量子力学の様々な構成方法 第5部 第1章 §5.1.6 ★★★ W の1次のモーメントは確率流、Z は4つの構成で同じ ℏ2 補正を持つ。第5部の位置を地図の上で確かめる
この章の結果は、計画の同値性の地図で「密度行列 ↔ 位相空間」の橋の手前にある。橋そのもの(W と ρ^ が互いに一意に決まること、Tr(ρ^A^)=∫WAW)は次の章で両向きに証明する。この節では、この章で出した量がほかの構成でどう書けるかを式で並べる。
期待値の書き方を並べる
位置だけ・運動量だけの関数については、周辺分布の性質 (W3) からすでに次の等式が成り立っている。
Tr(ρ^f(x^))=∫f(x)Wdxdp,Tr(ρ^g(p^))=∫g(p)Wdxdp.(5.1.15)
x と p が混ざる量で一番簡単なのは p の1次のモーメントである。∫pe−2ipy/ℏdp=(iℏ/2)∂y∫e−2ipy/ℏdp=(iℏ/2)πℏδ′(y) を使って部分積分すると
∫pW(x,p)dp=−2iℏ∂y∂[ψ(x+y)ψ∗(x−y)]y=0=ℏIm(ψ∗ψ′)=mj(x)(5.1.16)
となる。j=(ℏ/m)Im(ψ∗ψ′) は基準の Schrödinger 方程式から出る確率流である。W の各位置での運動量の平均は、確率流を密度で割った速度場 j/∣ψ∣2 に m を掛けたものになっている。これは第7部の Madelung の流体(第7部第1章)の速度場 v=∂xS/m そのものである(次の例題)。(5.1.16) にさらに x を掛けて積分すると、∫xpWdxdp=ℏ∫xIm(ψ∗ψ′)dx=Re⟨x^p^⟩=21⟨x^p^+p^x^⟩で、例題 5.1.3 で見た対称化した積の期待値が一般に出る。並べると次のとおりである。
| 量 | 基準(状態ベクトル・密度行列) | 位相空間(W) |
| 位置の分布 | ⟨x∣ρ^∣x⟩ | ∫Wdp |
| 運動量の分布 | ⟨p∣ρ^∣p⟩ | ∫Wdx |
| 確率流 | (ℏ/m)Im(ψ∗ψ′) | (1/m)∫pWdp |
| 対称化した積 | 21⟨x^p^+p^x^⟩ | ∫xpWdxdp |
| 原点での値 | ⟨ψ∣Π^∣ψ⟩/(πℏ) | W(0,0) |
例題 5.1.6 極形式で書いた運動量の平均 ★★
オリジナルψ(x)=ρ(x)eiS(x)/ℏ(ρ≥0、S は実数値)と書く。
- (1) ∫pWdp=ρ∂xS を示せ。
- (2) 位置 x での条件付きの運動量の平均 pˉ(x)=∫pWdp/∫Wdp を求め、例題 5.1.2 の波束で確かめよ。
解答
(1) ψ′=(2ρρ′+ℏiS′ρ)eiS/ℏ なのでψ∗ψ′=ρ′/2+iρS′/ℏ。虚部は ρS′/ℏ で、(5.1.16) から ∫pWdp=ℏ⋅ρS′/ℏ=ρ∂xS。
(2) ∫Wdp=ρ なので pˉ(x)=∂xS。速度に直すと ∂xS/m で、これが Madelung の速度場である。例題 5.1.2 の波束では S=ℏκx2 なので pˉ=2ℏκx。例題 5.1.3 の W は指数に(p−2ℏκx)2 を含み、各 x で p の分布の中心が 2ℏκx にあるので、一致する。
分配関数を4つの構成で並べる
5節の分配関数は、ほかの構成でも計算できる。並べると次のようになる。
Z=Tre−βH^=∫2πℏdxdpe−βHw(x,p,β)=∮Dxe−SE[x]/ℏ→∫2πℏdxdpe−βH密度行列(第4部第4章)位相空間(この章 5節)虚時間の経路積分(第3部第6章)古典(ℏ→0、解析力学 第3部第3章)(5.1.17)(5.1.18)(5.1.19)(5.1.20)
経路積分 (5.1.19) は周期 βℏ の閉じた経路の和である。経路を、その平均の位置 xˉ と、まわりの揺らぎに分ける。揺らぎは ℏβ/m 程度の分散を持つ Gauss 型で、V を揺らぎについて2次まで展開して揺らぎで平均すると、R. P. Feynman が導いた「ぼかしたポテンシャル」
Veff(xˉ)=V(xˉ)+24mℏ2βV′′(xˉ)(5.1.21)
を古典の Z に入れたものが ℏ2 の次数まで正しい Z になる(揺らぎの平均 ⟨δx2⟩=ℏ2β/(12m) から 21V′′⟨δx2⟩ が出る。導出は第3部第6章で行う)。これを展開すると
Z≈Zcl(1−β⋅24mℏ2β⟨V′′⟩cl)=Zcl(1−24mℏ2β3⟨V′2⟩cl)
で、2つ目の等号は部分積分 (5.1.13)。定理 5.1.6 と同じ補正が出る。位相空間では補正が被積分関数の因子 w に、経路積分では補正がポテンシャルのぼかしに現れ、積分した結果は一致する。図 5.1.3 はこの関係をまとめたものである。

図 5.1.3 分配関数の4つの書き方。上から下への矢印はどれも ℏ2 の補正 −ℏ2β3⟨V′2⟩cl/(24m) を経て古典に至る。
学部の統計力学の書き方との対応
学部の統計力学の授業では、古典の分配関数を Zcl=h1∫e−βHdqdp と書き、1/h は「量子力学との整合のために入れる因子」として説明されることが多い。この章の言葉では、1/h=1/(2πℏ) は(5.1.9) で平面波の完全性 ∫dp∣p⟩⟨p∣=1 を位置の積分と組み合わせたときに出る因子で、4節の「1区画の面積 2πℏ」と同じものである。また、量子の調和振動子の比熱が低温で古典の値 kB から下がることは、学部では固有値の和 ∑ne−βEn から計算する。位相空間の構成では同じことが、w の補正が βℏω の大きい所で大きくなること(図 5.1.2)として見える。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com