量子力学の様々な構成方法 第4部 第3章 §4.3.3 ★★★ ρ^ の浄化を1つ用意すれば、ρ^ のどのアンサンブルも、浄化の相手の系での測定と結果の記録によって実際に作れる
前節の定理は、アンサンブルの集合を数学的に分類しただけである。この節では、その全部が実験の手続きとして実現できることを示す。道具は浄化で、ρ^ を大きな系の純粋状態の一部分として書く。第4部第1章で構成を見せ、第4部第2章(第4部第2章)で一般論を示したものを、ここでは結果として使う。
ρ^A=∑k=1rλk∣k⟩⟨k∣ に対し、r 次元の補助系 R を用意して
∣Ψ⟩AR=k=1∑rλk∣k⟩A∣k⟩R,TrR∣Ψ⟩⟨Ψ∣=ρ^A(4.3.11)
と置く。R で結果 i を与える測定をして、結果を A の側へ知らせる。R の測定を正値作用素 E^i≥0、∑iE^i=1R の組(POVM、第4部第5章(第4部第5章)で Kraus 表示から導く一般の測定)で書くと、結果 i の確率と、そのとき A に残る状態は
qi=Tr[∣Ψ⟩⟨Ψ∣(1⊗E^i)],ρ^A∣i=qi1TrR[∣Ψ⟩⟨Ψ∣(1⊗E^i)](4.3.12)
である。E^i=∣ei⟩⟨ei∣ が階数1なら、ρ^A∣i は純粋状態で、規格化しないベクトル
(1⊗⟨ei∣R)∣Ψ⟩=k∑λk⟨ei∣k⟩∣k⟩(4.3.13)
の向きを持ち、その長さの2乗が qi になる。
定理 4.3.3(どのアンサンブルも相手の測定で作れる)
ρ^A の任意のアンサンブル {∣ψ~i⟩}i=1m に対し、R の階数1の POVM {E^i=∣ei⟩⟨ei∣}i=1m があって、(4.3.11) の上で結果 i が確率 pi=⟨ψ~i∣ψ~i⟩ で出て、そのとき A の状態が ∣ψi⟩ になる。m=r のときこの測定は射影測定にとれる。
証明
定理 4.3.1 の証明のとおり ∣ψ~i⟩=∑kcikλk∣k⟩、c†c=1r と書ける。R のベクトルを∣ei⟩:=∑kcik∗∣k⟩R と置くと、⟨ei∣k⟩=cik なので (4.3.13) はちょうど ∣ψ~i⟩ になる。また
i∑∣ei⟩⟨ei∣=k,k′∑(i∑cik∗cik′)∣k⟩⟨k′∣=k∑∣k⟩⟨k∣=1R
で POVM になっている。m=r なら c は正方のユニタリ行列で、∣ei⟩ は正規直交基底になる。
逆に、R で何を測っても、得られる条件付き状態の組 {qi,ρ^A∣i} は ∑iqiρ^A∣i=ρ^A を満たす((4.3.12) を i で足すと ∑iE^i=1 が出る)。ρ^A のアンサンブルと、浄化の相手での測定とは、1対1に近い形で対応している。Schrödinger は 1935 年の論文で、離れた系の測定の選び方で手元の系の状態の組を選べるこの現象を、相手を「操る」(steer) と表現した。現在では量子操舵(ステアリング)と呼ばれる。
例題 4.3.3 Bell 状態の相手を3通りに測る ★★
オリジナルA と R が ∣Φ+⟩=21(∣↑⟩∣↑⟩+∣↓⟩∣↓⟩) にある。A の縮約状態は 211 である。
- (1) R で σz を測るとき、σx を測るときの、A のアンサンブルをそれぞれ求めよ。
- (2) R で E^k=32∣tk⟩⟨tk∣(∣tk⟩ は例題 4.3.1 の三つ組)を測る。これが POVM であることを示し、A のアンサンブルを求めよ。
解答
(1) 実係数のベクトル ∣e⟩ について (4.3.13) は (1⊗⟨e∣)∣Φ+⟩=21∑k⟨e∣k⟩∣k⟩=21∣e⟩ となる(複素係数なら成分の複素共役 ∣e∗⟩ になる)。したがって R が σz を測れば、結果 ±1 が確率 21 で出て A は ∣↑⟩・∣↓⟩。σx を測れば A は ∣+⟩・∣−⟩。同じ 211 の2つの固有アンサンブルが、R での測定の選び方で入れ替わる。
(2) 例題 4.3.1 (2) から 31∑k∣tk⟩⟨tk∣=211、つまり ∑k∣tk⟩⟨tk∣=231。よって ∑kE^k=32⋅231=1 で、各 E^k≥0 なので POVM である。E^k=∣ek⟩⟨ek∣、∣ek⟩=2/3∣tk⟩(実係数)と書けるので、(4.3.13) は 2132∣tk⟩=31∣tk⟩。結果 k の確率は 31、A の状態は ∣tk⟩ で、三つ組のアンサンブルができる。2次元の R で3つの結果を出すので、射影測定では作れず POVM が要る(定理の m>r の場合)。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com