量子力学の様々な構成方法 第3部 第6章 §3.6.5 ★★ 時間分割した ZP は、ばねでつないだ P 個のビーズの輪の古典の配置積分と同じ式で、量子の統計力学を古典の統計力学の計算法で扱える
同じ式の読み替え
式 (3.6.5) の指数を β でくくり直すと
ZP=(2πβℏ2mP)P/2∫k=0∏P−1dxkexp{−βk=0∑P−1[2kP(xk+1−xk)2+PV(xk)]},kP=β2ℏ2mP(3.6.22)
となる(ℏ1⋅2ϵm=2βℏ2mP=β2kP、ℏ1ϵV=PβV)。右辺は、温度 T の古典の系で、P 個の粒子(ビーズ)がばね定数 kP のばねで輪につながり、各ビーズにポテンシャル V/P がかかっているときの配置積分である(図 3.6.4)。量子の1粒子の熱平衡が、古典の輪のポリマーの熱平衡と同じ数になる。分子の系でこの読み替えを系統的に使ったのは Chandler–Wolynes (1981), J. Chem. Phys. 74, 4078 で、この輪の配置を Monte Carlo 法で標本化して量子の熱平衡を計算する方法(経路積分 Monte Carlo)は液体ヘリウムの計算で発展した(総説 Ceperley (1995), Rev. Mod. Phys. 67, 279)。

図 3.6.4 時間分割した虚時間の経路(P=12)を古典の輪のポリマーとして描いたもの。ビーズ k は虚時間 kβℏ/P での位置 xk を表し、隣の時刻どうしがばねでつながる。トレースの周期境界条件 xP=x0 が輪を閉じる。輪の広がりは熱的波長の程度で、高温ほど縮んで1点(古典の粒子)に近づく。
この読み替えでは、量子の性質が輪の形に移る。高温(β が小さい)ではばね kP∝1/β2 が強く、輪は1点に縮んで古典の粒子になる。低温ではばねが弱くなり、輪は熱的波長の程度まで広がり、ビーズがポテンシャルの起伏の広い範囲にまたがる。前節の Feynman のぼかしは、この輪の広がりを Gauss 分布で置き換えたものである。空間 d 次元の量子の粒子は、虚時間の方向が1つ増えた d+1 次元の古典の物体(d=1 なら輪=閉じた紐)に写る。
多粒子の Bose 粒子では、トレースを対称化した状態でとるので、終わりの位置が始めの位置の入れ替えであってもよい。輪の言葉では、l 個の粒子の輪がつながって、周期 lβℏ の長い1本の輪になる配置も数えることになる。入れ替えの輪の和から Bose 分布と Fermi 分布が出る計算は、解析力学の巻(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第1章)と第6部第5章(第6部第5章)にある。
例題 3.6.5 自由な輪の大きさ ★★
オリジナルV=0 として、式 (3.6.22) の輪を考える。重心を固定し、揺らぎだけを見る。
- (1) 隣のビーズの距離の分散が ⟨(xk+1−xk)2⟩=mPβℏ2(1−P1) であることを示せ。
- (2) 重心からの距離の2乗平均(回転半径の2乗)が P1∑k⟨(xk−xˉ)2⟩=12mβℏ2(1−P21) であることを示し、P→∞ で式 (3.6.17) に戻ることを確かめよ。
- (3) ⁴He 原子の 2.17K と電子の 300K での βℏ2/(12m) を求めよ。
解答
(1) 結合のベクトル Δk=xk+1−xk を独立変数にとると、重みは ∏ke−βkPΔk2/2 で、輪が閉じる条件 ∑kΔk=0 がつく。条件なしなら各 Δk は分散 a=1/(βkP)=βℏ2/(mP) の独立な Gauss 変数である。独立な Gauss 変数を和が0の超平面に制限すると、共分散は a(δjk−1/P) になる(和の方向の成分だけを取り除く射影)。したがって ⟨Δk2⟩=a(1−1/P)=mPβℏ2(1−P1) である。
(2) Fourier 成分で書くと、ばねの項は βkP∑k∣Δ∣2 を対角化して、波数 q=2πj/P(j=1,…,P−1)の成分の分散が βkP⋅4sin2(πj/P)1 になる。回転半径の2乗はこの分散の和を P で割ったもので、P1∑j=1P−1mPβℏ24sin2(πj/P)1 である。和の公式 ∑j=1P−11/sin2(πj/P)=(P2−1)/3 を使うと mP2βℏ2⋅12P2−1=12mβℏ2(1−P21) となる。P→∞ で βℏ2/(12m)、すなわち連続な経路の揺らぎの分散 (3.6.17) に戻る。P が有限の輪は、連続な経路の揺らぎのうち高い Matsubara 成分を落としたものである。
(3) ⁴He の 2.17K では ℏ2/(12mkBT)=0.068nm(=λT/24π、λT=0.592nm)、電子の 300K では 0.496nm である。⁴He の輪そのものは原子の間隔 0.36nm より小さいが、隣の原子と入れ替わる配置の重みは e−πd2/λT2 程度の因子で決まり、λT が間隔を上回るとこの入れ替えが無視できなくなる。
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