、虚時間の経路積分だけで共通例題①の正答が出た。第4部第4章(第4部第4章)は高温展開 lnZ の収束半径が βℏω=2π であることを示したが、その理由は式 (3.6.12) から読める。因子 1+(βℏω)2/(2πn)2 は βℏω=±2πin で0になり、lnZ は βℏω の複素平面の ±2πi に特異点を持つ。最初の Matsubara 角振動数 ω1=2π/(βℏ) が ω に等しくなる温度が、展開の境目である。
虚時間の相関関数
同じ Gauss 積分から、虚時間の相関関数 G(τ):=⟨x(τ)x(0)⟩=Z1∮Dxx(τ)x(0)e−SE/ℏ も出る。式 (3.6.11) から各成分は独立な Gauss 変数で、⟨∣xn∣2⟩=1/(mβ(ωn2+ω2))(n=0 は実部と虚部の分散の和、n=0 は実の変数の分散)なので
G(τ)=n∑⟨∣xn∣2⟩eiωnτ=mβ1n=−∞∑∞ωn2+ω2eiωnτ(3.6.14)
である。この和を閉じた形にするには、G が満たす微分方程式を使う。(−∂τ2+ω2) を項ごとに当てると分母が消え、mβ1∑neiωnτ=mℏ∑kδ(τ−kβℏ) が残る。したがって G は周期 βℏ を持ち、0<τ<βℏ で G′′=ω2G、τ=0 で傾きが −ℏ/m だけ跳ぶ。τ↦βℏ−τ について対称な解は Acosh(ω(τ−βℏ/2)) で、跳びの条件 −2Aωsinh(βℏω/2)=−ℏ/m から
G(τ)=2mωℏsinh(βℏω/2)cosh(ω(τ−βℏ/2))(0≤τ≤βℏ)(3.6.15)
を得る。G(0)=2mωℏcoth2βℏω は第4部第4章の ⟨x2⟩ そのものである。G(βℏ−τ)=G(τ) という対称性は、周期境界条件とトレースの巡回性によるもので、第8部第4章(第8部第4章)は同じ式を KMS 条件から出している。

図 3.6.2 調和振動子の虚時間の相関関数 (3.6.15) を G(0) で割ったもの。実線は βℏω=1、点線は βℏω=4。どちらも τ=βℏ/2 について対称で、周期 βℏ でつながる。低温ほど τ の小さい所で e−ωτ に近い減衰が見え、その減衰率が励起のエネルギー ℏω を表す。
例題 3.6.3 虚時間の相関から励起のエネルギーを読む ★★
オリジナル一般の H^(固有値 En、固有状態 ∣n⟩)について、虚時間の Heisenberg 演算子 x^(τ)=eτH^/ℏx^e−τH^/ℏ を使うと G(τ)=Z1Tr(e−βH^x^(τ)x^) である。
- (1) G(τ)=Z1∑n,ke−βEn∣⟨n∣x∣k⟩∣2e−(Ek−En)τ/ℏ を示せ。
- (2) 低温(β→∞)で 0<τ≪βℏ のとき G(τ) がどう振る舞うかを述べ、調和振動子で式 (3.6.15) と照合せよ。
- (3) βℏω=2 の調和振動子で G(βℏ/2)/G(0) を求めよ。
解答
(1) e−βH^x^(τ)x^=e−(β−τ/ℏ)H^x^e−τH^/ℏx^ のトレースを固有状態でとり、間に ∑k∣k⟩⟨k∣ を挿むと∑n,ke−(β−τ/ℏ)En⟨n∣x∣k⟩e−τEk/ℏ⟨k∣x∣n⟩=∑n,ke−βEn∣⟨n∣x∣k⟩∣2e−(Ek−En)τ/ℏ となる。
(2) β→∞ では n=0 の項だけが残り、G(τ)→∑k∣⟨0∣x∣k⟩∣2e−(Ek−E0)τ/ℏ になる。τ が大きくなるにつれて最も小さい Ek−E0 の項が残り、−dlnG/dτ→(E1−E0)/ℏ(⟨0∣x∣1⟩=0 のとき)である。調和振動子では x^ が ∣0⟩ を ∣1⟩ にしか移さないので和は1項 ∣⟨0∣x∣1⟩∣2e−ωτ=2mωℏe−ωτ である。式 (3.6.15) で β→∞ とすると cosh(ω(τ−βℏ/2))/sinh(βℏω/2)→e−ωτ となり一致する。この性質は、虚時間の経路積分を数値で評価してスペクトルを読むという、量子 Monte Carlo 法の基本の使い方になっている。
(3) 式 (3.6.15) で τ=βℏ/2 とおくと分子は cosh0=1、τ=0 では cosh(βℏω/2) なので、比は 1/cosh(βℏω/2)=1/cosh1=0.648 である。
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