量子力学の様々な構成方法 第3部 第6章 §3.6.4 ★★★ 経路を重心と揺らぎに分けると、揺らぎの分散 βℏ2/(12m) でぼかしたポテンシャルの古典の Z が厳密な下限になり、高温で古典の統計力学と ℏ2 の補正が出る
揺らぎの大きさ
一般のポテンシャルで経路を x(τ)=xˉ+ξ(τ) と重心 xˉ(Fourier の0番目の成分)と揺らぎ ξ(n=0 の成分、∫0βℏξdτ=0)に分ける。前節の規格化を使うと、分配関数は厳密に
Z=∫λTdxˉ⟨exp(−ℏ1∫0βℏV(xˉ+ξ(τ))dτ)⟩0(3.6.16)
と書ける。⟨⋅⟩0 は自由粒子の揺らぎの Gauss 測度(規格化して全体を1にしたもの)についての平均である。この測度では各成分が独立で ⟨∣xn∣2⟩0=1/(mβωn2) なので、同じ時刻の揺らぎの分散は
⟨ξ(τ)2⟩0=n=0∑mβωn21=mβ2(2πβℏ)2n≥1∑n21=mβ2⋅4π2β2ℏ2⋅6π2=12mβℏ2(3.6.17)
である。第5部第1章が借りた分散 ℏ2β/(12m) はこれである。λT2=2πℏ2β/m を使うと ⟨ξ2⟩0=λT2/(24π) で、揺らぎの広がりは熱的波長の約 0.115 倍である。異なる時刻の相関は ⟨ξ(τ)ξ(τ′)⟩0=mβℏ2[121−2u(1−u)](u=∣τ−τ′∣/(βℏ))で、τ について平均すると0になる。揺らぎから重心を抜いてあるからである。
Feynman のぼかしたポテンシャル
式 (3.6.16) の平均の中は指数関数なので、Jensen の不等式 ⟨e−X⟩≥e−⟨X⟩ を使うことができる。X=ℏ1∫V(xˉ+ξ(τ))dτ の平均は、各時刻の ξ(τ) が同じ分散 (3.6.17) の Gauss 変数なので
⟨X⟩0=βVσ(xˉ),Vσ(xˉ):=∫dy2πσ2e−y2/(2σ2)V(xˉ+y),σ2=12mβℏ2(3.6.18)
である。Vσ は V を幅 σ の Gauss 関数でぼかしたもので、R. P. Feynman が導いた(教科書 Feynman–Hibbs (1965)『Quantum Mechanics and Path Integrals』McGraw-Hill に載っている)。
定理 3.6.2(Feynman のぼかしの下限)
V が下に有界で、式 (3.6.18) の積分が有限なら
Z ≥ ZF:=∫λTdxˉe−βVσ(xˉ),F≤FF:=−kBTlnZF.(3.6.19)
証明
式 (3.6.16) の各 xˉ で、確率測度 ⟨⋅⟩0 について凸関数 e−X に Jensen の不等式を使うと ⟨e−X⟩0≥e−⟨X⟩0=e−βVσ(xˉ) である。xˉ で積分すれば式 (3.6.19) になる。⟨X⟩0 で積分の順序を入れ替えるところは、V が下に有界なので Tonelli の定理で正当化される。
この下限は、Feynman–Kleinert (1986), Phys. Rev. A 34, 5080 で、揺らぎの基準を自由粒子から重心ごとに選んだ調和振動子に替えて改良された。この節では自由粒子を基準にした最も簡単な形だけを扱う。
Vσ を σ で展開すると
Vσ(xˉ)=V(xˉ)+2σ2V′′(xˉ)+8σ4V′′′′(xˉ)+⋯=V(xˉ)+24mℏ2βV′′(xˉ)+O(ℏ4)(3.6.20)
で、ℏ2 の項は第5部第1章の Veff そのものである。ZF が ℏ2 の次数まで正しい理由も式 (3.6.16) から分かる。ln⟨e−X⟩0=−⟨X⟩0+21(⟨X2⟩0−⟨X⟩02)−⋯ の2番目の項(分散)の最も低い次数は、V を1次まで展開した X≈βV(xˉ)+ℏ1V′(xˉ)∫ξdτ から出るはずだが、揺らぎは重心を抜いてあるので ∫ξdτ=0 で、この項は恒等的に消える。分散が0でなくなるのは V′′ の2乗の項からで、その大きさは β2V′′2σ4∝ℏ4 である。
σ→0(高温、あるいは ℏ→0)では Vσ→V で、ZF は古典の分配関数
Zcl=∫λTdxˉe−βV(xˉ)=∫2πℏdxdpe−βH(x,p)(3.6.21)
に近づく(2つ目の等号は ∫dpe−βp2/(2m)/(2πℏ)=1/λT)。第3部第4章(第3部第4章)の言葉で言えば、虚時間の経路積分の鞍点は βℏ が短いとき動かない経路(定数 xˉ)で、そのまわりの揺らぎの Gauss 積分が運動量の積分の役をする。古典の統計力学の相空間の測度 dxdp/(2πℏ) が、量子の経路積分の重心の積分と揺らぎの規格化から出てきた。

図 3.6.3 調和振動子で、近似した分配関数を厳密な Z=1/(2sinh(βℏω/2))(点線の1)で割ったもの。実線はビーズ P=1,2,4 の時間分割 ZP(例題 3.6.2)で、P=1 が古典の 1/(βℏω)。破線は Feynman のぼかしの ZF=e−(βℏω)2/24/(βℏω) で、定理 3.6.2 のとおり常に1より下にある。どの近似も高温(左)で厳密な値に近づき、低温(右)で離れる。
二重井戸 V=(x2−1)2(ℏ=m=1)で3つの Z を比べると次のようになる(厳密な Z は位置の格子で H^ を対角化した値)。
| β | Zcl | ZF | Z(厳密) |
| 1 | 0.7874 | 0.6286 | 0.6417 |
| 2 | 0.3980 | 0.1854 | 0.2126 |
| 4 | 0.1891 | 0.01777 | 0.03216 |
どの温度でも ZF≤Z≤Zcl の順に並ぶ。Z≤Zcl のほうは一般の定理でなく、この V で成り立っている順序である。低温で ZF が厳密な値から離れるのは、自由粒子の揺らぎの分散 σ2=βℏ2/(12m) が β に比例して際限なく大きくなるのに対し、井戸に閉じ込められた本当の揺らぎは有限に留まるからである。
例題 3.6.4 調和振動子のぼかし ★★
オリジナルV=21mω2x2 とする。
- (1) Vσ を求め、ZF=e−(βℏω)2/24/(βℏω) を示せ。
- (2) lnZ と lnZF が (βℏω)2 の次数まで一致することを確かめよ。
- (3) βℏω=1 と 4 で Zcl・ZF・Z を比べよ。
解答
(1) ∫dye−y2/(2σ2)(xˉ+y)2/2πσ2=xˉ2+σ2 なので Vσ=21mω2xˉ2+21mω2σ2 である。定数項は 21mω2⋅12mβℏ2=24βℏ2ω2 で、ZF=e−β⋅βℏ2ω2/24∫λTdxˉe−βmω2xˉ2/2=e−(βℏω)2/24⋅βℏω1 となる。
(2) s=βℏω とおく。2sinh(s/2)=s(1+s2/24+O(s4)) なので lnZ=−lns−s2/24+O(s4) で、lnZF=−lns−s2/24 と s2 まで一致する(s4 の係数は lnZ で +s4/2880、lnZF で0)。
(3) s=1 では Zcl=1、ZF=e−1/24=0.95919、Z=1/(2sinh0.5)=0.95952 で、ZF の誤差は 0.03% である。s=4 では Zcl/Z=1.813、ZF/Z=0.931 で、古典の誤差 81% に対しぼかしの誤差は 7% に留まる。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの σ2/ℓ2=βℏ2/(12mℓ2)→0(揺らぎの広がりがポテンシャルの変化の長さ ℓ より小さい。高温または ℏ→0) | 証明 下限 Z≥ZF は証明済み(Jensen)。ZF と ℏ2 補正の展開の誤差評価は要確認 | 行き先 近似の数理 第7章
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com